第61話:観測者、1999の星屑を保存し、起きマカと共に巨神に挑む
◇ 第1エリア エウレカ草原
時刻は19:50(土)。
夕闇が降りたエウレカ草原は、僕の美味しいクエストを受注できたプレイヤー達でごった返していた。
前回、僕が出した『黒豹団を炙り出せ』というクエストで
一気に1999人+1(僕)がエウレカ草原に集結した際は、運営が緊急でサーバーにテコ入れのメンテナンスを施す事態に発展した。
今回は、その時のサーバー強化のおかげもあってか、緊急メンテナンスも無く、至って普通に1999人がこのエリアに集結していた。
……いや、至って普通にこの人数の冒険者が同じ場所に集会している時点で、意味が分からないカオスな光景だが。
「……相変わらず、人がゴミの様に集まってきたな……フッ」
今回のクエスト内容は至極単純。
指定した場所(上空の一点)を集中して
**見つめる(観測する)**だけ。
狙いは、何か的を用意し、『1999人で大観測した』という事象そのものを【記録保持】することだ。
これが、次なる僕の『正解(決戦兵器)』を創り出すための、最も重要な素材の一つになる。
僕はクエスト受注者へ一斉通知を行い、依頼の完了条件と、的の存在を告げた。
周囲の冒険者たちがざわつき始める。
「的? ほんとに空を見るだけで10万Gかよ。『k』のクエストやばすぎだろ」
「でも夜だぞ? 暗くて見えんのか?」
「まぁ、とりあえず上向いて従えばいいでしょ。金もらえるし」
そんな中、僕はインベントリからあるアイテムを取り出した。
「よし、これだけあれば足りるだろう」
「ふむ?それはなんだ? イオリk君……随分と光っておるが……」
ジィサンが、僕の持つ袋を見て目を細める。
「これは、『発光鉱粉』が入った袋です」
「あら、シロロちゃんのアイテムね。私も前にもらったわ」
フゥが頷く。
以前、黒豹団のボスを倒す際にも使ったアイテムだ。
ドドンパに『キャンディ爆弾(火薬)』と一緒に渡し、特大花火の目眩しとして利用した時のアレ。
シロロの奴から「イオリさん、全然可愛くないからこれあげる!」という理不尽な理由で押し付けられた神アイテムだ。
だが……こんなゴミが、時にとんでもない『正解』を生み出す。
世界とは恐ろしいものだ。
そして……20:00が来た。
【System:特殊ユニーククエスト指定開始時刻】
[『k』の簡単凝視クエスト]が開始されました。
僕は『発光鉱粉』が入った袋を10個、地面に置いた。
「フゥ、発射台だ。……地面を隆起させて坂道は作れるか?」
「ええ、出来るわよ。お安い御用ね」
フゥが地面に自らの武器【霧穿ち掘削機】を突き刺すと、ゴゴゴ……と音を立てて土が隆起し、夜空へ向かう砲身のような滑らかな坂道が出来上がった。
「ジィサン。この袋を、フルスイングで空に打ち上げてくれますか?」
僕が頼むと、ジィサンは一瞬戸惑ったが、すぐに僕の意図を察してニヤッとした後、力強く返事をしてくれた。
「ほっほ、あいわかった!」
ジィサンがゲートボールスティックを構える。
フゥが作った坂道(発射台)を利用し、ジィサンが次々と僕の置いた袋を夜空へ向かって全力で打ち上げていく。
カーーンッ!
カーーンッ!
