第56話:観測者、システム(神)の箱庭を暴き、物質界(マルクト)の終わりを検索する
『World of Arche』の真実
この世界が異常なまでの物理エンジンを有していたのは
マルクト(物質界)と言う再現をしていた為。
いくらかかるんでしょうかそんなの笑
それでは、至宝蹴り(しほけり)の根幹の開示回をどうぞ。
◇ 第5エリア グラキエス・ロタ・チェンバー
【第6の間:八腕の氷穴】
ロン君は、ボスの『幻氷の氷蛸』の蛸足3本を平らげた後、完全に寝てしまった。
だが、当然ながらボスはまだ倒していない。
残りの5本の足と巨大な本体が、空間の亀裂から丸見えになった状態でのたうち回っている。
「……論理も法則もあったもんじゃないな」
僕は空中に浮いて寝ているマカロンを見上げ、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。
あの武器は、僕の緻密な計算やシステム設計など嘲笑うかのようなバグ性能だ。
そもそも、空間のテクスチャ(防壁)を『甘い匂い』という味覚センサーで判定し、物理的な咀嚼で突破するなど、どんな三流のプログラマでも書かない最悪のスパゲティコードだ。
(……運営め。
物理演算エンジンだけは一丁前に精巧に作り込んでおきながら、自律AIのデバッグは完全に放棄しているじゃないか。
こんな不確定要素を放置している時点で、システム管理者の怠慢だ。
僕がプロマネなら全員首を飛ばしているところだぞ)
僕が心の中で運営に対する論理的な暴論(愚痴)を唱え続けていると、ボスが足を食いちぎられた痛みで逆鱗に触れたのか、残りの触手を振り回してさらに激しく暴れ出した。
バシャアァァァンッ!!
「ぽよ〜〜! タコさん怒らないでなのだ〜〜!
美味しいのが悪いのだ〜!!」
ぽよんが理不尽極まりない説得を試みている。
その後方では、ルナールが地べたにアヒル座りをして、愛用のハープを必死に布で拭いていた。
「うぅ……取れない……スライムの粘液がこびり付いて……」
取るのは大変だろう。
酢でもぶっかけるか?
もはや僕の思考は、戦闘中に座り込んで楽器を拭くスパイ(仲間)を見ても、何のツッコミも浮かばない。
このクランではよく見る光景だからだ。
ドドンパが、ルナールの見ていない隙を突いてタクトを振り、【濃霧予兆】を発動した。
すると、ぽよんが慌てて『闇霧』を発動する。
嘘のスキルの為に仕込んでおいた動作が、パブロフの犬のように染み付いたのか。
ぽよんは反射的に発動してしまった。
だが、今はすごく邪魔だ。
「ぽよんちゃあああああん! 前が見えねぇ!!」
ドドンパが闇霧の中で叫ぶ。
「ぽよ〜〜?!?! ご、ごめんなのだ〜〜!」
「どこの弦まで拭いたっけ?! あれぇぇ?!」
ルナールも暗闇の中でパニックになっている。
(……カオスだな。
ルナール、君が円卓のスパイでなければ……)
そうであったなら僕は君を気に入ったかもしれない。
君も、この混沌の要素がたっぷりと詰まっているしな。
「タコ。少しは当ててきたらどうなんだ?」
ボスの触手が闇雲に飛んでくるが、僕たちには当たらない。
ボスの攻撃である『蛸足墨』には強烈な視界不良のデバフがかかるシステムだったはずだが、僕たちには全く意味を成していない。
【System:視界不良レジスト】
【BGMジャック効果:凍結・視界不良・拘束・転倒を無効化】
「……お前、完封されてるじゃないか」
ルナールが先ほど発動したポップスのバフには、拘束の他に視界不良無効も含まれていた。
巨大蛸の天敵が、清楚な吟遊詩人(の弾くポップス)とはな。
やがて視界が闇に染まる中、各地で地面を叩く激しい音が鳴り響いていたが、徐々にその音が収まっていった。
なぜかボスの動きがピタリと止まったのだ。
「……フッ、グロッキー状態か」
足を3本も喰われ、闇霧の中で暴れ回って疲労困憊したらしい。
どうしようもないボスだ。
ロン君のおかげではあるが、使えるものは使う他ない。
最高効率になるならな。
「ドドンパ! ルナール! 僕がスキルで視界を晴らす!
