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第72話:観測者、理不尽な神(チート)に30秒の命を捧げ、偽りの鞘から必中の槍を引きずり出す

前回の超爽快な蹂躙劇から一転。

カオス・アトリエの前に、いよいよ「正真正銘のバケモノ(ランキング1位)」が立ちはだかります。

絶望のカウントダウン、開幕です。


 僕達は遂に、聖刻の円卓の指揮官『俺もお前も俺』を倒した。


 戦闘時間にすると、約8分。


 絶対なる回復ライン(量子もつれ)を目論み通りに潰した

僕と仲間たちは、歓喜の渦に満ちていた。


 直後に起きた『事象』を目の当たりにするまでは。


「うおおおおお!!  マジですげええ!ルナールちゃんのアレにはびっくりしたけど……!」


「あわわわ……はしたない真似をぉぉぉ……。でも、すっごくスカッとしました!!」


「ぽよ〜〜〜〜!  みんなすごかったのだ〜〜!  でもぽよんが一番すごいのだ〜〜!」


「キャアアア!  飛び跳ねてるぽよん様カワイイっっっっっ……♡」


 シロロは胸を抑え、天に手を掲げながら倒れ込んだ。


「ミツルゥゥ! 爺ちゃん、最高のプレゼントもらったぞォォ!」

「ヘッヘッヘ!!  オレつよーー!! 

爺ちゃん守ってくれてありがと!!」


「ぬォォォォ……孫が尊いんじゃあああ」


 ジィサンの歓喜の声がこだまする。


「ロン君が食べなかった氷晶石……ラメが付着して、これ以上にないくらい輝いているわ……素敵ね……」


 それぞれが勝利の余韻に浸っているが、僕だけは冷水を浴びせられたように警戒を解けずにいた。


「それぞれ没頭するのはいいが、まだ終わってはいないぞ。

カイザーと、まち子が残っているからな」


「おいバカ!  冷めるわ!!」

「可愛くないねほんと!!  シール貼ってあげようか??」


 ドドンパとシロロがブーイングを飛ばしてきた、その時だった。


「ねぇ、kおじさん。アレ」


 ミツルマンが指を刺した方向を見ると――空を翔けるカイザーの姿があった。


「空を……蹴っているの……?」


 フゥが呆然と呟く。


 ヒューーーーースタッッッッ。


 カイザーが、まるで階段を降りるように空中から軽やかに着地した。


「ハッハッハ!!!  主神!  参上!!! 

僕様のお通りダ!!!」


 カイザーは両手を広げ、ピエロのように大仰に笑う。


「しかし、イズンが負けるナンテな!!!  だめじゃなイカ……僕様が活躍してしまウ!!」


「なんだよこいつ……。イオリ、こいつ剣だけじゃないぞ、

ヤバイの……」


 ゴクッ…。

 僕は思わず息を呑む。


「見れば分かるさ……そんなことは……」


「ほっほ……空まで飛ぶとは。ことごとくファンタジーだのぅ……」


 カイザーは僕たちを見渡し、首を傾げた。


「フムフム。途中でイズンのリンクの糸が見えなくナッタと思ったガ!  君たち、倒せたノカ!!!」


 こいつ、仲間がやられたのになぜこんなにも余裕ぶっている。


……不味い。

 今のうちに【星界の(アストロラーベ・)天球儀(パノプティコン)】に持ち替えておかなければ。


 僕はインベントリを操作し始める。

 その瞬間だった。


 タンッ!!!!!


 シュッッ。


「アーッハッハ!  【僕様の華麗なるジャンピン! 】

ここに来たゾ!!」


 カイザーが僕の真後ろに移動……いや、違う。

 移動のプロセス(線)が完全に抜け落ちていた。


 奴は『すでにここに到着している未来』を選択し、結果だけを押し付けてきたのだと僕は悟る。


「……武器変更をするつもりカ? ダメだヨ。ダッテうちの隠れんぼチャン(アサシン)を『観測』して無理やり引っ張り出したのダロウ!!」


 背後から、陽気で背筋の凍る声が囁かれる。


「あの子がバレるってコトは、僕様の『剣』も確定させられちゃうカモ。だから――君から殺スネ! 

