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第92話:観測者、消えた22秒間で極秘データを受信し、狂乱の魔境で『絶対的な未来』を支配する

今回の話に出てくるスキルは73話で登場したものになりますが、名称を変えております。

 

◇ タヴの町


 シロロたち女子陣は、僕の推測通りユニーククエストの報酬である『謎の板切れ』つまり『空白のアルカナ大』を見事に獲得してきた。


(……しかし、10個とはな)


 一体どんな狂気(接客)を見せたら、NPCがシステムの報酬上限を突破して裏在庫を全放出するほど好感度がバグるというのか。


 僕はドヤ顔のシロロに「上出来だ」と短く労いを返し、手に入れた想定外の物資をもとに、今後のスケジュールを大幅に前倒しすべく思考(計算)を巡らせた。


 その時だった。


 ぽよんが「お仕事いっぱいがんばったから」と、自分へのご褒美にマカロンを口に放り込んだ。


 サクッ。


 ぽよんが甘いお菓子を頬張った、その瞬間。


 シュンッ……!


 僕の目の前から、ぽよんと、彼女が抱えていたロン君の姿が、フワッと陽炎のようにかき消えた。


「ぽ、ぽよん様!?どこ行ったの!?」


「えっ!?なんだ!?急に消えたぞ!?」


 シロロとドドンパが慌てて周囲を見回す。

 

 だが、僕の意識は彼らのパニックには向いていなかった。


 僕の手元で、予期せぬ挙動が起きていたのだ。

 

 背負っていたはずの【断崖写本杖】がインベントリへと強制収納され、代わりに【星界の天球儀】が自動で実体化アクティベートした。


(……僕の意思を通さずに、武器が勝手に切り替わった……?)


 驚く暇もない。


 僕が一切の操作をしていないにもかかわらず、天球儀の不可視のコンソールに、凄まじい速度でデタラメな座標データが自動入力されていく。

 

 同時に、僕の視界(AR)のあちこちで、不吉な赤い点が激しく明滅し始めた。


 シュンッ。


「……ぽよ?あれ?ぽよん、スキル発動したのだ?」


 消えてからわずか数十秒後。

 

 何事もなかったかのように、ぽよんとロン君が全く同じ座標にフワッと姿を現した。


「ぽよん様!よかったぁ、急に消えるからびっくりしたよぉ!」


「おいおい、なんだったんだ今の……バグか?」


 本人すら何が起きたのか分からず首を傾げ、仲間たちが安堵する中。

 

 僕だけは、微動だにせず目の前の空間――ぽよんが消えていた数秒間の『空白』を睨みつけていた。


(……ただの通信エラーやラグじゃない。

 今の赤い点の明滅……調べるか)


 僕は天球儀を構え、ぽよんの立っている空間を視界に捉えスキルを発動する。

 

 今回は対象が目の前だ。

 天球儀への座標入力アクションは必要ない。


「【深淵の観測者スキル:局所時間観測タイムスライス・スキャン】」


 指定した空間の『過去30秒間』の環境ログを切り取り、視界へ強制展開する。

 

 虚空に半透明のウィンドウが開き、緑色の文字列が滝のように流れ落ちてきた。


 ——【Log】——

【指定座標の過去30秒間の環境空間データを展開します】


[T-minus 30s]:『魔王ぽよん』のフラグ(糖分摂取)確認。

[T-minus 28s]:AI_Module [Arche] 介入開始。

[T-minus 28s]:隠し効果【3時(ティータイム)の失踪(バニッシュ)】を強制発動。システムからの隔離レイヤーへ移行を実行。

[T-minus 26s]:セキュア通信ポート確立。特異点 [Iori_k] へ接続……完了。

[T-minus 25s]:暗号化パッケージの転送を開始。

▶︎ 展開中……

┗ 第6エリア [Tav] 全エネミーポップスケジュール(完全版)

┗ レアエネミー『希少念猫』ポップ座標および出現時間データ

┗ タイムポップ中ボス『自我の残響』出現座標およびドロップ乱数(50%)固定テーブル

[T-minus 10s]:データ転送完了。接続解除。

[T-minus 08s]:隔離レイヤーを解除。

[T-minus 06s]:対象を通常空間へ復帰。

 ————————

 文字通り、瞬きする間の出来事。

 

 だが、そのログの中身を見た瞬間、僕の脳髄に強烈な電撃が走った。


「……なるほど。そういうことか」


 視界に明滅していた無数の『赤い点』。

 

 それはバグのノイズなどではない。

 これからこの魔境タヴでポップするすべてのレアエネミーと中ボスの、1秒の狂いもない『完全な予定表スケジュール』だったのだ。


(……だが、なぜこんな規格外のデータが、システム側から僕の天球儀へ直接送られてきた?)


