第65話:装飾士、激熱塩キャラメルを放出してシール帳で詐欺を企む
◇ 特設フィールド 奥地
VC越しに響くドドンパ君やイオリ君の怒声。
みんなはバラバラに飛ばされちゃったみたいだけど、私はそれどころじゃなかった。
目の前にはなんと、
なんかすごく怒ってるお姉さん(温度差で逝けよ)がいるのだ。
しかも顔が怖い。元の顔はカワイイけど今は全然可愛くない。
ズドォォォォンッ!!
数千度のミミックの胃袋から射出された、カワイイ(えげつない)ピンク色の超高圧スチームレーザーが、森の奥深くで大爆発を起こした。
私はイオリ君の指示で、宝石変換鞄に『ただの水』を入れた。
すると、固有スキル【宝飾武装化】で
『キラキラした熱いお湯(比熱MAX)』に変換されて、
それをお姉さんに向かって撃つと……。
なんかすっごい爆発して、煙がムクムク〜!
ってなって、カワイイ目眩し⭐︎って感じになったのだ!
その時だった。
お姉さんがスキルを発動する声が聞こえてくる。
「クソがっ!! 炎よ!【双極炎柱】!!」
お姉さんが叫ぶと、周囲の空気が一気に熱くなる。
「イオリ君! なんかあの人、煙の向こうで炎技スキルを私と真逆に撃ったよ?」
私が見たままを伝えると、VCの向こうでイオリ君の冷静な分析が始まった。
『真逆?先ほどの対策だろうが……何故撃つ必要がある。
いや、分かったぞ。交互にしか発動できないんだ』
『ほっほ、なるほどの』
ジィサンの納得する声が聞こえる。
『奴は空間の熱量を振り分けているんだ。
極端な熱と冷却を、同じ空間に同時には出せないんだろう』
あー!もう!分かんない!
何言ってるのー!
とにかく可愛くない理論なのはわかる!!
「うん、どうしたらいいの?」
『シロロ、お前は僕の人形になる必要はない。
ただ可愛くしろ』
イオリ君のその言葉に、私はパッと顔を輝かせた。
そう、私は装飾士。
世界を可愛くデコるのがお仕事なんだから!
「あはっ! 分かった! ねぇねぇ、イオリ君!
氷使うなら、こないだの『凝固点何ちゃら』は?」
『……。氷砂糖と岩塩を持っているなら……入れてしまえ、鞄に。
フッ……「キラキラ塩キャラメル攻撃」だ』
イオリ君が少し呆れたように、でもノリノリで恐ろしい指示を出してくる。
なんかカワイイ攻撃名!いいね、それもらうー!
『シロロ!!
いいか、今みんなの目にはお前の位置がAR表示で映し出されている!!』
私には何を言ってるのかわからないけど、みんなに私の姿が見えてるのかな!?
それなら、可愛く映ってるといいなぁ。
そんなことを考えながら、私はポシェット(ミミックちゃん)を開けた。
『ジィサン、今座標が一番近いのはジィサンです。
最大の自動追尾射程を教えてください』
『ゲートボールは本来そんな距離を飛ばすものではない……
だからのうイオリ君……100mだぞい』
100メートル!?ゲートボールってなんだっけ??
私はそもそもゲートボールのルールをよく知らないけど、なんかすごいんだね!!
『フッ……十分すぎます。座標C-7へ移動。
シロロ製「爆裂ボール」はありますね?
セットして視認したら、当たらなくても構いません。
移動の牽制をかけつつ潰してください』
『あいわかった!』
ジィサンの『あいわかった!』って言葉を聞くと、何故だかすごく安心する!お爺ちゃんカワイイし!
そして、ピンク色の蒸気が少しずつ晴れていく。
目の前には、ほっぺたを赤くして、いかにも「怒ってます!」って顔のお姉さんが立っていた。
(ええーめっちゃ怒ってるんですけどー!チョー怖い!)
『ほっほ、準備の時間はワシが作らねばな……それぃ!!!』
カァンッ!
カァンッ!
カァンッ!
カァンッ!
カァンッ!
森の奥から、澄んだ打撃音が連続して響き渡る。
ジィサンが、私が事前に作っておいた
「爆裂キラキラボール(見た目はカワイイけど中身は凶悪な爆弾)」を、100m先から女の人の周りに向けて正確に打ち出してくれたのだ!
ドカッ!
ドカッ!
ドカッ!
ドカッ!!!
バンッッッ!
ピンク色の爆発が、女の人の周囲を連続して包み込む。
「はっ?! どこから?! くっそ、こいつら連携めんどくせぇ! ハゲ女がぁ!!」
「はーーーーー!!?ちょっと待ってー! あり得ない!! こんなに髪の毛可愛く決めてるのにぃー!
あとハゲてないし!!」
もう怒った! 許さないよ私!
乙女の髪型を侮辱するなんて万死に値する!!
ジィサンの爆撃に牽制され、女の人が防御行動を取る。
「くっそ、マジでこの爆発うざいな……くっそ!!!!!
【氷焔の巫女スキル:白銀の要塞】!!」
女の人が極厚の氷のバリアを何重にも張り巡らせる。
よし、今だ!
