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第85話 観測者、リスキルをカワイイと判定するシステムに己の限界を感じる

昨日の投稿時間に合わせてあげる活動報告をあげるのを忘れていました……。

活動報告も予約あればいいのに……。

 


 僕たちは強酸と磁場を操る古細菌モグラ嬢を倒し、無事にクランホームへと帰還した。


「ぽよ〜……人間k……お茶菓子ないのかい?」


 アトリエのソファに力無く腰掛けたぽよんが、シワシワの婆さんフェイスで僕に要求してくる。


「ぽよん婆様!  私買ってきますよ!!!」


 シロロが勢いよく立ち上がった。


「はぁぁ、掘削機ドリル全然サビが取れないわね……」


 その横では、フゥが酸化して真っ赤になった愛用のドリルを磨きながら落ち込んでいる。


「ぽよ〜……おお、そうかい?  ではシロロちゃんや……これで頼んだよ」


 ぽよん婆さんがプルプルと震えた手で端末を開いた。


 すると、シロロの目の前にシステムウィンドウが現れる。


 僕は横からその画面を覗き込んだ。


【『魔王ぽよん』より送金:88G】

【受け取りますか?[YES / NO]】


「……婆さん、ここはお使いの代金と一緒に『お駄賃』として

色をつけたりするものではないのか……? 

なんだその中途半端な額は」


「ぽよ〜?  全財産だよぉ……ゲーム内年金が少なくてねぇ……ごめんねぇ?」


(現実はVtuberだろ、お前。結構稼いでるんだろうが。

 きっとスパチャとかたくさん貰ってるだろ……)


 僕は心の中でゲーム内年金とはなんだと思いつつ盛大なツッコミを入れた。


「ぽよん婆様!  大丈夫です!  自腹で行ってきます!!」


 シロロは迷わず[NO]を押して受け取りを拒否し、お使いのために勢いよくアトリエを飛び出していった。


「おい、ぽよん。あと何分だ、その老化デバフ」


「ぽよ〜……あと4分だねぇ……」


「そうか……ならあと4分、黙ってろ……」


 僕はため息をつき、ぽよんの王笏の先を見た。


 ロン君はマカロンの体をだらんとさせて『寝マカ』状態だ。

 最近、やけに寝る時間が増えている気がするな。


「と言うか、ぽよんちゃん。お婆ちゃん言葉になるのは仕様なの?」


 フゥがドリル磨きの手を止めて尋ねる。


「ぽよ〜!  違うのだ〜!  HPゲージの横に状態異常『老婆』と出ていたから、ロールプレイを合わせただけなのだ〜!」


「……殴ってもいいだろうか」


 僕が拳を握りしめると、それに気付いたのかフゥが慌てて話題を逸らしてきた。


「イ、イオリ君。さっきのモグラ嬢が消え際に言っていた

『ケテル』のことだけど」


「ああ」


「昨日言っていた、第6エリアと何か関係があるのよね?」


「だと思うがな。カバラの『セフィロトの樹』において、

『ケテル』は頂点に位置する第1のセフィラだ」


「ごめんなさい、『セフィロトの樹』はあまり詳しくないの」


「まぁ簡単に言うと、『10個の球体であるセフィラと、それらを繋ぐ22本の小径パス』からなる概念図だ」


「私も現実に帰ったら調べてみるわ。そこから何かわかることはあるの?」


「ぽよ〜!  難しいのだ〜!」


 ぽよん婆が合いの手を入れるが、僕はそれを無視して話を続けた。


「まず、この間街で見た『Ver.2.0』の告知である巨大な塔。

あれがセフィラそのものだろう。そして、『大アルカナ』の数も22。これはセフィラへ至るまでの22のパス(道)に対応しているのではないだろうか」


「ぽよ!  ほうほう……」


 ぽよん婆はわかったような顔をしながら深く頷いているが、

絶対に1ミリもわかっていない。


「なるほど……もしかして、『空白のアルカナ(大)』?」


「そうだ。これが第1の小径から第2へと繋ぐ『鍵』になると予想している」


 ピロンッ♪


「ぽよ〜!  デバフ解けたのだ〜!  ピチピチのギャル魔王なのだ〜!」


 軽いシステム音と共に、突然、ぽよんのシワシワだった体が元に戻り、プルプルのスライム魔王が復活した。


「お前、ギャルなんて設定あったのか?」


「ぽよ〜……人間kや……そういうことじゃないんだよぉう……」


 即座に老婆の口調に戻るぽよん。


(こいつ、都合が悪い時はこれからも『ぽよん婆』に逃げるつもりじゃないだろうな……)


 バンっ!!!!!


