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第97話:観測者、AIからのメッセージ(護鈴)をデコードし、仲間と共に世界の裏側(バグ)へ歩み出す

 

◇ 第6エリア タヴの町


「【詳細観測ディープスキャン】」


——【Log】——

【観測ログ: 解析開始】

[対象:お供えの護鈴(NPC専用キーアイテム)]

・状態:正常(待機状態)

・隠し効果:『魔力真空マナ・バキューム


・詳細:鈴の音色が響く間、周囲の魔力を一時的に吸尽し、所持者の生体魔力(気配)を「ゼロ」へと偽装する。

 エネミーの感知センサーを完全にすり抜けることが可能。


・フレーバーテキスト:『我は王なり、役目を全うすべき其方らにこれを授ける。

 守衛はたちまち其方らを見失うであろう。』

————————


(王……『ケテル』からの授け物という設定か。

 気配を消す隠密効果……だが、空間の魔力を強制的に「ゼロ」にするということは、周囲の環境にどのような影響を与える?)


 僕はさらに踏み込み、システムの裏側に隠された演算ロジックを引っ張り出す。


「【深淵の観測者スキル:深淵詳細観測アビス・ディープスキャン】」


——【Log】——

【System:対象ログの深層演算データを展開します】

▶︎ Target_Log:『魔力真空マナ・バキューム』稼働時の周辺環境への物理的・魔力的影響

┗ [要因1]:鈴の特殊な音波が周囲のエーテル(魔力)を瞬間的に分解・吸着し、術者周辺の魔力濃度を『絶対的な空白ゼロ』へと固定する。

┗ [要因2]:局所的な魔力真空が生まれることで、スフィア内の魔力高濃度地帯から真空地帯へ向けて、水が高い所から低い所へ流れるように、明確な『魔力勾配のベクトル(不可視の流れ)』が強制的に形成される。

————————


「……なるほど。そういうことか」


 僕の脳内で、完璧なハッキングのロジックが組み上がった。


(これなら、僕の天球儀でこの『魔力勾配のベクトル』を可視化して逆算すれば、中ボスがどこに湧こうが、その座標を特定できる。

……羅針盤レーダーになるな)


 僕は鈴を見つめたまま、ハニに見えない角度で不敵な笑みを深くし、静かに交渉を切り出した。


「ハニさん。昨日、シロロが作ったポーションは売り切れ、店は莫大な利益を生んだのだろう?それをもう一度タダでというのは虫が良すぎないか?」


「はい、なので報酬をお渡ししようかと思ってました!Gゴールドなのですが……」


「ジィサン、所持金額を彼に見せてあげてください」


(僕はあいにく、今2億Gほどしかないからな)


「ほっほ!了解したぞい!」


 ジィサンは快く返事をすると、冒険者端末を操作し自分のステータスウィンドウを空中に広げた。


——【ステータス】——

 対象:ジィサン

 Lv:[59]

 職業:僧侶 / 護法僧[特殊職業]

 冒険者ランク:[A]

 所持ゴールド:872,850,053 G

———————————-

 ハニはそれを見た瞬間、見事に腰を抜かした。


「あ、ひょっっ……ええええ!?」


「ほっほ!すまんのぅ、我々はGには困ってないのよぅ」


 ジィサンは毎度僕の意図をすぐ理解してくれる。

 頼もしい老獪な爺さんだ。


「こ、困りましたね……となると、私でできることが……」


 ハニが青ざめるのを見て、僕の口角が自然と上がる。


「……kおじさんニヤニヤしてる。なんで?」


「ミツルマン君、見ちゃダメよ。目が腐るわ」


「そうだ、見るな。勇者には必要のない汚い世界だ」


 この瞬間、ぽよんを除いたメンバーが僕の意図(悪巧み)に気づいたらしい。

 全員がジト目で僕を見てくる。


「ハッハー!最低ダナ!」


「詐欺師だぁ!可愛くない!」


「マスターイオリは恐ろしいですわ……」


「少し最低かと!」


 カイザーの言葉は癪に触るが、後の3人も昨日、全冒険者に対して詐欺まがいな暴利を貪っただろうが。

 どの口が言っているんだ。


「ぽよ〜? ……メガネ!」


(チッ)