袋が上空で破裂し、中から無数の光の粒子――『発光鉱粉』が、夜空にばら撒かれた。
「おい、見ろ! あれが的だ!」
「光ってるぞ! あれを見つめりゃいいんだな!」
粉の入った袋(光る塊)が打ち上げられたことで、草原にいる全プレイヤーが「あれが的だ!」と騒ぎ、一斉に上空の光の粒子を凝視し始めた。
これによって、空を舞う光る粉を『ただ無言で見つめる1999人』という、新興宗教の儀式のような異常な行動ログがシステムに大量に流れ込む。
僕は静かにペンを構え、スキルを発動した。
「……観測士スキル:【記録保持】」
僕は、目の前の光景を「数値」としてロックする。
・対象:1999人の極大視線(観測者)と、空に散らばる無数の発光粒子(観測対象)
・状態:視線の交差による空間座標の完全固定
・負荷:システム許容限界の演算処理
・特殊効果:事象の強制確定と、全粒子に対する「独立したオブジェクト判定」の付与
一つの事象として保存をした。
やはりこのログの保存は、このゲームで一番のぶっ壊れスキルだろう。
そして今回のログに名付けるならそう――『千九百九十九の星屑』。
(……この「無数の粉に向けられた圧倒的な観測」という土台があればいい。
あとは、明日のボスからドロップする真核を繋ぎ、ぽよんの『甘味』の概念術式、そして先ほど買った『波束の収縮』の学術書を掛け合わせれば……)
僕の用意した中途半端な78%と言う不良債権が、これにどう作用するか楽しみだ。
どんな神がかった量子チート(遅延選択やシュレディンガーの猫)だろうと、過剰観測による処理落ち(エラー)へと強制的に引きずり込む、最悪の観測機(バグ装置)へと昇華する。
【System:報酬獲得条件達成】
【イオリk】より受注プレイヤー全員に 100,000 G が支払われます。
特殊ユニーククエストを掲示板から消去いたします。
「っしゃー!! きたー!」
「10万ゲットォォ!!」
「俺前回も参加したけど、楽ちんすぎだろこれ!」
冒険者たちの歓声が、地鳴りのように響く。
僕の視界には、凄まじい勢いで所持金が減っていくログが表示されていた。
【支払いログ:-199,900,000 G】
「……これでいい、帰ります。明日、日曜日は『真核』の入手です」
僕は2億G近く消し飛んだ資金に微塵も執着を見せず、静かに踵を返した。
僕たちは、報酬に熱狂する1999人のプレイヤー達を背に、町に向けて歩き出した。
(町の中やセーブポイント以外では直接転送できない仕様のため、草原を歩いて帰るしかないのだ)
町についた後、僕達はクランホームへ戻り、明日の第5エリア真ボスの討伐予定を告げて解散した。
ーーー
翌日。
日曜日。
朝8:50
僕、ぽよん、フゥ、ジィサンの4人は、第5エリア『グラキエス・ロタ・チェンバー』に来ていた。
昨日【第6の間:八腕の氷穴】で中ボスを倒し進行状況がセーブされた事により、第7の間より再開する事となった。
今日はチームが分かれておらず、幸いな事にフゥもいた為、僕とフゥの工作・看破で【第7・8の間】を難なく突破することが出来た。
そしてついに、エリアボスが待ち受ける【最深部:六氷柱の間】の前へと到達していた。
「目的は、ボスの『真核』の入手だ」
僕はボス部屋への転送装置の石碑を前に、3人へ告げる。
「ボスの真核のドロップ率は1%。だが、部位破壊等の別枠報酬でさらに1%の判定がある。つまり1回の討伐で2回の抽選がある」
「ほっほ、それでも周回は必須だのう」
「でもイオリ君にとっては、ドロップは過程だものね?」
「ああ。第5エリアの真ボスなので、昨日のタコとは比べ物にならないだろうな。だが相手の行動によっては、その動作やスキルが、僕が今から創り上げる記録設計(決戦兵器)の完全な後押し(インスピレーション)になるだろう」
僕は眼鏡を押し上げ、ゲートに手をかけた。
「行くぞ」
【System:第5エリアボス戦を開始します】
重厚な扉が開くと、そこは巨大な六本の氷の柱が立つ、円形の闘技場のような空間だった。
そして中央には、床の氷を突き破って現れた、見上げるほど巨大な氷の結晶の巨人が立ち塞がっていた。
【Enemy:『絶対零度の氷晶巨神』】
「ぽよ〜! おっきい氷のオバケなのだ〜!」
「ほっほ、見上げるほどの巨体じゃな!」
ズズゥゥンッ!!
巨神が足を一歩踏み出すだけで、地響きと共に強烈な冷気がフロア全体を覆い尽くす。
「まずは私が削るわ!
【記憶地層:剥離黒曜の剣山】!」
フゥが掘削機を地面に突き立てると、ボスの足元から真っ黒に光る無数の鋭利な棘が、びっしりと上を向いて突き出した。
「……おい、フゥ。その足元のエグいトラップは……」
「ふふっ。道中でいい環境を見つけたから、少し『造園(DIY)』させてもらったのよ」
フゥが足元を指差す。
彼女が展開したその地層には、ガラスのように黒く光る無数の鋭利な棘が、びっしりと上を向いて敷き詰められていた。
「このエリアの黒曜石ね、『貝殻状断口』って言って、特定の方向に衝撃を与えて剥がす(剥離する)と、カミソリよりも鋭い刃物になるの。
それをハンマーで全部上向きの『棘』になるように細かく砕いてから、記憶したのよ」
それはもはや地層などではない。
踏み込んだ瞬間に足を串刺しにする、極悪非道な天然のトラップ(拷問器具)だ。
「……以前記録していた『マグマの地層』から上書き(変更)したのか。継続ダメージ(DoT)より、今回は物理的な『足止め(面制圧)』を優先したというわけか」
「ええ。あの円卓のチョコマカ動く連中には、ジワジワ減る熱のダメージより、『踏み込めば足の裏がズタズタになる』という物理的な恐怖と出血の方が、絶対に効くでしょ?」
フゥが眼鏡のブリッジを押し上げながら、冷酷な笑みを浮かべる。
相変わらず、石への愛の方向性が狂っている。
だが……頼もしすぎる味方だ。
「ぽよんも行くのだ〜!【甘姫粘魔王スキル:水飴沼!】」
ぽよんが王笏(ロン君)を振ると、大量の粘着性の高いシロップが巨神の足元に広がり、剣山の上で藻掻く巨神の機動力を(スロウ効果で)さらに奪い取った。
「ほっほ! ならワシが叩くぞい!【護法僧スキル:梵鐘の響き】!」
ジィサンが展開した光学盾をゲートボールスティックで強く叩く。
以前、ルナールの前で説明したデマの効果である『最大HPの30%を削る強烈な衝撃波』ではない。
本来は光学の盾を通して中範囲にSTR依存での物理的な衝撃波を放つ攻撃スキルらしい。
あの時は適当に嘘をついたが、本当に割合ダメージがボスに使えたらチートすぎる。
ガアアアアアッ!!!
