due.崩れる性格
非行の春 危機の夏
僕は1-4組に配属された。
廊下の一番奥から三番目のクラスだ。
手前から1.2.3.4.5.生徒準備室という名の倉庫がある。
初日は真ん中の後ろから二番目に座っているのを今でも覚えている。
周りの8人は全員他校の人間で完全にアウェーだった。
そして恒例の自己紹介が始まる。
自己紹介でスベるとこの先色々と引っ張られるのを知っていて、皆静かに済ましていた。
そして僕の番になる。
「それじゃ次、須川君どうぞ」とオバサン先生に指名される。
「T小学校から着ました、須川 仁です。趣味は音楽を聴くことです-」と言い、気だるい拍手を貰ってから座った。
前の席の男は「俺と同じ趣味にしてんじゃねえよ」と言わんばかりの空気を背中で悟っていた。
無難だろう、許してくれ。と心で思った。
等と考えているとお待ちかねの休み時間になり、席を立つ直前後ろから指でつつかれ振り向く。
そこには日本人と思えない美白で長身、イタリア人みたいな風貌の男が笑っていた。
「どうした?」と名前を知らない彼に尋ねた。
「俺セーイチってんだけど、どんな音楽聴いてんの?」
別に紹介で友人欲しいですよとアピールもしていないのに引っかかった。
「あぁ、今はバンプオブチキンとかかな。」と適当に判り易いのを出した。
「天体観測いいよな、ところでお前名前なんだっけ?」
「ジンだよ、ジョニー」五秒前くらいに教えてもらった名前を忘れて適当に名前をつけてしまった。こういうのが許されるのは学生の特権なのは今も変わらない。
「ジョニーってなんだよ、ジョニーって。」
そしてこのジョニーことセーイチとの出会いで僕は堕ちて行くのは今は知らなかった。
セーイチはかなりあっけらかんとした性格の持ち主かつ長身・ガタイが良いと言うこともあり暗黙の了解で皆手を出さなかった。
その正反対の人間の側近として僕が居たのは今でも奇跡だったと思う。
日にちが経つにつれ、僕達はどんどん悪いことをしていった。
中学生という時期は非行=格好が良いと勘違いを起こしやすい年齢でもあった。
最初は授業中、教室のベランダに出たり CDプレイヤーを聞いたり ガムを噛んだりしていただけだった。
だんだん慣れていくと皆限度を調べるかのようにエスカレートしていった。
喧嘩にいじめなんて日常茶飯事、自分のクラスだけガラスが無かった日だってある。
そんな日々が続き、夏が近くなると一番奥の生徒準備室に授業を更けて皆で意味も無く溜まっていた。
類は友を呼ぶという言葉があるが、この時期ほどしっくり来る時は余り無いだろう。
セーイチだけではなく、沢山の悪友が出来た。
T小で親友だったカズは僕らとつるんでこっち側の楽しさに気付いてしまい、小学生の時は凄い優しかったユウイチは喧嘩っ早くなってしまった。
統一後の知り合いであるS小のニッチという奴は面白い行動を毎回提供してくれる。
セーイチとカズは僕と同じ4組、ユーイチは5組、ニッチは2組で授業を更けて生徒準備室に偲ぶのが暗黙の了解となった。
落ち合った時間の大体は話や自慢ばっかで盛り上がる。
内容といっても1組の女子のブラの色が何色だとか、5組の女子のパンツが見えただとかそんなくだらないことばっかだ。
そんな日常にニッチがある話題を提供する。
「なぁお前らさ、次は体育じゃん?」ニッチが笑いながら僕らに話を振る。
「それがどうしたんだよ」とユーイチは太い声で準備室にある竹刀を振り回しながら言う。
「女子の着替え終わったら入ろうぜ。」とニッチはすぐ反応。僕は呆れたが興味はあった。
「バッカじゃねーの?」と言いながら顔は乗り気のカズは周りをキョロキョロしている。
それを聞いたセーイチは「じゃあジャンケンで負けた二人で行くでよくね?」と笑顔で言う。
これが惨事の幕開けだとは誰も知らない。
負けたのはカズとユーイチだった。
「ふざけんなよ、行かねえよバッカじゃねえの」とカズは顔を真っ赤にする。
「じゃあ俺もついてってやるから」とニッチは言う。最初からそうしたかっただけなのだ、コイツは。と僕は察した。
そして女子が更衣室で着替え終わり、全員が消えた後、三人は女子更衣室に突撃して行った。
僕はセーイチと準備室で竹刀を使い、チャンバラごっこを楽しんでいた。
