第67話:石術師、新しい地層(ヒーロー)に守られ、脆き泥岩を串刺しにする
視点:フゥ
状況:対フェンサー&見えない暗殺者合流
でお送りします!!
「ちょっとー! お姉さん卑怯じゃない?!?!」
「あら? あんなにイキって、その程度なの?」
私はあの日、私たちのクランホームへ土足で乗り込んできた
『聖刻の円卓』の軽口の男を見下ろしながら、冷たく微笑んだ。
口先だけの薄っぺらい男。
まるで、スッカスカの軽石みたいで何の魅力も感じないわ。
「へっ! お前なーんもスキル使えないの?
フゥちゃん、これ乗って移動してくれ!【加速回路】!!!」
隣に並んだドドンパ君がタクトを振るうと、私の足元に淡く光る霧の道が敷かれる。
この道の上なら、私の移動速度は1.5倍に引き上げられる。
『フゥ、フェンサーの座標を確認した。ヤツのスタイルはカウンターだ。
自分からは動かない。そのまま地形の崩落で攻め続けろ』
「了解よ」
『ドドンパ、万が一を考えて常に【濃霧予兆】を発動させておいてくれ』
「あいよ!」
ドドンパ君がスキルを展開し、敵の攻撃ベクトルを可視化しようとする。
けれど、軽口の男の体には一切の攻撃予兆が表示されない。
……やはり、相手のアクションを起点にする『カウンター』だけの男ね。
なら、足元から削り取ってあげる。
「【記憶地層:剥離黒曜の剣山】」
私が霧穿ち掘削器を地面に突き立てた瞬間、軽口の男の足元が黒く輝く地層へと書き換えられた。
火山ガラスである黒曜石が、特有の『貝殻状断口』によって
鋭利な刃となり、無数の剣山となって男の足を串刺しにする。
「うっっっっわ!! 痛っっっってええええええ!!」
「ちょ待って!まじやばい!俺ちゃんごめん!相性最悪!」
足の裏をズタズタにされた男が、見苦しく叫びながら『俺』と呼ばれたあの薄気味悪い男に通信を入れる。
「俺ちゃん! アイツまだ?」
「ははっ、了解!」
男が、不気味に笑った。
その瞬間だった。
ガキンッッッッッッッ!!!!
「……え?」
私のHPがいきなり赤ゲージまで激減し、気がつくと、私は仰向けのまま空を見ていた。
「?! フゥちゃん!」
「イオリ! やべぇ! 見えない攻撃がきたぞ!!」
『見えないな……。唯一の対抗策である《星界の天球儀》
のスキルの発動条件が、現在エリアのみ。
パッチワークエリアの仕様の為か、制限が僕のいる場所のみに限定されてしまっている……。』
イオリ君がVCの向こうで悔しげに何か分析しているけれど……私、こんな早く離脱かしら……。
必死に起き上がろうとしたけれど、体に力が入らない。
全身がひどく痺れている。
ステータスを見ると、【麻痺】の文字。
HPは10分の1もない。
……悔しい。
「体が動かないわ……。まるで、数千万年の時を経て固まる堆積岩になった気分ね……。
ふふ、悪くないわ……静かで……素敵」
私は微動だにしない自分の体を、静かな石の歴史に例えて自嘲した。
『……何を言っている? フゥ。
その層は、すぐに隆起して弾けるぞ』
イオリ君の呆れたような、けれど絶対的な自信に満ちた声が響く。
『ドドンパ。二人までと言うルールだ。一時離脱しろ』
「は?! なんでだよ!!」
『早くしろ』
「くそっ………、フゥちゃん。あのデータ馬鹿の言うことだ。……行くぜ」
ドドンパ君が後ろ髪を引かれるように、霧の道を使って一瞬で後方へ退避する。
『堆積岩と言ったか。……計算が出た。
Tマイナス12秒だ。この座標に、巨大な圧力が直撃する』
イオリ君の言葉の真意。
それはつまり、
「12秒後に味方がそこに突っ込むから、それまで死ぬな」という無茶苦茶なオーダーだ。
「……ええ、分かったわ。私の地層は、どんな造山運動にも耐えてみせるわ。……最高の貫入を、待っているわね」
私は動かない口元に、微かな笑みを浮かべた。
「おーい!! 居るか居ないか分からないけど」
軽口の男の口調が、先ほどまでのふざけたものから、
徐々に低く、冷たいものへと変わっていく。
「いつもの、やってよ」
その時だった。
軽口の男が、何故か自分の武器を『何もない虚空』に対して振り下ろしたのだ。
虚空に対して振るわれた剣は、まるで目に見えない強大な攻撃とぶつかり合ったように、激しい鍔迫り合いのエフェクトを弾けさせた。
「はい、ご苦労さん」
「君たちの作った武器……返すね?」
【雄武二点突き(オウムニテンヅキ)】
男のカウンターは、敵の攻撃だけを返すものではなかった。
味方(暗殺者)が放った『見えない攻撃』すらも自ら受け止め、それの威力を増幅して標的に向けて反射する、
最悪の理不尽。
ズドォォォォォンッ!!!
ズドォォォォォンッ!!!