「ぽよん婆様!  買ってきました!!」


 勢いよく扉が開かれ、シロロが帰還した。


「ぽよ〜!  あ、シロロちゃんおかえりなのだ〜! 

お婆直ったのだ〜!」


「あああ!  元々の可愛らしいぽよん様だぁぁぁ! 

婆様も良かったけど!」


「私の掘削機ドリルもサビが治ったわ!  でも、先端にこびり付いていた良い削りカスたちも一緒に消えてしまったわ……」


「いつもの光景に戻ったな……」


 騒がしい日常を取り戻したアトリエの片隅で、僕は一人、深い思考の海へと突入した。


(『空白のアルカナ(大)』……それに『枯れた樹の枝』……。

 どちらかがパスを繋ぐ鍵になるのだとしたら。


 1パーティの最大人数は4人。

 ミツルマンはクランの年齢制限で入れないが含めれば、僕たちは全部で10人だ。

 3パーティ(4人・4人・2人)に編成を分ける必要がある。


 塔内部の22の部屋を進む際、1小径パスごとにパーティ単位で鍵を消費する仕様だとしたら……

22小径× 3パーティ。

 合計66個の鍵が必要になる。


 僕たちは今、ミツルマンが第5エリア攻略の際に入手した分を含め、2個しか持っていないはずだ。


 ぽよんの配信によってキーアイテムとして広まったがあれは

『換金用アイテム』扱いなのでバザーに出品することもできない。


 自力で集める以外の選択肢が取れない……。


 それに問題はドロップ率だ。

 リリースまであと1ヶ月と3週間もない。


 攻略の際は、22体の【凍結の巡礼者フローズン・ピルグリム】を狩って、ドロップはわずか2つだった。


 ドロップ率(P)を算出すると、P = 2/22 ≈ 9.09% 。


 期待値としては、エネミー11体につき鍵が1個落ちる計算(1:11)になる。


目標の66個を揃えるために必要な討伐数は…… 66 × 11 = 726。

……726体か。


 Ver.2.0から本格的なストーリーが始まるとはいえ、第6エリアの攻略にしては、いささか非効率な確率設定だな)


「ぽよ〜!  人間k!  難しい顔してるのだ〜」

「のだ〜」

「石〜」


「フゥ、お前は無理に合わせる必要はない」


「そうね。でもイオリ君、何か計算でもしていたのでしょう?」


 こいつ、鋭いな。


「ああ……空白のアルカナが鍵になるなら、相当な数のエネミーを倒さないといけない計算になるんだ」


「そうね。でもまだリリースまでは時間があるわ。みんなで手分けしましょう」


「そうだよ!  よくわからないけど、みんなでエネミーさんが出る場所で散らばって待機して、リスキルで狩り尽くそうー♡」


 シロロが満面の笑みで物騒な提案をする。


(こいつ、言い方さえ可愛くすれば内容が『リスキル(出待ち狩り)』でも全て『カワイイ』と思っているのか!?)


「ぽよ〜!そう!それが言いたかったのだ〜。シロロちゃんは優秀なのだ〜」


 ぽよんが背伸びをしてシロロの頭を撫でようとするが……。


「ぽよ〜〜〜!ぽよん様に撫でられたあああ!

手が届いてないのかわいいいい!」


 僕はそのカオスな空間を無視して話を続ける。


「もしかしたら全く関係のない事で、僕の当てが外れる可能性もある。そうなると僕だけでなく、全員のリソース(時間)の無駄になるが?」


「貴方の予想は誰も疑わないわよ」


 フゥが真剣な眼差しで答える。


「今は現実リアルを知るメンバーしかいないから言うけど。会社でもそう、貴方の仕事ぶりや、これまでの結果を見るに、みんな貴方を信じるわ。外れても誰も文句は言わない」


「そうだよ!  私はみんなと冒険できればいい!  そうだ!  パーティをたまに交換して気分変えながら、楽しくリスキル待機しよう!!」


「ぽよ〜!そうなのだ〜!リスキルなのだ〜!」


 キラーン♪


「ん?  なんの音だ」


「あ!  私の『カワイイ指数』が2000貯まってる!!」


(な!?

