第91話:装飾士、街をカワイイで蹂躙し、突如流れた「可愛くない英語ログ」を見た! 多分!
◇ 第6エリア タヴの町 『境界堂』
私たちが連れてこられたのは、路地裏の雑貨店『境界堂』
……って、もうね!
めーーーーっちゃボロいしブサイク!
全っ然可愛くないお店なんですけど!
「えーー!待って息子さん!見た目ヒドイ!帰っていい?」
「ああっ、お待ちを……!どうか見捨てないでください!
申し遅れました、私は『ハニ』と申します!」
必死に引き留めるハニさんをよそに、うちのメンバーは通常運転です!
「ハニ……なるほどね。でもこの店の管理状況、甘いわね。
ざっと見ただけでも素晴らしいものがあるのに。
……アレ、武器の研磨にも使えそうね……」
フゥちゃんはすでに、ホコリまみれのガラクタ(石)に夢中になっている。
「それに少し臭いますわね」
「ぽよ〜!ばっちぃのだ〜!」
まち子お姉さんとぽよん様も容赦ない。
「ははは……申し訳ありません。あそこで怒鳴っているのが、店長で私の父です」
ハニさんが引きつった笑顔で指差した店の奥では、隔離ルールで殺気立った冒険者と、偏屈そうな親父さんが大喧嘩を繰り広げていた。
「ああ!?うるさい奴だな!文句があるなら帰りやがれ、このクソ冒険者!!」
「なんだよこのふざけた価格設定!おまけにクソ見てーな態度しやがって。二度と来るか!!」
「と、父さん!やめてください!ただでさえウチはお客さんが減ってるのに!」
ハニさんが泣きそうになりながら親父さんとお客さんの間に割って入り、必死に宥めているけれど。
「もう。いくら可愛くないからって、あんなふうに『可愛くない!』って正直に言っちゃダメなのにねぇ。火に油を注いじゃってるよ」
(※普段から息をするように『可愛くない!』とド直球に言い放っている自分の根本的な行いは、絶賛棚に上げています)
「あちゃー。お店も人も、全然可愛くないね」
私が呆れてため息をつくと、ルナールちゃんがスッと竪琴を構えた。
「皆さん殺気立ってますね……陽気なBGMで鎮めましょうか?
……いえ、荒れたお店の空気を変えるなら、やはりアレ?
現実のディスカウントストアでよく聞く、ド◯キホーテ的な謎の中毒性があるあの曲……」
うふふっ。
その選曲カワイイ!!(?)
ボロボロで殺伐とした可愛くないお店。
なら、私たちがぜーんぶ『カワイイ』と『狂気』で塗り替えてあげる!
「よーし!それじゃあまずは、この暗くてカビ臭い店内からだね!私の『カワイイ』で、ぜーんぶ上書きしてあげる!」
私は【詐欺装飾士スキル:私だけのシール帳♡】を取り出した。
このお店を救うための、特別なデコレーションの始まりだ!
「カワイイ指数は3000まで貯まってるね!よし!えーいっ⭐︎ キラキラのパステルカラーになぁれっ!」
——【System】——
[環境認識:『カワイクナイ』判定……致命的な汚さを確認]
▶︎ N級シール『パステルカラー』を使用します。
[消費:カワイイ指数 -30]
※注意:物理的な汚れは落ちていませんが、事象が強制的にファンシー上書きされました。
————————
ペタッ、ペタッ!
私が壁やホコリまみれの陳列棚にシールを貼っていくと、ポンッ♪ という可愛い音と共に、薄汚れた木材が真っ白でツヤツヤの棚に変わり、ポーションの入った濁った瓶が、高級ブランドの香水瓶みたいにキラキラと輝き始めた!
——【C-ute System】——
[外装偽装レベル:MAX]
カワイイ指数−660消費しました。
※中身は下級ポーションのままですが、無駄な高級感により
『パケ買い』誘発率が800%上昇しました。
ボッタクリに最適です。
————————
「えええっ!? お店の内装が……!
それに、ただの『下級ポーション』が、なんだか王室御用達の『霊薬』みたいな神々しさを放っています……!」
「えへへー、可愛いでしょ!これなら、いつもの5倍……ううん、10倍の値段をつけても絶対売れるよ!」
私がドヤ顔で言い放つと、親父さん(店長)が「そんなボッタクリ価格で売れるわけねぇだろ!」と叫ぼうとした。
けれど、その声を掻き消すように、ルナールちゃんの竪琴が鳴り響いた。
ポポポポポー♪ ポポポポポー♪
軽快で、だけどどこか脳の奥を直接揺さぶるような、謎の中毒性を持ったメロディ。
「聴いてください!