 分からないくせに波に乗じて僕への1番の悪口と思っている語彙を飛ばしてくる。

 僕は内心で舌打ちを決めた。


「あ、あの……」


 ハニがオロオロと僕を見上げる。


「すまない。そこでだ。……その鈴を、貸してくれないか?」


「ええ!?これをですか?うーんと……次回のお供えの当番が私なので、それまでに返していただけるなら……大丈夫です!」


「もちろんだ。用が終わればすぐ返そう。……ちなみに、次のお供えはいつだ?」


「タヴこよみでは、前回のお供え日から2回『王様の日』がありまして、今日が『八の騎士の日』なので、あと7日後になります!」


「……少し待ってくれ。王様の日や、八の騎士の日とはなんだ?」


 僕が聞き返すと、ハニは当然のように説明を始めた。


「ああ、冒険者さんたちはご存知ないですよね!

この町では、塔をお守りする十の騎士様から始まり、九の騎士様、八の騎士様……と日が進み、最後にご立派な『王様の日』を迎えるという、10日間で一周期となる数え方をしているんです。

これが3回、つまり3回目の『王様の日』がお供えの日になります!」


「……なるほど。そういうことか」


 僕の脳内で、システムが構築した狂気のカレンダーがデコード(解析)される。


(第10のセフィラ『マルクト』から、第1のセフィラ『ケテル』まで。

 セフィロトの樹を構成する10個のセフィラを『騎士』や『王』として神格化し、それをそのまま10日周期の暦として住民に刻み込んでいるのか)


(地球の自転や月の満ち欠けといった物理法則を完全に無視し、システム構造そのものを『時間』としてNPCの生活に強制している。

……ただのAIエネミーに過ぎない存在を畏怖し、スケジュールとして生活に組み込むとはな)


 僕は、隔離されたこの第6エリアが、完全に運営(神)の箱庭であることを暦から見抜き、鼻で笑った。


「……くだらないお遊戯会(宗教)だ。まあいい、7日もあれば十分すぎる。すぐに返そう」


「はいっ!それじゃあシロロさん、ポーションの方よろしくお願いしますね!」


「オッケー!可愛くしてあげるから待っててねー!」


 僕はハニから、『小さな鈴』を受け取った。


 NPCがお供物を届けるための、守衛を避ける隠密アイテム。


 だが、僕たちプレイヤーは進むために中ボスを倒さなければならない。


(Archeはなぜ、僕たちにこの『避けるための道具』を提示したか。


……答えは一つだ。

 この隠密効果の裏にある演算ロジックを逆手にとって、隠された座標を暴き出せというメッセージ)


 なら、期待通りに悪用ハックしてやるしかないだろう。

……システムが無理やりこじつけたストーリーごと。


 そしてその瞬間、僕たちカオス・アトリエのメンバーの視界にだけ、怪しげなシステム通知が赤く点滅した。


——【Root_System】——

[System Error: Missing_Data_1-22]

[Override Executed by: ***]

▶︎ Hidden Quest: 23

▶︎ Objective: R3ach th3 Sephiroth.

[Warning: Logic bypassed. Story line corrupted.]

▶︎ Action: Detect guard coordinates using ID_Hani's Bell.

▶︎ Guidance: Weapon_ID [Astrolabe Panopticon]

————————————


(……システムエラー?強制上書きだと……?)


