第75話 観測者、新エリアの告知に不敵に笑い、現実世界で路傍の石(プニプニ要員)に成り下がる
前回の初オフ会の帰り道からです。ギャグ回です。
◇現実
オフ会は夜の21時まで続いた。
ゲーム内のフレンドとリアルで会うなんて馬鹿馬鹿しいと思っていたが……。
誰一人として、己の狂気度がゲーム内と変わらなかったなと言う感想だけが残った。
ドドンパ(慎二)はルナール(琴葉)に終始デレデレで、
連絡先を聞くために長時間ずっとモジモジしては僕に助けを求めてきていた。
シロロ(眞島)は画面越しのぽよんが普通に配信をしていると勘違いして、どこからともなく取り出したハッピを着てうちわを振り、ガチのヲタ活を始める始末。
フゥ(津島)は各エリアで採れる素晴らしい鉱石特集のプレゼンを開き、ジィサンはいわゆるダンディなイケお爺でびっくりしたが、リアルでも『孫課金が捗るんじゃああ!』と豪快に笑っていた。
ぽよんは……画面越しでもIQ3だった。
宴会がお開きになり、僕たちは店を出た。
ジィサンとミツルマンは、店の前に横付けされていたお迎えの黒塗りのハイヤーに乗り込んで帰路につき、
ぽよんは「世界征服してくるのだ〜〜!」とアルケの世界へとログアウト(?)していった。
慎二は「お、俺、琴葉ちゃんと同じ沿線だから送っていくわ!」と、分かりやすすぎる口実で彼女と二人きりで夜の街へと消えていく。
結果として残されたのは、現実世界では同じオフィスで働く僕、津島、眞島の3人だけだった。
◇ 帰り道 駅前 スクランブル交差点
「お爺ちゃん……小川さんって何者?! めっちゃお金持ちだったね……」
津島が、誰しもが疑問に思っていながら出さなかった話題を口にした。
「あのお迎えの高級車……ほんとに満(孫)くんに車プレゼントしそうね……」
僕もそれには同意見だが、何も言わなかった。
僕は知っている。
あの爺さんはリアルでも投資家歴30年の凄腕だそうだ。
そりゃあ、ゲーム内でリアルマネーが絡むアイテムでも湯水のように使えるわけだ。(聞いた話)
「……なんか、変な感じしない? 津島ちゃん。休日の夜に、
矢田島センパイと歩いてるなんて」
「そうね。明日からまた仕事かと思うと、少し憂鬱だけど」
眞島と津島が、すっかり「会社の同僚」の顔に戻って苦笑いする。
「非効率な考え方だ。月曜が来る事実は変わらない」
僕が淡々と返すと、二人は顔を見合わせて「出た、効率厨」と笑った。
スクランブル交差点の信号待ち。
「ねぇ、イオリ君。あれ」
津島がふと、夜空を指差した。
夜の渋谷の喧騒の中、突如として周囲の空気がビリッと震えた。
――ズゥゥゥゥン……!!
街頭の巨大なLIVEモニターが一斉に切り替わり、重厚なオーケストラのBGMが響き渡った。
行き交う人々が、一斉に足を止めて上を見上げる。
画面には、始まりの町『エウレカ』の景色が映り、それが徐々に荒涼とした未知の大地、そして雲海を突き抜けるほどの超巨大な塔(神樹)へと変わっていく。
──
『――始まりの地で、君たちは世界を発見した』
『だが、世界には【限界】がある』
重厚なナレーションと共に、画面にデカデカと文字が浮かび上がる。
『第6エリア解放』
『――【境界都市 タヴ(Tav)】――』
──
「境界都市……『タヴ』……!!」僕は思わず、声を漏らした。
脳内で、強烈なスパークが弾ける。
(そうか……!
あの時、第5エリアでロン君が空間を食い破った時に見えた
エラーノイズ……【Hidden_Node : Tav】!
物質界の底を抜けた先にある、22番目の終わりの世界。
あの裏側に隠されていたディレクトリは、次なる領域そのものだったのか……!)
僕の予測は、完全にシステム(神)の設計と一致していた。
映像はさらに続き、塔の内部に待ち受ける恐ろしい階層ボスたちの姿が次々とフラッシュする。
──
『最下層の『地の番人』から、最上階の『原初の意思』まで
10の階層を支配する守護者たちを打ち倒し、世界の頂(王冠)へ至れ』
──
(……フッ。10の階層を馬鹿正直に登れ、だと?)