その瞬間、2回。
凄まじい轟音が鳴り響いた。
地響きを上げながら、私の愛する地面が悲鳴を上げて泣いている。
増幅された不可視の致死攻撃が、動けない私へと迫る。
『チッ……計算が狂った。ミツルマン、急げ!!』
VC越しに、珍しくイオリ君の焦った声が響いた。
(……ごめんなさい、イオリ君。12秒持たなかったみたい……)
私が目を閉じ、静かな死を覚悟した、その時。
「お願い! 当たらないでーー!!」
純粋で、真っ直ぐな子供の声が、轟音を切り裂いて響いた。
「あ! 当たんなかったー!」
「……え?」
私の体に、衝撃は来なかった。
恐る恐る目を開けると、私の目の前には、身の丈に合わない大きな剣を構え、満面の笑みを浮かべる小さな背中があった。
「ミツル、マン、君……?」
私は、何が起きたか分からなかった。
ただ、彼の声の響きだけが、理不尽な物理法則をすり抜けて、奇跡のように私を守っていた。
『……音声認識による乱数調整(回避バフ)か。
純粋な『お願い(スキル)』が、見えない暗殺者の命中判定(システム演算)をギリギリで上書きした……か』
イオリ君……貴方なんて物を作ったの。
勇者すぎるわ、ミツルマン君。
「正義のヒーロー!めっちゃ強ーいミツルマン!参上!
あ! 勇者だぞ!」
ミツルマン君は、小さな体でかっこいいヒーローポーズをとる。
その頼もしい姿を見て、私は思わず口元を緩めた。
「ふふっ。まるで『地層累重の法則』ね。
……後から上に重なった新しい層が、古い層(脅威)を完全に覆い隠して守ってくれたわ」
「……え? あれ? ドユコト?」
自分の必殺のカウンターが完全に無効化されたのを見て、
軽口の男が固まる。
「青色のおじさん、フゥお姉ちゃんをいじめないで」
『よくやった、ミツルマン。僕が行くまで、鉱石王国の姫を守るんだ。勇者として』
イオリ君が、ミツルマン君のモチベーションを最大限に引き上げる見事な指示を投下する。
「うん! kおじさんわかったー!」
『おおおおおおおおん……!ミツルマンんんん……!
立派になってぇぇぇぇ……!』
VC越しに、ジィサンが滝のように泣きながら何かを言っているが、嗚咽が凄すぎてよく聞こえないわ。
泣きすぎよジィサン。
「よくわかんないけどさ、君……かっこよ!!!」
フェンサーが目を丸くしている。
「おじさん、やるの? やらないの?
姫をこれ以上攻撃するなら……やっつけるよ?」
ミツルマン君が剣を突きつける。
「ウッヒョーー!僕いくつ?カイザーより頼りになるねー!」
その時、私の指先に感覚が戻ってきた。
「……強固な岩盤も、圧力の逃げ道ができれば崩れるものね。……パラライズ、解けたわ」
私は状態異常が解けた瞬間に、インベントリから回復アイテムを取り出して呷った。
緑色のエフェクトが体を包み、私のHPは危険域(赤)から黄色ゲージの中盤まで回復する。
アイテムのクールタイム(CT)が上がるまで、あと30秒。
ミツルマン君……君は将来、立派な鉱石王国の王様になれるわ……。
(……って、私、鉱石姫?8歳と結婚?まずいわね。
ジィサンに文字通り粉々に砕かれちゃうわ)
「姫!! 待っててね! オレがやっつける!!」
……将来、鉱石好きの女子が貴方に群がるわよ。
そんなこと言ってると。
「次の攻撃まで何秒? ……だよねー………1分耐えるわ」
軽口の男が、空中の見えない誰かと会話している。
次の攻撃?あの見えない攻撃の事かしら?
『……例のシュレディンガー(見えない暗殺者)がいるな。
奴らは「自分らで課したルール」も守れん幼稚園児だ』
イオリ君が吐き捨てるように言う。
「本当ね、ダサくて気持ちが悪いわ。まるで『泥岩』みたい。
スカスカで脆くて、少し水を含んだだけでドロドロに崩れ落ちる……本当に気持ちが悪いわ」
「あ、俺ちゃんバレるよこれ! 何が『バレない』だよー! よく考えたら丸わかりだね!」
フェンサーがケラケラと笑う。
「え?あ、そうか俺が言ったからじゃん!まじウケピーナッツ!」
どこまでも癪に触る喋り方ね。
物事をただの数値でしか喋らないイオリ君の方が、
よっぽどマシに見えてくるわ。
「もうーいい? 悪役のセリフ待つのもヒーローの役目だけどさ、オレ飽きた」
ミツルマン君が剣を構え直す。
『ミツルマン、構えろ!そのまま押し込め!』
「うん! いくよっ!!」
ミツルマン君は、気合いの言葉と共にスキルを発動した。
「はあああああ! おりゃあああ! 喰らえーーーー!!
