表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/126

第57話:観測者、底(Tav)を知る黒服の招待を受け、陰湿な化学キルを企てる

予定時刻間に合ったので投稿しました!


 ◇ 現実世界リアル イオリの自室

 まさか、この世界の根幹設定が『生命の樹』のマルクト(物質界)とはな……。


 僕はデスクのPC画面に映るオカルトサイトの情報を眺めながら、腕を組んで深く思考の海に沈んでいた。


 物質界マルクトを抜けた先にある世界(Ver2.0)。


 物理法則が無いか、あるいは無いに等しいのか。

 ゲームの仕様上、そこまでは完全に読めないが、

 本編のメインストーリーが展開される領域である以上、プレイヤーのスキル等はそのまま使えるはずだ。



 だが、もし物理法則(凝固点降下やダイラタンシー)という絶対のロジックが通用しなくなるとしたら、直接システム(ルール)をハックするしかないか?


 例えば『落下』という現象に対して。


 重力(加速度)のパラメータをいじるのではなく、移動の 【ベクトル】だけを『上(Z軸プラス方向)』に書き換えれば、ただのジャンプが無限の『落下=飛行』に変換できるのか?


 あるいは、物質の【慣性】の無効化。


 質量データをシステム上ゼロに誤認させれば、指先で弾くデコピン程度の初速で、巨大な岩石を大砲のようなミサイルとして飛ばせるのか?


 僕の持つ《断崖写本杖》のスキル【記述】が、システム上のどのメモリ領域を書き換えているのか……。


 円卓の連中が使う『火球スキル』を、単なる攻撃(ダメージ判定)としてではなく、

『周囲の空間分子振動数(温度)』を維持的に固定化する定数化コードとして悪用できるか?


 そうすれば、絶対零度の冷気ダメージすら完全に防げるはずだ。


「……チッ」


 僕は舌打ちをして、ディスプレイから視線を外した。


 第6エリアが未開放の今は、この極端な物理ハックの妄想シミュレーションを試す環境がない。


 どんな完璧なロジックも、実証データがなければただの机上の空論だ。


「土曜の午後は、頭の整理に使おう。まずは……ログインして、今後の兵站アイテムの調整だな」


 僕は冷めたコーヒーを飲み干し、再びヘッドギアを被った。


 ◇ 仮想世界ゲーム


 ログインの直後。


 視界が開けるより早く、真っ黒なホログラムウィンドウが僕の目の前に展開された。


【System:GMゲームマスターからの特別招待メッセージを受信しました】

【開封しますか?】

【YES / NO 】


「……GMからの招待?」


 僕は怪訝に思いながらも、[YES]のボタンをタップした。


 すると、即座に通常の転送処理(光の粒子)ではなく、ただ「瞬きをした」という一瞬の暗転の間に、僕はメタルチックで無機質な四角い部屋の中央に立たされていた。


「ここは……」


「はじめまして、観測士(イオリk)様」


 背後から、明るく、しかしどこか人工的な声が響いた。


 振り返ると、部屋の奥から『透明な空間』が徐々に可視化し、一人のアバターが姿を現した。


 黒いスーツ、黒いハット、黒い靴。


 そして、その顔はのっぺりとした『漆黒』で、目や鼻といったパーツが一切なく、ただ見つめているだけで吸い込まれるような不気味な造形をしていた。


「私はGMゲームマスターの末端プロトコルです。本日は、全冒険者がその名を知るトップクランの皆様に、『聖刻の円卓』とのエキシビションマッチの特別招待状をお持ちしました」


 顔のない黒服が、芝居がかった手つきで一礼する。


「……エキシビションマッチ?」


「はい。近々行われる大型アップデート(Ver2.0)を前に、世界を大いに盛り上げるための特別なイベントです。


形式は『広域拠点争奪戦(配置型サバイバル)』。

お相手の『聖刻の円卓』側からは、既に快諾の許可をいただいております」


 黒服の言葉に、僕は眼鏡の奥で目を細めた。


「円卓の参加人数は?」


「6名です」


「……あいにく、こちらは(ルナールを含めて)クランメンバーが7人いるぞ?  人数の釣り合いが取れないが」


 僕が冷淡に指摘すると、黒服は顔がないのに「ニヤリ」と笑ったような気がした。


「構いません。あちら側から指定があり、

『参加人数は何人でも構わない』とのことです」


「何人でも?」


「はい。さらに、ミツルマン様も参加して良いことといたします。あちらの皆様も『始まりのk』の力をぜひ見てみたいとのことですので」


「始まりの『k』……運営側も認知しているのか」


 黒服は恭しく頭を下げる。


(……物質界マルクトを根幹にしている以上、アレの存在を知った上で了承していたのか……)


