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第87話 観測者、鷹の真核から空間把握ログを抜き取り、初日の思い出を駆け抜ける  

 

◇グラキエス・ロタ・チェンバー[サーバー24] 


[土曜日 21:30]


 木曜日から始まった第5エリアでの『空白のアルカナ』集め。


 僕たちは想像以上の苦戦を強いられていた。

 木曜の夜、数時間で5個もドロップしたのは、どうやら奇跡的な上振れだったらしい。


 あまりにも落ちない上に、休日を迎えた狩場はキーアイテムを求めるプレイヤーたちで地獄のような大混雑を引き起こしていた。


(まぁ、原因を作ったのは他でもない僕の采配ミスなのだが)


 効率化を図るため、僕たちは『アルカナ集めPT』と

『ドドンパの真核狩りPT』の二手に別れて作業を進めていた。


「オイ!イオリkヨ!ドウするノダ?もう夜モ更ケタガ!」


「困りましたわね」


「おかしいな」


 僕も思わず頭をかきながら思考する。


「11匹で1個の計算よね? ……もうかなり倒してるのに」


「今集まったのは……」


 朝の10時から開始して、休憩を挟みながら現在時刻まででドロップしたのはわずか6個。

 総討伐数はすでに120匹に達している。


 事前の確率計算から導き出した想定よりも、約2倍ほどの手間と時間が掛かっているわけだ。


「平日は仕事もある。休日のうちに稼いでおきたいが……」


「ハッハー!」


「カイザーさんが、アイテムがドロップする未来を『選択』できたらいいのにね」


「ハッハー!カオス・アトリエの面々ハ、精神攻撃ガスゴイナ!」


 フゥの痛烈な嫌味にも、カイザーは謎の笑い声で誤魔化した。


 どうやら、彼の能力である『遅延選択』でも、都合よくアイテムがドロップする未来までは選べないらしい。

 

 主神バカの力にも流石に限界はあるということか。


「そういえばフゥ、準備は出来てるか。例の『高高地の地層』は」


「ええ、出来てるわ……あの場所の地層、しっかりと【剥離黒曜(オブシディアン)の剣山(・ニードル)】を捨てて『高高度地層』に入れ替えてきたわよ」


 ピロン♪

 その時、僕の視界の端で通知が鳴った。

 ドドンパからのメッセージだ。


 僕はサッと中身だけを確認する。


「ああ、助かる。真核狩りPTからメッセージが来た。お目当ての真核がドロップしたみたいだぞ」


「ハッハー!  記録物語ログストーリーの時間だナ!!」


「こちらでは、それを記録設計ログデザインと呼ぶそうですわよ」


 まち子が、訂正してくれる。そういえばこいつから初めて聞いたんだったな、『記録物語』と言う単語は。

 あの時は少しビクリとしたことを覚えている。


「何カ違うノカ!」


 こいつら元円卓組の真核は『俺もお前も俺』が一つの物語として真核に刻んだと言う話もカイザーから聞いた。

しかし、たった1時間の間で量子力学や神話の概念をシステムに埋め込むとは今考えてみれば恐ろしいことだ。


(もしかしたら、あいつの持つ『量子観測士クオンタム・オブザーバー』の理不尽な力の作用かもしれないな)