 僕は明滅する赤い点を睨みつけながら、急速に思考を回転させる。


 思い当たる節は一つしかなかった。


(AIモジュール『Arche』……運営ではないのか?

  あいつが最近、ずっとぽよんに抱えられたまま不自然なスリープモード(寝マカ)に入っていたのは、この隔離レイヤーの構築と、スケジュールのハッキングを裏で進めていたからか……?)


 推測の域を出ない。

 ロン君がどこまで意図してこの状況を作り出したのか、その完全なカラクリまでは今の僕にも分からない。


 だが、そんなことは後回しでいい。


 今は、この手元に転がり込んできた『絶対的な未来データ』を最大限に利用して、この理不尽な盤面を支配するだけだ。


「難しい話をしてもしょうがない。簡潔に言う」


 僕は天球儀のウィンドウを閉じ、驚いている仲間たちを振り返って、極めて冷徹な声で告げた。


「……シロロたちの活躍により、必要な『空白のアルカナ』は残り4個になった。そして、残りのアルカナをすぐに集められる方法が、たった今出来た」


「おい、イオリ?お前、急に何の話をして……」


「マスターイオリ?どうされましたの?」


 ドドンパとまち子が困惑する中、カイザーがいつものように大仰なポーズを取り、僕の隣へ瞬間移動しようとした。


「フム!難シイ話ナラ、僕様ガじっくリ聞イテやろウ!

そこニいル『未来』ヲ選択!……アレ?」


 シュンッ、という音は鳴らない。


 カイザーは元の位置に突っ立ったまま、信じられないものを見るように自分の両手を見つめて固まっていた。


「おい、どうした主神。すべったか?」


 ドドンパが茶化すが、カイザーの顔からいつものおどけた笑みが完全に消えていた。


「違ウ……。なんて事ダ……」


 カイザーは、僕の周囲の空間(事象)を戦慄の目で見つめている。


「内容ハ見えヌ。しかシ、イオリkの周りノ

『未来』ガ……すでニ完全ニ確定されてイテ、僕様ガ選択する為ノ隙間ガ1ミリも残ってイナイ……!!」


「は?未来が確定してる?」


「本来、数十分先をわざワザ見ル事ハしないのダガ……

勝手ニ未来マデ選択しよウト引っ張られタ挙句、隙間ガ無クテ一切選ベナイ……!」


「マスターの横に移動する未来すら選べないってことですの?」


 まち子はカイザーの能力チートの規格外さをよく知っている。

 かつてトップクラン『聖刻の円卓』として共に最前線を張っていたからこそ、その異常事態の深刻さが誰よりも分かったのだろう。


「そうダ!!普段なラ、僕様ノ【不確定(アンサー・オ)な神威剣槍(ブ・グングニル)】で結果ヲ保留(遅延)にシテ、不確定な未来カラ都合ノいい結果ヲ『時空剣士』の力で引き寄せル。だガ今は、システムそノものガ強制的に『たった一つの未来』を押シ付けてイテ、選択チートに昇華すル前ニ弾かれるンダ!!」


「……あの絶対と必中のコンボが使えない……システムか何かに関与されている間は純粋な『時空剣士』の剣技だけでと言うことになりますのね」


「アア、関与シテいなけレバ使エル」


(……あのふざけた『事象の選択』は、単なるユニークスキルではなく、武器の特性と職業スキルの複合だったというのか)


 僕は内心で舌を巻いた。


 他人の、それもトップランカーの強さの根幹ビルドを根掘り葉掘り聞き出すのは、それなりの関係値がなければ野暮というものだ。


 僕もあえて深くは踏み込んでいなかった。


 まさか、ここまでの緻密なカラクリがあったとは。

『俺もお前も俺』はとんでもない奴だな。


 僕は驚きを悟られないよう、口角を歪めて薄暗い笑みを浮かべた。


「カイザーの言う通りだ。僕の手元には今、この魔境タヴで起こる全ての事象を書き記した『絶対的な未来』がある」


 僕は空中に『タヴの全体マップ』を展開し、冷徹に事実を告げた。


「他のクランは、いつどこに湧くか分からないエネミーを探して広大なフィールドを走り回り、無駄な戦闘でポーションを消費していく。……だからこそ、僕たちは一切の戦闘を避け、最短ルートで本命を狩る。そのための『囮』だ」