セーイチは剣道の経験があり、僕は少しだけルールを教えてもらった。
ベランダから三人が戻り、セーイチと僕は竹刀を放り投げ「どうだった?エデンは?」と笑いながら聞いた。
「エデンっていうか、天使がいたね!もう臭いがエロいのなんの!」と興奮していたニッチ
「え、まぁ・・・なんともねーよ」と顔を真っ赤にしながら目を合わさず恥ずかしそうなカズ
「はいお土産」と爆笑しながらユーイチは僕に何かを投げた。
ワイシャツ
「誰のだよ」と僕より早くセーイチが反応する。
「1組の上木の。あの上木のだからプレミアだぞ」ニッチが笑いながら言う。
確かに上木の容姿は綺麗だったが、それだけでは理由にならなかった。
「持ってきて平気なのか?」僕は本心を零した
「知らないよ、そんなこと。」ニッチは当たり前だよ、と言わんばかりの顔をする。
本当に何を考えてるか判らない奴だったが、当時の僕は別に自分に被害は無いからどうでもいいと思っていた。
キーンコーンカーンコーン。
黒板の上にあるスピーカーから授業終了のチャイムが鳴る。
ベランダから校庭を見れば1組は戻ってきている。
「おい、戻ってくるから戻せよ、それ!」とカズが焦る。
「バレねえって、大体今から戻してバレたら変態扱いされるじゃん。」と既に変態行為を犯したニッチが真顔で言う。
セーイチとユーイチは我関せずの顔で給食を取りに行っていた。
僕も仕方なく付いていかざるを得なかった。
その日、一組の上木の上着は体操服のままだった。
H.R.でその事件で思わぬ足止めを食らってしまった。
放課後、部活に所属してない僕ら五人は準備室で暇をつぶしていた。
準備室はドアが常に鍵が掛かっており、入るにはベランダしかなかった。
沈黙を破るが如く、突如爆音と共にそのドアが開いた。
正確に言えば、壊されたのだ。
そこには瞳孔を開いた肌の黒い男が居た。
同じ制服を着ているが見たことが無い。
「ユカの上着取ったのどいつだコラァ!」と男はズカズカと僕ら五人の部屋に入ってきた。
その後ろからモヒカンの男と小柄なグレムリンみたいな男が笑いながら入ってくる。
ユカとは、上木の下の名前であるが何故彼らが怒っているか判らなかった。
証拠も残さなかったはず。
「新井田って誰だ、誰だァ!?」と肌の黒い男は大声を響かす。
新井田とはニッチの苗字である。
「僕ですが・・・」と名前を指定され申し訳なさそうに宣言した。
刹那、肌が黒い男はニッチに手を上げた。
ニッチがその場でダウンし、僕らはどうしたらいいか判らなかった。
彼がニッチを殴る道理が判らなかったのだ。
「新井田よぉ・・・お前ユカの上着取ったろ?」と激昂しながらニッチに問う。
「知りませんよ・・・何でそうなるんですか?」と涙目で答える、声は霞んでいる。
「これ何だか判る?」と後ろのグレムリンがある物を見せる。
ニッチの生徒手帳。
「女子更衣室にある時点でオカシイよね」とモヒカンがあざ笑う。
確かに、その時点で断定されてもおかしくなかった。
僕が固まってる間、ユーイチが後ろから小声で囁いた。
「あの人たち先輩だよ、二年生の。今は黙ってた方がいい。」と汗臭い体を近寄らせてつぶやいた。
そんな事も知らないカズは早く家に帰りたさそうな顔をしていた。
と、目を逸らしていた瞬間グレムリンが倒れていた。
一瞬のスキをついて、セーイチが殴ったのだ。
「逃げっど!」と焦りながら全員準備室を後にし、全力で逃げた。
皆でセーイチの家に逃げ込み、冷たい麦茶を飲みながら話しなおした。
「どうやらあの黒い肌の先輩は上木の彼氏っぽいな」とユーイチは冷静に言った。
「じゃなきゃそんなアツクなるはずないよ」とカズが言う。
「だがらっで・・・殴っ・・・殴らなくたって・・・」と嗚咽を混ぜながらニッチは下を向いて言葉を零した。
「どっちにしろセーイチがグレムリン殴ったんだから明日からヤバそうだよ」と僕は今一番言っちゃいけないことを言ってしまった。
「ジンの言うとおりだなあ、ま、いっか」とセーイチは相変わらずなにを考えてるか判らなかった。
その後、何事も無かったようにセーイチに言われるがまま皆で格闘ゲームをローテーションでやった。
その日の嫌な事を忘れるまで。