第70話:観測者、数千万の偽装ログ(ラメ)でシステムを破壊、可愛い強奪者(ジャイアン)に戦慄する
難しいお話の解説を後書きに書きました!!興味があればお読みください。
70話、どうぞ。
◇
カオス・アトリエのメンバーに背中を押されたルナールが、円卓の駒としてではなく、自らの意思で牙を向ける……。
絶望になるはずだった曲がエリアに流れ始めた。
「聴いてください!!
【絶望の狂奏:第三楽章『運命』】!!!」
ジャァァァァァァァァァンッッ!!!!
【システム干渉観測】
【警告:環境BGM領域への強制上書きを検知】
・ジャンル設定
:ダーク・クラシック(交響曲第5番『運命』第三楽章)
・干渉レベル:エリア・ハック(環境ルール書き換え)
【味方:DEFマイナス200%】【敵対:ATK100%】
本来使い道のない様な強力な敵対強化バフそれは
敵の指揮官『俺もお前も俺』によって予め決まっていた
作戦。[プランB]禁忌の旋律であった。
彼女の絶対音感(狂気)が、物理現象としての音波をシステムへ強制的に叩き込む。
ピガガガガッ!!
僕の視界が赤黒いノイズに覆われ、システムログが強制展開された。
「【――記述。経路偽装_対象選択は『ルナール』】」
サラサラサラ………
宙に重厚なペンの入力音が鳴る。
その瞬間。
僕が第4エリアの洞窟で、彼女の音波に紛れ込ませておいた
『78%の不良債権』が、呼応するように起動した。
【System Error:Target_Variable [ Null ] 】
【Warning:プロセスが不完全です。
対象指定(Target)の変数が欠損しています。
処理を停止します】
78%……ダウン。
システムは、残りの22%のコードが足りないことで、バフの対象(誰にデバフをかけるか)を特定できず、バグの迷路の中で立ち往生した。
「……ああ、それでいい。78%も裏口が開いていれば、システムはもうマトモな防御機能を果たせない」
僕は暗黒の笑みを深め、『断崖写本杖』を強く握り直す。
「足りない残りの『22%』は……僕が今、この場で直接書き込んで(叩き込んで)やる」
「今だ! ドドンパ、始めろ!!!!」
「おおうう! いくぜええ! 【三条の蜃気楼】!!」
ドドンパのタクトから、濃密な霧の道が一直線に敷かれる。
この道の上を通過したあらゆる事象は、当たり判定のない二つの幻影を伴い、合計三つに分身して映し出されるという特殊な地形スキルだ。
それが合図だった。
フゥとシロロが、先ほど取り出した大量のアイテムを、その霧の道めがけて思い切り放り投げる。
「いくわよ、シロロ! ただの石の粉だけどね……ふふっ」
「オッケーフゥちゃん! 可愛くキラキラにしちゃうよー!! ピンクラメ、大盤振る舞い!!」
フゥが砕いた微細な石の粉塵と、シロロがばら撒いた大量のピンクラメ。
それらがドドンパの『三条の蜃気楼』に触れた瞬間
――1粒のゴミが、3粒の幻影へと爆発的に増殖する。
「風よ、吹き上がれ!」
僕とドドンパが同時に風の魔法とスキルを放ち、文字通り
『3倍に水増し』された粉塵とラメを、戦場の上空へと一気に巻き上げた。
極彩色の暴走。
数千万、いや数億にも及ぶ微細な粒子の嵐が、ルナールの重苦しい音波の中をキラキラと舞い踊る。
「……よし。これで盤面は整った」
僕はインベントリから『氷砂糖』と『キャンディーアイス(回復アイテム)』を取り出し、手に持っていた『断崖写本杖』のペン先に、ベチャベチャと容赦なく塗りたくった。
「……すまないな、相棒」
普段の僕ならただのデータであり、僕の正解を導くための軌跡を書く、ただそれだけの道具に僕は謝った。
コイツら(カオス・アトリエ)といて感化され、モノに情でも移ったのか僕は。
「ふっ…バカバカしい」
そして、その甘い糖分に、空気中を舞う石の粉とラメをたっぷりと付着させる。
「【環境誤認】……発動」
ペンに現象を付与し、僕はそれを、呑気に寝こけているぽよんの杖――『ロン君』の巨大な口に向かって、全力で投げつけた。
「ロン君! 起きろ! 極上のおやつだ!!」
パカッ!
