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茨の冠  作者: Venti
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quattro.チューニング

次の日、母にいつもの様に起こされ僕は起床した。


僕の部屋は独りになれる空間ではなく、唯一ベランダがある部屋で毎朝母が洗濯を干すために僕の部屋に来る。


当時僕は健全な少年であって、もっとも困るのは自慰の後処理くらいだけど。


「ジン、今日からしっかり学校で勉強するのよ」と母親らしい事を僕に告げた、僕は適当な返事をした後朝食を食べにリビングに向かう。


リビングには兄がTVでニュースを見ながら朝食をし、親父はキッチンで朝の一服をしながら新聞紙を厳しい表情で見渡していた。

キッチンからは親父が毎朝CDを垂れ流す日課があり、その音がいつもより突き刺さる。


「おはよう、兄さん。・・・オヤジ」まだ親父が怒っていると思い、静かに後からキッチンに向かって放った。


「おはよう、またあんな事したらダメだからな」とキッチンから低い声が聞こえた。

その言葉が今の僕の心に罪悪感を感じさせた。




僕は登校する際、毎回こっそり音楽を聴いているのが習慣で、今日は激しいロックを聴きたかった。

またあの生活がはじまる。


気合を入れるために。




学校に着くとやけに懐かしい気持ちになった。

たった一日だけ居なかったのに、他の生徒の視線も少しだけ冷たかったような気もする。


だがそれも束の間、1年のクラスの廊下に付けばそんな気のせいは吹っ飛んだ。


「ジンじゃん、停学どうだった?」と3組の鈴木に聞かれた。

「別にどうも。」と僕は伝えた途端、急に昨日の事を思い出し、少しだけ恥ずかしくなった。


教室に荷物を置いて、教室のベランダを伝って準備室に向かうと準備室の目の前でニヤニヤと僕らを見る集団が居た。


「ようジン、特別休暇はどうお過ごしだった?」ととても気分が高いセーイチが挨拶も無しに話す。

「俺とカズとニッチは三人でゲーセンに昼から居たけど、楽しかったぜ」僕の話を聞かず報告する。


「どうせずっと格闘ゲームばっかで二人から金巻き上げたんだろ?」僕は適当にあしらった


「大体そんなもんだよ、本当。セーイチめっちゃ強いんだよ」とカズが眉間にシワを寄せる。


ニッチも二日前の事など忘れたみたいに笑顔だった。


だが、ユーイチはなんだか沈んでいる様子だった。


「ユーイチ、お前どうしたの?」僕は気になることがあったらすぐ言ってしまうのは今でも悪い癖だ。

「ちょっと家族と色々あってさ。」


以前ユーイチから聞いた事がある。

ユーイチの両親は離婚してて、父親と一緒に暮らしている。という話を。


「父さん、結婚するんだってさ。」ユーイチは目線を下にしながら呟く。


「へえ、それだけ?」カズは興味が無さそうだが聞く。


「兄弟が出来るんだって。」


その時皆、真顔になった。

確かにいきなり兄弟が出来る。と言われても実感は沸かない。

現実に余り無い機会にユーイチは遭遇してしまったのだ。


「隣のH中になるんだ、俺」ユーイチは今にも泣き出しそうだ。


折角五人で仲良くなって、悪い事も良い事も一緒にしてるのにいきなり一人消えるのは納得がいかなかった。

だがしかし、家庭の事情というのはいつの時代も家族以外は抗えなかった。


ふと、僕は気付く。


「H中って、僕の通ってた幼稚園の知り合いが一杯居るところだ。」


「そうなのか、じゃあもしかしてその兄弟になるってのももしかしたら・・・ジンの事知ってるかも。」ユーイチは僕を見ながら涙目で伝えた。


「名前は?」


「ヒイラギって人。」

僕は幼稚園の思い出を必死になって思い出したがヒイラギなんて苗字の人を思い出せなかった。





放課後、憂鬱なHRを更けてまた準備室に僕らは落ち合った。

「つーか、ジンは昨日何してたの?」とニッチが笑顔で僕にふった。

「兄貴の知り合いの教会に手伝いに。」正直に答えた。


「教会?アーメンの?」セーイチが小ばかにする。

「違うよ、エイメンだよエイメン。吸血鬼ハンターにジンはなったんだよ。」とカズが茶化す。


「そんなとこだ。」僕はカエデとの出会いは話さなかった。


今はこいつらと一緒に遊ぶほうが何より楽しかったからだ。


「ところで・・・ユーイチはいつ引っ越すんだ?」と僕はユーイチに目線を向ける。

もっと優しい言葉があったかもしれないが、当時はストレートな言葉しか見つからなかった。


「明々後日。引っ越したらウチ来いよ、絶対来いよ。」とユーイチは精一杯な笑顔を向けた。


その日、準備室から差し込む夕日はなんだか僕らの友情を深める"何か"があった。




家に帰る途中カエデの事を思い出し、いつ次会うか僕は予定をたてていた。

兄に"女の子に会うためにつれてってくれ"だなんて当時の僕のプライドが許せなかったので、他に理由を必死になって探した。


帰宅。

愛猫が僕を迎える。


僕は兄の部屋に入ると兄が笑いながら

「あぁジン、おかえり。今日も遅いな。」と歓迎した。

「ただいま兄さん。」


「あのさ、教会って気軽に行ってもいいのかな?」と僕は普通に聞いたフリをした。

「どうして?」予想通りの反応。


「母さん達には言いたくないんだけど、ちょっと教会っていいななんて。なんていうか心が洗われる・・・みたいな。」

「確かに、お前が教会なんて良いなんて言ったら大馬鹿にされるよ。」と兄は笑った。ちょっと悔しかった。


「気軽に来て平気だよ、明日先生にも伝えておく。キリストの目の前で暴言とか言うんじゃないぞ」

「ありがとう、平気だよ。」


口実は結んだ。後はいつ行くかだ。

だけどその前に僕にはやる事があった、ユーイチの家に行くという今の自分に一番のイベントが。



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