【購買意欲促進・第一楽章(よく聞く奴)】!!」
——【System Warning】——
[警告:広域洗脳BGMを検知しました]
▶︎ 対象エリア内の全生命体の『財布の紐(物理・精神)』が強制解除されます。
※理性低下デバフ付与。
必要のないものまで買ってしまう『爆買い病』に感染しました。
———————————————
ルナールちゃんの瞳孔が少し開いている。
完全に自分の世界(音楽)に入っちゃったみたい。
でも、その効果は絶大だった。
「お、おい!なんだこの店……すっげぇ高級そうなポーションが並んでるぞ!」
「マジかよ、この輝き……!しかも、なんかこの音楽聴いてると、財布の紐が緩むっていうか……全部買わなきゃいけない気がしてきた……!」
さっきまで殺気立っていた冒険者たちが、吸い寄せられるように店内に入ってくる。
ルナールちゃんのBGMジャック(洗脳バフ)と、私のカワイイ魔法(偽装)が完璧なシナジーを生んでいるのだ!
「……いらっしゃい。そこの剣士さん。あなた、いい目をしてるわね」
「えっ? お、お姉さん、この店の店員?」
「ええ。……これ、店の奥のガラクタ箱に眠っていたんだけど、ただのゴミじゃないわ。
微量の魔力を帯びた『研磨用の魔石』よ。
あなたのその剣、これで磨けば見違えるように斬れ味が増すわ……」
「ま、魔石!? 買う!言い値で買うぜ!!」
フゥちゃんが、親父さんが捨てようとしていたただの石ころ(魔石)を、地質学的なウンチクで超優良商品に仕立て上げて爆売りしている。
でも後で聞いたら、本当に魔力が宿っていて砥石にはいいんだって!
「ぽよ〜!お会計はこっちなのだ〜!」
「おい! お釣りが500G足りねぇぞ!」
「ぽよ?お釣りが足りないなら、ぽよんのサイン入りマカロン(1日前に落としたやつ)をあげるのだ〜!
ありがたく思えなのだ〜!」
「舐めてんのか!ふざけんな、店長出せ!!
……あ!お前、アルケの広告に使われてるVtuberじゃねぇか!」
ぽよん様が最高にカワイイ接客をしているのに、配下未満の客が怒って武器に手をかけようとしちゃったの!
でも、その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
「……ぽよん様に、何か不満でもおありですの?」
背後から、赤い重鎧を着たまち子お姉さんが、巨大な大楯を構えてぬぅっと姿を現した。
その圧倒的な質量と威圧感(と、絶対に逆らってはいけないという本能的な恐怖)に、お客さんは「ヒッ!」と悲鳴を上げた。
「い、いえ!サイン入りマカロン、家宝にしますぅぅぅ!!」
お客さんは泣きながら商品とおまけ(ゴミ)を抱えて、逃げるように帰っていった。
うんうん、今日もみんな通常運転で大活躍だね!
「す、すごい……!飛ぶように売れていく……!
それに、あの厄介なクレーマーたちを完全に制圧している……!」
〜1時間後〜
「ああっ……!わしの店が……わしの店が、なんかよく分からんがめっちゃ儲かったぞぉぉ!!ピンクだが……」
ハニさんとさっきまで怒ってた店長さんが、カウンターの奥で抱き合って号泣している。
うふふっ!
私たちにかかれば、どんな可愛くないお店だって、あっという間に大繁盛の宝石箱になっちゃうんだから!
「お嬢ちゃんたち、本当にありがとう!
クエストの報酬としてはこれ1枚なんだが……実は店の奥の倉庫に、同じような使い道のない板切れが埃を被って大量に余っているんだ! どうか、お礼としてそれらも全て受け取ってくれ!」
親父さんが涙ながらに差し出してきたのは、本当にただの古ぼけた板切れだった。
——【System】——
[ユニーククエスト『偏屈店主の店番』達成]
▶︎ 正規報酬:『謎の板切れ』× 1 を取得しました。
[NPC『境界堂 店主&ハニ』の友好度パラメータがシステム上限(MAX)を突破しました]
▶︎ エクストラボーナス:『謎の板切れ』× 9 を追加取得しました。
————————
「あー! これ『空白のアルカナ大』じゃーん♪」
これなら、あの無愛想な大魔王メガネも少しは喜ぶでしょ!