巨神が怒りの咆哮を上げ、両腕を大きく天へ掲げた。
その瞬間、ボスの全身から異常な魔力反応が膨れ上がる。
【System:ボススキル『氷縛の絶対捕捉』が発動しました】
ピキィィィンッ!!
ボスのスキルが発動した瞬間、フロアを囲む六本の巨大な氷の柱、そして地面の氷がすべて『鏡』のように変質した。
そして、そのすべての鏡に……『ジィサン』の姿が全方位から映し出された。
「……異常なスキル(システム挙動)だな」
僕は観測ログを見て顔をしかめる。
この状態になると、ターゲットされたプレイヤー(今回はジィサン)は、いかなる『ヘイト減少スキル』や
『ステルス(透明化)』を使っても絶対にターゲット(タゲ)を外すことができず、ボスの放つ極太の氷属性レーザーが、
その1人にだけ「必中」し続けるのだ。
「おおっと!? ワシが狙われておるな!」
ジィサンが光学盾を頭上に掲げて防御姿勢を取る。
だが、全方位の鏡から反射して襲い来る必中レーザーを、盾一枚で防ぎ切れるはずがない。
その時だった。
「ぽよ〜? ロン君、急にどうしたのだ〜?」
ぽよんの横で、立ったまま寝ていたマカロンが、ブルブルと身震いをしてパチリと目を開けた(気がした)。
『ゲップ♪(起きた)』
……僕のバイブルに、『起きマカ(起きたマカロン)』
という単語が追加された瞬間だった。
「あら、ロン君が起きたわね」
フゥがそれを見て、ニヤリと笑った。
「なら、これの出番かしら。……ジィサン! 受け取って!」
フゥはインベントリから、昨日までの道中で集めておいた『極上の氷晶石の塊』を取り出し、ジィサンへ向けて放り投げた。
「ほっほ! 飛んで火に入る夏の虫、
ならぬ……『飛んで口に入るクリオライト』じゃな!」
ジィサンは飛んできた鉱石を空中で打ち据え、ゲートボールの要領で「カーーンッ!」と、ボスの巨神の頭部(ロックオンの起点となっている水晶体)へと正確に打ち出した。
キラーーンッ!
と光りながら飛んでいく大好物の鉱石。
それを見たロン君は。
シュパァァァンッ!!
「ぽよ〜〜!? ロン君、またお散歩なのだ〜〜!?」
凄まじい勢いでマカロンの口が伸び、ジィサンの打ち出した鉱石ごと、ボスの頭部(水晶体)に向かって「ガブゥッ!!」
と齧り付いたのだった。
バキイィィィンッ!!!
『ギゴォォォォッ!?!?』
頭部(演算領域)を物理的に空間ごと喰い破られ、巨神がバグったような悲鳴を上げる。
ロックオンの起点が消失したことで、全方位の鏡が
【Error】の赤い文字を吐き出しながら一斉に砕け散った。
「……フッ。いくら必中の絶対捕捉システムを組もうが、頭部ごと喰われてしまえばロジックもクソもないな」
僕は崩れ落ちる氷晶巨神を見下ろし、眼鏡を押し上げた。
「さあ、ここからが本番だ。確率1%の真核を引き当てるまで……この理不尽な捕食ショー(周回)を終わらせる気はないぞ」
僕たちは、倒れ伏す巨神の光の粒子の中から、目当てのドロップ品が出るまでひたすらにこの作業を繰り返す、果てしない地獄のシフトへと足を踏み入れた。
やっぱロン君がバグ!だけどフゥがやっている事も想像したら中々にやばい……笑
〜次回予告〜
2/20 朝8時に投稿します!!




