第96話:観測者、AIが隠匿した座標の意図を悟り、隠密の鈴を探る
3/9追記 修正「枯れた樹の枝」の計算がミスっていたので直しました……
◇ 第6エリア 第3スフィア
僕たちはそのまま第3スフィアの中ボス
『自我の残響(固執)』も無事に倒すことに成功し、攻略は順調に進んでいった。
「ふぃ〜、第3スフィアの中ボス、結構手強かったな。あの質量、俺のタクトの風でも軌道を逸らすのがギリギリだったぜ」
ドドンパがストレッチをしながらこぼす。
「ああ。敵の地力が明らかに上がってきている。ただの力押しでは通用しない、セフィラ(神樹)の深層はそう簡単に進ませてはくれないギミックがこの先もありそうだな」
僕は天球儀のデータを睨みながら答えた。
時刻は15:00。
僕たちは一度長めの休憩(リアルでの昼食)を取る為、町に戻りログアウトする事にした。
◇ タヴの町
全員の休憩が終わり、16時より探索を再開。
僕たちは『枯れた樹の枝』を使用し、タヴの町から記録された最新到達ポイントへとショートカット転送を行った。
クランメンバー全員での転送の為、全体での消費は『1個』で済む仕様だ。
——【System】——
▶︎ アイテム消費:『枯れた樹の枝』 × 1
▶︎ クラン残り:[34個] / ミツルマン残り:[19個]
——————————
◇第6エリア 第4スフィア
転送を駆使し、続く第4スフィアの攻略も、Archeからのポップスケジュールを元に無駄な戦闘を避けながら進み、中ボスを発見した。
そして中ボスはというと。
「てりゃあああああ!!!」
ピカァァァ……!!
ミツルマンはエフェクトを纏わせた勇者の剣で、中ボス『自我の残響(焦燥)』をあっさりと両断した。
『空白のアルカナ大』のドロップは無かった。
光の粒子が舞い散る中、ピロンというリアルタイムのアラーム音が鳴る。
「あ、17時だ!オレ、もうログアウトしなきゃ!」
「ほっほ、今日もよく頑張ったのう。また明日な、ミツルマン。ワシも一緒に失礼するよ!」
「うん!kおじさんもみんなも、またねー!」
「おう!二人ともお疲れ様でしたぁ!」
ミツルマンとジィサンが光となって消えた。
「……さて。システム上『ソロ判定』のミツルマンを置いて僕たちだけで進めば、明日の合流が面倒なことになる。今日はここまでだ。明日は朝7時にタヴの町へ集合とする」
「ななじぃ!?日曜だぞ!?」
「文句があるなら置いていくぞ」
僕の狂気的なスケジュール宣告にドドンパが悲鳴を上げたが、有無を言わせない。
◇ タヴの町 日曜日 [07:00]
翌朝の7時。
タヴの町の広場にカオス・アトリエのメンバーが再集合した。
「全員揃ったな。今日の目標は第20スフィアへの到達だ」
「おう!今日も(眠いけど)ぶっ飛ばしていくぜ!」
「可愛いシール、いっぱい補充してきたよー!」
各々が気合を入れる中、僕たちは『枯れた樹の枝』を使用し、昨日到達した第4スフィアへと一気に転送した。
だが、そこから先の第5〜第10スフィアの攻略は、地味で非常に面倒な作業となった。
湧き出す中ボス『自我の残響』が極端に小さくて見つけにくかったり、厄介な状態異常で回復ポーションを浪費させられ、補給のために3回、町へ戻る羽目になった。
とはいえ、中ボス自体は言わずもがな、苦戦すらせずに突破。カオス・アトリエの面々は想像力が強すぎたのだ。
——【合計使用数】——
アイテム消費:『枯れた樹の枝』 × 3
クラン残り:[31個] / ミツルマン残り:[16個]
————————————
「……チッ。非効率極まりない」
僕が舌打ちをこぼした頃には、時刻はすでにお昼の12時を回っていた。
僕たちは第10スフィアの石碑を起動し、第11スフィアへ着いた所で、疲労と時間を考慮して一度お昼休憩を取ることにして町へと戻りログアウトした。
◇ タヴの町
昼食を終え、時刻は[13時]。
全員が再ログインを果たし、第11スフィアへと転送した。
——【System】——
▶︎ アイテム消費:『枯れた樹の枝』 × 1
▶︎ クラン残り:[30個] / ミツルマン残り:[15個]
——————————
◇ 第6エリア 第11スフィア
さあ午後の索敵を開始しようと、僕が天球儀を展開したその時だった。
「ぽよ〜!人間k!大変なのだ〜!」
ぽよんが寝マカ状態のロン君を振り回しながら、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「なんだ、敵か?」
「ぽよん、お昼の間に回復ポーション買うの忘れてたのだ〜!」
「「「「……」」」」
「ほっほっほ!」
パーティに重い沈黙が落ちるが、ジィサンの笑い声で場は明るかった。
僕以外は。
これから過酷な連戦が待っているというのに、回復アイテムを忘れるなど論外だ。
「……お前、本当に魔王なのか……?いや、ただのポンコツだな。お昼休憩で町に戻った時に、補充の時間はたっぷりとあったはずだぞ」
