第79話:観測者、黒歴史の儀式(スリスリ)を強制され、枯れた長老の元へ行く
イオリの黒歴史回です(3回目)
◇ 混沌工房
オカマ兎を倒した翌日の夜。
ログインした僕の足元には、床に突っ伏して大声で泣きじゃくるぽよんの姿があった。
「ぽよォォォォォォ〜……ぽよォォォォォォ〜……
人間kェェェン……」
「ぽ、ぽよん……なんだ……」
本来の僕であれば、「うるさい」と蹴っ飛ばして
次なる追加エネミーの調査に行くところだったが、今日の彼女の様子は流石に異常だった。
そして……。
「なんでえええ!! 可愛くない可愛くない!!
運営のバカ! あほ! はげ!」
「なんて事ですかっ!! 許しませんわ運営っ!!
ああ、ぽよん様……御労しや……」
なぜか、シロロとまち子までが運営(神)に対してガチギレしているようだった。
「ぽよォォォォォォ〜……運営のアホォォォ〜!
もう案件受けないのだ〜〜〜!」
泣き喚くぽよんを見ていると、ある異変に気づく。
「ん? ロン君が静かだな……」
この泣きじゃくるぽよんを見て心配しないマカロンではないはずだ。(?)
視線をやると、ロン君はどこから取り出したか知らないが、
真っピンクのマカロン型のベッドに寝かされ、ご丁寧にマカロン柄の布団まで被せられて横たわっていた。
おかしい。
ロン君はシステム防壁すら喰い破る『完全自律型兵器』なはずだが。
ピクリとも動いていない。
そして、もう一つ気づいたことがある。
ぽよんを始め、シロロ、まち子のアバターの表面に、
何か『白い粉』の様なものが薄っすらと付着していたのだ。
「ぽよん――いや、まち子。説明してくれ。それとお前らの身体に付着しているその白い粉はどうした?」
僕は泣き喚く二人を避け、比較的まともに話が通じそうなまち子に問いかけた。
「ええ、実は……ぽよん様に付き従って、
第2エリアの『霧隠泉』に行っていたんですの」
霧隠泉。
ハイスライムが大量に生息し、スライム長老が鎮座するあの隠しエリアか。
……まち子の盾を【完全強化】しようとしたのか?!
どうなるんだ……。
「試練か?」
「いいえ。私の愛の守りは『これ以上愛を大きく出来ません』だそうで……いきなりスライム長老の場所にだけ飛ばされたんですの」
それはそうだな……しかしシステム……。
シロロの鞄の時も
『備考:能力値限界到達(これ以上可愛く出来ません)』
とか表示してたよな……。システムメッセージ、好き勝手しすぎてないか……?
「それで?」
僕はまち子から、現地で起きた詳しい話を聞き出した。
——【要点】——
・霧隠泉に入ると、泉と霧で覆われたエリアのはずなのに、完全に『荒野化』してカラカラに乾燥していた。
・うじゃうじゃ居たスライム達が、水分を失って干からびた
『石ころ』になっていた。
・スライム長老は息はあったが、通常スライムサイズにまで
萎んでしまっており、話しかけると『偏屈者を連れてきなさい』と言われた。
(※前回、僕が訪れた際に言われた)
・ロン君が急に動かなくなって、
Systemから『スリープモードへの移行』が告げられた。
・慌てて帰還し、今に至る。
———————
「……なるほど。少し待て。ぽよんの詳細を見るぞ」
そう僕が言うと、ぽよんが涙目で「えっちなのだぁ……」とベタなセリフを吐いてきたので、盛大に舌打ちしておいた。
——【Log】——
「【詳細観測】」
【観測ログ: 解析開始】
[対象:魔王ぽよん]
・状態:スライムの姫魔王
(※水分量低下による軽度の乾燥状態を検知)
・付着物:未知の白色粉末(高純度の石灰成分)
——【Log】——
(……石灰?
なぜあの湿度の高いエリアにこんなものが。
詳しく見る必要があるな……)
ぽよんまで少し乾燥しているのか。
僕はぽよんの衣服に付着したその『白い粉末のログ』を選択し、システムの深淵(対象物の化学的特性)まで覗き込む。
「――【深淵の観測者スキル:深淵詳細観測】」
——【Log】——
【System:対象ログの深層演算データを展開します】
▶︎ Target_Log:付着物『白色粉末』の構成物質および環境影響
┗ [要因1]:酸化カルシウム(生石灰)による極大の吸水作用
┗ [要因2]:粘体生物の保有水分に対する強制脱水および硬化(石灰化)現象
——【Log】——
(……なるほど。
ロン君がフリーズし、スライムたちが路傍の石に成り下がった理由が分かった)
ログの演算結果を見て、僕は静かに眼鏡を押し上げた。
「この白い粉の正体は『生石灰』だ。
周囲の水分を極限まで奪い取る性質を持っている」
水分と粘度で構成されているスライム族にとって、
この粉末は触れるだけで自身の構成要素を削り取られる、まさに『天敵(猛毒)』というわけだ。
以前、フゥが『石灰岩』を食べさせようとして
ブチギレたロン君がドドンパを殴っていたのがいい例だな。
「石灰ですの……なるほどですわ……」
「ぽよん様の涙は全配下の涙ー!