「やってみる!! えーいっ⭐︎!」
私は、イオリ君の指示通りにインベントリから大量の
『氷砂糖』と『岩塩』を取り出し、数千度の熱量を持つポシェットの口にドサドサと放り込んだ。
『ゲフゥッ……ゴボボボボボボ!!』
ミミックの胃袋の中で、岩塩は溶けてドロドロの「溶融塩(超高温の塩の液体)」になり、氷砂糖はドロドロの「超高温のキャラメル」へと瞬時に変わる。
そして、その二つが混ざり合った時……。
「いっけー! 激熱・塩キャラメルシロップの刑!!!」
ポシェットの口から、キラキラと光を乱反射する、数千度に熱された粘り気たっぷりの塩キャラメル(スライム状の流体)が、大砲のように射出された!
「また水か! アホの一つ覚えが……凍れ!!」
女の人は、迫り来る塩キャラメルをただの水蒸気だと思い込み、全力の氷技(絶対零度の冷却)をぶつけて凍らせようとする。
でもね、お姉さん。
氷砂糖と岩塩がたっぷり溶け込んだ塩キャラメルは、
0度なんかじゃ絶対凍らないんだよ!
後で聞いたんけどね!
圧倒的な糖分と塩分濃度による『凝固点降下』って言うんだって!
お姉さんの悪魔さんがいくら温度を下げようと頑張っても、シロップは液体のまま、極厚の氷のバリアにベチャッ!
とへばりついた。
ジューーーーーーッッ!!!
「な、なんで凍らないの!?」
お姉さんがパニックになって叫ぶ。
氷の壁は、塩キャラメルの
「めっちゃ熱いヤツ(比熱の塊)」と「凝固なんちゃら」の
ダブルパンチで、あっという間にドロドロに溶かされていく。
「あまじょっぱくてカワイイでしょー!!」
最後は、防壁を抜けた塩キャラメルが、お姉さんの全身をベチャベチャにコーティングした。
私の無慈悲なカワイイ攻撃がクリーンヒットし、お姉さんの頭上に表示されたHPゲージが一気に削れ、安全圏の緑から、
危険域の「黄色」へと突入する!
「やった! カワイイの勝利ー!!」
私がトドメを刺そうと、もう一度ポシェットを構えた、その瞬間だった。
シュンッ。
通常、回復魔法やポーションを使えば、「緑色の光ピカァ」とか「回復のエフェクトがキラキラ」ってあるはずなのに。
でも、お姉さんのHPゲージは、何の予兆も、光のエフェクトも一切なく、ただ画面の表示が切り替わるように、一瞬でフル満タンの『緑色』に戻ってしまった。
えっ?何これ?
塩キャラメルで火傷してドロドロになっていたはずのお姉さんの姿も、まるで「最初から何もなかったかのように」綺麗な状態に巻き戻っている。
「……ふっ。流石だなぁ、薄気味男。あんたの林檎の能力、
ほんとどんな理不尽なサポートシステムしてんのよ」
お姉さんは、自分の体が元に戻ったことを確認すると、不敵に笑った。
『シロロ!一旦退がれ!』
突然、VCからイオリ君の焦ったような、それでいて酷く混乱した声が響いた。イオリ君が焦るなんて珍しい。
『なんだ今の回復は……!?
魔法の詠唱ログもない、アイテムの使用ログもない!
そもそも「HPが回復した」という遷移データすら存在していない!ダメージを受けて黄色になったという事象そのものが、
システム上でいきなり「無傷」に上書きされた……!?』
VC越しに、イオリ君が天球儀のデータを睨みつけながら早口で分析しているのが伝わってくる。
『円卓の指揮官……「俺もお前も俺」が、ルールで許された
「サポート行動」として何かをしたはずだ。
だが、HP変動のロジックが全くの未知数だ!
何の干渉を受けたか特定するまで、無闇に攻撃するな!
退避しろ!』
難しいことはよくわかんないけど、とにかくヤバいってことだよね!?
「くはっはっは! バカ女が逃げる後ろ姿ってさいっこー……凍らせて燃やしたくなっちゃうわぁ……♡」
回れ右をして逃げ出した私を追わずに、お姉さんが汚い笑い声を上げる。
「これでも喰らえよ、ハゲ! 【破壊の三叉戟】!!」
あーもう最悪!! めっちゃ嫌な事言われてるー!!
だからハゲてないってば!!
「ってえええ?! 何!ひっ!あっ!! やばいいい!!」
私の走る方向に、次々と炎と氷の柱が地面から、そして空中から唐突に現れる。
熱いし冷たいし、もうパニックだよ私!!
「イオリくーーーーん、私HP消えそううううう!!」
『ジィサン!!
シロロの退避ルートに渡しておいた石灰弾を!!』
えっ!?お爺ちゃん、そんなの持ってたの!?
イオリ君、どんだけ準備良いのよーー!
「ひっ!! もうやだー!!」
必死な顔して逃げてる私、絶対可愛くない!
こんなのがLIVE配信されて、全サーバーのプレイヤーに見られてるなんて無理!! お嫁に行けない!!