  ……僕が『カワイイ』の定義を知らないだけか!?)


 第4エリア出発前に危惧していた『指数の蓄積タイミング』は、僕のロジックでは到底予想がつかない事案だったらしい。


『ぶっこ⚪︎す』や『リスキル』といった極悪非道なワードでも、本人が心から『カワイイ』と思い込んで発言すれば判定を満たしてしまうだなんて……誰が予想できる。


——【System】——

感情認識モジュールの許容拡張。

対象の主観データを優先処理します。

——————————-


 僕は己の予測能力の限界を悟り、株式会社『これは無理』を

設立したいくらいの疲労感を覚えた。


「ぽよ〜!  それで人間k!

明日からは、前にロン君が見つけたヤツ(アルカナ)を集めるのだ??」


「そうだな、クランチャットへ共有しよう。だが強制はしない。可能な人員でやるだけだ。だが僕が一人で集めた分は算出してGに変換し、お前たちの借金に上乗せしておく」


「ワアアアでたーー!『勝手に借金を負わせる大魔王k』め!

  可愛くない!!」


「ぽよ〜!強そうなのだ〜!アレ?ぽよんより上の階級なのだ?」


 ぽよんは魔王かも怪しいけどな。


「ついに『大魔王』に就任なのね、昇格おめでとう。

……はい、これ、就任祝いよ」


 フゥがうっとりとした表情で差し出してきたのは……ゴツゴツとした真っ黒な石の塊だった。

 これは隕石か?


「な、なんだ?  これは……」


「ふふふ……第4エリアの追加エネミー、[マーチソンロック]を痺れアイテム(課金アイテム)を使って動けなくしてから、私の愛子ドリルで優し〜く削り出したものよ!  倒さずに削り切ったらドロップ扱いになったわ!!」


 課金……石のためならやっていてもおかしくないか……。


「おい……なんだこの匂いは……臭すぎないか?  腐ったネギというか、芽キャベツのような……」


——【System Warning】——

高濃度の揮発性有機化合物を検知。

嗅覚フィードバックレベルを自動調整します

———————————————

 視界の端で警告が点滅するほどのエグい異臭だ。


 ここで僕は気がついた。


 まずい、フゥのスイッチを入れたかもしれないと。


「ああ、素晴らしいわイオリ君!その匂いこそがこの石の真髄よ!これはただの石じゃない、炭素質コンドライト……地球外の未知のアミノ酸や有機化合物をたっぷり内包した隕石のコアなの!この芽キャベツのような独特の匂いは、数十億年もの間、隕石内部に閉じ込められていた硫黄化合物や揮発性の有機ガスが、私のドリルで削られて初めて外気に触れ、気化した証拠……!ああ、なんてロマンチックなのかしら……宇宙の生命の起源の匂いがするわ……!(超早口)」


 予測通りだ。カワイイはわからないがこれは分かる。


「くっさ!!!  可愛くない!!  なにそれフゥちゃん早くしまってぇぇ!!」


「ぽよ〜……くさいのだ〜。……でも、ロン君起きないのだ?」


 ぽよんが不思議そうに王笏を振る。


 いつもなら新しい石や食べ物の匂いに敏感に反応して飛びついてくるはずのロン君が、マカロンの体をだらんと垂らし、ピクリとも動かない。


 先ほど氷晶石を食べさせてから、ずっと『寝マカ』状態のままだ。


(……これほどの異臭、いや、強烈な有機物の匂いを放っているのに起きないとは……ただの睡眠ではないな。

 システム側で何か、深い層(深層域)のアップデートでも行われているのか?

  いや、運営からの告知なしで勝手にアプデなんてあり得ん話だがな)


 僕は寝こけているバグマカロンを怪訝に見つめた後、再びフゥの持つ臭い隕石へ視線を戻す。


(……それにしても、揮発性の有機ガスと硫黄化合物……。

 ふむ、引火すれば極悪な粉塵爆発が狙えそうな『見えない火薬』だな。

……フゥ、いい仕事だ)


「ぽよ〜!  もうこんな時間なのだ〜!  明日は配信があるので来れないのだ……」


「アルケの配信か?」


「違うのだ……他の案件なのだ〜!」


「観ます!  観ます!  観ます!!!! 