 僕は「離れた場所で状態をリンクさせる」という量子的もつれの事象が可能なら、このゲームでどれだけ悪用ができるのかと一瞬だけ思考を巡らせた。


……いや、不要だな。

 僕にはない力(システム権限)で想像したって、叶わないのなら意味がない。


「いや、今はそんなことより……。3人は先に第1エリアの『あの断崖』に行っててくれ。フゥ、場所はわかるな?」


「ええ。イオリ君が初日にペンを作ったと言う……

 思い出の場所ね」


「ああ、頼むぞ3人とも」


 僕の指示に3人は力強く頷き、転送テレポートの準備を開始した。


 カイザーだけは、無駄に凝ったポーズを決めながら空へ指を突き刺す。


「ハッハー!  転送ゥ!!!!」


 光の粒子となって消えていく3人を見送る。


 真核は、手で持った瞬間に中身が直前1時間の記録ログを元に固定されてしまう。


 しかも転送を使ってしまうとその場に置き去りになり、ロスト扱いになってしまうのだ。


 第5エリアから第1エリアまで、ボスエリアの通常ゲートを通りながら、逆行して自らの足(物理)で蹴って運ぶしかない。


「僕も、行くか」


◇ 第5エリア 【第1の間:凍てつく八面】


 僕が合流地点に到着すると、ドドンパ、ジィサン、シロロ、そしてルナールが待っていた。


 ミツルマンは17時でログアウトの時間になり、ルナールと入れ替わったそうだ。

 ちなみにぽよんはアルケ内で配信中であるらしく、今日は不在である。


「お疲れ様です!」

ルナールが元気よく挨拶をする傍ら一人のジャイアンは文句を垂れ流していた


「めっちゃ疲れたんですけどーー! 

ドドンパ君、ケーキ10日分ね!私とまち子お姉さんなんかぽよん様のアルケ配信蹴って手伝ってるんだからぁぁ!」


 そう、僕の独断でこいつらを作戦に組み込んだせいで、趣味を邪魔してしまった。


 僕も少しケーキ代出してやるかと思いながら、肩身の狭そうなドドンパを見る。


「あ、はい。ご馳走させていただきます。……イオリ、お疲れ。討伐数1000超えですわ」


 笑顔でえげつない要求をするシロロに、ドドンパがげっそりとした顔で頷いていた。


 お前はそういう立ち位置だと、先ほど思った自らの罪悪感を棚に上げて話を進めた。


「ああ、お疲れ。すまないが、運ぶ前にここで少し作業をさせてくれ」


 僕はドドンパの足元に転がっている透明がかった真核に対し、スキルを発動する。


「【詳細観測ディープスキャン】」


 ——【Log】——

【観測ログ: 解析開始】

[対象:クリオライト・イーグルの真核]

・状態:未加工 / 待機状態(ドロップ時間12分前)

・種別:真核コア素材

 ————————


「ここからさらに、こいつの『目』の機能を引っこ抜く。


――【深淵の観測者スキル:深淵詳細観測アビス・ディープスキャン】」


 ——【Log】——

【System:対象ログの深層演算データを展開します】

▶︎ Target_Log:氷晶巨鳥の空間把握能力(3Dマッピング)

┗ [要因1]:氷晶石クリオライトの眼球レンズによる、屈折率1.33の光束受容と視覚処理。

┗ [要因2]:散布した微細な氷粒子を用いた反響定位エコーロケーションによる、吹雪空間内のミリ単位の絶対座標マッピング。

 ———————


(……なるほど。

 氷の反射光を独自のレンズで処理し、空間を立体的なワイヤーフレームとして認識しているのか。

 極限環境下における最強のセンサー(目)だな。

……貰っておくぞ)


 僕は空中に展開されたログパネルを操作し、必要なデータ領域だけを指先で指定し、【断崖写本杖クリフ・スクリプトペン】を構えスキルを発動した。


「……【記録保持レコード・リザーブ】」


 ——【System】——

 記録保持レコード・リザーブ

 選択対象:『氷粒子の反響定位(3Dマッピング)』

 環境ログを保存しました。

 ————————


「……よし。これで一番重要な『レンズ』のデータは確保した」


「ほっほっほ! 

