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zero.序章
A.D-2010- 8/21 4:27
夏の早朝、ヒグラシのなき声と換気扇の音が胸を締め付ける。
部屋は薄暗く、中途半端に換気された空気と煙草の灰のにおいが僕の喉を痛めつけた。
ここ数日、目覚ましより早く起きるのが知らぬ間に習慣になっていた。
外は夕暮れみたいに紅に染まっていた。
遠くからヒグラシに紛れて聞こえるサックスの音。
部屋から見える団地の老人が毎朝、音を鳴らしている。
7年前から変わらない朝。
僕はベッドから身を起こし、床に置いてある煙草を取り火をつけた。
よく-ベッドの上で煙草は吸うな-なんて両親に怒られたこともあったな、なんて思い出しながら。
煙草を左手に右手で携帯を開く、無意識の習慣というものの一つで朝起きると必ずと言っても過言ではないだろう。
画面には幸せそうな自分ともう一人が一緒に写っていた。
8月21日の午前4:27、着信は無し。
スピーカーからはサティが静かにジムノペディを演奏していた。
僕は今日、何をしようか?
君は今日、何をするの?
君は今、どんな顔をしてるの?
君は今、誰の隣にいるの?