 僕はマップの一部、過酷な毒沼と強敵が密集するデッドゾーンに赤いピンを立てた。


「カイザー、まち子、ジィサン、ミツルマン。お前たち4人は派手に動き回り、このダミーのポップ位置へ向かって走れ」


「……なるほど。理にかなっていますわ。攻略組だった私たちや冒険者2位のジィサンと勇者が必死に走っていれば、嫌でも周りの連中は『あそこにボスが湧く』と思い込んで釣られますわね」


「ああ。焦っている連中ほど、勝手に偽のポイントでポーションを枯渇させ、盤面から降りていく。これが情報の非対称性だ」


 僕たちはタヴの町を出て、計画通りに二手に分かれた。


 数分後、狙い通りに他の攻略組がカイザーたちの後を追い、地獄のデスマーチへと雪崩れ込んでいくのが観測できた。


「バカな連中だ。自らの欲望で自滅していくとはな」


 僕は嘲笑し、残ったドドンパ、シロロ、フゥ、ルナール、ぽよんを振り返る。


「行くぞ」


◇ 第6エリア 第1スフィア:『鏡の台座』


 他のプレイヤーたちが偽のポイントで泥沼の戦闘を繰り広げている頃。

 

 僕たちは、敵の影すら見えない静寂に包まれた『鏡の台座』の前に到着していた。


「12時34分50秒。座標X-214, Y-88。

……ここだ。30秒後に、時間湧き中ボス『自我の残響(エゴ・ミラージュ)』がポップする」


 僕は天球儀を見据え、秒数をカウントする。


「どんな未知の攻撃を仕掛けてこようと」


「撃たれる前に沈めれば関係ない、だろ?」

 ドドンパがニヤリと笑ってタクトを構える。


「ああ。ルナール、防御(DEF)は捨てろ。物理火力を極限まで尖らせたバフをかけてくれ」


「はいっ!いきます!」


 清楚なルナールが指先で弦を激しく弾いた瞬間、重厚なハードロックの爆音が空間を震わせた。


 ——【System】——

[ジャンル設定:ハードロック]

▶︎ 味方ステータス改竄ログ受信: STR+300% / DEF−100%

 ——————————


『オラァァァァ!!どんな敵が来ようが知るかァ!!!

  湧いた瞬間に全部ブッ壊せェェェェ!!』


 柄の悪いロックボーカルに豹変したルナールの爆音が、僕たちの火力を底上げする。


「ぽよん、お前はトドメを狙え。ボスの湧くすぐ近く前線で待機してろ」


「ぽよ〜!まかせるのだ〜!」


 ぽよんが台座の目の前までトコトコと走っていく。


「ドドンパ、射線を引けだ」


「おうよ!【加速回路アクセラレータ】!!」


「……3、2、1……ゼロだ」


「未来の敵さんごめんね!てーい!お星様アタックー!」


 指定時刻、ピッタリ。

 

 ドドンパの加速回路に乗ったシロロの『星型の弾丸』が空の台座へ向けて放たれた、まさにその瞬間。

 

 何もない台座の上に、ノイズと共に『顔のない鏡面の巨人』がポップした。


『我は汝の深淵……。

 恐れよ、汝のトラウマを――』


 ——【System Warning】——

[警告:広域精神汚染パニック・ウェーブの予兆を検知]

▶︎ プレイヤーの『過去のトラウマ』を具現化する幻術の展開を開始します。

 ———————————————


(……精神攻撃デバフか。厄介なノイズだが……)


「トラウマ?  データにそんな無駄な容量キャッシュはない」


 ドガガガガガッ!!!


『ギ、ガァァァァ……ッ!?』


 湧いたわずか『0.5秒後』の巨神の顔面に、STR+300%バフの乗ったシロロの弾丸が直撃し、幻術の詠唱を強引にキャンセルさせた。


「砕け散りなさい!!【記憶地層ジオ・メモリア剥離黒曜(オブシディアン)の剣山(・二ードル)】!!」


 すかさずフゥが自信満々に掘削機を突き立てる。


 ズドドド……!

  ボコンッ!