「幸い、システム上でもジィサン様と家族(孫)設定がなされておりますし……お祭りですので、特別にクランへの一時参加を許可いたしましょう」


……なるほど。

 システム(運営)側が直々にルールの穴を用意してくれるというわけか。


 それにしても、人数不利を承知で受けて立つとは、随分と舐められたものだ。


「……一度持ち帰り、メンバーに聞く。参加が決まったらどうすればいい?」


「冒険者端末に、通常の行程(UI)を無視した私への直接連絡ツール(GMコール)を追加しておきます。

 そちらからご返答ください」


 黒服が指を鳴らすと、僕の端末に真っ黒なアイコンが追加された。


「それでは、良いお返事をお待ちしております。……ああ、そうだ」


 黒服の姿が、再び透明な空間へと溶け込むように消えかかった瞬間。


 顔のない不気味な頭部だけがこちらを向き、明るいトーンで言った。


「素晴らしい『観測』を期待していますよ、イオリkさん。私たちは……貴方のその目が見据える『Tav(底)』に、大いに興味があるのです」


「なっ……!?」


 僕が目を見開いた瞬間、強制的に瞬きをさせられ、視界が切り替わった。


 ◇ 始まりの街 エウレカ 混沌工房前

 再度目を開けると、僕は混沌工房カオスアトリエのクランホームの扉の前に立っていた。


 そして、僕の目の前には。


 そう、あの『宝飾猫:マオウのインク瓶』――じゃなかった。


 どぎついメイクが施された猫の頭に、悪魔的な翼が生え、ピンクとドス黒いオーラを纏った我らがクランホームの屋根の上に、なぜか巨大な『特大マカロン(魔王仕様)』がデデンッと乗っていたのだ。


 マカロンは建材だったか?


 いや、待てよ。

 16世紀にフランスのアンリ2世へある人物が嫁いだ際に伝えた風習は、『家の上にマカロンを置く』だったか?


……そうだな。

 そうに違いない(確信)。


 僕は脳の処理領域を無駄な自己完結(現実逃避)で埋め尽くし、無理やり視線を逸らした。


 そんなアホなことを考えている場合じゃない。


『Tav(底)の観測に期待している』だと?


 あいつ(運営)……まさか、ヘッドギアの脳波スキャンから、僕がたった今、現実リアルのブラウザで検索した履歴と思考のログを、リアルタイムで覗き見ていたのか……!?