ビックバン勇者ソード!!」
その瞬間、彼の剣と小さな体から、とてつもない光のオーラが爆発的に吹き上がる。
「あっヤバそ。【等価なき交渉】!!!」
軽口の男が対抗してスキルを発動し、
呪文のような超高速のチャット(文字列)を空中に弾き出した。
すると、男の口から放たれた
『文字化けしたようなログの羅列』が物理的なノイズの壁となり、ミツルマン君の小さな体を包み込む。
プツンッ。
ピーーッというシステムのエラー音と共に、ミツルマン君から溢れていた光のオーラが、嘘のように消え去った。
「あれ? 発動しないよー、kおじさん!!!」
「ラッキー! 44%引いたわ! 勇者君ごめんね?」
男が放ったスキルで、ミツルマン君の特大スキルが強制的にキャンセルさせられてしまった。
『44%……恐らく確率のスキル解除か…。厄介だな。
ミツルマン、怯むな!通常攻撃でヘイトを稼げ!
僕のエリア到着まで後2分だ』
「わかった!! てりゃあああっ!」
ミツルマン君が果敢に剣を振り回すが、フェンサーはそれをヒラヒラと躱し続ける。
そして、彼が宣言した「1分」が経過した。
「ほいきた、1分いいよー。いくよー」
再び、虚空に剣を振る軽口の男。
【雄武二点突き(オウムニテンヅキ)】
ズドォォォォォンッ!!!
ズドォォォォォンッ!!!
見えない暗殺者からの攻撃を反射し、再び1.5倍の理不尽が放たれる。
くっ……せめて!!
「【記憶地層:剥離黒曜の剣山】!!」
私は残ったMPを振り絞り、男の足元を再び黒曜石の刃で隆起させた。
足場が強制的に書き換えられ、男の体勢が大きく崩れる。
「あっ、やべ! 逸れちった!」
男の放った見えない斬撃が大きく軌道を逸らし、私たちの横の地面を深く抉り取った。
『ミツルマン!フゥが壁(足場)を崩した!
そこに最大火力を叩き込め!』
「任せて!!」
ミツルマン君が剣を高く掲げる。
私はそれを見計らって、【記憶地層】を解除した。
「ばーか! あーほ!! てーーーーい!!」
「姫ありがと! いくよー!!炎の神よ! オレに力をー!
与えてくださいーー!!」
ブワッッッッッ!!!!
ミツルマン君の剣に、凄まじい熱量の炎が宿る。
それは単なる魔法ではなく、勇者の純粋な願いがシステムに
直結したような、圧倒的な輝きだった。
「クッッソ、CT間に合わね……俺ちゃんごめん!
もらうわ!」
ドゴォォォォォン!!!
炎の剣がフェンサーを直撃し、彼のHPゲージが一気に黄色へと到達する。
だが、その瞬間に。
シュンッ。
何事もなかったかのように、彼のHPが緑色(満タン)へと戻っていった。
「反則ね……本当それ……!
でも……イオリ君が来るまで……!!!」
彼が吹き飛ぶ方向に向かって、私は霧穿ち掘削器を地面に突き刺す。
「【耐熱結晶壁】!!」
ミツルマン君の熱量に負けないで頂戴よ……私の結晶ちゃん。
ズゴゴゴゴッ!
と隆起した半透明の結晶壁が、吹き飛ばされたフェンサーの
背中を、熱ごとガッチリと受け止める。
そして、私はその壁の岩肌に向かって、さらにスキルを放つ。
「(……ミツルマン君の熱をたっぷり吸い込んだ、
私の結晶ちゃん。その極端な『熱変成』を利用すれば、飛び出す黒曜石(火山ガラス)の鋭さは限界(システム上限)を超えるわ……! )」
串刺しになりなさい。
「【記憶地層:剥離黒曜の剣山】!!!」
背後の壁から、無数の超硬質な黒曜石の刃が飛び出し、
彼を包み込む。
「ちょっっ!! うがああっっっっ!!」
ザマァないわね、イキリ男。
ミツルマン君の炎の斬撃と、私の黒曜石の串刺し壁が、完璧なタイミングでダブルヒットした。
『よし、エリア突入。これよりスキルを発動する。
ぽよん、東に1ブロック進め』
突然、VCからイオリ君の足音と、冷徹な声が響いた。
『ぽよ〜〜!! 東なのだ〜!わかったのだ〜〜〜!!』
「俺ちゃん……まずいわ……舐めてたんだよ俺ら……こいつらの連携がおかしい……!」
血まみれになったフェンサーが、初めて焦りの声を上げる。
私は、荒い息を吐きながらも、思わず笑みを深めた。
イオリ君が、ついにこの戦域に到着した。
それに、わざわざ離れた場所にいる「ぽよんちゃん」
まで呼び寄せて……。
一体、この混沌とした空間(盤面)に、あのデータ馬鹿はどんな『正解』を刻むつもりなの……?
第67話どうだったでしょうか?
ついに本格的に戦闘シーンに参入した勇者ミツルマン(2回目だけど)
あまりにも純粋な彼の勇者心は地質ヲタクのフゥの心を射止めました(?)
そしてフゥ達のエリアに入ったイオリが何をするのか。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
20時に投稿致します!
少しでも「こいつヤバいな」「どうなるか面白そう!」と思っていただけたら、
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