僕が冷ややかな視線で正論の煽りを突きつけると、ぽよんの背後から「ゴゴゴゴ……」と異常な質量と圧を伴った二つの影がぬぅっと立ち上がった。
「……マスターイオリ?誰しも忘れ物はありますわ。それをポンコツと責めるのは、いささか愛が足りませんわよ?」
「そうだよイオリ君!ぽよん様はおやつ選びで忙しかったの!鬼!メガネ!」
まち子の大楯とシロロの可愛い(物理)圧が、僕の両脇をガッチリと固める。
「……チッ」
(……ダメだ。
こいつら(ぽよん軍)を敵に回すと、攻略どころじゃなくなる)
僕は即座に形勢不利を悟り、心の中で完全な敗北を認めた。
そして、無言で冒険者端末を開き、町へと転送した。
◇ タヴの町
「ぽよ〜!戻るのだ〜!おやつも買い足すのだ〜!」
自分のミスで貴重な転送アイテムを無駄にしたというのに、ぽよんは全く悪びれることなく能天気にバンザイをしている。
おまけに、彼女の腕の中で揺れていたロン君までが。
『ゲプッ♪(スカー……)』
このタイミングで、スヤスヤと『寝マカ』状態に移行してしまった。
「……行くぞ」
僕は頭痛を堪えながら、ポーションを買うためだけに、再びタヴの町へ冒険者端末で転送した。
◇ 第6エリア タヴの町
「ぽよ〜!おやつも買い足してくるのだ〜!」と全く反省していないぽよんと、その護衛(配下)としてシロロとまち子が買い出しに向かい、僕たちは広場で待機することになった。
「……そういやイオリ、一個気になってたんだけどよ」
広場のベンチに腰掛けたドドンパが、ふと疑問を口にする。
「なんで『中ボス』の座標は分からないんだ?さっきのレア猫の時は、時間も場所もドンピシャで分かってたのによ」
「……それは、僕にも分からない」
僕は天球儀のデータを視界の端に映しながら答えた。
「Archeから送られてきたデータの中に、中ボスだけはその時間帯の『ドロップ乱数固定テーブル』しか表示されていなかったんだ」
「ふーん……なんでだろうな?」
「恐らく、中ボスは各スフィアにおける冒険者の進行に一番関わる壁だからじゃないか?Arche側も、第6エリアストーリーの根幹に関わるその座標データまでは引っ張り出せなかった……。まぁ、9割僕の憶測でしかないが。そもそも、システムAIがポップスケジュールやドロップテーブルを流出させること自体がイレギュラーだからな」
「なるほど?てかよ、ストーリーってどれや?俺ら先急ぎすぎてストーリー無視してる?」
「失念していたな……僕も頭がおかしくなってきたか。……ついでに町探索の時間を取るか」
僕がそう締めくくった、直後だった。
「あー!ルナールさん!フゥさん!」
「あら、ハニさん。こんにちは」
「ああ、こんにちはーっ!」
昨日、女子陣がユニーククエストをこなした雑貨店『境界堂』の店長の息子、ハニが小走りでこちらへやってきた。
「昨日とは随分と顔つきが違いますね」
僕が声をかけると、ハニは少し照れたように頭を掻いた。
「ははは……昨日、皆さんの凄まじい商売魂を見て、私も変わらないとと思いまして……気合を入れています!」
「フゥとルナールに商売魂なんてあるのか……?」
僕が訝しげに呟くと、二人がすかさず反論してくる。
「ありますよー!音楽の力は人の感情や意欲を変えれますからっ!」
「そうよ、石だってよく見てみれば、魔力を宿しているものだってあるわ」
「……そ、そうか」
僕は知っている。
昨日こいつらが、洗脳BGMとほんの僅かだけ魔力の宿る石で、詐欺まがいな暴利を貪ったことを。
「ほっほ……女性とは恐ろしいものよ……ほほ……。婆さん、今日怒っておったな……娘も……」
唯一の既婚者であり、人生の大先輩であるジィサンが遠い目をしている。
娘とはミツルマンの母親だろう。
ジィサンは普段から「婆さん(嫁)怖い、娘怖い」とよくこぼしている。
(……やはり、結婚などという不確定要素の塊は非効率極まりないな。
僕は一生独身を貫こう)
僕が脳内でそんな(見当違いな)ロジックを固めていると、なぜかフゥがこちらをジト目で睨みつけていた。
「フゥ……どうしたんだ。僕の顔に何か?」
「……はぁ」
何故か深い深い溜息をつき、呆れられた。
女性の思考とは本当によくわからないものだ。
そして、それを見ていたハニには何故かニヤニヤされている。
「ぽよ〜!買ってきたのだ〜!」
そこへ、ぽよんと配下2名(シロロ、まち子)が買い出しから戻ってきた。
「あ、シロロさん!おかげさまで全部売れてしまって!昨日やったみたいにポーションを変えてもらえますか?報酬はお渡ししますので!」
ハニがシロロの姿を認めて声をかける。
「おー!ハニさん!いいよー!お店行く?」
「あ!大丈夫です、私のインベントリに入ってますので!」
「おっけー!可愛くしたげる!」
そう言うと、ハニは空間を指でスワイプしてインベントリを開いた。
