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第63話:観測者、深淵の天球儀を起動し、狂気の祭典へ駒を進める

追記 2/20 20:30

あとがきの予定時間を変更いたします…。

作者のリアルで実母が来るアクシデントが発生したため延期とし、明日朝8時に変更します。


 10秒……5、4、3、2、1……0。


「よし」


 静寂に包まれたボス部屋に、僕の低い声が響いた。


 手元のウィンドウの時計が、巨神のドロップからピッタリ1時間を刻んだ瞬間、僕は足元で青白く輝く真核をインベントリに収めた。


「これで、戦闘内容ではなく、時間をかけて正確に準備した土台が入った」


[内訳:本の設置、回路構築+配線設置+ボスの能力]

 記録設計ログデザインは完璧なはずだ。


 この1時間、ただ待っていたわけではない。

 磁硫石で描いた物理磁気回路、量子力学の学術書の配置、そして氷晶巨神の真核ベース

 それらが一つのデータとして完全にパッケージングされた。


「だが、システムへの完全な干渉能力……これほどのイレギュラーだ、強烈なデメリットがつく可能性があるな……」


 それでも、後悔などない。


 僕は新しい武器の目覚めに期待を膨らませながら、誰もいない氷の部屋の中央にある転送装置の石碑に触れた。


 ◇ 混沌工房カオス・アトリエ

 転送の光に包まれながら、僕は妙な確信を抱いていた。


 こうやって何か大きな出来事があった後にインク瓶のクランホームに戻ると、見た目がアップデートされているのをな。


 前回は謎のマカロンが追加され、備考には『インク瓶』と書かれていたが、完全にオマケ扱いのベースに成り下がっていた。


 光が収束し、目を開ける。


 さぞや毒々しい装飾がされているのだろう。


 ほらな、

 クランホームは予想通り見事なアップデートを――果たしていなかった。


「……。そうか、シロロは今日ログインしていなかったな」


 少しだけ拍子抜けした自分がいる。


 いや、僕は期待していたのか?そんな訳ない。

 外見ガワへの執着など僕にはないからな。機能美こそがすべてだ。


「僕も疲れているな」


 そんな事を呟きながら、ため息交じりにクランホームの扉を開けた。


 ◇ 混沌工房内

 無駄にピンクの装飾が広がるあの異様な空間が広がっ――ていなかった。


「……………。」


 僕は勘違いしていたのだ。

 そうだ、外側だけではない。

 中もだ。


「ぽよ〜〜!  人間k!  終わったのだ〜〜??」


「……。」


 出迎えたのは、起きマカ状態のロン君(頭上に『?』マークをポップさせている)と、ドヤ顔のぽよんだった。


 だが、僕の視線は彼女たちではなく、部屋の惨状に向けられていた。


 ピンクの装飾でただでさえ目が痛かったのに、そこらかしこにマカロンのソファー、カーテン(よく見ると柄がマカロン)、グミのクッション(?)、そして天井から吊るされた琥珀糖のオブジェ。


「ぽよん……。なんだこれは?」


「ぽよ〜〜〜!  よくぞ気が付いた、人間k!!」


 ぽよんが王笏を天に掲げる。


「ついに世界征服おやつが動き出したのだ〜〜〜!!」


 ロン君もそれに合わせてマッスルポーズをとっている。

 どう見てもボディビルダーだ。


「あ、そうか。了解だ。……ぽよん、真核が完成して今から重要な作業をする。頼むから少し静かにしていてくれ」


 僕は頭を抱えながら、極力穏便に交渉を試みた。


「おやつくれなのだ〜〜〜!!!  ぽよ〜〜!」


 交渉決裂。

 ロン君までマカロンの口をあんぐりと開けて待機している。


 とっとと核生成コンバージョンを済ませたかった僕は、インベントリから『氷砂糖』の入った袋と『氷晶石』を無造作に放り投げた。


「ほら、これで大人しくしてろ」


 ロン君は勢い良く食い意地を張り、マカロンの体をビヨーンと伸ばして鉱石ごと口へと収める。


 ガリガリと鉱石が溶け砕かれる音がして、しばらくすると。


『ゲェップ♪(ごちそうさま)』


 満足したか、よかったな……。


 ぽよんも貰った氷砂糖を地面に座り、足を広げながらご機嫌に食べ始めた。


「ぽよっ〜♪ ぽよっ〜♪ ぽよっぽよぽよ〜♪」


 親とはこんな気持ちなのだろうか。親心とは。(哲学)


