第77話:観測者、魔法反射の壁を物理で砕き、極彩色のオカマ兎に胃を痛める
◇ エウレカ草原 ハズレの洞窟
「トオッ! トオッ! トオッ!!」
カイザーが神話級のステップを踏むたびに、暗闇だった洞窟が見事に照らし出されていく。
彼が凄まじいスピードで壁や天井を蹴り上げる軌跡には、
まばゆい光の足跡(残滓)が残り、僕たちの視界を確保してくれていた。
「……うちのクランは、なぜこうも『物理的な照明』が多くなるんだ。」
ピカピカ光るシロロの魔法といい、
自らミラーボールと化すドドンパといい、はぁ……。
「わー、すごいです!
……ステップの接地時間は0.1秒、周波数は3,200Hzをキープしてます…! BPMは心拍に合わせて144!」
隣を歩くルナールが、目をキラキラと輝かせながらカイザーの足音を聞き分けている。
「一歩ごとに『光』という名の高周波が、この不協和音な洞窟を調和していく……
完璧な旋律……オーディンってすごい!」
「能力の無駄使いにも程があるな」
僕が淡々と事実を突っ込むと、ルナールはビシッとこちらを指差した。
「素晴らしい!まるで水晶発振器並みの正確なピッチ(高音)です!
イオリさんの冷たい分析、1Hzの狂いもありませんねっ!!」
「……」
僕は頭を抱えそうになった。
フゥ2世の誕生か。石オタクに続いて音響オタク……。
僕の知識量でこの両方の狂気をカバーして会話するのは、少々厳しい気がするな……。
「ハッハー! イオリk! 行き止まりダー!!」
カイザーの叫びを聞いた後、洞窟の奥深くでひどく鈍い音がした。
ドンッッッッ!!!
ドサッ……。
僕とルナールはカイザーの突っ込んだ行き止まりの場所まで近寄った。
主神オーディンは壁へめり込んでいた。
『*ッ*ー! ***k!********!!』
(※「ハッハー! イオリk! 引キ抜いテくレ!!」)
……こいつ、衝突好きだな。
前回は僕が用意した『残滓の壁』に自分から激突して死んでいったし、今回もこれだ。
どうやらあいつの根源的な狂気は『衝突』らしい。
……違うか。
ただ単にスピードを制御できていないだけ(バカ)だな。
「ええ! カイザーさん大丈夫ですかー???」
壁にめり込んだままのカイザーは、親指を立てた。
カイザーが壁に刺さったまま、バタバタと手足を動かして要求してくる。
「……チッ」
僕は盛大な舌打ちをして、カイザーの左腕を掴んだ。
「ルナール。そっちの手を持ってくれ。引っ張るぞ」
「はいっ! よいしょっと……!」
ルナールがカイザーの右腕をしっかりと握る。
お互いに頷き合い、タイミングを合わせる。
「いくぞ。……3、2、1」
ズボォォンッ!!
岩壁から大根を引き抜くような鈍い音が響く。
そして、カイザーの体が壁から抜けたのと完全に同時――僕とルナールは、パッと手を離した。
「オォォッ!?」
支えを失い、勢い余ったカイザーは、そのまま後方へと綺麗に吹っ飛んでいき、洞窟の硬い地面を派手に転がった。
「ヒドいじゃナイカー!!」
ナイカァァー……!
ナイカァァー……!
カイザーの悲痛な叫びが洞窟の中でこだました。
「カイザーさん、気をつけてくださいね……。でも蛍光灯ご苦労様でしたっ!」
「ハッハ! 心配と礼ニハ及ばナイ! いつもの事ダ!」
親指を突き立て歯を見せてくるカイザーにルナールが狂気を示した。
「そうですか……!! でも今の『ドンッ』
……400Hz付近の減衰が少し早かったです……。
次は、もう少し頭蓋骨を響かせるイメージでお願いしますっ!」
「フッ!相変わらず変ワッタ事を言うんダナ!フェンサー妹ヨ!!」
噛み合っているようで全く噛み合っていない二人の会話。
ルナールよ。
頭蓋骨を響かせるイメージとはなんだ。
死ぬぞ。
(……ドドンパの奴、実は結構大変な変数(地雷)を掴まされたんじゃないか……?)