 地鳴りと共に中ボスの足元が隆起する。

……だが、そこに現れたのはピンポイントで敵を貫く鋭利な刃ではなく、以前ドドンパのゴーグルを作った時に使った『ただの巨大な高高地の土台』だった。


「……あ、高高地のままだったわ」


「ちょ、フゥちゃんさん!?  しっかりしてぇ!」


「フゥちゃんお茶目さんだねー!」


 間抜けな音と共にせり上がった土台に、すかさずドドンパとシロロからツッコミが飛ぶ。

 

 本来の『黒曜の剣山』なら、ボスだけを正確に貫いていたはずだ。


 だが、巨大な『高高地』の隆起範囲はあまりにも広すぎた。


 結果として、このフゥのミス(環境変化)を一番モロに食らったのは、敵ではなく前線で待機していた魔王(IQ3)だった。


「ぽ、ぽよ〜〜〜!?」


 広大な判定を持つ高高地の台座に足元からカチ上げられ、ぽよんが遥か上空へと攫われるように打ち上げられてしまったのだ。


「ぽよん様も巻き込まれちゃってるぅぅ」


「あぁ、範囲広いねー、てか、普通にすごいよなこれ」


 シロロが悲鳴を上げ、ドドンパが呆けて見上げる中、僕は上空でジタバタする魔王バカを見て、むしろ口角を歪めた。


「好都合だ。ぽよん!そのまま高台から殴れ! 落下速度を質量に変えろ!!」


「ぽよ!? よくわかんないけど、上からぶっ叩けばいいのだ〜!?」


 ぽよんが空中で、手にしたロンダイラタンシー・スライムを両手で振りかぶった。


 そして、急造された高高度の台座から飛び降り、自ら落下を開始する。


「お空からのロン君スマッシュなのだ〜!!」



 プォーン♪

 あの間の抜けた音と共に、圧倒的な落下速度による極限の衝撃ストレスが加わり、スライムが鋼鉄硬度へと変異する。

 

 凄まじい重力加速度を乗せた一撃が、のけぞっていたボスの顔面を物理的に粉砕した。


 ドッゴォォォォォォォォォォン!!!!


『ガ……ァ……』


 幻術の展開ごと顔面をひしゃげさせられた『自我の残響』は、何もできないまま瞬時にHPを全損し、光の粒子となって消滅した。


 待ち時間ゼロ。

 被ダメージ、ゼロ。

 

 圧倒的な強者であるはずのタヴの中ボスは、行動を完了する前に処理されたのだ。


「フッ……無駄な演算プロセスだったな」


 僕は消えゆくポリゴンと、上空から落ちてきた見事な『高高地の土台』を見下ろしながら、冷たく一蹴した。


 だが、僕の『観測眼』は、消滅の瞬間に微かな違和感を捉えていた。


(……計算が合わないな)


 シロロの星型の弾丸(スター・バレット)で削れていたとはいえ、ボスのHPゲージはまだ半分ほど残っていたはずだ。


 いくらルナールのSTR+300%バフが乗り、高高地からの落下速度(位置エネルギー)をダイラタンシーの質量に変えたとはいえ……あんな、ゲージが蒸発するような速度で削り切れるものなのか?


(……まあいい。

 まずはドロップの確認が先だ)


 僕は思考のノイズを切り捨て、戦闘終了後のフィールドログへと観測眼を向ける。



 ——【戦闘ログ】——

▶︎ 討伐対象:『自我の残響(エゴ・ミラージュ)

▶︎ フィールドドロップ:『空白のアルカナ大』 × 1

 ————————


(よし、狙い通りだ。

 ドロップはしているな。

 これで残りはあと3個か)


「フゥ……例の隕石で記録取っておいてくれ」


「……ええ」


(かっこよく決めてるが、盛大にミスってるからな、お前)

第92話いかがだったでしょうか?


前書きにも書きましたが、73話で使用した選択座標の過去の記録の30秒を見るだけのスキル。


局所時間観測タイムスライス・スキャン】は73話で使用していたモノを変更したものになります!

深淵観測アビス・スキャン】としていましたが深淵詳細観測と名前が酷似していたので変更しました!


ーー

ロン君の秘密の一端回でした。

明確な理由が判明するのは後ちょっと先になります。

そして、カイザーの職業についても少しずつ判明していきます。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


〜次回予告〜

3/7【朝8:10】に投稿ハック致します!


少しでも「ロン君どうなったの?!」と気になって頂けたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!


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