第55話:観測者、 空白を拾い、現象を喰らうバグ(マカロン)をスキャンする
少しだけ用語の解説を後書に入れます!
◇ 第5エリア グラキエス・ロタ・チェンバー 【第3の間:氷鏡の牢獄】
「あ、kおじさんきた!」
僕たちは、ルナールの絶対音感と僕の『凝固点降下』のロジックで【第1の間】【第2の間】の正解壁を最速で突破し、【第3の間】にて先行していたAチームとの合流を果たした。
目の前には、ちょうど戦闘を終えたばかりなのか、無数の光の粒子となってデータへと還っていくエネミー達の姿があった。
【観測ログ:戦闘終了】
・討伐対象:【凍結の巡礼者】×22体
・種族 / 属性:アンデッド / 氷・闇
「……22体も倒したのか、お前達」
僕は氷の床に散らばるドロップアイテムの数を見て、思わず溜息をついた。
「ほっほ、ミツルマンがやったのだ! イオリk君! 何度も見てはいるが、やはりあの勇者の剣は凄いのぅ!」
ジィサンが嬉しそうに錫杖――いや、ゲートボールスティックを突く。
「そうそう、なんか物理攻撃? が全然効かなくて!」
シロロがぴょんぴょんと跳ねながら報告する。
「それで、どうしたんですか?!」
ルナールが身を乗り出して尋ねた。
「掛け声と共に、エネミー全員からヘイトがミツルマン君に集まったのだけど」
フゥが眼鏡の位置を直しながら淡々と答える。
「オレの剣が光って、『とーっ』て言って『大炎斬』って言って!」
ミツルマンは「それからそれから!」と興奮気味に身振り手振りで説明するが、彼の持つ『輝石の勇者剣・凱旋k』の刀身には、今もまだ微かに炎が宿っていた。
(……あれか、真核の記録要素である【炎属性変換】だな……)
ぽよんの王笏(ロン君)の制御だけで精一杯だと言うのに。
ミツルマンの純粋なプレイングと僕の作った装備が合わさることで、とんでもない能力を発揮している。
「スッゲーな! 勇者がみんなを守ったんだな!」
ドドンパがミツルマンの頭をくしゃくしゃと撫でていた。
歳の離れたお兄ちゃんと弟のような、微笑ましい光景だ。
「ぽよ〜! 勇者すごいのだ〜! ……ぽよ? ロン君起きたのだ?」
ぽよんの横で『寝マカ(立ったまま寝るマカロン)』状態だったロン君が、プルンっ♪と震えながら目を覚ました(?)。
すると、マカロンの口部分がニュルンと伸び始め、先ほどミツルマン達が倒したエネミーのドロップアイテムの山へと向かって這い動いた。
ロン君はドロップアイテムの山をスライムのように撫で回し、品定めをするかのような動きを見せ始めた。
しかし、食べたいもの(美味しい鉱石や甘いもの)がなかったのか、マカロンの肩(?)がガクッと落ちて、ひどくしょげたような動きを見せた。
「ぽよ〜? ロン君、何してるのだ〜?」
ぽよんが王笏の柄を持って、伸びているマカロン部分へと近づく。
するとロン君はまたシュルルッと伸び、ドロップ品の山の中から「何か」を口で咥え、ぽよんに渡した。
「あれは……なんでしょうか?」
ルナールが不思議そうに僕の横で呟く。
「ぽよん様! なぁにそれ?」
シロロも興味津々で覗き込む。
「ぽよ〜? わからないのだ〜! おやつぽよ??」
ぽよんがロン君に尋ねると、ロン君はブルブルと横に首(?)