僕は親友の週末のデートの安否を少しだけ憂いつつ、本題へと切り込んだ。
「カイザー。お前が先行して走っていた道中、エネミーがここまで一匹もいなかったが……何も見なかったのか?」
「フム! 高速デ移動してイタし、先は暗いノデ良く見てイナかッタ!!」
……照明係が前を見ていないなら、一体誰が道中を観測するんだ。
「確かに変です……」
ルナールが、急に真剣な顔つきになって耳を澄ませた。
「影系エネミー特有の『衣擦れのような高周波』が微かに聞こえるんですけどね……完全にカットオフされています。まるでこの空間の音を、まるごと『無音』にしたみたいですっ!!」
絶対音感を持つ彼女の言葉に、僕の思考が研ぎ澄まされていく。
やはり、ただの行き止まりの洞窟じゃない。
僕は彼が先ほどまでめり込んでいた、壁の「凹み」に視線を落とした。
「……ん?」
違和感がある。
カイザーの頭蓋骨が削り取った壁の断面。
そこだけ、周囲の天然の岩肌とは材質が全く異なっているように見えた。
僕はすかさず視線を鋭くし、スキルを発動する。
——————
「【詳細観測】」
【対象: 行き止まりの岩壁(破損箇所)】
・表層材質:エウレカ石灰岩(環境偽装)
・内部構造:高密度魔力結晶体(人工物)
・付与術式:完全魔法反射
・物理硬度:モース硬度15相当(既存鉱石の規格外)
・構造強度:S+(物理破壊耐性:極大)
・固有振動数:1,420Hz(安定状態)
・状態:規格外の物理的質量(頭突き)によりコーティングが一部破損。
——————
(……なるほど。そういうことか)
物理硬度15……ダイヤモンドを遥かに凌駕する数値か。
おまけに構造強度はS+。
普通に殴れば壁が壊れる前に、この洞窟の方が振動で崩落するな。
……だが、どれほど硬かろうと『物質』である以上、揺らぎからは逃げられない。
ログを確認して、僕は完全に事態を把握した。
内部に隠された人工的で滑らかな質感。
そして、表面に帯びている微弱だが高密度の『魔力』。
「イオリさん? どうしたんですか?」
「この壁だ。カイザーがめり込んだ衝撃で表面の岩が剥がれているが……その下地、完全に『魔法反射』のコーティングが施されている」
「魔法反射……ってことは、魔法とか攻撃スキルじゃ壊せないって事ですか?」
「そういうことだ。魔法探知を弾くための隠し扉だろう。
……まずは奥に空間があるか確かめるぞ」
僕は『地殻共鳴手甲』で覆われた右手を、ヒビの入った岩壁にピタリと押し当てた。
「ルナール。第5エリアの時と同じだ。僕が壁に振動(音)を流す。お前の『耳』で空洞を探れ」
「はいっ! 任せてください!」
僕の指示に、ルナールはコクリと頷き、壁から少し離れた位置で愛用の『結晶竪琴・響岩k』を胸の前に構えた。
手甲の内部に組み込まれたバイブロ核を起動させ、微細な物理振動――低周波から高周波へと連続的に変化するスウィープ信号を岩壁に流し込む。
ヴィィィィィン……!!
空気を震わせる微かな振動音が、洞窟の行き止まりの壁を伝っていく。
数秒後。
フォォォォン……!