晴れたらルナールはATK上昇バフ、ドドンパはモーション管理だ!」
「おう!」
「はい!!」
「ぽよん! ロン君は寝ていても武器としては機能するか?」
「ぽよ〜! ロン君のスキルは使えないのだ!
でも、スライムの通常攻撃はできるのだ〜!!」
「よしそれでいい! お前のダイラタンシー現象を見せつけてやれ!」
僕は巨大なペン――『断崖写本杖』を構えた。
「記述。――『暴風』」
ゴォォォォォォォッ!!
僕の放った風の魔法が辺りの闇霧を吹き飛ばしていくと、
そこ にはプールの水面でぐったりと横たわるボスタコの姿があらわに なった。
クリオライト特有の屈折(不可視迷彩)など、すでにロン君が 空間ごと足を食いちぎったことでシステムがバグり、
完全に解けて丸見えになっていた。
「これでも喰らうのだ〜!
【甘姫粘魔王スキル:おやつちょうだい! 】」
ぽよんが叫ぶと、彼女の足元から大量のグミのような粘液が射出され、ぐったりとしたタコの巨体をグルグル巻きにして拘束した。
「おおっ!」
ぽよんが珍しく、ちゃんと自身の職業のスキルを使いこなしている。
そうか。
『IQ3』や『ロン君』のイメージしかなかったが、彼女はれっきとした記録派生の特殊職業『甘姫粘魔王』だったことを忘れていた。
「すげぇ! あの巨大タコが、ぽよんちゃんのグミ足に完全に拘束されたぞ……!」
ドドンパが感嘆の声を上げる。
「拘束してやろうとしたクラーケンが、逆に拘束される。ミイラ取りがミイラになる典型だな」
僕は冷たく言い放つ。
「てか、タコ完全に動けねぇじゃん。
俺、タクトでモーション管理とか、スキル使わない方がいいもんな。
カウント(予測)することねぇわ」
ドドンパが手持ち無沙汰にタクトを肩でトントンと叩く。
「なら、実況・解説でもするか?
これからルナールのライブが始まるぞ」
僕の指示通り、ハープの汚れを拭き取ったルナールがスッと立ち上がり、弦を激しく弾いて新たなスキルを発動した。
【システム干渉観測】
ジャンル設定:K-POP(BPM:130)
干渉レベル:エリア・ハック(環境ルール書き換え)
『모두 같이!(モドゥ カチ!:みんな一緒に!)
最高にHighなステージにするよっ!!』
「おーっと! 今度は韓国語もお手のもの、ルナールちゃん! キャッチーなダンスチューンだ! かわいいいい!」
ドドンパが完璧なオタク(ファン)のコールを入れる。
「か、かわいいのだ〜! ふーっ♪ なのだ〜!」
ぽよんも横でペンライトのようにロン君を振り回している。
【System:味方全体 ATK・INT+150%】
【System:味方全体 RES・DEF・DEX・LUKマイナス100%】
「……やはり、あのハープ(響岩k)を使えば、どんなジャンルでも自在に弾けるのか」
僕は極端なパラメータの変動ログを見て呟いた。
「スーッゴイ! 攻撃に全振りした超絶尖ったバフ&デバフだー!! けど、かわいいから全部許す!」
「お前、煩悩が露骨になったな」
僕は実況に熱が入るドドンパを横目に、ぽよんにトドメの指示を出した。
「よし、ぽよん! ルナールのATK+150%が乗った、渾身のダイラタンシーハンマーをお見舞いしてやれ!!」
「ぽよ〜〜! わかったのだ! ロン君、おねんね中にごめんなのだ〜!」
ぽよんが、寝ているロン君(王笏)を両手で力強く握り締め、大きく振りかぶった。
スライムの特性である「急激な衝撃を与えると硬化する(ダイラタンシー現象)」。
プォーン♪
気の抜けたような風切り音と共に、マカロンのハンマーが、
グミで拘束されたクラーケンの脳天に直撃した。
ドッッゴーーーン!!!!