運営めー! ぶっ⚪︎してやるー!」
シロロ、お前今『可愛くない言葉』を使ったことに気づいているのか?
伏字になっていないぞ。
すると、シロロとまち子がスッと目を合わせて、深く頷き合った。
なんだ。
何か嫌な質量の圧を感じる。
ガシッ!!
ドシッッッッッッッ!!
シロロに右腕、まち子に左腕をガッチリと掴まれる。
(……!?
……シロロも生産職のくせに力が強いが……
まち子はもうアームレスリングの世界王者クラスだ)
まち子は巨大な体に、美女アバターだ。
その左側の力(STR)がやけに異常にとてつもなく強い。
指が僕の肉に食い込み、中の骨がミシミシと悲鳴を上げている(気がする)。
「お、おい! お前らやめろ!!」
「イオリ君! ぽよん様の涙は!?」
「涙は!?」
「……知らん」
グギィィィ
グギギギギィィィィ
「ぜ、全配下の涙だ……ッ!」
ヒュンっっ……。
僕が答えた瞬間、二人の拘束力がフッと弱まる。
僕みたいな非力な『観測士』が逆らえる質量(重さ)と正義ではなかったのだ。
僕はぽよん軍配下。
僕はぽよん軍配下。
僕はぽよん軍配下。
(自己暗示)
「「ぽよ〜〜!」」
更に強引な配下が加わったことで、ぽよん軍の勢いは止まることを知らない。
ぽよんが涙を拭き(インベントリから出したショートケーキで)、クリームでベトベトになった顔で僕に向き直る。
そして、両腕を腰に当てて、偉そうにふんぞり返って喋り始めた。
「ぽよ〜〜〜! 人間k!
今こそ魔王軍参謀として、知恵とおやつを寄越すのだ〜〜!」
「「のだ〜〜!」」
知恵は分かるが、この深刻な状況でおやつは諦めろよ。
あと、まずはそのベトベトの顔を拭け。
僕はため息まじりに答えた。
「仕方がない。ロン君はすでにウチの重要な戦力兵装だ。
あいつが動かなくては困る」
「ぽよ〜〜〜! やったのだ〜〜!」
「「ぽよ〜〜〜!」」
配下は「ぽよ〜」と言うだけで会話が成り立つらしい。
カルト宗教かここは。
ぽよんが、布団の中で横たわる(?)ロン君に優しく声をかける。
「ぽよォォ……ロン君、ここで待ってるなのだ〜……すぐに人間kがなんとかするのだ〜……」
その小さな背中はいつも頼りないが、今日は輪をかけてもっと頼りなく見えた。
「……小さいな」
僕はポツリと呟き、ため息をついた。
◇ 第2エリア ミストヴェイル
僕たちは、霧隠泉に向かう為、ミストヴェイルに来ていた。
僕は道中で思い出してしまう。
隠しエリアに行く為にはアレをしないといけない事を……。
「ぽよん。スライムが石になっているなら入場の『あの儀式』はどうなっている?」
そうだ。僕はかつてあそこで、人としての尊厳を削られる屈辱を味わった。
——【回想Log1】——
◇1回目の霧隠泉◇
「……い、いい子……だ(棒読み)」
僕は死んだ魚のような目で、プルプル震えるスライムの体を撫回した。
「……素晴らしい粘度だ。水分量も……適切だ(白目)」
——【回想Log2】——
◇2回目の霧隠泉◇
僕は覚悟を決めて、一匹のハイスライムに近づく。
眼鏡を外し、顔を寄せる。
「……素晴らしい、透過率だ。君の体内の水分循環ロジックは、どんなスパコンよりも美しい……」
すりすり。
——【黒歴史確定】——
「お外のハイスライム供は無事だったのだ〜〜!」
ぽよんが無邪気に答える。
「……通常エリアのスライムは無事……と言うことは?」
僕の背中に、ネバっとした冷や汗が流れ落ちるのを感じた。
※気のせいです
「もちろんやるのだ〜!」
ぽよんが鬱陶しく答えると、配下も続けて言葉を吐いた。
「当然なのだ〜」
「ぽよ〜」
僕は無言で踵を返そうとした。
だが、体が言う事を聞かない。
両脇には、赤い鎧を着た破壊の女神と、カワイイジャイアンがガッチリと腕を組んで立ち塞がっていた。
「仲間ですわよね?」
「イオリ君は可愛くないけど仲間! そうだよーまち子お姉さん!」
こいつら、絶対に
【お友達スキル:仲間の定義書き換え】を発動している。
「仲間」と言う言葉の定義を根底から考えさせられる、凶悪な絶対に抗えない連行スキルだ。