を振って否定した。
「ふむ、何であろうか。イオリk君、観れないのかね?」
ジィサンに促され、僕はぽよんに指示を出す。
「ぽよん、それをこっちに向けてくれ」
僕は渡されたアイテムに視線を合わせ、スキルを発動した。
【観測士スキル:詳細観測】
[アイテム名]:『空白のアルカナ大:××』
[備考]:換金アイテム
[所有権]:ミツルマン
「……『空白のアルカナ大』という換金アイテムの様ですが」
「なんだそれ、アルカナってあれか? タロットカードか?」
ドドンパが首を傾げる。
「ああ。加えて『大』ということは、0〜21番までの重要なカードを示す『大アルカナ』という意味だろう……」
「『××』と言うのが数字なんですかね? ここからは見えていませんが……」
ルナールが目を細める。
「ふむ、ただの換金アイテムとは思えない程、意味深であるな……」
ジィサンが顎髭を撫でる。
僕がロン君へ向き直ると、ロン君は再びドロップ品の山へと伸び、もう一つのアイテムを咥えて戻ってきた。
「そういえば、戦ってる時に倒した敵から、枝が落ちてたわね」
フゥが思い出したように言う。
僕は再びスキルを発動した。
【観測士スキル:詳細観測】
[アイテム名]:『枯れた樹の枝』
[備考]:無し
「……『樹』、か」
「ただの木がどうしたんだ??」
ドドンパが不思議そうに聞く。
ロン君はプルプルと震えながら僕たちに「これ重要!」とでも言いたげに訴えている様であった。
「木と樹では、漢字の持つ意味合いが全く違うわね」
フゥが腕を組み、知的な眼差しで語る。
「『木』はただの植物、あるいは木材としての素材を指すわ。
「でも『樹』という字は、大地に根を張り、生命を宿す巨大な存在……。それこそ、神話に出てくる『世界樹』のような神秘的な概念に使われることが多いのよ」
「その解釈は僕も正しいと思う。」
僕はフゥの解釈に同意し、頭の中で情報をリンクさせる。
「タロットの『大アルカナ』と、生命の『樹』……。これらはバラバラのドロップ品じゃない。 明確な繋がり(コンテキスト)を持ったキーアイテムだ」
「ふむ。ただの換金アイテムに見せかけて、次なる世界への道標ということかのう」
ジィサンも僕の意図を察し、深く頷いた。
今はまだ「備考:無し」や「換金アイテム」としか表示されていないが、システムが自然に生成した無意味なゴミではない。
このアルカナも樹の枝も、運営が意図的に配置した
『フラグ(人工物)』なのは間違いない。
Ver.2.0への鍵だ。
「……他にも落ちていないか? 全員で探すぞ」
僕の指示で、みんなが散らばって氷の床を探し始めた。
その時だ。
僕は、少しだけ違和感を覚えた。
ルナールが、皆から少し離れた場所でしゃがみ込み、冒険者端末を操作して、ドロップ品の山(あるいはこの部屋の様子)を 【写真撮影】していたのだ。
そして、ステルスモードで素早くどこかへメッセージを送信している。
(……『聖刻の円卓』への報告か。)
「新しいキーアイテムらしきものが落ちた」とでも送っているのだろう)
ジィサンもその様子に気づいたようで、僕と一瞬だけ視線を交わし、微かに「ほっほ」と息を吐いた。
「あ、イオリさん! こっちにもありました!」
ルナールが、何事もなかったかのような純真な笑顔で、拾ったアイテムを持ってくる。
僕が観測スキルをかけると、やはり同じ
『空白のアルカナ大:××』だった。
僕は違和感を完璧に隠し、自然な動作でそれを受け取ると、ドロップの権利者であるミツルマンへと一度渡した。
「これはミツルマンのドロップ品だ。持っておけ」
「うん! わかった!」
僕はすれ違いざまに、ジィサンにだけ聞こえる小声で囁いた。
(……後で、ミツルマンからあれを買い取れないか交渉しておいてください。条件は任せます)
(……承知した)
ジィサンは表情を変えず、静かに返事をした。
「街に戻ったら、鑑定屋に出してみよう。今は先へ進むぞ」
僕が号令をかけ、一行は再び歩き出した。
それからの道中は、完全に僕たちの消化試合(蹂躙)だった。
続く【第4の間】【第5の間】。
ルナールが音響探知で正解の壁だけを感知し、僕が塩と砂糖を撒く。
通常は僕たちBチームのみが通行権利を有するが……。
甘い匂いに誘われたロン君が「甘い匂いがするのだ!」と暴食を発動し、システム防壁である正解壁ごとバクバクと喰い破ってショートカットを開通させていく。
そして、僕たちはついに、【第6の間:八腕の氷穴】へと到達した。
【System:特殊インスタンスエリアへ侵入】
【System:中ボス戦を開始します】
「……システムアナウンスか」
Aチームとは別のインスタンス(隔離空間)に振り分けられたらしい。
この部屋には僕たちBチーム(僕、ドドンパ、ぽよん、ルナール)の4人しかいない。
そして、部屋の中央には『何もいない』。
ただ、冷たい水が張られた巨大なプールのような空間が広がっているだけだ。
「また『クリオライト(不可視)』のギミックか。ワンパターンだな」
僕がぼやいた、その直後だった。
「ぽよ〜!? 足元がヌルヌルするのだ〜!」
「うおっ!? なんだこれ、足が……引っ張られ……!」
水面が突如として波立ち、ドドンパの足首に見えない『何者かの腕(吸盤)』が絡みつき、彼を宙吊りにした。
【Enemy:幻氷の氷蛸】
システムウィンドウに表示された名前に、僕は目を細めた。
「……クラーケン。タコか」
「うおーー気持ち悪りぃぃ!!」
宙吊りにされたドドンパが叫ぶ。
ルナールが即座に竪琴を構え、弦を激しく弾いた。
ポロロロン……ジャンッ!!