すさまじい轟音と衝撃波が第6の間に吹き荒れた。
クランイベント『円環の回廊』で見せた元のダイラタンシーの 威力など、ただの遊びだったのだ。
ルナールの極悪バフが乗ったそれは、とてつもない質量兵器へと変貌していた。
巨大なボスが、悲鳴を上げる間もなく氷の地面に深くめり込み――無数の光の粒子となって砕け散った。
《 VICTORY!! 》
華やかなファンファーレが鳴り響く。
ボスの消滅と共に、部屋の中央には青白い光を放つ転送石碑が出現した。
【System:第6の間をクリアしました。】
【System:進行状況が保存されます】
僕は空中にウィンドウを展開し、現在時刻を確認する。
「……時刻は15時か。午前10時からぶっ通しでダイブしている。VRとはいえ、三半規管や脳の疲労も限界に近いだろう」
「あー、確かに。腹も減ったし、今日はこの辺で一旦休憩にするか?」
ドドンパが首をポキポキと鳴らしながら同意する。
ルナールは完全に安堵した顔で、その場にへたり込んでいた。
スパイ特有の精神的疲労に加え、
このクランの異常性に振り回されてHPもMPもゼロなのだろう。
「ジィサン達は大丈夫かな?」
ドドンパが呟くと、ルナールも心配そうに口を開く。
「ろ、ロン君のおかげでなんとか(ズルして)突破できましたもんね……Aチームの皆さん、心配です」
彼女の顔は、本気で仲間を心配している様な顔にみえた。
(……君はスパイなのに、どうしてそんな純粋な顔ができるんだ)
緊迫した状況や、ふとした瞬間に、人は表情や発言、挙動などに本性が顕著に現れるものだ。
今の彼女からは……
円卓への忠誠心よりも、ここ(アトリエ)への『心の揺らぎ』がハッキリと見てとれる。
そんなことを考えながら、僕は先ほどの空間の亀裂で見えた
『Tav』という文字列を頭の片隅に置きつつ、ドドンパに答える。
「ああ。今日はここで解散だ。続きは各々のスケジュールを見て、またクランチャットで決める。
……それと、ジィサン達だが問題なさそうだぞ」
僕は、戦闘の裏でジィサンから既に入っていたメッセージを空中に表示させた。
ーーーー
[送信元:ジィサン]
[件名:ボス討伐済]
イオリk君、今回はずっと分断されっぱなしだったのう。
こちらは討伐済だぞぅ!
プールの底にフゥお嬢ちゃんが『火山』の地層を隆起させて、 プールの水が沸騰。
紫色のグロテスクな茹でダコ になったわい。
そこからはもう火力無双だったのう。
シロロお嬢ちゃんとワシで削り、ミツルマンが最後決めた!
カッコ良かった……!!
そして、そちらも大丈夫だろうと思い、
セーブもされたので一足先にホームに戻っておる!
ーーーー
「うわー。なんか向こうもズルいなー。地層隆起で水ごと茹でダコって」
ドドンパが笑う。
「私たちも、だいぶズルかったのでは?」
ルナールが苦笑いする。
「ぽよ〜!!
ぽよん大活躍なのだ〜! 人間k、おやつ!!!」
(……フゥの『記憶地層』か。
やはりあれは、環境そのものを破壊する有能なスキルだ)
「でも無事に勝てていてよかったぁ。そしたら私も、お昼ご飯食べてきますね!!」
ルナールが立ち上がり、明るく言う。
「了解! じゃあな、ルナールちゃん! ゆっくり休めよ!」
「はいっ! 皆さんもお疲れ様でした!」
ルナール、ドドンパ、ぽよんが順にクランホームへの転送操作を行い、光の粒子となって消えていく。
僕は誰もいなくなった氷の部屋で、先ほどロン君が喰い破った空間――あの一瞬だけ見えた『赤いエラーノイズ』の文字を脳裏に反芻しながら、静かに【クラン転送】のボタンをタップした。
クランへ戻ると、ジィサン達からも「昼食をとって来る」という追加のメッセージが入っていた。
「……さて、僕も落ちるか。アレ(Tav)の意味を調べるために」
◇ 現実世界 イオリの自室
「……ふぅ」
ヘッドギアを外し、僕は現実の自室で小さく息を吐いた。
カーテンの隙間から、傾きかけた土曜日の午後の西日が差し込んでいる。
冷たい水をコップ一杯飲み干すと、僕は休む間もなくデスクへ向かい、PCの電源を入れた。
カタカタカタ……ッ。
ブラウザを立ち上げると、お馴染みの検索エンジン『G○○gle』のトップページが表示される。
今日のロゴマーク(Doodle)は、土曜日だからか、はたまた何かの記念日か、アルファベットの『O』の部分が輪っかのついた『土星』のデザインに変わっていた。
(……サターン。
ローマ神話の農耕神であり、土曜日(Saturday)の語源となった星か)
そんな無駄な情報を脳の片隅で処理しながら、僕は検索窓に、先ほどゲーム内で観測した文字列を打ち込んだ。
【検索:『Tav』 意味 神話】
【検索:『生命の樹』 階層構造】
エンターキーをターンッ!