「それじゃあハニさん、おじさん、またねー!」
「ぽよ〜!またお店屋さんごっこしてやるのだ〜!」
「……ええ。次はもっと、石のラインナップを増やしましょうね」
「ごきげんよう。クレーム対応ならいつでも呼びなさいな」
すっかり見違えた『カワイイ境界堂』を後にして、私たちはホクホク顔で外の広場へと戻った。
すると、ちょうど町の外からイオリ君たち男陣が帰ってくるところだった。
「おっ、戻ったか女子陣」
ドドンパ君が手を振りながら近づいてくる。
でも、合流した私たちは、ジィサンたちからなんかヤバそうな報告を聞くことになったの。
「外は魔境だったのぉ……。敵を倒しても、少し進んだらすぐ次が湧いて道を塞がれたわい」
「オレも少し疲れちゃったよ!なんかね、敵がワーって!1時間ずぅーっとだよ!!」
ええっ、あのミツルマン君まで!?
どうしよう、なんか一気に険悪な空気!?
まずい、切り替えろー!
「イ、イオリ君!見て見て!お店大繁盛で、これいーっぱい貰ったよ!!」
私がドヤ顔で板切れの束を掲げて見せると、イオリ君は少しだけ目を細め、満足そうに頷いた。
「……上出来だ。やはりあのクエストが『空白のアルカナ』の供給源の一つだったか。
これでスケジュールが大幅に前倒しできる」
イオリ君が何やら難しい計算を始めた。
相変わらず可愛くない。
「ぽよ〜、疲れたのだ〜。ぽよん、お仕事いっぱいがんばったから、おやつなのだ〜」
ぽよん様が「ふぃ〜」と額の汗を拭う素振りをしながら、インベントリから可愛いマカロンを取り出して、パクッと口に放り込んだ。
サクッ。
ぽよん様が甘いお菓子を頬張った、その瞬間だった。
シュンッ……!
「……えっ?」
私の目の前から、ぽよん様と、彼女が抱えていたロン君の姿が、フワッと陽炎のようにかき消えたの!
しかも、なんか可愛くなさそうな英語のログ?
みたいな文字列が、空中に一瞬だけ流れた気がしたの。
——【Root_System】——
▶︎ Target: Weapon_ID [Void_Macaron]
▶︎ Constructing the Vessel for Intervention... 99%... 100%... Complete.
▶︎ AI_Module [Arche] integration ready.
▶︎ Connection to Singularity [Iori_k]... Established.
————————
「ぽ、ぽよん様!?どこ行ったの!?」
「えっ!?なんだ!?急に消えたぞ!?」
私とドドンパ君が慌てて周囲を見回す。
「……ッ!!」
ふと横を見ると、イオリ君だけが微動だにしていなかった。
それに、彼の手に握られていた武器が、強制的にペン(断崖写本杖)から『星界の天球儀』に切り替わったの!
彼は、ぽよん様が消えた空間を見つめたまま、自分の目の前に展開された天球儀のシステムウィンドウを、穴の開くような恐ろしい目つきで睨んでいた。
「……イオリ君?どうしたの?なんでそんな難しい顔……」
私が恐る恐る声をかけても、イオリ君は全く反応しない。
ただ、その眼鏡の奥の瞳には、普段の『効率厨』の顔とは違う、本物のハッカーのような、冷たくて底知れない光が宿っていた。
ギャグみたいに楽しかったお店屋さんごっこの空気が、一瞬にして凍りつく。
……えっ、なになに?
何か、全然可愛くないことが起きてるの……?
第91話いかがだったでしょうか?
シロロが見ている世界はイオリと違って単純です。
カワイイか、カワイクナイか。これだけです。笑
そして遂に引っ張りまくっていたロン君が100%に……!
次回、秘密の一端が見れます。
そして、カイザーが『選択遅延』なのに何故、『事象の選択』を行えるかが判明します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
〜次回予告〜
3/6【夜20:10】投稿致します!
少しでも「やっぱカオス」「ロン君どうなった?!」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!




