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第94話 観測者、AIモジュールの器(真核)の秘密を解き明かし、予定調和の作業をこなす

 

◇ 第6エリア 第2スフィア


 フゥの異常な『石への愛』や、ミツルマンの『絶縁の勇気』によって精神的な防壁を突破し、無事に合流を果たした僕たちは、全員で第2スフィアへと転送された。


 視界が開けると、そこは見渡す限りの荒涼とした大地だった。


——【System Announcement】 ——

『枯れた樹の枝』を使用すると、これまでに記録された最終到達スフィアへのショートカット転送が可能です。

[※消費することで転送回数がストックされます]

 ———————————————


「……なるほど。もう一つのキーアイテムは、スフィア間のショートカット(転送)用だったか」


 システムアナウンスを聞き、僕は一人で納得する。


 この広大な22のスフィアで全滅やログアウトをした際、再び第1スフィアから歩き直す手間を省くための救済措置といったところか。


「おいお前たち、これまでアルカナ集めの際にドロップした『枯れた樹の枝』を一度僕に送ってくれ」


 僕が指示を出すと、メンバーたちから次々とアイテムがトレードで送られてくる。


「……全部で55個か。ミツルマン、お前はシステム上『ソロ判定』で、僕たちのクランのストックを共有できない。20個渡しておくから持っておけ」


「えっ?オレが持ってていいの?」


「ああ。僕の指示があった時や、緊急退避の際に使っていい」


「うん!わかった!ありがと、kおじさん!」


「ほっほ、これで孫も安心じゃな。感謝するぞい、イオリk君」


 ジィサンが嬉しそうに目を細めるのを横目に、僕はインベントリを閉じ、周囲のメンバーを見渡した。


「よし、もう一つのアイテムの使用方法も分かったのでな。少し説明の時間を取る」


「説明トハ何ダ!イオリk!」


 カイザーが僕を指差す。

 ダサいポーズのまま。


「……先ほど同様の枯れた樹、第2スフィアの祠がどこかにあるはずだが、そこへ向かう前に……あと8分34秒後、この場所にレアエネミーの『希少念猫マインド・キャット』が出現する。