 忙しいのぉ、君はいつも。だがワシも休憩を取ってはいたが、流石に疲れたのう」


「ジィサン。もしあれでしたら、今日はもう休んでもらっても構いませんが」


「うーむ、そうだな。あまり遅くなるとリアルで婆さんに怒られてしまうしの。

 イオリk君にバトンは渡す故、ワシは失礼するぞい」


「了解です、お疲れ様でした」


「ジィサンありがとう!!  このお詫びはまた何かで必ず!」


 ジィサンはニコッと笑ったあと、若者のようなウインクを残し、光の粒子となって転送ログアウトしていった。


「ふふっ、お茶目な人ですね♪」

「お爺ちゃん可愛いよね〜♪」


 女子二人はキャッキャしているが、僕は構わず本題を切り出した。


「シロロ、頼んでおいた『クーラーフード』は作っておいてくれたか」


「うん!  はい!」


 僕たちはそれぞれ、シロロから『ボロボロのフード』を加工したスリップダメージ対策用の『クーラーフード』を受け取った。


「第3エリアに入ったら被れ。……そういえば、3人分の真核はどうした?」


「なんかねー、追加エネミーの真核は1PTにつき1個しか落ちない仕様なんだって〜」


「特殊ユニークエネミーと同じ扱いなのか……。

 ドドンパ、みんなに礼を言っておけよ」


「ああ、本当に助かります!  あざます!」


 ドドンパは深々とお礼を言った後、真核の前に立ち、気合を入れるように足を構えた。


「おう!  至宝(真核)は蹴るものだぜ!」


 最初に僕が第1エリアで真核を蹴って運んだ時は、

「はああああああ!?」と叫んでドン引きしてたくせにな。

 見事な掌返しだ。


 そんな僕の呆れをよそに、彼はぐっと重心を落とし、顔を真っ赤にしながら軸足を深く踏み込んだ。


「見てろよ……オリャアアアアアアア!!」


 ドォォォォォンッ!!


 ドドンパの渾身の蹴りが炸裂し、凄まじい爆音が凍てつく氷の上を鳴らした。


 だが、その真核は美しい放物線を描いて飛んでいくことはなく、ツルツルの氷の地面を滑りながら、制御不能なストーンとなって明後日の方向へとすっ飛んでいった。


「うおっ、滑りすぎだろ!  待てコラァ!  どこ行ったんだよ!!」


(今度はカーリングか)


「……ふん。力みすぎだ、ガサツ者が。摩擦の少ない氷の上を滑らすのに、そんな馬鹿力いるわけないだろ」


 慌てて氷のフィールドをツルツルと滑りながら追いかけてゆく相棒の後ろ姿を、僕は深くため息をついて見送った。


「ドドンパくーーーん!  待ってぇー!」

 ルナールの背中もだが。


「キャー♡ 二人、いいカップルになりそうじゃない!?」


「どうだかな。ルナールも相当な曲者だからな」


「それもそうかっ!  あ、ねぇねぇ、初日のあのスライムさんの真核の時も、ドドンパ君ああやって彼方へ飛んでいってたってフゥちゃんから聞いたけど」


「まんまだ。オマージュでもして『俺エモい』とか一人で浸ってそうだな」


「あはっウケる〜!ほら、私たちも行くよー!待ってー!」


 初日から今日まで、数ヶ月しか経っていないのが驚きだな。

 これほどまでに濃密な時間を過ごしていると、随分と昔のことのように思えてくる。


「行くか」


◇ 第4エリア グレアマイン


 ドシンッ!!!!

 ドドドドドドンッ!


 第4エリアへと突入する。


 そこらかしこで、正規ギミックであるバイブロスライムの不快な振動と、上からランダムに降り注ぐ隕石エネミーの爆音が鳴り響いている。


「わーー、もう隕石イヤーー!!」


「ああああ!  飛びすぎたぁぁ!!!!」


「ドドンパ君待ってー!」


 相変わらずドドンパは真核のコントロールが絶望的に下手だ。


◇ 第3エリア ラーヴァシャロー


 ボコボコボコ……

 ボフンッ……!!


 第3エリアへ突入。


 過酷な火山地域のため、事前に配られた『クーラーフード』を被りながら溶岩地帯を進む。


「あ、カニさんだ〜!  喰らえ〜⭐︎ 」


宝飾武装化プリズム・アームズ】――星型の弾丸(スター・バレット)!!


 ドスッ!

  ギュルルルル……!


 ファンシーで可愛らしい発射音と共に、強固な装甲を持つはずの蟹系エネミー[マグマクラブ]の体に、無慈悲な星型の風穴が開く。


 そのシュールな光景を見ても、僕の心はもう一切の波立ちを覚えなくなっていた。


 僕の感覚も、このカオスな環境に順応して本当におかしくなってきたなと自嘲しながら、ドドンパ達の背中を追いかける。


◇ 第2エリア ミストヴェイル


 濃霧に包まれた第2エリア。


 前方を蹴りながら進んでいたドドンパが、背中越しに僕に声をかけてくる。


「なぁーイオリー。こうして第2エリアで真核蹴ってると、初日のこと思い出すよな。カオス・アトリエはここから始まったんだって」


「ねっ!  第2エリア自体は何回も来てるけど、真核蹴ってるとエモい!」


 シロロ、お前が言うのか。

 さっき僕の話に乗ってバカにして笑っていたろと思いながら、3人の会話を聞いていた。


「私も最初から皆さんと一緒にプレイしたかった……」


「今があるだろ!ルナールちゃん! 