『Everybody!
憂鬱な氷なんて溶かして♪ポップに弾けよう?
』
【システム干渉観測】
ジャンル設定:ポップス(BPM:110)
干渉レベル:エリア・ハック(環境ルール書き換え)
ルナールが今度は、王道アイドルのような底抜けに明るいポップスのリズムを奏でながら、キュートな口調で叫んだ。
その瞬間。
ピキィィンッ!
ドドンパを縛っていた見えない拘束が弾け飛び、彼の周囲にキラキラとした音符のエフェクトが舞う。
【System:凍結・視界不良・拘束・転倒を無効化】
【System:ATK・INTをマイナス100%に低下】
【System:スキル効果を強化】
「ルナールちゃん、可愛ぇーー、しかも拘束無効だぜ!」
ドドンパが空中でデレながら身を捻り、ドヤ顔で着地する。
「にしても……今の拘束の太さと力、相当でけぇぞこのタコ!」
ドドンパの言う通りだ。
水面にわずかに立つ波紋の広がりから計算しても、ボスクラスの巨体であることは間違いない。
巨体すぎるが故に、僕が『氷砂糖』と『岩塩』を投げ込んでも、タコの一部がノイズとして浮かび上がるだけで、
全体像を捉える(屈折率を狂わせる)には不純物の量が全く足りない。
ザバァァァンッ!!
見えない巨大な触手が何本も水面から飛び出し、僕たちを無差別に薙ぎ払おうと激しい攻撃を仕掛けてくる。
(……どうする。
不純物が足りないなら、水そのものを凍らせるか?
いや、それでは――)
僕が思考を巡らせていると。
「もう一曲、いきますっ!!」
ルナールが、BGMジャックの延長(重ね掛け)を行うために、さらに激しく竪琴をかき鳴らした。
その時だった。
プルンっ♪
「ぽよ〜〜?! ロン君、急にお散歩なのだ〜〜?!」
ぽよんの持つ王笏(ロン君)が、突如としてルナールの奏でる音色に反応し、ぽよんを引っ張りながらルナールの目の前まで猛スピードで移動した。
「えっ……? ロン君……?」
ルナールが演奏の手を止める。
ロン君は、ルナールに対してペコペコとお辞儀をするような(謝るような)愛らしい動きを見せた後。
シュパァンッ!!
「ひゃあっ!?」
マカロンの口が限界まで大きく開き、ルナールの構えていた
『結晶竪琴・響岩k』を、なんと丸呑みにしてしまったのだ。
「え……ええっ!? わたしの楽器!!」
ルナールが驚きで声が出ず、呆然と立ち尽くす。
数秒後。
「ペッ」
ロン君は、唾液(スライムの粘液)でベトベトになった竪琴をルナールの足元に吐き出した。
(……さっきの葛藤とは違う意味で、本当に泣きそうな顔をしているな、スパイ)
『ゲェェェップ♪』
満足げな強烈なゲップを放ったロン君は、そのまま「見えないナニカ(クラーケン)」がいる水面へと向かって、ニュルルルッと限界までその体を伸ばしていった。
そして――ロン君の口から、ルナールの竪琴の音色と全く同じ、ポップスのメロディが鳴り響き始めたのだ。
「なっ……!?」
僕が驚愕に目を見開く中。
大きく膨れ上がったロン君は、見えない空間に向かって、巨大な顎を開いて「ガブゥッ!!」と齧り付いた。
ギャアアアアアッ!!!