武器替えは無理だヨ!!」


 そう。

この世界では、戦闘中に武器を持ち替えることは出来る。


 ただし、それは『前後30秒以内に、一切のスキル使用や攻撃・防御行動を取らない場合』のみだ。


「イオリ!!!」


「ぐはっっっっっっ………!!!!!」


 直後、僕の背中を強烈な衝撃が貫いた。


 武器をすぐに変えておくんだった。

 僕としたことがミスったな。


 僕のHPが一気に危険域(赤)まで駆け抜ける。


 僕は空を仰ぐまでもなく、背中への衝撃を感じるとすぐさま回復アイテムを取り出し、噛み砕いた。


「クソ! 【濃霧予兆フォグ・オーメン】!!ドドンパがすぐさま攻撃予測スキルを放つ。 


「アレ?  意外と硬いナ!!!!」


カイザーはそう言うと、剣を振りかぶり、今度は『虚空』に向かって2回振り下ろした。 

 ブンッッッ!! 

ブンッッッ!! 


そして、澄ました顔で剣を鞘に戻しながら言い放つ。「ココだナ!!!」


 何もない空間を斬ったはずのその太刀筋。


 濃霧予兆の効果で僕の周りに小さい霧が2つまとわりついた。


「ルナールちゃん!!!  悪りぃ、一人じゃ無理なヤツだアレ。行くぞ!!  させねぇえええええ!!」


「はいっっっっ!!」


 ドドンパは横にいるルナールの手を引きながら、僕の元まで走り強引に横へ押し飛ばした。


 ザシュッ!

  ザシュッッッ!!!!


「オ!  凄いナ!  確定した場所に入れ替わるトハ!! 

彼、頭が回るネ!!  さっきのスキルカ!!!」


 何もない空間で鳴ったはずの斬撃音が、遅れてドドンパとルナールの身体で弾けた。


 僕のいた座標に向けられていた『すでに斬ったという結果』を、二人が身代わりになって受けたのだ。

 ドドンパとルナールのHPが赤まで吹っ飛び、残り僅かになる。


 この瞬間より、仲間の死と僕の武器変更の為のカウントダウンが始まった。


 ーーーー

【武器変更:可能時間まで:残り29秒】

 ーーーー


「フム!  周りカラ、先に消スカ!!  コトッッ……ダメだ!  名前を言うのはマナー違反だナ! フェンサー妹よ、すまヌ!!」


 カイザーが再び、デタラメに剣を振るう。


 ブンッッ!!

  ブンッッ!!


 ドドンパは悟った顔で、倒れた僕に向かって叫んだ。


「30秒稼げ。天球儀なら勝てるんだろ?  先逝ってるわ。

……みんな!!!  イオリを守れェェェェェェ!!!!」


 数秒後。


 因果が追いつき、致命傷のエフェクトが二人の身体に遅れて刻まれる。


 ザシュッッッ!

  ザシュッッッ!


「キャアアアッッ!!!」


「うぐあっっっっ……」


【System:通告】

【PTメンバー ドドンパ・ルナールのHPが0になりました】

【System:死亡判定ロストプロトコルを実行します】

 無機質な死の宣告が、僕の脳へと直接流れ込む。


 そして二人が光の粒子となって消えていった。


 ーーーー

【武器変更:可能時間まで残り19秒】

 ーーーー


【どこでも空中ジャンプ!  僕様の華麗なるジャンピン!!】


 その瞬間、カイザーの足元に魔法陣のような紋章が浮かぶと、彼は空高く駆け上がっていく。


 タンッ!!

  タンッ!!!

  タンッッッ!!!


「【耐熱結晶壁ヒート・クリスタウォール】!!!!  【石術師スキル:城壁】!!!」


 ズドドド……

 

 フゥの壁が、僕の前と横に分厚く敷かれる。


 「ぽよ〜〜〜!!! 

甘姫粘魔王スウィート・スライム・マオウスキル:魔卡龍(マカロン)のお家(・ハウス)】!!!!」


 ポフンッ!

  ドデーーン!!


 フゥの立てた壁を覆うように、巨大なマカロンの家が建てられ、僕を完全に包み込んだ。


 甘い匂いと焦げた土の匂いが混ざり、少し気持ちが悪いが……ナイス時間稼ぎだ。


「ハッハッハ!!  もう二人逝ケ!!!」


 上空からカイザーの声が降る。


「【とってもオーディン斬り・THE・ファイナル!!!】

フハハハハ!! 必中の剣ヨ! お前をそこに選択ダ!!!」


 カイザーが上空から剣を投擲する。


 ただ『貫通したという結果』だけをすり抜けさせ、二人の身体を貫いた。


 ザスッッッッッッ!!!!!!