 僕はカオスな空間を無視し、やけに派手にデコられた核生成施設へと足を運び、真核をセットした。


「形になれ。僕の観察器具」


 施設の元に水色の光が放たれるのと同時に、僕の体にまでその光が移っていく。


「なんだ……エフェクトがやけに重い……」


 膨大なデータが書き換えられる感覚。


 そして……ついに完成する。


 僕は新武器を手に取り、装備した。


「ステータスオープン」


【プレイヤー情報更新】

 • 対象: イオリk

 • 職業: 観測士 記録派生―超特殊職業【深淵の観測者(アビス・オブザーバー)

(※1999人の視線のログを脳内に直接展開し続ける、廃人職業。)


【装備情報】

 • 名称: 星界の(アストロラーぺ)天球儀(パノプティコン)

 • 種別: [特殊触媒 / 空間演算機]真核武器

 • ランク: ログデザイン級

 • 製作者: イオリk

 • 属性: 無(システム干渉)


[ログ構成]

 • ログ名:『千九百九十九(パノプティコン)星屑(ダスト)

 • 機構: 磁硫石ピロータイトの物理磁気回路(回路の結線)

 • レンズ: 氷晶巨神の真核(絶対捕捉の指向性転用)

 • 演算: 学術書『観測限界と波束の収縮』等、計4種の量子力 学テキストによる並列計算


[固有パッシブ]

 • 【事象の強制収(デコヒーレンス・スキ)(ャン)

指定した空間座標において、1999人の視線ログを重ね合わせることで「物質の存在」を強制的に確定させる。

確率的に存在をぼかしている対象を物理的な実体として引きずり下ろすが、演算負荷のため【効果時間は60秒】に制限される。

(現在のエリアのみ適用)


 • 【絶対座標の転写(システム・ミラー)

 巨神の鏡の性質を利用。

 捕捉した対象の座標を、磁硫石の回路を通じて「全プレイヤーの視界」へ強制的に必中表示(AR表示)させる。

 あくまで「位置の可視化」であり、実際の攻撃が当たるかはプレイヤーの技量に依存する。


[隠し効果]

 • 【高濃度糖分域の偽装(スウィート・ゴースト)

 特定の座標にシステム上の「糖分値(Sugar Value)」を極端に書き換えた偽のデータパッチを当てる。


[デメリット(代償)]

 • 【精神的処理落ち(ブレイン・ラグ)】:

起動中、イオリは1999人分の「視線」を脳内で同期・処理し続けるため、自身の移動速度が80%低下し、持続時間終了後は強烈な倦怠感に見舞われる。


 • 【物理的損壊】:

 氷の地面に磁硫石で描いた回路であるため、広範囲攻撃(DoT等)で地形が変わると回路が切断され、即座に機能停止する。


「……ちょっと待て。僕の職業が……」


 僕の想像よりも遥かに上の……クランホームどころではないアップデートが為されていた。


深淵の観測者(アビス・オブザーバー)

 観測する事への異常な執着により深く観察者へと成り果てる。

 Tavタヴの深淵を覗いた者。


 武器の性能は発動時間までの待機時間があるが、それは僕の観測士としてのスキルで多少の緩和が出来る。

パッシブも概ね予想通りだ。


 ロン君への作用がここまで出るとは思わなかったが。


「超特殊職業だと………」


 僕はぽよんがいるにも関わらず、このロールのスキル一覧を覗いて魔王の高笑いを決めてしまう。


 抑えられるわけなどない。

 僕の求めていた『観測』の極致が、今この手の中にあるのだから。


「ククク……ククッ……クハハハハ」


「ぽよ〜〜?  人間kがおかしくなったのだ……ぽよ〜っぽよ〜っぽよ〜っなのだ〜〜〜!!」


 僕の笑い声と、ぽよんの謎の合いの手が、甘い匂いの充満する工房に響き渡った。


 ◇ 翌日以降

 僕は現実リアルでの業務をこなしながらも、脳内では土曜日までの入念な計画と対策を練り上げていた。


 ルナールという変数スパイがいる以上、クランチャットでの作戦会議はできない。

 僕は直接メッセージで、各メンバーに最低限の役割と作戦の共有を送る。


 そして、フゥとシロロには、個人のメッセージで更に隠し玉となる指示を追加した。


ーーーー

[送信先:シロロ・フゥ]