第1スフィアと同様、次の祠も中ボスが守っているのなら、あと21回は中ボスとの戦闘がある。わざわざこの猫を待って倒す必要性はないが……説明ついでだ、倒していく」


「それで?説明ってなんだ?」


 ドドンパが怪訝な顔をして尋ねる。


「ああ。僕がなぜ、完全なタイムスケジュールを持っているか。

……それは、ロン君の中にこのゲームの『システムAIモジュール』が入り込んだからだ」


「「「「はあああ!?」」」」


 ドドンパ、ジィサン、カイザー、まち子が揃って素っ頓狂な声を上げた。


「ええええ!?ロン君の中にAIが!?」


「ぽよ!?ロン君がどうかしたのだ!?」


 当の所有者であるぽよんすらも、目を白黒させている。


「先ほどタヴの町で、ぽよんがお仕事を終えたご褒美におやつを食べただろう」


「ぽよ!美味しかったのだ!」


「実のところ、目的は不明だが、ここ最近のロン君の『寝マカ』は、AIモジュールをインストールするための調整時間だったのかもしれない。

そしてあの時、裏でインストールが完了しており、おやつ摂取によって【3時の(ティータイム)失踪(・バニッシュ)】のフラグが成立。

……入り込んだAI『Archeアルケ』が勝手にそれを発動させたんだ」


 僕は静かに息を吐き、さらに事実を重ねる。


「その隔離された時間の中で、僕にもなぜか接続された。

……それも、『特異点シンギュラリティ』と名指しでな」


「特異点……?難しー」


 シロロはもうパンク状態だ。


 僕は首を横に振りながら説明を続ける。


「僕自身、こんな状況は全く何が起きているか分からない。

……そしてこれは推測だが、このゲームの『運営』と『システムAI』は別物だ」


「運営とAIが、別……?」


「どういうことですの、マスターイオリ?」


 フゥとまち子が問い返す。


「思い出してみろ。ここ最近、各エリアに追加された新エネミーを」


 僕が問いかけると、メンバーたちがそれぞれ記憶を遡り始めた。


「……ハズレの洞窟のオカマウサギさん……」


 ルナールが少し引きつった顔で答える。


「スライム居住区の白亜の彫刻家ですわね」


「あ、第3エリアの安全地帯セーフティーエリアの奥にいた氷のボス!」


「第4エリアの、古細菌の生態を持ったモグラ嬢……」


 まち子、ドドンパ、フゥが次々と直近のイレギュラーな戦闘を挙げていく。


「そうだ。それらすべてを、僕たちが『独占』して倒していることになる。

それにな……第4エリアの隠しエリアは本来、非常にめんどくさいフラグが必要なんだが、僕らは無理やりぶち破ったよな」


「あ、ロン君で!」


「そうだ。だが、ログには何故か『バイブロスライムの振動により砂埃を検知。辺りの温度が下がりました』と出た。しかし周りにそんなスライムはいなかった」


「ふむふむ」


 ぽよんが腕を組んで深く頷いている。


(……また、分かってないのに分かってるふりしてるなこいつ)


 僕は内心で呆れながらも、説明を続けた。


「つまり、システムが無理やりこじつけたんだ。僕たちの強引な行動を、正規ルートと判定してな」


 僕が事実を並べると、ジィサンが「ぬっ」と息を呑む。


「……言われてみれば。いくら俺たちが動き回ってたとはいえ、都合よく俺たちばかりがエンカウントしてたな……」


 ドドンパもいつになく真面目な顔で顔を引きつらせた。


「以前、スライム長老がバグった話はしたな。

『あの方』の情報を聞こうとした途端に話せなくなったんだ。

『話せない』『首輪』という単語から、そのバグの原因は運営だろう。

Ver.2.0の情報だった為に、運営から全体的にブロックルーチンか何かが入っていたと考えられる」


「ハッハー!なるホド!システムからクエストの誘導がアッたトして、ワザわざブロックルーチンが発動するノニ、誘導しナイ!」


 カイザーがダサいポーズを決めながらも、的確な指摘をする。


(こいつはバカなふりしているだけか?よくそこまで導き出せたものだな)


 僕は内心でカイザーの評価を少しだけ上げた。


「そうだ。運営とシステムAIモジュール『Archeアルケ』が共同体ではない可能性が高い。もちろん何の確証もない、僕たちが誘導されているという前提のもと導き出した9割以上当て勘の推測だったが」


「マスターイオリは『Arche』の文字を見たんですわね?」


 まち子が探るように聞いてくる。


「ああ。『Arche介入開始』と出ていた。僕はそんなAIモジュールがある事を、さっき知ったんだ」


「データ通のイオリ君も初見の情報……?」


 フゥのその呟きに、空気が張り詰める。



「それにな、『Arche』は僕と『セキュア通信』のポートを確立してまで接触してきた」


「……!!暗号化されていた、ということかの?!」


 ジィサンの目の色が、鋭い投資家のそれに変わる。


「そうだ。Archeはわざわざぽよんのおやつ(糖分摂取)をフラグにして、彼女の隠しスキル【3時の失踪】を強制発動させた。ぽよんのスキルの効果は『22秒間』。

つまり、この間だけはシステムから完全に切り離された『隔離された空間レイヤー』が作られるスキルなんだ」


「隔離された空間……?」


 ドドンパが眉をひそめる。


「ああ。この22秒間だけ、セキュア通信ポートの確立が許され、運営の監視網から完全に見えなくなる。Archeはそのスキルの仕様(隠れ蓑)を利用して、僕の元へ直接『完全なポップスケジュール』と『ドロップ乱数の固定データ』を流し込んできた」