料亭の廊下で聞いた『実験場』の真実。
円卓というサクラを使ってまでプレイヤーを集めようとする運営の思惑。
そのすべてを理解した上で、僕の口角は抑えきれないほどに吊り上がっていた。
(冗談じゃない。
運営が用意したお仕着せの舞台を、ルール通りに歩いてやる義理はない。どんな強固な盤面だろうと、必ず綻び(バグ)はある。根底からひっくり返してやるさ)
映像のラスト。
交差点のすべてを光で包み込むような、特大のテロップが叩きつけられた。
──
『大型アップデート【Ver.2.0】――2ヶ月後、全世界同時実装決定』
──
「うわぁぁっ! 新エリアだって! 津島ちゃん見た!?」
「ええ、すごいわね……! また忙しくなりそう」
歓声に沸くスクランブル交差点の中、はしゃぐ眞島と津島。
ふと、眞島が僕の顔を見て、隣の津島を小突いた。
「ねぇねぇ、津島ちゃん。矢田島センパイ見てよ。すっごいニヤニヤしてる」
「ふふっ。会社ではあんなに無愛想なのにね。やっぱり根っからのゲーマーなんだわ。新エリアが楽しみで仕方ないのね」
「だよねー! ちょっとカワイイかも!」
二人が僕を見てクスクスと笑っている。
だが、僕の頭の中は、ただのゲームの新作を待つような無邪気なものではない。
(2ヶ月……。
大型アップデート(Ver.2.0)が実装されれば、この世界の物理法則や盤面の前提がすべて覆る。
それまでに、次なる『至宝』を回収し、僕の『正解』を完成させなければ)
「……忙しくなるな、お前ら」
僕はネオンの光を反射する眼鏡を中指で押し上げ、次なる世界の蹂躙に向けて、静かに闘志を燃やした。
◇
眞島と津島とも別れ、僕は自宅のマンションへと帰宅した。
ピロンっ♪
スマホを見ると、慎二からのメッセージだった。
ーー
《慎二》
[伊織、今日はサンキュー。]
[琴葉ちゃんとバーに来ました。]
[最高すぎて、死にそうです]
[あ!今日は飲むだけだからな変な妄想するなよ]
ーー
ふっ、聞いてないんだがな。
ーー
《矢田島》
[お疲れ。楽しんでくれ。]
[明日から忙しくなる。]
[浮かれるのも大概にな。]
[おやすみ]
ーー
僕はふと、いつも見ている慎二の現実のぽっちゃりとしたビジュアルを思い出す。
ルナールは、体型とか気にしないんだな。
よかったじゃないか。
これでやる気が上がれば、真核回収の効率も上がる。
モチベーションというのはそれほどまでに恐ろしい。
恋愛バフなら尚更な。
僕は恋など知らないし、必要性を感じないが。
さて、寝るか。
◇ 翌日 現実 都内某オフィスビル
僕はいつもより5分ほど遅れて会社に着いた。
すると目の前に、受付嬢へ挨拶をする眞島の姿が目に入る。
「おはようございまーす!!」
「はいいいい! ではでは、今日も可愛くワークっ♪!!」
(可愛くワーク?
慎二がゲーム内で言っていた『カッコよくワーク!!』
のオマージュか何かなのか?)
僕は呆れつつ、そのままオフィスへ向かうためエレベーターの列へと並んだ。
だが、そこに気付いた眞島が、ヒール音をフロアに響かせながら駆け足で寄ってくる。
「矢田島センパイ! おはようございまーす!」
「ああ、おはよう」
「昨日は楽しかったですねー!!」
「そうだ……な。たまにならいいんじゃないか」
「もー! センパイったら照れちゃって! 楽しんでたくせに!」
(……ん?
何やら周りからとてつもなく鋭い視線を感じるが……)
周りを見ると、同じ会社の男性社員何人かが、僕を親の仇のように睨みつけていた。
同時に広報部の若手エース眞島を見て顔がトロンとしている。
(何かしたか?
僕は誰かから恨みを買う様なことなんて……いや、エウレカで騒ぎを起こしまくっているか……。
ん? ここは現実じゃないか、なぜだ)
僕が怪訝な顔をしていると、眞島が覗き込んでくる。
「センパイ? どうしたんです? 何か悪巧みですか?
次は冒険者ギルドでも破壊します? あ、エリア破壊?」
「僕をなんだと思っているんだ、お前は。ほら、ここでゲームの話はするな。仕事の時間だ」
「はあーい」
◇ お昼
僕はいつもの様に、慎二とオフィスの休憩室で昼食をとっていた。
「えへへ、へへへ、へへっ………」
目の前の慎二が何やらニヤけているが、無視することにする。
「へっへっへへ。まじ可愛い。バカ美女。まじ天使、ハスハスしちゃうわ」
無視だ。
「触れね? 触れない? 触れよう?」
僕の『聞かない、聞いてない、聞きたくない』をオマージュでもしてるのか? こいつ。
いや、あれは心の中で思っただけか。
「矢田島、コラ」
僕は無言で睨みつける。
なんだ?どうした?やるのか?