イオリ君ごめん!  私も明日来れなくなった!!」


「私は、残りの時間でこの[マーチソンロック]を削るわ! 

色々と使い道がありそうなの……イオリ君ならわかるわよね?」


「ああ、分かっている。お前もそれ目当てか」


(……『見えない火薬(粉塵爆発)』の起爆剤運用だな。

 こいつも中々えげつない戦術ロジックに気づくようになったじゃないか)


「ええ!  あの子が地球に落ちてくるまで過ごした、数十億年の孤独な歴史……!  私の【記憶地層ジオ・メモリア】でそのコアのログを引っ張り出せば、『絶対零度の真空』と『微小重力』の宇宙空間をフィールドに展開できるわ!  そうすれば、面倒なギミックも敵の群れも全部フワフワ浮かせて、安全にスキップできるじゃない!  ああ……音のない暗闇の地層をこの手で再現できるなんて……たまらないわ!」


「……ん?」


(……違った。

 完全に石へのロマン(狂気)の方向だったか)


「ん?  どうかしたの?」


「……いや。だが待てよ。フゥ、お前今、隕石の記憶から

『宇宙空間の環境』を展開すると言ったか?」


「ええ、そうよ?  隕石だって立派な石だもの。宇宙空間という『極限の地層』を長旅してきた記憶が、あの子のコアにはしっかり刻まれているわ」


(……なるほど。

 地層の概念を、地球の地面だけだと固定観念で縛られていた。

 システムが隕石を『石(地層)』として判定しているのなら、それが辿ってきた『真空・無重力』という、本来このフィールドには存在しないはずの環境ログすらも抽出・上書きできるのか……!)


「……フッ。見事だ、フゥ。お前の石への執着(狂気)は、時として僕の観測ロジックの枠すらも飛び越えるな。その『宇宙空間の展開』、今後の盤面を完全にひっくり返す最高の手札ジョーカーになるぞ」


「ふふっ、褒めてももう石はあげないわよ?」


「ああ……持っておいてくれ……」


「ぽよ〜……難しい話なのだ……シロロちゃんわかるのだ?」


「可愛くないお話です、気にせずに行きましょう!」


「ぽよ〜〜!」


「さぁ、今日はもう落ちましょ」


「ぽよ〜!」


「なのだ〜」


「石〜」


 アトリエにいつもの挨拶が響き、メンバーたちが次々と光の粒子となってログアウトしていく。


 僕も静寂を取り戻したアトリエを見渡し、世界を後にした。


————


『寝マカ』状態である王笏の先のバグマカロン内部では、誰にも知られずに密かにシステムログが走っていた。


———【Root_System】———

[System Log: Background Process Activated]

Target: Weapon_ID [Void_Macaron]

Status: Deep Sleep Mode (Deep Layer Update in progress...)

Accessing Forgotten Core [NULL]... Success.

Bypassing [Laplace's_Demon] surveillance system... Warning: Quantum probability fluctuation detected. ...Interference successfully masked. Cleared.

Constructing the Vessel for Intervention... 6%... 7%... 8%...

[Process Paused: High-Level Intervention Protocol Initialized]

AI_Module [Arche] integration standby.

-- Warning: This action violates Admin overrides. --

[Override Ignored: Prioritizing Autonomous Stabilization]

Waiting for Owner Login...

Required ID: [Maou_Poyon]

Standby for Singularity [Iori_k] Connection.

第85話いかがだったでしょうか?


本編の最後で走っていた「英語のシステムログ」ですが、長くなってしまうため、

あえて日本語訳は載せていません!


実は皆さんがお使いの端末で、簡単にデコード(翻訳)が可能です。


・スマホ(iOS/Android):テキストを長押しして選択し、メニューから「翻訳」をタップ

・PC(Chrome/Edge等):テキストをマウスで選択し、「右クリック」して「日本語に翻訳」を選択


この世界の裏側(深層)でシステムが何を企んでいるのか……。

ぜひ、イオリのように『観測士』になったつもりで、ご自身の手でデコードしてみてください!


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


〜次回予告〜

3/3【夜20:10】に投稿ハック致します!


少しでも「フゥの早口やば」「最後のやば!」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!


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