「マ、マジかよ……。システムAIが、ぽよんちゃんのおやつスキルを隠れ蓑にして、コソコソ裏データを渡してきたってのか?」


「……異常ですわね。本来なら、プレイヤーが絶対に知り得ないシステム内部のデータですのよ」


 ドドンパとまち子が、事態の異常さに顔を引きつらせる。


「これまではただの当て勘だったが、今回、『Arche』から直接(しかも運営の目を盗んで)スケジュールデータが送られてきたことで、推測が確信に近づいた」


 僕は薄暗い空を見上げ、眼鏡を押し上げる。


「つまり、システムAI『Archeアルケ』は……運営に反旗を翻してでも、僕たちに何かをさせようとしている」


「……規模がデカすぎて頭痛くなってきたぜ。だが、なんで『ロン君』だったんだ?それに、なんで『今』なんだよ」


 ドドンパが頭を掻きながら核心を突く。


「理由は二つある」


 僕は指を二本立てた。


「一つは、ここが第6エリアだから成り立つ仮説だ。

イェソドは『基礎・精神界』……つまり、この世界のシステム構造そのものに最も近い領域だからこそ、AI側もルールの隙間を突いて、ここまで深い干渉ができたんだろう」


「なるほどな……」


「そしてもう一つ。……こっちが最大の要因だ。Archeが干渉するための『器』の存在だよ」


 僕は、ぽよんの腕の中でプルプルと揺れているロン君を見つめた。


「リリース初日、僕が作成した『忘れられた真核』……覚えているか?」


「ああ、あの空っぽのコアか!確かロン君の素材として使ったやつだよな」


 ドドンパがポンッと手を打って思い出す。


「ええ……。極限まで情報を削ぎ落とした、不気味な真核ね」


 フゥも当時のイオリの行動を思い出したのか、目を細めた。


「ああ。あれは『何も情報が入っていない』、完全に空っぽの真核だった。それが構成ログとして組み込まれているロン君だからこそ、Archeはそこを『安全な空き容量 (インストール先)』として目をつけ、自身のモジュールを潜り込ませることができたという推測だ」


「ぽよ!?ロン君の空っぽのお腹に、知らない子が入ったのだ!?」


「……まあ、そういうことだ。だから、ここ最近ロン君が異常に長いスリープモード(寝マカ)に入っていた正体は……」


 僕は眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、冷徹な観測結果を口にした。


「その空っぽの『忘れられた真核』へ、AIモジュール自身を密かにダウンロードし、適応させるための時間だったんだよ」


 その事実が告げられた瞬間、全員が息を呑み、荒涼とした第2スフィアの大地に重い沈黙が落ちた。


 僕が事実を補足した、その時だった。


「kおじさん、ムズカシイ」


 ミツルマンが勇者の剣を抱えながら、目をぐるぐると回して訴えてきた。


「ほっほ!すまぬなぁミツルマン。少し大人のお話だったわい」


 ジィサンが孫の頭を優しく撫でる。


(……ミツルマンのことを考えるべきだったな)


 子供には退屈すぎる時間だっただろう。


 だが、『8分34秒』の待機時間も、もう終わる。

 そろそろ猫が湧く時間だ。


「とにかく、今は先にスフィアを抜けるぞ。また『Arche』から接触があるかもしれない」


 そう言いながら、僕は【星界の天球儀】から【断崖写本杖クリフ・スクリプトペン】へと武器を持ち替え、何もない空間、猫のポップポイントへ向かって歩き出した。


 視線は前を向いたまま。


 ポイントを通り過ぎるように歩きながら、僕は脳内で冷徹に秒数をカウントする。


(5、4、3……)


 タッ。


 タッ……。


 そして、時計がゼロを刻んだ瞬間。


 僕は一切振り返ることなく(ノールックで)、背後へ向けてペンを振り抜いた。


「【物理変換キネティック・コンバート】」


「ニャッーー?!」


 ドゴッッッ!!!