 赤黒い警告ログが流れた直後、僕たちの視界に「ピガッ」とノイズが走り、一枚のクエストウィンドウが強制的にポップアップした。


——【Main Quest】——

 ーストーリークエスト¿No.22#ー

[ E r r o r : T e x t _ N U L L ]

 依#頼@者:[ハニ???&#%]

 目$的:……(データ欠落)……

 報#酬:1 G

[Ro ot s y s te m : 強制スキップ処理を実行中... ]

————————————


「うおっ!?なんだこのクエスト画面……文字化けしてんぞ!おいイオリ、これウィルスか何かか!?」


 ドドンパが、赤く点滅するエラー画面に本気でビビって声を上げる。


「ひゃっ!なんかバグってて気持ち悪い!全然可愛くない!!消していい!?」


 シロロがエラー画面を嫌悪し、シッシッと手で払おうとする。


「不協和音どころじゃない、システム自体のノイズが直接頭に響いてくるみたいで……すごく気持ち悪いです……っ」


 絶対音感を持つルナールは、システムの異常なバグ音を感じ取って耳を塞いだ。


「kおじさん、オレの画面、なんか壊れちゃったよー!」


「データが欠落しているわね。……まるで中身がスカスカで脆い泥岩みたい。不気味だわ」


「ハッハー!文字ガ読メナイ!!呪イカ!!」


「ほっほ……こりゃあ、なんとも気味の悪い表示じゃな。罠の匂いがするぞい」


「ぽよ〜?1Gしかもらえないのだ〜?誰だか知らないけどケチなのだ〜!」


 ミツルマン、フゥ、カイザー、ジィサン、そしてバグよりも報酬の少なさに文句を言うぽよん。


 全員が「バグだ」「罠だ」と騒ぎ立てる中、僕だけがそのバグ画面の裏側ロジックを読み解き、薄暗い笑みを浮かべた。


「慌てるな。これはウィルスでも罠でもない」


 僕は天球儀のコンソールを視界の端に開き、淡々と事実をデコードする。


(……なるほど。そういうことか。

 Archeが僕たちに正規ルート(1〜22)を無理やりすっ飛ばさせるために、空っぽの『ダミーデータ』を突っ込んで進行フラグを偽装した痕跡だ。

 システムが『データがない(Error)』と悲鳴を上げているのを、強引に上書きして押し通したのか)


 システムAIが、自身のルールを捻じ曲げてまで強行したイレギュラーなパッチ。


「……焦っているな、Arche。ログがバグだらけだ」


 ハニが少し離れた場所で、シロロのポーション加工デコをワクワクしながら見守っているのを確認し、僕は振り返って仲間たちを見た。


「……みんな。少し聞いてくれ」


 僕の声色に、いつもの「効率」や「盤面操作」を語る時の熱はない。


 ただひたすらに冷たく、重い響きだった。


 僕は視界に点滅し続けている、あのバグだらけのクエスト画面を見据えて告げた。


「みんなに、このクエストを受注してほしい。

……申し訳ないが、『World(ワールド・) of(オブ・) Arche(アルケ)』の本来のストーリーは、僕たちはもうできない。つまり、純粋なゲームとしては楽しめないということだ」