パクッッッッッ!!
目を覚ましたバグマカロン(ロン君)が、飛んできた僕の杖ごと、甘いラメの塊を一口で捕食する。
そして次の瞬間、「ペッ」と間の抜けた音を立てて、ヨダレまみれになった杖だけを器用に吐き出した。
かつて、ルナールのハープ、そして発動したBGMジャックごと捕食し、自分の保持データとして取り込んだあの現象。
運営よ。
武器に自由意思を持たせたら、プレイヤーの思い通りには好きに動かせないと思っていたんだろうが……誤算だったな。
好みが分かれば、エサで釣って操るなんてこの僕には造作もない。
僕は、宙で蠢くロン君のステータスを確認する。
いまだに不思議だ。
武器(ロン君)がプレイヤーと同じ扱いで、個別のステータスが付与されるなんてな。
【詳細観測】
【魔王ぽよん専用装備:魔王笏・ヴォイド・マカロンk】
[名称:ロン君]
[状態:技巧喰物]
・保持データ(ラメと石の粉):甘い(残り時間測定不能)
(※杖についた氷砂糖とキャンディーアイスの糖分により、現在空間を舞うラメと石の粉すべてを『甘いモノ』だと環境誤認)
・保持データ(現象):環境誤認(残り5分)
宙に舞う目に見えないルナールの音波と、それに紐づいた石の粉やラメを「極上のおやつ」と認識し、食べようと何度も巨大な口を開閉させるロン君。
その異様すぎる光景に、円卓の指揮官が声を荒らげた。
『な、なんだよアレ……』
『クソが……【詳細観測】!!!』
僕の仕組んだバグの正体を探ろうと、『俺もお前も俺』が
システムを覗き込もうとする。
だが、もう遅い。
『なっ?!! どうなってんだよ!ふざけんなよなぁぁぁあ!』
「あいつ...僕と同じ観測士だったのか……どうりでな」
バキッ!
ムシャァッ!!
ロン君が見えない空中の事象を、物理的な牙で次々と喰い破っていく。
ピガァァァァッ!!
その理不尽な捕食が、フリーズしていたシステムに致命的なトドメを刺した。
対象不在で立ち往生していた【78%のバフプログラム】が、
ロン君の『環境誤認』を強制的に読み込まされる。
【System Error:Target_Variable [ Override ] 】
【Warning:現在空間に散布された微小オブジェクト(数千万)を、すべて独立した干渉対象として誤認しています】
【Target =『 ALL(数千万の観測点) 』に決定されました】
物理的な粉塵散布と、バグマカロンによるシステムエラーの合わせ技。
これが、僕がこの盤面に書き込んだ『残りの22%』。
ルナールの放つ円卓側への超絶強化バフと、混沌側への防御力マイナス200%の最悪なデバフ。
それは今、円卓のメンバーだけではない。
戦場を舞う『数千万のピンクラメや石の粉一つ一つ』を対象として、システムに強引に紐付けられたのだ。
『なんだよ、この光った粉は……!クソっ!!
構うな、やれ!!押し潰せ!!』
「鬱陶しいんだよガキがぁ!!」
『俺もお前も俺』の怒号と共に、円卓の炎と氷の悪魔『温度差で逝けよ』が、ミツルマンに向けて凶悪な炎の魔法を放った。
「ほっほ! 孫には指一本触れさせんぞい!
【護法僧スキル:静寂の護衣】!!」
ジィサンが錫杖を構え、堅牢な防御シールドを展開しようとする。
だが、それよりも早く、小さな勇者が地を蹴って前に飛び出した。
「オレの爺ちゃんいじめるなー!!! 炎よーやどれー!