と叩く。
画面にズラリと並んだオカルトと宗教学の検索結果を、僕は異常な速度でスクロールし、脳内の変数と結びつけていく。
タロットカード、カバラの『生命の樹』、そしてヘブライ文字。
「……なるほど。そういうことか」
パズルのピースが、恐ろしいほどの精度でカチリ、カチリと音を立てて組み上がっていく。
僕は、検索エンジンの『土星』のロゴを指でなぞりながら、暗い自室で独り言をこぼした。
「土星。ヘブライ語の占星術で言い換えれば……
『シャバタイ(שבתאי)』。
その語源は、ユダヤ教における7日目の安息日……
『シャバット(土曜日)』だ」
世界の創造が完了した、7日目。
そしてカバラの教えにおいて、その『シャバット』が象徴する生命の樹の最下層(終着点)こそが。
「第10のセフィラ『マルクト』。……意味は【王国】、
そして【物質界(現実世界)】」
僕は深く息を吐き出した。
そういうことだ。
運営は、物理演算エンジンを無駄に精巧に作っていたわけじゃない。
第1エリアからこの第5エリア(Ver1.0)までの領域全体が、生命の樹における『物質界』という設定の箱庭だったんだ。
だからこそ、現実の物理法則(凝固点降下やダイラタンシー)が絶対のルールとして君臨し、通用していた。
そして、僕はさらにページをスクロールし、ロン君が喰い破った空間の裏側にあった文字――『Tav』の項目を開く。
「物質界から、上位の次元へと至るためのパス(小径)。そこに割り当てられた22番目のヘブライ文字こそが……
『Tav』。意味は【交差点】、そして【終わり】」
――物質界の底を抜けた先にある、終わりの世界。
僕たちは今日、土曜日に、物質界の限界(第5エリア)を観測したんだ。
僕は、椅子に深く背中を預け、天井を仰いだ。
「ククッ……アハハハハッ!!」
乾いた、しかし歓喜に満ちた不気味な笑い声が、自室に響き渡った。
最高だ。
運営(神)は、ただのゲームを創ったんじゃない。
この世界そのものを『生命の樹』の階層構造を用いて設計している。
だとしたら、物理法則の限界を超えた先のエリア(Ver2.0)は、どうなる?
論理が通用しない、完全に魔法と精神が支配する高次元のファンタジー領域に突入していくということだ。
「……見つけたぞ。この世界の、底を」
土曜日の夕暮れ時。
僕はG○○gleの土星のロゴを薄暗い瞳で見つめながら、次なる世界(Ver2.0)――物理法則が崩壊した狂気の世界をどうハックし、どう蹂躙してやるかという、極上のシミュレーションに没頭し始めた。
今回の56話はこの物語の本当の『真核』を開示する回になりました。
ここを目指していたのでなんだか肩の荷が降りた気がします。
お気付きだったでしょうか?
12.13話で『22Lv』に上げた時、ドドンパは空歩と言うスキルを手に入れました。
42話でぽよんの真核を記録設計する際にぽよんに課した**何もしない時間**『22分間』
43話でロン君についたスキルの無敵時間『22秒間』
48話のバックドア78%=残り22%
ここまではシステム干渉に関するものでした。
50話の22:22
51話の22サーバー
55話の22体のエネミー
この3話は22への示唆として提示しました。
ロン君は**大アルカナ22番目**と言う存在しない数字
21番目のThe World (世界)の外側の存在という意味
難しいお話ですが、この後数話を挟んでクランイベント戦 対『聖刻の円卓』編へと突入しますが
そのお話が終わればこの22の真実に迫るお話になっていきます!
もうしばしお付き合いください。
〜次回予告〜
2/18 18時を予定しています!!