「……は?」


 ドドンパが顔をしかめる。


「できないって……おいイオリ、どういうことだよ」


「こんなバグだらけの、運営に隠れたクエストを出してくる理由。

……それは、システムAIである『Archeアルケ』が、運営に対して何か反旗を翻す明確な理由があるんだ」


 僕が告げると、全員の息を呑む気配がした。


「これを無視すれば、現実の世界に影響が出るのかもしれない。今ある情報をつなぎ合わせただけの憶測だ。だが……もはや、ただのゲーム攻略では済まないということだ」


 一気に場が暗くなり、凍りついた。


 あの破天荒なカイザーでさえ真顔になり、フゥやルナールも言葉を失っている。


 僕は視線を下げ、一番小さな仲間を見た。


「……ミツルマン」


「……?」


 ミツルマンが、不思議そうに僕を見上げる。


「魔王城は、おそらくだがこのエリアの先か、さらに先になる。だが、ここをクリアしないと、勇者の目的である魔王城には到達できないんだ。……分かってくれるか?」


 話し終わると同時に、僕はジィサンを見る。


 ジィサンは無言で深く頷いた。


 そして、いつもの「歴戦の投資家」や「戦闘狂の護法僧」の顔を完全に捨て去り、ただの優しい『祖父』へと変わった。


 ジィサンはミツルマンの目線に合わせてしゃがみ込み、その小さな肩にそっと手を置く。


「ミツルマン……爺ちゃんの話を聞いてくれるかの?」


「爺ちゃん?」


「イオリk君のお話は、少し難しかったかもしれないのぅ。

でもな……爺ちゃんやみつるが、ママと婆ちゃんのいるお家……現実の世界で、困っちゃうことになるかもしれないみたいでのぉ。

魔王城のストーリーは絶対に飛ばさないって、爺ちゃんが約束するから。……いいかの?」


 ミツルマンは、大好きな爺ちゃんの顔をじっと見つめた。


 そして、少しだけ考えた後、パァッと太陽のような笑顔を咲かせた。


「よく分からないけど、爺ちゃんが困るなら分かったー!」


 そう言うと同時に、ミツルマンは空中に浮かんでいたバグだらけのウィンドウの[YES]を、小さな指で元気よく押した。


 その無垢で真っ直ぐな行動に、張り詰めていた空気がフッと解ける。


「……へっ。勇者様にそう言われちゃ、しょうがねぇよな!」


 ドドンパが鼻を擦りながら[YES]を押す。


「ふふっ。どんな地層(真実)が眠っているか、掘り起こすのが楽しみだわ」


「ハッハー!主神ガ逃ゲル訳ナいだロウ!!」


「マスターイオリにお供しますわ!」


「あ、私も……!不協和音でも、みんなとなら弾けますっ!」


「ぽよ〜!おやつがあればどこでも行くのだ〜!」


 フゥ、カイザー、まち子、ルナール、ぽよんも、次々と[YES]のボタンを叩いていく。


「お待たせー!ポーション可愛くできたよー!……あれ?みんな何してるの?」


 そこへ、ハニにポーションを渡し終えたシロロが首を傾げながら戻ってきた。


「シロロ、お前も受注しろ。世界を可愛くするんだろう?」


「うんっ!もちろんだよー!」


 シロロも内容すら聞かずに、満面の笑みで[YES]を押す。


 全員のアイコンが点灯したのを確認し、僕も最後に[YES]をタップした。


 かくして、僕たち『カオス・アトリエ』は。


 運営の用意した正規のレールから完全に外れ、システムAI『Arche』と共に世界の裏側へと歩みを進めることになった。

第97話、いかがだったでしょうか? 今回は少し難しいシステム(バグ)のお話が出たので、簡単に解説します!


【作られたクエスト『No.23』と鈴のカラクリ】

本来のストーリークエストは、スフィア1から22までを「スタンプラリー」のように順番にクリアしていくのが正規ルートです。


しかし、システムAI『Archeアルケ』は、イオリたちを一刻も早く最深部(ケテルの場所)へ誘導したかった。


そこでArcheは、「1〜22までのスタンプは既に押してある」という偽装データを強引にシステムに突っ込み、いきなり『クエストNo.23』を発行したのです!


そして、NPCのハニが渡してきた『鈴』。 Archeはシステムの制限上、どうしても中ボスの『座標データ』だけは直接送れませんでした。


だからこそ、「イオリの能力なら、この隠密用の鈴をレーダーとして悪用ハックして座標を暴けるよね? だから急いでケテルの所まで来てね!」という、AIからのSOSメッセージだったわけです!


運営の用意した正規ルートを完全に外れ、AIと共に世界の裏側へと進み始めたカオス・アトリエ。 果たしてこの先、どんな展開が待っているのか……!?


〜次回予告〜

3/9【夜20:10】に投稿ハック致します!

少しでも「イオリの解析かっこいい!」「ArcheのSOSエモい!」と思っていただけたら、 ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります! よろしくお願いいたします!


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