見えない敵の悲鳴と共に。
ロン君が齧り付いた空間の断面から、水色と青色の毒々しい『蛸の足』が3本、空中に露出した。
だが、僕の目は別の『異常』を捉えていた。
ロン君が物理的に喰い破った空間の亀裂の奥――システムのグラフィックの裏側に、真っ赤なエラーノイズと共に『隠されたディレクトリ名』が一瞬だけ瞬いたのだ。
『 Texture_Error … Re-routing to [ Hidden_Node : Tav ] 』
(……Tav……!?
(なんだそれは。
アルファベットでも、一般的なプログラミング言語でもない。
どこか別の体系の文字列か……?)
( 何処かで聞いたような……いや、それよりもなんだこれは!?)
(チッ、考えないといけない事が多すぎる……)
「ああっ! タコの足見えたぜ!」
ドドンパの声で僕の思考が引き戻される。
(Tavの事は一旦後だ……それにしても……)
「なんなんだこの状況は……!?」
ロン君は、そのまま露出した蛸の足をズルズルと吸い込み、美味しそうに食べ始めた。
「……現象を、食べたのか…………?」
僕は、震える声でその光景を言語化した。
「ルナールの武器の隠し効果……『BGMジャック』の効果を一時的に食べて、自身の能力として『現象の書き換え(捕食)』を実行した……だと?」
(いや、待て。
無形の音波をどうやって保存した?
……スライム特有の粘膜を共鳴媒体にして、一時的に自分の胃袋へコピー(キャッシュ)したとでもいうのか……!?)
(さらに、ルナールの『環境ルールの書き換え』を取り込んだことで、ロン君自身の『捕食できる対象』が一時的に拡張され、空間のテクスチャごと喰い破れるようになった……?)
僕はすぐさま端末を操作し、ぽよん(ロン君)のステータスを観測した。
驚くべきことに、パーティ欄の選択画面に、プレイヤーやエネミーと同じ扱いで『ロン君の状態』の項目が追加されていた。
【魔王ぽよん専用装備:魔王笏・ヴォイド・マカロンk】
[名称:ロン君]
[状態:技巧喰物]
・保持データ(鉱石):氷晶石(残り12分)
・保持データ(現象):BGMジャック(残り4分)
「…………」
僕は眼鏡を外し、目頭を押さえた。
もはや、僕の設計を完全に離れた、文字通りの『システムを喰らうバグ』だ。
「おいおいおい……マジかよあいつ……」
ドドンパが、暴れる蛸の足を啜るマカロンを見て頭を抱えている。
「うぅ……私の響岩kちゃんが、ベトベトに……」
ルナールは涙目でインベントリから『ただの水』を取り出し、愛用の竪琴を一生懸命洗い流している。
「ぽよ〜! ロン君、タコも好きなのだ〜?」
ぽよんは全く事態の異常性を理解しておらず、ニコニコとマカロンに話しかけている。
『ゲプッ♪(クカー……)』
3本の蛸の足を平らげたロン君は、再び満足げなゲップを放ち、空中でスヤスヤと寝息を立て始めた。
「おい! バグマカロン! あと5本足残ってんぞ! 本体丸見えだけどな!」
空間を喰い破られた影響で、完全に光学迷彩が剥がれて丸見えになった巨大な蛸の本体に向かって、ドドンパが蹴りを叩き込む。
僕たちカオス・アトリエは、ついにシステムの根幹すらおやつにする『最凶の暴食重機』と共に、絶対零度の深淵へと足を踏み入れていた。
解説
イオリが驚いていた『Tav』とは、
『タヴ』 (ת, Tav/Sav)ヘブライ文字の最後(22番目)の文字になります。
詳しくは物語で今後明かされていきますが、『始まりの町 エウレカ』〜第5エリアはある法則の下にある世界設定となっております。
※ゲーム内の物理法則など
第6エリアからは物語内のゲーム『World of Arche』のストーリーが本格始動しますがそれが鍵になっていきます!!
少し難しいお話ではありますが分かりやすく物語に落とし込んでいければと思います!!
〜次回予告〜
2/18 8時頃を目指しております!!