「……チッ。悪趣味な神様システムだ」


「犯罪だろもう……」


 僕が苛立ちを隠せずにいると、ドアを隔てた向こう側から、メンバーたちの騒がしい声が聞こえてきた。


 昼食を取って、皆元気に戻ってきたらしい。


「騒がしいな全く」


 僕はそう口にしながら、なぜか少しだけ口元が緩んでいる自分に気がついた。


 ドアを開けると、そこは相変わらずの日常カオスだった。


「ぽよ〜!  ロン君起きたのだ〜!」


「ぽよん様、ロン君と並んでポーズ取ってください〜!!」


「こうなのだ〜?」


「キャァーー!  可愛いいい!」


 スライム(ロン君)を囲むシロロとぽよん。


「おいロン君!  こないだ殴ったよなぁ?!  今日こそ仕返ししてやるわ!」


 マカロンに殴りかかろうとして返り討ちに遭うドドンパ。


「ルナール姉ちゃん、ハープ?  触っていい?」


「ミ、ミツルマン君!  音楽好き?!?」


「ほっほっほ」


 ミツルマンに嬉しそうにハープを教えるルナールと、それを見守るジィサン。


「あぁ、クリオライト……貴方は私に会うために、今日まで水の中に隠れていたのね……」


 そして、床に落ちたクリオライトの破片に頬擦りをする狂人フゥ


 僕は緩みかけた口元を即座に引き締め、冷徹な観測士の顔に戻した。


 カオスだな。


 ルナールのやつ、すっかり馴染んでいるじゃないか。


 だが、僕にはそんな事は関係ない……。


「……おいお前たち。戻ったのなら少しいいか。面倒なイベントの告知だ」


 僕はメンバーを集め、先ほどのGMの来訪と、『聖刻の円卓』とのエキシビションマッチの概要を淡々と告げた。


 広域拠点争奪戦であること。


 円卓側の「何人でも構わない」という指定により、こちらが8人(ミツルマン含む)で参加できること。


 そして、ジィサンの家族設定を利用したミツルマンの一時参加許可。


「ほっほ!  粋な計らいじゃのう!  これでミツルマンも一緒に戦えるわい!」


「オレも!?  やったーー!!」


 ミツルマンが飛び跳ねて喜ぶ。


「ランキングトップ同士の無制限サバイバルか……面白ぇじゃん!  俺たちで円卓の連中をボコボコにしてやろうぜ!」


 ドドンパが拳を鳴らす。


「いいか、ドドンパ」


 僕は静かに、そして極めて冷酷に言葉を紡いだ。


「奴らの神話級スキルや魔法は確かに厄介だ。だが、ここは物理法則が支配するマルクト(物質界)の箱庭だった。」


「奴らが燃焼魔法を撃つなら、僕が風と土で空間を密閉し、   不完全燃焼を起こさせて【一酸化炭素中毒】で窒息死させる。」


「もし奴らが水魔法や氷魔法を撃つなら、フゥの鉱石と組み合わせて通電させ、【感電死】させる」


「…………は?」


 ドドンパが間抜けな声を出す。


「いや待てイオリ、ま、マルクト? なんだよそれ」


「フッ...今は気にしなくていい。いいか? 相手がファンタジー(魔法)で来るなら、僕たちは徹底的に化学と物理リアルで完封し、自滅させる。それがこのクランの『正解』だ」


「お前……ファンタジーの対人戦で、一酸化炭素中毒でキル取る気か!?  陰湿すぎて配信の絵面が最悪だろ!!」


 ドドンパが見事なツッコミを入れる。


 「私たち、ちゃんとファンタジー攻略なんてしてたかしら?」


 「…………。そうだな。」


 ドドンパ、気づけたか。


「わーい!  カイザーさんたちが息苦しくなってバタバタ倒れるのー!  たのしそー!」


 シロロが無邪気に笑いながら恐ろしいことを言う。


「ぽよ〜!  ロン君が全部食べちゃうのだ〜!」


 アトリエのメンバーたちが極悪な作戦で盛り上がる中。


 ただ一人、部屋の隅で顔を真っ青にしている少女がいた。


 ルナールは、血の気が引いた顔で震えていた。


(……分かりやすいな。

 円卓の連中の魔法が科学的に完封されると知って、早く報告しなければとでも焦っているのだろう)


 冷や汗を流し、ステルスモードで震える指を動かそうとするルナール。


 その様子を、僕は眼鏡の奥で静かに、そして全てを見透かしたように観測していた。


「……ルナール」


「ひやっ、ひゃいっ!?」


 僕が不意に名前を呼ぶと、彼女はビクッと肩を跳ねさせた。


「お前は戦闘には参加せず、後方で待機だ。……そして、『その時』が来たら、お前の好きなようにハープを弾け」


「……えっ……?」


 好きなように。


 その言葉の意味に、彼女は息を呑んだ。


(……君の芯は悪ではない。

 だが、僕が仕込んだ『78%の中途半端な不良債権バックドア』を起動させるために、せいぜい利用させてもらうぞ)


 底知れない観測者の微笑みに、哀れなスパイの少女は完全に射すくめられ、その場でガクガクと震え上がった。

さて、次回よりいよいよ攻略組 最強クラン『聖刻の円卓』との衝突編が始まります。


ルナールに仕込んだバックドアがどう動くのか……!

〜次回予告〜

2/18 22時半〜23時を予定してます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