「え……?」

「ぽ、ぽよ??????」


 甘いお菓子の家の外から、二人の困惑する声が聞こえた気がした。


【System:急所判定クリティカル

【PTメンバー フゥ・魔王ぽよんのHPが0になりました】

【System:死亡判定ロストプロトコルを実行します】

 フゥとぽよんが、一瞬にして光の粒子となる。


「フハハハ!  イオリkと言ったカ?  特別な武器が無いト、

やはリ弱いナ!!」


ーーーー

【武器変更:可能時間まで残り10秒】

ーーーー


 カイザーが嘲笑う。



 ジィサンとシロロが動くそして……僕の為に幼いミツルマンまでもが。


「ほっほっほ、イオリk君。あとは頼むぞぃ。

こんな化け物がいるとはのぉ……ミツルマンよ、勇者でも時に強大な敵と出会い敗北する。だがそれは、勝利への一歩ぞ」


「うん! 爺ちゃん! kおじさん。オレもカッコよく成長する為に、アイツぶった斬る!!」

ミツルマンは子供の意地を捨てず最後まで立ち向かうことを選ぶ。


 さすが、勇者だな……。


 ヒューーーーースタッッッッ。


 カイザーが、再度地面へと降り立つ。


「オ?  少年勇者ヨ!  君のコトは気ニ入ったが!! 

何か特別な力で避けルンだってな!!  それに仲間モ面倒だト、聞いタ!  それならコレダ!!」


 カイザーは腰を深く落とし、頭に両手の人差し指をくっつけて呟く。

思考と記(フギン&)憶の双鴉(ムニン)


「僕様に言ってゴラン!  ヌゥゥゥゥゥ!!」


 この時、カイザーの頭から二羽の黒いカラスの幻影が飛び立ち、残された3人の頭をすり抜けた。


 だが、彼らにそれを視認することはできなかった。


「何そのポーズ!!  ダッサイ!  可愛くないね!! 

【私だけのシール帳♡】!!」


 シロロがシール帳を展開しようとする。


 ジィサンも同時に、絶対防御のスキルを発動しようとした。


「【護法僧スキル:死生観・聖観音の慈悲】!!!」


「とりゃああああ!!!」


 ミツルマンも大剣を振り上げる。

 だが――。


 【アっ! 教えてくれルノ! ダメダヨ使っちゃ!】

どこまでもふざけ倒した技名が発動した。


 シロロが戸惑う。

「え?  シール帳が……」


 ジィサンが目を見開く。

「ぬっ!?」


 ミツルマンの体から放たれていた勇者のエフェクトが、瞬時に掻き消えた。

「アレ?  オレのパワーが……」


 彼らが『スキルを使おうとした』という思考だけが、双鴉によって刈り取られ、キャンセルされその場にはスキルが発動しなかった事後だけが残った。



「驚いタカ!!! 3回しか使えないノデもう使えないゾ! 

安心シロ!! さて……消えてもらウネ!」


 ネタバラシが好きなバカだな全く……

だがこいつの発言は全てが絶対的な自信による誇示と事実。


 最初から武器を変えてれば。僕の致命的な『不正解ミス』だ。


 ーーーー

【武器変更:可能時間まで:残り1秒】

 ーーーー


【ユグドラシルナンテ!糞喰らエ!9連斬!!!】

スキル名と共に出鱈目に虚空を切り裂いた。直後。


 バシュバシュバシュバシュ!!!!

 バシュバシュバシュバシュ!!!!


 無防備になった3人の悲鳴が上がる。


 バシュッッッッ!!!!!!