ハニのインベントリはNPC専用の仕様なのか、少しUIの青色の深みが僕たちプレイヤーのものと違う。
「お願いします!」
ハニが大量のポーションが入った木箱を取り出し、地面に置いた、その時だった。
チリーン……♪
ハニの腰についていた『小さな鈴』が、ポロリと地面に落ちた。
「ん?なんだそれは」
僕が尋ねると、ハニは慌てて鈴を拾い上げた。
「ああ、これですか!私達タヴの住人には配られているんですよ。
……この町……ここの世界には『王様』がいらっしゃるんです」
その瞬間、ハニの顔が一瞬だけザザッとノイズが掛かったようにブレた。
だが、本人は何事もなかったように話を続ける。
そして、僕たちカオス・アトリエのメンバーの視界にだけ、怪しげなシステム通知が赤く点滅した。
——【Root_System】——
[Hidden_Patch_Deploy]
▶︎ 隠匿されたスケジュールデータとのリンクを確認。
▶︎ 正規ストーリーラインへの強制上書きを実行……完了。
▶︎ 作成済み進行フラグ展開中…[ストーリークエストNo.23]
—————————————
「むっ?」
「ハッハー!ナンバー23?トハ!何ダ!」
「あら、これは……」
ジィサン、カイザー、フゥがそれぞれ反応を示す。
(……事前展開されたパッチ?
作られた進行フラグだと……?)
「私達住民は、王様に逆らえませんが、皆が思っていることがあります」
ハニは少し声を落として話し始めた。
「何ですの?」
「はい。境界都市の世界……つまり、あなた方冒険者さん達が来たという『始まりの町 エウレカ』などに商売しに行くことも、移住もできません……。
出られない原因を作っているのは、王様と塔の力だと言われています。
なので……住民は嫌ってるんですよ、本当の所」
(王様……。『ケテル』のことだな。
隔離ルールの元凶なら、住民に嫌われるのも無理はない)
「それでも王様は住民を守り、侵入者を嫌います。その、えっと……冒険者さんを」
「ぽよ〜?嫌われてるのだ〜?」
ぽよんが首を傾げると、ハニは慌てて両手を振った。
「あ、ああ!私はあなた方を嫌っていませんよ!ですが、フィールドには『自我の残響』って言う、王様がいらっしゃる塔をお守りする守衛達がいるんです」
「おい、中ボスのことだぞイオリ」
ドドンパが小声で耳打ちしてくる。
「わかっている、黙って聞いておけ」
ハニは手に持った鈴をギュッと握りしめた。
「この鈴はですね、私達タヴの住民は月に1度、代表者を決めて王様とそれをお守りする九の騎士達へ『お供え』をしに行かないといけないんです」
「お供え……それは何だ?」
「ああ、えっと……エウレカの町には行けませんが、何故か向こうからの届け物は届くんです!エウレカの町長さんからある『包み』が届くのですが、塔の入り口にある機械にそれを届けないといけないんですね、我々は」
(……エウレカ……町長からの包み……)
僕の脳内で、バラバラだった情報がリンクしていく。
「お供えに行く際に、この鈴を持っていれば、その『自我の残響』の守衛に見つからずに行けるんですよ!」
「……なるほど、そういうことか」
ハニの言葉を聞いた瞬間、僕の脳内で先ほどドドンパと話していた疑問の答えがピースとしてハマり始めた。
(Archeから送られてきたスケジュールに、なぜ『中ボスの座標』だけが記載されていなかったのか。
Archeは中ボスの座標データを隠匿し、無理やりこのクエストを構築し誘導。
つまり、これはArcheが僕ら専用に『作成したストーリークエスト』と言うことか……)
小包を届ける為の守衛(中ボス)を避けるアイテム。
だが、僕たちプレイヤーは進むために中ボスを必ず倒さなければならない。
倒さなければ次のスフィアへ移動できない仕様。
(だとしたら、なぜArcheはわざわざ僕たちを『避けるための道具』へ誘導しているんだ?)
その矛盾したシステムの意図に、僕は引っ掛かりを覚える。
(もっとも、このNPC(住民)専用のアイテムをプレイヤーである僕たちが使えるのかも不明だが……詳しく見てみる必要があるな)
ハニが誇らしげに語ったその言葉の裏に隠されたAIの真意を探るべく、僕は強烈な興味を抱き、静かに口を開いた。
「……ハニさん。その鈴、少し見せてくれ」
「え?あ、はい。どうぞ」
僕は受け取った鈴を見据え、スキルを発動した。
「【詳細観測】」
第96話いかがだったでしょうか?
少し今回はスフィアの話を飛ばし気味で何度も行き来してしまいましたが……
次話、この作品の核心に近づきます……!!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/9【朝8:10】に投稿致します!
※次話、朝から内容が重いかもしれません笑
少しでも「ぽよん配下強」「先はよ〜」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!