全部叩っ切れー!!」
【炎属性変換】――それは勇者という職業の特権などではない。
彼が持つ専用武器『輝石の勇者剣・凱旋k』に組み込まれた、火山湖獣『ヴォルカニック・タイドの真核』による理不尽な音声認識ギミックだ。
ミツルマンが身の丈に合わない大剣を振り抜き、「炎よ宿れ」という指定ワード(プロンプト)を叫ぶと、温度差が放った必殺の【零式・双極炎柱】は、ダメージを与えるどころか剣に巻き込まれ、そのまま真っ赤な炎のオーラとして勇者の剣へと吸収っていった。
「み、みつるぅぅぅ!! ワシの為にそんなことをぉぉぉ
……かっこいいのおおお」
ジィサン……それは、現実名じゃないのか…?
僕はジィサンのネットリテラシーに少し困惑したがすぐに考えを改めた。
まぁ『ミツルマン』だしな……隠せていない今更だ。
「は……!? 嘘でしょ……!?」
己の魔法をそっくりそのまま奪われ、温度差が愕然と目を見開く。
「てりゃあああああっ!!」
ズバァァァァァンッ!!
敵の炎の柱を纏ったミツルマンの全力の斬撃が、温度差にクリーンヒットする。
彼女のHPゲージが、一瞬にして危険域(赤)へと沈み込んだ。
「ぐあっ……!!」
だが、円卓のメンバーに動揺はない。
彼らには『俺もお前も俺(量子もつれ)』による、
完全無欠のHP共有があるからだ。
俺もお前も俺、フェンサー、アサシン、倒れ伏す温度差。
全員が、瞬時にHPが緑(全回復)へと戻ることを確信していた。
しかし――待てど暮らせど、彼女のHPは1ミリも回復しなかった。
『……は?
なんで、回復しねぇ……ッ!?』
「え? マジで? 嘘だろ……俺ちゃん、どうなってんの!?」
回復しない事実に、円卓のメンバーが初めて明確な『絶望』の声を上げる。
……当たり前だ。
お前たちの量子リンクは、すでに僕のバグで書き換えられている。
円卓メンバーのダメージを共有する量子リンク(回復プログラム)は、僕の撒いた『数千万のラメ』という架空の対象(ALL)にまで誤接続されてしまっていた。
システムは今、「円卓6人+数千万のラメのHPを足して、均等に再分配する」という天文学的な無限ループの計算に陥っている。
ピガ……ガ……ガッ……!!
処理落ち(スロウ状態)が発生し、円卓メンバーの動きがコマ送りのようにガクガクと震え始めた。
『ク……ソ……ガァァァ……はぁはぁ……
【林檎の天秤】…強制……解除。ォォォ!』
あまりのシステム負荷に恐怖した『俺もお前も俺』が、悲鳴を上げながら量子リンクを強制遮断する。
「ふっ……これでお前らのお遊戯会は終わりだ」
僕は眼鏡の奥で暗く笑い、死刑宣告を突きつけた。
「クソがぁぁぁぁ!!
せめてあのハゲ女だけでもぶっ殺してやるあああ!!」
回復手段を断たれ、死を悟った温度差が、最後の意地で再び空間分子の振り分けによすスキルを発動した。
炎と氷を交互に放つ彼女の特性通り、今度の魔法は極寒の氷だ。
【零式・双極氷柱】!!!!
標的は、ヘイトを稼いでいたミツルマンではなく、彼女が最初に接敵した非力そうなシロロだった。
猛吹雪を伴った巨大な氷塊が、鋭い冷気を散らしてシロロへと迫る。
だが、彼女は僕の中にあるシロロのデータには無い手段でヤツを葬った。
「お姉さんこわーい!! そんなに怒ってるとシワ増えるよ??しかもまたハゲって言った!!許さないんだから。」
シロロはケラケラと笑い煽り怒りながら手に持っていたファンシーなバインダーを開いた。
「でもピカピカしててカワイイね! その氷ちょうだい!!