 僕は斬られる仲間の声を聞きながら家の中でウィンドウを操作し、

星界の(アストロラーベ・)天球儀(パノプティコン)】を装備した。


【System:急所判定クリティカル

【PTメンバー ジィサン・ミツルマン・シロロのHPが0になりました】

【System:死亡判定ロストプロトコルを実行します】


 3人が光の粒子となって散っていく。


 わずか30秒の間に起きた一方的なカイザーの蹂躙。


 このゲームの世界に降り立って、初めて迎えた最大の死戦の中……仲間たちが命と引き換えに稼いでくれた30秒。


 こんなのは『正解』でも『不正解』でもない。

 計算機で開示された、ただのつまらない『答え』だ。


 ズドドド……ポテンっ。


 フゥとぽよんの防御スキルが効果時間を終え気の抜けた音と共に崩れ去る。


「ハッハッハ!! 美味しソウな家がなくなっちゃッタネ!!  僕様がここまで本気を出せタのは、君達のおかげダ!!」


 カイザーが血に濡れた剣を振り払い、僕に向かって嗤う。


 僕の手元にはこいつの対抗策として作成した武器…。


 いや、演算機――『星界の天球儀』の回路を起動した。


「【事象の強(デコヒーレンス・)制収縮(スキャン)】発動。」


「もう、お前の選択遅延の剣も、移動プロセスの排除も使えないぞ」


 その瞬間、僕の脳内に「1999人分の視線ログ」が爆発的な情報量となって流れ込んでくる。


【System:デメリット(代償)】

『精神的処理落ち(ブレイン・ラグ)』が適用されます。

【移動速度が80%低下します】


「ぐっ……ッ」


 強烈な頭痛と共に、僕の体の感覚が泥に沈んだように重くなる。


 だが、僕の視界(AR)はかつてないほど澄み渡り、戦場のすべての座標が完璧なグリッド(盤面)として可視化されていた。


「この空間には今、僕の演算機を通して『1999人の観測者の視線』が向けられている。


 お前がどれだけ量子の確率で存在をぼかそうと、これだけの目に観測されれば、ただの『物理的な実体』としてここに固定される」


 僕が言い放つと、カイザーは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにそれ以上に凶悪な笑みを浮かべた。


「アーッハッハ!それがイズンの言っていた武器カ!! 

僕様の『選択できる未来』を強制的に確定させたんダネ! 

……でもさぁそれってこういう事だヨね!!」


――【不確定な神(アンサー・オブ・)威剣槍(グングニル)】行くゾ!!


「『偽り(ファルス・)の鞘(シース)』より解き放テーイ!!!」


 バチィィィィンッ!!!


 カイザーの手に握られていた剣の形が、強烈な光と共に変質していく。


 未来の選択肢が1つの100%に収束したことで、

ぼやけたその武器は**『真の姿』**を現し槍へと変わった。


「……さあ、逃げられない『必中の槍(グングニル)』の時間ダ!! 

その心臓貫いてヤル!」


 神話の最高神オーディンの力を物理法則として振るう、正真正銘の

ランキング1位。


 カイザーが叫ぶ。


【どこでも空中ジャンピン!僕様の華麗なジャンプ!!】

 物理的に固定された『空中の足場』を2回蹴り上げ、空中へと翔けていく。


 数秒後……彼は弾丸のような超高速で、空から僕目掛けて槍を構えた。


【とってもオーディン斬り・THE・ファイナル!!!】

 ひどくふざけた技名。

 だが、そこに込められた殺意と事象は本物だ。


 回避不能。

 防御不能。

 僕自身が『観測』し、100%に確定させてしまった絶対的なグングニルが、真っ直ぐに僕の心臓へと迫っていた。

第72話、いかがだったでしょうか。


仲間たちが散っていく30秒……イオリにとって初めての最大の死戦となりました。


さて、今回登場したカイザーの理不尽すぎるチート能力も少し難しかったと思うので、

現代のゲームに例えて解説します!


①「移動の過程をすっ飛ばし、斬った結果だけを押し付ける」

FPSなどの対戦ゲームをやったことがある方なら分かるかもしれませんが、

これはいわゆる**極悪チートの『ラグスイッチ』**の究極系です。


「自分が移動している姿を相手の画面から消し、いきなり背後にワープして『もう斬ったよ』というダメージ判定だけをシステムに送りつける」

という、ゲーマーならコントローラーを叩き割りたくなる理不尽です。


②「スキルを使おうとした思考を刈り取る(キャンセル)」

これはもっとタチが悪く、**「こっちが必殺技のボタンを押した瞬間、相手が強制的にこっちのコントローラーの接続を切断してくる」**ような状態です。そりゃあ発動しません(笑)。



そして最後。イオリは天球儀(1999人の視線)を使って、そんなカイザーの武器が持つ『無数にある未来の選択肢』を、無理やり一つに観測して実体化(確定)させました。


しかし、選択肢が100%に収束して『偽りの鞘』が外れた結果……中から現れたのは「絶対に避けられない即死武器(必中の槍)」だった、という最悪の裏目を引いてしまったわけです。


つまり、選択遅延(移動のプロセス排除など)がなくても彼の攻撃自体が必中であったと言うわけです……。

チートすぎました。


前にもお話ししましたが、彼らの真核への設計過程は本編が全て終わったら投稿します。


〜次回予告〜

2/25 朝8時に投稿致します!


「必中の槍(100%の死)」が迫る中、イオリが導き出した『冷徹な正解』とは……!?



少しでも「カイザー理不尽すぎ!」「イオリ、ここからどうやって勝つんだ!?」とハラハラしていただけたら、

ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最強のバフ(モチベーション)になります!

よろしくお願いいたします!

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