「ほいさっ!!へいやっ!これでどうかな、シロロのお嬢ちゃん!」
スパンッ、スパンッ。
プシューーーーッ。
お爺ちゃんの心地よい掛け声と共に、私の後ろ一面に真っ白な石灰の粉塵が広がった。
煙幕のおかげで、炎と氷の柱の追撃が止む。
でも……。
「ケホッ、ケホッ……うぅ……せっかく見た目装備新調したのにぃ!!」
お爺ちゃんのおかげでなんとか離脱できた私は、全身真っ白な粉まみれの『妖怪カワイナイ』へと変貌を遂げていた。
最悪だ。
しばらく走ると、お爺ちゃんがゲートボールスティックを杖代わりにしながら合流してくれた。
「ほっほ……嬢ちゃん……すまないねぇ、真っ白にしてしまって……」
「……可愛いですか? こんな粉まみれでも」
私は少し怒った顔を膨らませながら、お爺ちゃんに聞いた。
『シロロちゃん……ARでもなんか、白っぽく見えてるよ……』
VCからドドンパ君の間の抜けた声が聞こえてくる。
『ドドンパさん……そういうのって、言わないほうが……』
ルナールちゃんがすかさずフォローを入れてくれる。
ルナールちゃん、もっと言って!!
ドドンパ君はデリカシーがないのよ!
『あ……すんません』
『敵の座標が消えました。追ってきてはいなさそうです』
イオリ君が淡々と報告する。イオリ君、私のカワイイ心配もしてよ。
もう。
「あ、ああ、可愛いとも。いつだってシロロのお嬢ちゃんは可愛らしいぞぉ……」
お爺ちゃんが申し訳なさそうに目を逸らしながら言う。
お爺ちゃん、そこはもっと自信持って「可愛い」って言って???
そんな時だった。フゥちゃんからVCが入った。
『イオリ君、私の目の前。フェンサー目視。座標更新したわ。
みんなに座標出してくれる?』
『少し待て。天球儀のパッシブ再発動には、60秒のクールタイムがかかる』
『ぽよ〜〜!な、なんかロン君が逃げろって言うのだ〜〜!
空中をなんか食べようとしてるのだ〜〜!』
今度は、ぽよん様の悲鳴が聞こえてきた。
「ぽよん様?!? 大丈夫ですかああああ?!」
こんなピンチの時だけど、ぽよん様はいつだって可愛い。
悲鳴も可愛い。どう言う事なの?カワイイ指数幾つなのよもう!
『ぽよ〜〜〜!
マカロン食べて逃げるのだ〜〜!!』
『チッ、フゥが言ってた「見えない攻撃」か。
しかも同時に2箇所で接敵……』
イオリ君が舌打ちする音が聞こえる。
『イオリ、フゥちゃんと俺の距離わかるか?』
『ドドンパが最初の座標から動いていないのなら、フゥの現在地より東に3ブロック進んだところだ』
(あ! わかる!1ブロック150mなんだっけ?このゲーム)
『了解。フゥちゃん、俺合流するわ』
『ええ、お願いするわ』
私は一時難を逃れたけど、戦場は同時に2箇所で激しい戦闘(接敵)が始まりそうになっている。
私はいつも「可愛い」しか見てないから、イオリ君の言うとおりにするしかない。
私には、何もできないのかな。
……いや、そんな事ないよね!
イオリ君にも秘密にしてたけど、私だって、ただの装飾士じゃない。
私の「カワイイ」は、もう次のステージ(職業進化)に到達してるんだから!!!
【プレイヤー:シロロ】※UIは特殊仕様です。
※このカワイイは真似できません
【私だけのシール帳】起動中
▶︎ 所有者:シロロ
▶︎ 記録派生:特殊職業:詐欺装飾士
▶︎ 現在のカワイイ指数(システム干渉力):カワイイマックス(MAX)
【 ページ1:手持ちのシール(ストック事象)】
・⭐︎ ボンボンドロップ・シール(SSR:超絶カワイイ!)
・『宝石のクマさん人形(キラキラ仕様)』 ×1枚
・『キラキラ光る粉(パステルピンク仕様)』 ×1枚
※ タップで任意の対象に『デコ付与(事象の上書き)』
・⭐︎ 100均・おなまえシール(N:地味。可愛くない)
・『ただの石ころ』(生産者: フゥ) ×9,999枚
・『泥だんご』 ×450枚
※ トレード時の『押し付け用(詐欺素材)』として使用。
【 トレード・リクエスト(強制取引) 】
▶︎ 対象の事象を選択してください:[ 現在:敵検知不可 ]
▶︎ 交換に出すシールを選択してください:[ 100均シール(ただの石ころ) ]
ふふっ。
「カワイイ」は正義。
そして、「可愛くないもの」は、シールにして上書き(デコ)しちゃうんだから!
シロロの新職業!!最近流行ってますよねシール帳。僕……と言う言い方では誤解を招きますが私もやっていました。
現実世界では女子社会への一歩となるこのシール帳がどう発揮されるのかっ!
『俺もお前も俺』の能力が判明?!
〜次回予告〜
20時に投稿します!!