えーいっ⭐︎」
【詐欺装飾士スキル:私だけのシール帳♡】
「『ただの石ころ』(Nシール)とー! お姉さんのその氷のスキル(SSR)、交換してー!!!」
ペタッ。
シロロが、バインダーから剥がした『ただの石ころ』のシールを虚空に貼り付ける。
その瞬間、システム上で極悪非道なトレードが発生した。
眼前に迫っていたはずの巨大な氷塊が、ポンッという間の抜けた音と共に『可愛い氷のキラキラシール』へと変換され、シロロの手元へと収まったのだ。
代わりに、温度差の目の前には『ただの石ころ』がポロッと転がり落ちる。
「……え?」
(……おいおい。魔法の相殺や無効化じゃない。
対象のオブジェクトIDと所有権を丸ごと強制的に書き換えたのか?)
僕は詳細観測で彼女のステータスを除き思わず目を丸くした。
『記録派生 特殊職業 詐欺装飾士』
……僕のシロロデータベースにそんな情報は……いつの間にそんなモノになっていたんだ。
とんでもない理不尽を隠し持っていたな。
シール交換。
文字面は可愛らしいが、実際に彼女がやっていることは
『事象の強制書き換え(等価無視のトレード)』である。
「私のシールと、あなたの持ってるキラキラしたモノ、交換して?」
女子社会における最初の一歩。
かつて彼女(温度差)も、子供の頃に経験したかもしれない、可愛らしいお遊び。
彼女の行動はそんな優しいモノじゃなかった。
それが円卓の魔術師の最後の希望を完全にへし折ったのだった。
『お前の物は私のもの』
僕はボソリと呟く。
「まるでカワイイジャイ〇ンだな……」
もはや盤面は完全にひっくり返った。
『俺もお前も俺』が誇っていた無敵の絶対回復(量子もつれ)は、僕の仕込んだバグの前に自壊し、すでに使い物にならなくなっている。
手駒のギミックを暴かれ、システムを封じられ、絶望の淵に立たされた円卓の幼稚園児たち。
さあ、ここからは――僕たち【混沌工房】による、本当の蹂躙の始まりだ。
第70話、いかがだったでしょうか。
ついにカオス・アトリエによる「本当の蹂躙」が始まります!
さて、今回イオリがどうやって敵の無敵の回復チート(量子もつれ)を破壊したのか、少しややこしかったと思うので現代風に噛み砕いて解説します!
前回、敵の能力は「自分のスマホを充電(HP回復)したら、離れた味方全員のスマホも一瞬で100%になるチート共有機能」だと説明しました。
今回イオリがやったえげつないハッキングは、簡単に言うと「その味方だけの『充電共有グループ』の中に、1000万台のダミーのスマホ(空中に撒いたピンクラメ)を無理やり追加登録した」ということです。
敵の指揮官がダメージを受けた味方を治そうと「同期(回復)ボタン」を押した瞬間。
システムは「えっ!? 5台じゃなくて、1000万台のスマホを今この1ミリ秒で同時に100%に計算しなきゃいけないの!?」とパニックを起こしました。
結果、超高性能なシステム(俺もお前も俺)でさえも、天文学的な計算量に処理が追いつかず、熱暴走してアプリがクラッシュ(メモリリークでフリーズ)してしまった……という理屈です。
フゥやシロロがばら撒いた「ただのカワイイゴミ(石の粉末)(ラメ)」が、イオリのバグによって1000万の「システムへの攻撃(処理落ち)」に変わった瞬間でした。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
〜次回予告〜
2/24 朝8時に投稿致します!
いよいよ反撃開始!カオス・アトリエによる怒涛の蹂躙が始まります!
しかし、この現場には敵のリーダー、カイザーも向かっております。
少しでも「イオリえげつない!」「シロロのジャイアニズム最高!」と思っていただけたら、
ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最強のバフになります!
よろしくお願いいたします!