※そんなスキルは存在しません
冷静に分析した僕の耳に、今起きている事象(脅迫)を再確認させられる音が響く。
グギィィィ
グギギギギィィィィ
「……無理だな」
ズズズズズズ……。
僕は覚悟を決めた。
スライムは仲間。
スライムは仲間。
スライムは仲間。
(自己暗示)
こうして、僕は正式に『ぽよん軍配下』に成り下がった。
僕の『プニプニ(調査)観測』は、屈辱の『プルプル(愛撫)観測』へと強制的に移行したのだ。
◇
「ものども〜! 整列するのだ〜〜‼︎」
泉の入り口で、彼女がロン君生成前に使っていた
『ハートの王笏』を天高く振りかざす。
すると——。
プルプル……!
プルプル……!
辺りにいた[ハイスライム]たちが、
ぽよんの号令に従って一斉に集まってくる。
そして、いつもの光景が始まった。
「ううぅ! お前達! 長老はぽよんが助けるのだぁぁぁ〜」
「待ってってね〜〜〜なんとかするぽよ〜」
「あなた達の未来は私が守りますわ〜〜」
通常エリアにいるスライム共は中の事情と連携しているのか……スライムの意識共有か?
分析している場合じゃないなと思い直し、スライムを見やる。
「………や、やるぞ……」
僕は一番近くにいた、悲しそうに震えるプルプルのハイスライムに、自らの頬を擦り寄せながらささやいた。
——【イオリ呪文Log】——
「……震えるな。君たちの浸透圧と内部の水分保持力は、
今も完璧な平衡状態を保っている……美しい透過率だ。」
「奥の泉で起きている異常な脱水現象は、単なる局所的な環境バグに過ぎない。」
「僕が触媒となって、あの高反応な不純物(石灰)を中和し、泉の恒常性を正常化してこよう。」
「……だから君たちはここで、その完璧な水分量を維持して待機していてくれ……(白目)」
——【頑張ったLog】——
「ええぇ……同情してるのは分かるけど、慰め方のワードセンスが可愛くなさすぎる……! なに恒常性って!」
「ぽよ……人間k、顔が引きつってるのだ。でも、スライム達ちょっと安心してるぽよ!」
「さすがマスターイオリ! 涙の代わりに知性で語りかけ、
敵の排除を誓うなんて、クールですわぁ!」
「う、うるさいぞお前ら。ほら、この後光るのだろう」
僕が顔を離してそう言うと、スライム達の心(?)から溢れた無数の光の粒子が、空中でプルプルと集まり、一つの巨大な光へと結合されていく。
(……まるで『ボース=アインシュタイン凝縮』だな)
僕はその幻想的な現象を前に、冷静に思考を巡らせる。
極限状態において、複数の粒子が個別の振る舞いをやめ、
全体で一つの巨大な『波(エネルギー体)』として振る舞い始める物理現象。
スライム達の放つ光の雫は、空中で互いの境界線を溶かし合い、一つの巨大で純粋なエネルギーの塊へと昇華されていったのだ。
「わぁぁっ……! みんなの心が一つになったよ……!」
「ぽよ! スライムたちの怒りのパワーなのだ!」
「まぁ……なんて美しい光景だこと……!」
(……違う。
あれは相転移によるエネルギーの極大化だ)
感動する女子達と、僕の網膜に映る現象の演算ロジックとの間には、果てしない温度差があった。
だが、これで進入の条件は満たしたはずだ。
「さぁ、行くぞ。この頬の水分が乾く前にな」
やがて大きくなった光が収束し、目を開けると、
僕たちは『あの地』へ立っていた。
◇ 霧隠泉
サーー…………。
僕は、変わり果てたこの地の光景に戦慄した。
辺りに立ち込めていたはずの幻想的な霧はなく、茶色にひび割れた大地と、完全に枯れ果てた泉の跡があった。
奥の櫓には、いつもならあのダンディな、まるで大塚⚪︎夫ボイスを思わせる渋い声の持ち主[スライム長老]がいるはずだったが。
よく見ると、恐ろしく縮こまり、椅子(?)である切り株の上にポツンと座っている小さな塊が見えた。
元々長老が大きいので切り株もかなりのサイズなのだが……
今はほとんどが余白になっている。
(これは……そんじょそこらの通常エネミーの仕業じゃないな)
僕は確信した。
この規模の環境破壊、間違いなくユニーククエストだな。