ルナールが指を添えていた竪琴の一番太い弦が、弾いてもいないのに独りでに震え、音を鳴らした。
「……反響遅延、確認しました! この奥……間違いなく『空洞』があります!」
「ハッハー! サスガだナ! ならば僕様の剣でぶち破っテヤル!!」
空洞があると分かった瞬間、カイザーが嬉々として
【不確定な神威剣槍】を引き抜き、派手なエフェクト(魔法剣スキル)を纏わせようとした。
「待て、脳筋。攻撃スキルを使うな」
僕はすかさず手で制止する。
「お前のその物理攻撃スキルには、魔力(システム補正)が通っているだろう。そんなもので斬りつけても、このコーティングに反射されるだけだ。……この壁にヒビが入ったのは、
お前が『攻撃スキル』ではなく、ただ神速で突っ込んだだけの『純粋な物理的衝突(質量×速度)』だったからだ」
「ム? ナラバもう一度、僕様が頭カラ突っ込メバいいノダな!!」
「無闇に衝撃を与えれば、洞窟ごと崩落する可能性がある。もっとスマートにいこう」
僕は壁に手を当てたまま、手甲の固有パッシブ《地脈感知》のログを呼び出し、今しがたルナールが聴き当てた岩壁の『固有振動数』をUIに表示させた。
万物には、揺れやすい特定の周波数(共鳴点)が存在する。
その周波数にピタリと合わせた逆の波長をぶつければ、どんなに硬い物質でも、自壊を誘発させることができる。
魔法反射の結界だろうと、内部構造そのものの「物理的な共鳴」は防げない。
「隠し効果起動――《逆位相衝撃》」
手甲のバイブロ核が、岩壁の周波数と完全に同調した
『逆位相の衝撃波』を生成し、ゼロ距離で叩き込んだ。
ピキッ……!!
派手な爆発音などはない。
ただ、岩壁の内部構造そのものが耐えきれなくなり、ガラスが割れるように脆くヒビ割れていく。
ガラガラガラッ……!!
そして次の瞬間、分厚い岩壁は粉々に砕け散り、その奥に隠されていた広大な『裏の洞窟』への道がポッカリと口を開けた。
「うわぁぁっ!壁が崩れた!イオリさんすごいですっ!!」
「ハッハー!音もナク壁が砕けタゾ!まるで魔法だナ!!」
「魔法じゃない、ただの物理法則(共鳴)だ。」
さぁ、プニプニ観測の時間だ……。
……追加エネミーの観測の時間だ!
◇
僕は自分の末期加減に呆れながらも、砕けた壁の向こう側へ視線を向ける。
するとそこには、洞窟の地下深くであるにも関わらず、何故か『畑』のような物が広がっており、奥の高台には藁でできた家が建っていた。
「あれ。イオリさん。畑です」
「畑ダ!!」
「見ればわかる」
何故、こうまで手の込んだギミックを用意して隠した場所に畑があるんだ。
しかもその畑には、飛び抜けて巨大な人参(?)がいくつも
ブッ刺さっていた。
「人参ですね! 食べれますかね?」
「ヨシ! 引き抜イテやロウ!!」
カイザーは神速の速さで畑の真ん中に生えた一番デカい人参(?)の葉を持ち、力任せに引き抜く。
「おい、主神待てっ!」
僕の制止も無視して『ポォォォンッ!』というマヌケな音とともに引き抜かれた人参は、カイザーの身長と同じくらいの長さがあった。
「わぁっ……!! なんて強烈なアタック音でしょう!
今の引き抜いた音、120デシベルは超えてましたよっ!!
土の抵抗を一気に振り切った、最高にパンチの効いたスネアドラムみたいな音ですっ!!」
「オオ!」
「もう制御不能だな……これは……」
その時だった。
ヒューーーーーー!
ドテンッ!!
ドテンッ!!
二つの物体が、奥の高台から重々しい音を立てて落ちてきた。
……間違いない。
あのリリース前のLIVE映像に一瞬だけ映り込んでいた
『未知の兎型エネミー』だろう。
だが、あの時は暗がりで見えなかったため気付かなかったが
見た目が、やばかった。
それは、プロレスラーのような覆面マスクを被り、派手な三角パンツを履いた、やたらと筋肉質で筋骨隆々の「ウサギ」だったのだ。
見た目だけでもキツいのに、あろうことかそいつらは喋り出した。
『アァン!?見てPurple。アタシ達のシークレット・ルームの壁を壊した無粋な殿方はァ!?』
『ヤダ、Pink!見てアノ銀髪!スッゴイいい筋肉してるじゃなァイ!ハスハスしちゃうウゥン!!』
「ハッハー! ウサギだナ! 大きクテ強ソウダ!!」
「えっ……? う、うさぎ……? (混乱)」
(……視界の暴力だ。
今すぐ『地殻共鳴手甲』の《光吸収外殻》でこいつらの存在ごと視界をブラックアウトさせたい)
主神と音楽とオカマウサギ2匹が共存している空間に、急に配置されてしまった訳だ。
とりあえず……確認するか……。
【詳細観測】
【対象:Pink & Purple 】:筋肉兎Reboot
[ユニークエネミー:迷宮筋肉美兎3姉妹)]
[状態:長猫誘拐犯]
「トリオ……?それに第1エリアボスのリブート
……長猫誘拐?」
ダメだ、情報が多すぎてパンクしそうだ。
『アラァ?Pink、Purple。どうしたのぉん?