[件名:石と可愛いの祭典計画]

これは二人にしか送っていない。

誰であろうと内容を明かすな。

イベント当日にフゥには大量の『ただの石』を渡す。

シロロは前回のイベントで使ったシールとラメを用意してくれ。

費用はこちらで持つ。

合図したらそれを『空中に飛ばせ』

いいか、大量にだ。頼んだぞ。

ーーーー

 これでいい。

 円卓の幼稚園児よ、お遊戯会イベントが楽しみだな。

 ククク……クハハハ……。


 ◇ 土曜日 イベント当日

 時刻は 9:00。


 ログインしている全冒険者の視界に、ド派手なホログラムウィンドウがポップアップした。


 画面の中では、極彩色の衣装を着た公式の解説者、『司会者ホブス』が、マイクパフォーマンスさながらのハイテンションで

LIVE放送を開始した。


『アー・ユー・レディ!?

  全冒険者のみんなぁ! 待たせたな!

 今日はなぁ、『World of Arche』 Ver.1.0の総決算を飾る特別イベント……2大クランによる特別エキシビションマッチが開催するぜー!!』


 ホログラムの画面が切り替わり、2つのクランのエンブレムが派手なエフェクトと共に激突する映像が流れる。


『激突するのは、

最前線を往くトッププレイヤー集団【聖刻の円卓】!

 対するのはぁー!!

謎多きトップ真核ブランド『k』の率いる【Chaos Atel(カオス・アト)ier(リエ)】!』


『見事勝利したクランには、次回Ver.2.0から使える『特殊キーアイテム』と『限定称号』を送るからな!!

  さらに、全プレイヤーが参加可能な勝者予想投票(応援キャンペーン)も同時開催だァ!!

  さあお前ら、熱狂の渦へ飛び込もうぜェェェッ!!』


 世界サーバーが、かつてない熱狂に包まれるのを感じる。


「っしゃあああ!  ついにこの時が来たぜ!  俺のタクトで円卓の連中を完膚なきまでに踊らせてやる!」


 ドドンパがタクトを振り回し、鼻息を荒くしている。


「ぜぇーったいに、私たちの方がカワイイんだから! 

円卓なんてキラキラにデコって、見えなくしてやるんだからね!  ねえミミックちゃん!」


 カチャッ、キラキラッ♪

 シロロが宝石変換鞄を抱きしめると、鞄の表面の宝石が同意するように眩い光を反射した。


「……彼らの足元がどんな『石』で出来ているか。じっくりと対話させてもらうわ。ええ、粉々にね」


 フゥはいつも以上に冷たい笑みを浮かべ、掘削機を愛おしそうに撫でている。


「ぽよ〜〜!!  勝って世界征服おやつなのだ〜〜!!  ぽよんの恐ろしさを見せつけるのだ!」


 ぽよんがロン君と共にマッスルポーズをキメる。


「ほっほ、若者の祭りにワシらも混ぜてもらえるとはありがたいことだのう。腕が鳴るというものだなぁ。なぁ、ミツルマンや??」


 ジィサンが温和な顔でゲートボールスティックを構え、孫に視線を向ける。


「うん!  爺ちゃんかっこいい!  オレも勇者の剣で、悪いやつらやっつけてやるぜ!」


 ミツルマンが純粋な瞳で勇者の剣を天に掲げる。


「あ、あのっ、私、精一杯演奏します!  不協和音なんて鳴らしませんから……足手まといにならないように頑張ります!」


 ルナールが竪琴を握りしめ、緊張した面持ちで叫ぶ。


 相手の能力の全貌が掴めない以上、ルナール。

 お前のスキルに仕込んだ78%の不良債権バックドアが最終的な鍵になるやもしれん。


 せいぜい踊れよ。ルナール


 それぞれの狂気と決意。すべてのツールは揃った。


 僕の観測限界を超えるための、最高の盤面だ。


 僕は、星界の天球儀を静かに構え、前方を見据えた。


「行くぞ」


 狂気と正解が交差する、戦いの火蓋が切られようとしていた。

〜次回予告〜


2/20 22:30〜23時を予定しています!!

追記前書き通りの予定変更をしました。


2/21 朝8時に投稿いたします!!

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