 ……あ、やべ。待てェェェ、ここ霧で見えねぇのにぃぃ!」

「待ってー!!!」

「あははウケる〜!  待てーい⭐︎」


「はぁ……変わらん奴らだ」


 霧の向こうへ消えていく三人の影を追いかけながら、僕は小さく息を吐いた。


◇第1エリア エウレカ草原


 僕たちは2時間弱かけ、ようやく目的地の第1エリアに到着し、先行して準備を進めていたカイザーたちと合流した。


 道中、僕たちが半透明で光ったナニカ(真核)を蹴りながら大移動する様を他の冒険者に見られまくっていたが、もう掲示板で真核システムは広まっている訳で、そのうちどこでも見る光景になるはずだ。

 気にする必要はない。


「よし、着いたな。今から1時間だ。後は今日話した通りの記録設計ログデザインをやってくれ。

 都度指示はする」


 僕の言葉に、集まったメンバー全員が勢い良く返事をする。


 全く、カオスで疲れる連中だが……盤面をハックする手駒としては頼もしい限りだ。


「へっ、いよいよだな。俺の新しい力……頼んだぜ、先生」


 横に立つドドンパが、期待と緊張の混じった顔で笑う。

 

 音波と極端なステータスバフ操る独奏者ソロイストのルナール、そして円卓の主神バカと質量を操る赤い女神までが加わり、うちのクランの火力は完全にシステムの上限インフレを突破しつつある。

 

 だからこそ、このバケモノたちを死角のない安全圏から完璧に統率する『絶対的な目(指揮官)』が必要なのだ。


 僕は口角を上げながら答えた。


「ああ。僕の観測データと、お前の指揮。その二つを完璧に同期させる『正解』を、今からここに書き込む」


 僕は『星界の天球儀』を起動し、夜風の吹く断崖でふと物思いにふけった。


 あの日、【断崖写本杖クリフ・スクリプトペン】を作るために『壊れた双眼鏡』を手に取った時のことを心に浮かべながら。


(『エモい』ってやつか……フッ、僕も使ってるじゃないか)


 新たに物理法則と狂気が交差する、前代未聞のクラフト作業が、今始まる。


———

 そんな頃、ぽよんは『World(ワールド) of(・オブ) Arche(・アルケ)』内で配信をしながら、リスナー達とおやつを食べていた。


「ぽよ〜〜!配下共〜!ぽよんは大魔王になりたいのだ〜! 

どうやったらなれるのだ? 寝てたら大きくなれるのだ?」


『それなら、大魔神だろもうー』

『安定にIQ3で草すぎる』

『可愛いから許す』


…………。


———

 配下に散々言われながら、ムシャムシャとおやつを頬張るぽよんの手には、寝マカ状態のロン君が握られていた。


 不穏なシステムログが走っていることなど知らずに。

 着実に何かが進んでいた。


 ——【Root_System】——

[System Log: Background Process Activated]

▶︎ Target: Weapon_ID [Void_Macaron]

▶︎ Constructing the Vessel for Intervention... 38%... 39%... 40%...

第87話いかがだったでしょうか?


少し、第5話のオマージュが入っております。


そして、今回も最後に走った謎のログ。

85話のログを翻訳で解析デコードした方は何かお分かりになりましたでしょうか?


今回も興味がある方はお使いの端末での翻訳機能で解析デコードしてみてください。


・スマホ(iOS/Android):テキストを長押しして選択し、メニューから「翻訳」をタップ

・PC(Chrome/Edge等):テキストをマウスで選択し、「右クリック」して「日本語に翻訳」を選択


これが100%になった時。ロン君の身に何かが起きるかもしれません。

次回は記録設計ログデザインの全貌と完成一気にお見せします!!


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


〜次回予告〜

3/4【夜20時10分】に投稿ハック致します!


少しでも「エモいな」「早く完成見せろ!」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!


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