と言う姿勢を見せつけた。
「睨むなよ。それでな、琴葉ちゃんとな、来週な、デート、するんだ俺」
何話始めてるんだ?
こいつ。
「お前は僕の真核周回の手伝い(奴隷)だろ」
「いやお前さ……いいじゃん、恋路応援しようよ……」
「そういえば痩せないのか?」
「それがな、琴葉ちゃんさ。
『いつかプニプニしたいです』って言ってくれたんだ。
へへ……だから俺、このままでいくわ」
「では、僕と真核をプニプニ(蹴り蹴り)しような」
「お二人ともっ! なーに話してるんですかっ!」
「お疲れ様です。プニプニって……?」
片手にド派手なピンクの財布を持つ眞島と、何故か僕を睨む津島がやって来る。
『シマシマコンビ』の登場だ。
「あーー! 聞いてくれよー!! ……かくかくしかじか……」
慎二が、僕とある理由(食費15万)で真核狩り奴隷になる契約を交わした事と、昨日の解散後の話(惚気)、そしてデートの話を二人に説明する。
「クンツォイトの件もそうだし、最低ね」
「サイテー。人でなしですね」
「だろお?!? だから『シマシマコンビ』の助力を!!」
「シマシマコンビ?」
「何それ、ちょっと可愛い」
「あ、やべ」
慎二が口を滑らせた。
「私たちの苗字の事ね。それを言うなら、矢田島さんも『島』
入ってるけど」
津島の言葉に、僕も思わず声が出てしまう。
「「「あ」」」
「ウケるー!
じゃあ『シマシマトリオ』で真核プニプニしようねー???」
「末端に加えてあげるわ、鉱床調査隊のね」
「………僕は『矢田”ジマ”』だ! その枠組みには入らない」
「何こいつ、冷めるわー」
「……あなたいま、自分の価値が『路傍の石』以下になったことに気づいてる?」
ここで眞島がリーサルウェポン(正論)を放つ。
「いや、私も『眞“ジマ“』ですけど。」
場に、数秒の沈黙が流れた。
まずい、そうだった。僕としたことが。
「チッ」
慎二のやつ、味方を増やしてきたか。
僕の盤面を狂わす最大の要因(変数)を、こうもタイミングよく投入するとは。
さすがは戦術士なだけある。……違うか。
「あーー、舌打ちした!! センパイって舌打ちが似合いますよね。悪い意味で」
「ぶーー」
「でも私にとって路傍の石は研究価値があるわ、そんなに卑下しないでくださいね」
「チッ」
会社でもカオス・アトリエの空気が流れるとは……。
勘弁してくれ。だから嫌だったんだ……。
「多勢に無勢とは、卑怯だな全く」
「卑怯な手口で、円卓の一人倒したのにねっ」
「あー、一酸化炭素中毒な……現実じゃなくてよかったぜ」
「私、片棒を担がされたわ。ひどい男ね」
津島こと、フゥよ。
あの時、ノリノリでドームを作っていただろうに。
「それより、二人ともランチに行く時間あるのか?」
「あ、 そうだった!センパイまた夜ね!!プニプニー!」
「プニプニの計画立てましょう。では失礼します」
手を振って去っていく二人を見ながら、僕は思わず吐露する。
「……カオスだ」
現実Ver.だ。
「お前、案外ちょろいな。勝手に決められてたぞ」
「チッ」
「琴葉ちゃんにメッセしちゃお!
『懸念の冷徹眼鏡、無事討伐!』ってな」
慎二がニカっと歯をチラ見せアピールをしてくる。
「もう知らん。勝手に行け」
僕は冷めたコーヒーを飲み干しながら、頭を抱えた。
今晩は、プニプニ計画だな……。(諦めた)
第75話いかがだったでしょうか?
今回はちょっと一息、カオス・アトリエのオフ会&現実回でした!
ゲーム内ではあんなにイキっていたのに、現実では完全にヒエラルキー最下層なイオリの不憫さ……(笑)。
新エリアという特大の目標も定まり、次回からは再びVRMMOで大暴れ(プニプニ)します! お楽しみに!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
2/26 夜20時10分に投稿致します!
少しでも「カオスだ…」「プニプニしたい」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!