まさかあのイタズラ猫の飼い主かしらァン?』
さらにもう一匹、一回り大きな筋肉兎がドスドスと歩み寄ってくる。
『Plumお姉様ァン!頭のオカシイ兎がきたのよぉん』
お前が言うなよ、と言いかけたが黙っておく。
「オオ! ウサギだナ!!」
主神はさっきから同じことしか言わない。
「「…………」」
僕とルナールは、思わずこのカオスな空間に言葉を失った。
「うぅ……っ。このウサギさんたち、存在そのものが440.1Hzと440.2Hzを同時に鳴らした時のような、気持ち悪い『うねり(ビート)』を発していますっ!! 生理的に無理なタイプの不協和音ですっ!!」
「にゃああアアアゴオオオオオ! 人間、助けるのにゃああああ!」
奥の高台から、猫の助けを求めるダミ声が響く。
その時、僕らの目の前に紫色のウィンドウが現れた。
———
【ユニーククエスト:長猫の嘆願 】
[依頼主] 猫同盟・長猫
「ハズレの洞窟から妖美な声がしたのにゃ」
「声の主を探そうとしたのにゃ」
「そしたら小さい穴を見つけたのにゃ」
「俺のナイスキャットボディで穴を抜けたにゃ」
「そしたらデカい人参があったのにゃあ」
「食べようとしたら捕まったにゃああ」
[受注条件]:1名 女性
[達成条件] :筋肉美兎3姉妹の撃退
[報酬]:10万G / 『猫神の耳』 [真核アクセ]
———
「………これは……ドドンパが受けたあのユニークの関連クエストか…」
「ああ!ドドンパ君の『にゃ』の!!昨日聞きました〜!」
「フム! 女性しか受けられナいトハ! ハッハッハ!!」
「……ルナール受けるか? 恐らく語尾は『にゃ』になるぞ……」
「ドドンパ君とお揃いですねっ!!受けます!!」
そう言うとルナールは、一切の躊躇なくウィンドウを操作しクエストを受注した。
【System】
[ユニーククエスト『長猫の嘆願』の受注条件達成]
[これより、クエストを開始します]
無機質な声がシステムを通し、PTメンバーである僕の頭にも流れる。
『アラァ!やっぱり飼い主なのねぇん!いいわァ、可愛がって……』
Pink『あ』
Purple『げ』
Plum『る♡』
「キツい、とにかくきつい」
目の前に立ちはだかる、圧倒的な物理的質量と威圧感(と濃すぎるキャラクター性)を放つ3匹のマッスルバニー。
ただの新エネミーの観測に来たはずだったのに、どうしてこうなったのか。
次々と迫り来る視界への暴力と不協和音を前に、僕の胃痛は未知の領域へと突入しようとしていた。
第77話、お読みいただきありがとうございます!
ただの静かな洞窟探索かと思いきや……先にいたのは、まさかの「筋肉オカマバニー3姉妹」でした(笑)。
物理法則をハックしてドヤ顔を決めたイオリでしたが、視界の暴力とバカ(主神&音響ヲタク)に囲まれ、今日も胃痛が限界突破しています。
次回(第78話)は、
いよいよこのカオスな筋肉ウサギたちとの激闘(?)
そしてルナールが支配する「ダンスフロア」が開幕します!
次回も【夜20:10】の投稿致します!
「イオリの胃が心配だ……」「ウサギの圧が強すぎる」と思っていただけたら、
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