 空間に湧いた(ポップした)直後の紫色の半透明な何かに、僕の強烈な打撃が直撃する。


 光の粒子が舞い散り、コロリと一つのアイテムが地面に転がった。


 ——【戦闘ログ】——

▶︎ 討伐対象:『希少念猫マインド・キャット

▶︎ フィールドドロップ:『空白のアルカナ 大』 × 1

 ——————————


「「「え」」」


 ドドンパ、まち子、シロロの三人が、完全に呆けた声を重ねた。


「ぽよ?!?!」


 ぽよんに至っては、目を真ん丸にして王笏(ロン君)を振り回している。


「おー!かっけ!kおじさん!」


「オオ、未来予測ダナ!」


 ミツルマンが目を輝かせ、カイザーは無駄にダサいポーズを取りながら感嘆の声を上げた。


「……予測じゃない。ただの『予定』だ」


 僕は事もなげに言い放ち、彼らに向けて解説を始める。


「さっき倒した『希少念猫マインド・キャット』。

……あれは第6エリア(精神界)特有の厄介な性質を持っている。

プレイヤーが『見よう(狩ろう)』と意識を向けた瞬間、精神の焦りや殺意を感知して姿を消し、逃げ出してしまうんだ。……もっとも、これもArcheアルケからのデータの受け売りだがな」


「な、なんだその面倒な仕様……見たら逃げるって、どうやって狩るんだよ!?」


 ドドンパが顔を引きつらせる。


「だから見ないんだよ。1秒の狂いもなくそこに湧くというデータがあるのだから、振り返る必要すらない」


 僕は淡々と事実を述べる。


「それに、希少猫レアキャット系は素早さや逃走に特化している分、HPの最大値自体は極端に低く設定されている。ギミックさえすり抜けて一撃当ててしまえば、それで終わりだ。まぁ、今回は説明のついでだ。今後わざわざ狙って倒す必要はないがな」


 殺意も焦りも持たない、ただの『作業タスク』としての素振り。


 それが、精神界の面倒なレアエネミーに対する僕の『正解』だった。



 僕は足元に転がったアルカナを拾い上げる。


 そのまま静かに秒数を数え、先ほどの討伐行動からきっちり『30秒』が経過したのを確認し、インベントリを操作した。


 手に持っていた武器を収納し、再び【星界の天球儀】へと装備を変更する。


「次へ行くぞ」


 僕たちは、天球儀のコンソールに表示されるAIモジュール『Archeアルケ』からの完全なタイムスケジュールを元に、無駄なエネミーを避けながら広大な第2スフィアの荒野を進んだ。


 そうして中ボスを探し歩くこと約10分。


 遠くの地面が大きく揺れ、凄まじい砂埃と共に『それ』を発見する。


 ズズズズズンッ……!


 現れたのは、周囲の岩と砂塵を無骨に固め、何重にも圧縮したような、圧倒的な防御力と質量を持つ重装甲の中ボスだった。


 見上げるほどの巨体が一歩踏み出すたびに、荒野がドスンと重く鳴動する。


 僕は天球儀を構えたまま、足元の乾き切った大地を見下ろして冷徹に言い放った。


「沈めるぞ」


「……は?沈めるって、どこにだよ!?」


 ドドンパが、見渡す限りの乾いた荒野を指差して素っ頓狂な声を上げる。


 水辺も沼も何もない。

 あるのはカチカチの岩盤と砂埃だけだ。


 僕はドドンパのツッコミに淡々と答えた。


「ここは『イェソド(精神界)』だ。さっきの中ボス戦で、ロン君のダイラタンシー現象が異常なまでにボスのHPを削り取った理由。それは、ぽよんの『ぷよぷよのスライムがカチカチの鋼鉄になる』という強烈で純粋なイメージが乗ったことで、システムの物理演算を遥かに超えて威力が『極大化』された結果だ」


 この世界では、単なる物理演算の数値よりも、それを引き起こす現象に対する『強烈なイメージ』が結果に直結する。


「科学的な根拠に基づく絶対的な現象ロジック。それが確実に起きるという『一切の疑いがない純粋なイメージ』を持てば、システムはそれを圧倒的な威力としてこの空間に上書きする」


 僕は眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、巨大な重装甲の敵を見据えて不敵に嗤った。


「僕がこの第6エリアの精神界での戦い方を教えてやる。……物質界マルクトより強力になる物理法則でな」


第94話いかがだったでしょうか?


伏線などを圧倒的に回収する回となり情報が多いので、時間がある時に活動報告にてあげます!!



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


〜次回予告〜

3/8【朝8:10】に投稿ハック致します!


少しでも「そう言う事か!」「『Archeアルケ』何すんの!」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!


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