僕たちは、やけに小さくなったスライム長老の元へと歩み寄った。
『……よ……よく来た…偏屈の者よ……姫…よく来たな……』
かつてのダンディで重厚な声は、水気を失い、しわくちゃに掠れていた。
「スライム爺さんんんん! 大丈夫なのだぁぁぁ〜………??」
ぽよんが駆け寄る。
ぽよんは度々ここに来ては、スライム達と交流をしている。
長老も彼女を孫の様に扱っているのを僕は知っている。
『ヒュルル……次期に……枯れて……しまうだろう……
全スライムの長として……最後まで……』
「長老。スライムの惨状は聞いた。僕を呼んだそうだが」
『そうだ……偏屈の者よ……頼みが……ある……この地の渇きを……』
すると、ぽよんの目の前に紫色のウィンドウが現れた。
「ぽ!? ぽよ〜〜〜! 見てくれなのだ〜〜!」
———
【ユニーククエスト:スライム長老の嘆願】
[依頼主] スライム長老(極小サイズ・乾燥状態)
「ヒュルル……姫よ。我らの潤いが、何者かに奪われた……」
「あの白き粉は、我ら粘体族の命を削る毒……」
「頼む、偏屈者よ」
「姫と朋友たちと共に、あの『白き芸術家』を打ち倒せ」
「泉に潤いを取り戻しておくれ……」
[受注条件]
・受注者のスライム討伐数ゼロ
・スライム長老との親和度100万
・Ver.2.0解放直前
[特殊条件]
・スライム長老認定者[偏屈者]の参加
[達成条件]
・エリアボス『白亜の彫刻家』の撃破と、泉の浄化。
[報酬]
・10万G / ボスドロップ『水霊の雫石』[武器専用パーツ]×1
———
システムの提示したクエスト内容が滅茶苦茶すぎる。
特殊条件が完全に僕(偏屈者)指名だ。
あと、親和度100万とはなんだ。
ぽよんは一体どれだけここに来ているんだ。
いや、そんなことはどうでもいい。
(……武器専用パーツだと?
なぜアクセサリではなく武器用なんだ)
僕は紫色のクエストウィンドウに表示された報酬テキストを睨みつけ、脳内でその仕様を高速で演算する。
「――なるほど。システムはロン君を『武器』として判定しているのか。つまりこの『水霊の雫石』は、ファンタジーな名前をしているが、要するに【自律型水分供給モジュール】だ」
大気中の魔力から水分を生成し、対象の武器に持続的な潤いを与える拡張パーツ。
このドロップ品をフリーズしたスライム(最強の矛)に組み込めば、強制的に水和状態を維持し、極度の乾燥下でもスライムの恒常性を保つことができるはずだ。
「ぽよん。お前の最強の矛を再起動させる方法が分かったぞ」
「ぽよ!? 本当なのだ!?」
「ああ。この報酬の石を、ロン君のコアに直結するんだ。
これは単なる魔法石ではなく、大気中のエーテルを触媒にして
無限に水分子を生成し、武器の表面に恒久的な水和層を構築する【無限水和機構】として機能する。
これを組み込めば、ロン君の構成データは常に適切な粘弾性と
水分量に固定され、外部からのいかなる乾燥デバフや
石灰の吸水作用も完全に無効化する『対乾燥装甲』の完成だ」
「ぽよ……? よく分からないけど、ロン君がずっとプルプルのままってことなのだ?」
「……ああ、そうだ」
(最初からそう言えばよかったな)
僕は自分の無駄な長広舌に呆れつつ、枯れた泉の奥底から漂ってくる『白い粉塵(エネミーの気配)』へと冷たい視線を向けた。
「待っていろ、ぽよん。
『白き芸術家』とやらを解析し、君の兵装を元通りにしてやる」
第79話いかがだったでしょうか?
またもや、スライム頬擦り(スリスリ)をさせられてしまうイオリ。
19話、36話でもさせられていた回想をログとして出してしまいました。(笑)
次回は『白亜の芸術家』とぶつかります。
ロン君の水分を取り戻してくれイオリ!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
2/28 【夜20:10】に投稿致します!
少しでも「イオリの腕が心配」「また来た頬擦り」と思っていただけたら、
ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!




