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第48話:観測者、偽りのタクトを振らせ、狂気の旋律で世界(サーバー)を落とす

19:30宣言して調整で2時間半もかかってしまいました……


今回はかなり長めですが、読んでいただけると嬉しいです



翌日。

僕は水曜日のルナール正式加入に向けた作戦と、ドドンパが路地裏で視認した情報を、クランチャットに書き一部をメンバーに共有した。


『――ルナールはスパイ(木馬)の可能性が高い。だが、泳がせて利用する。ドドンパの指揮能力を偽装し、向こうに偽のデータを持ち帰らせろ』


最低限のタスクと役割だけを伝達し、僕は水曜日に備えた。


そして水曜日。

現実の業務を終えた僕は、仮想世界へとダイブした。


混沌工房カオス・アトリエ


「……お疲れ。シロロとぽよんはいるな」


ログインすると、ド派手な装飾が施されたインク瓶の内部でくつろぐ二人の姿があった。


「お疲れ様イオリ君! ドドンパ君はなんか用事済ませてから来るって言って、30分くらい前に出て行ったよ?」


「ぽよ〜〜! 今日はロン君の凄さを見せつけてやるのだ〜〜!!」


ぽよんが先端のマカロン部分が異様に黒光りする王笏を振り回すと、ロン君が「プルンプルン♪」と震えて反応した。


詳細観測ディープ・スキャン

対象:ロン君(王笏先端部)

状態:異常(未知のデータ蓄積)


(……本当にこいつは何なんだ。システム側も『ロン君』という名付けをエラーと弾かず受け入れているのが意味がわからない……。不確定要素すぎるが……外部の計算にも組み込んでおかなければならないな)


トントンッ。

控えめなノックの音が響き、クランホームの扉が開いた。


「失礼します〜……こんばんは! 皆さんお疲れ様です!!」


背中に小ぶりな竪琴を背負ったルナールが、嬉しそうな笑顔で入ってくる。


詳細観測ディープ・スキャン

対象:ルナール

職業:独奏者ソロイスト

装備:結晶竪琴・響岩k

状態:平常(『kブランド』バックドア接続待機中)


外見ガワだけを見れば、純粋で健気な音楽好きの女の子だ。

だが、僕の目には彼女に繋がれた見えないシステムログが映っている。


「ルナール。君の武器であるそれ……隠し効果の『BGMジャック』は、どこまでシステムに干渉する?」


僕が単刀直入に尋ねると、彼女は少しだけ視線を泳がせた。


「えっと……皆さんのやる気をアップするために、フィールドへ音楽をねじ込む? と言った感じです!!」


「ねじ込む……か。そうか。だが今日はドドンパがリーダーをするので、指示はすべて彼に従ってくれ」


「えっ、イオリさんは戦わないんですか?」


「僕は見ての通り非戦闘職の『観測士』だ。後ろで安全にデータを取らせてもらう。実質的な司令塔はあいつだからな」


「はいっ!! 分かりました!」


僕は眼鏡の位置を直し、淡々と『偽の前提フェイク』を流し込む。


「あいつのタクトの固有効果は、敵の攻撃部位を予測表示して、さらに動きを『遅く(スロウに)』することだ」


「なるほどっ!! 攻撃位置がわかる上にデバフなんて、すごいですね!!」


目を輝かせるルナール。

しかしその瞳の奥に、一瞬だけ冷たい『分析の光』が宿ったのを、僕は見逃さなかった。


(情報を持ち帰るつもりだな。いいぞ、その偽情報ゴミを聖刻の円卓に届けてやれ)


当然だが、ドドンパのタクトにスロウ効果など無い。

僕がぽよんとドドンパに裏で指示し、UIの軌道予測と『闇霧』を組み合わせただけの「手品」だ。


(……人間は、UI上の『デバフアイコン』や『光の演出』を見ると、本当にシステムがそう動いていると錯覚する。プラシーボ効果だ。スパイの可能性がある彼女も例外ではない)


「おーっす! 待たせたにゃー!」


そこへ、装備を整えたドドンパが軽い足取りで合流してきた。


「ルナールちゃん、今日も可愛いね! 俺の完璧なエスコートとタクト捌きに惚れんなよ?」


「ふふっ、よろしくお願いしますドドンパさん!」


ドドンパの鼻の下は伸び切っている。

だが、僕には分かっている。

彼はお調子者の仮面の下で、戦術士としての冷ややかな視線を確かに走らせていた。


「よし、リーダー。あとは任せたぞ」


「おう! 行くぜお前ら!」


僕たちは転送アイコンをタップし、赤熱の鉱山――第4エリア『グレアマイン』へと飛んだ。


◇ 第4エリア グレアマイン中層


溶岩の熱で半溶融した洞窟内は、至る所から鉱石の反射光が漏れ出ている。

早速、体内で高熱の樹脂を沸かせる巨大な蟻、『メルトアント』の群れが現れた。


「よぉーし、ルナールちゃん見ててね! 俺の華麗なタクト捌きをよ!」


ドドンパが前に出る。


「ぽよんちゃん! 行くぜ!」


「ぽよ〜! 任せるのだ!」


ドドンパがタクトを振るう。


《風導戦術タクト》のスキル【濃霧予兆】が発動し、メルトアントの攻撃軌道を線として可視化する。


そこに、すかさずぽよんが『闇霧ダーク・ミスト』を展開した。


環境観測エリア・スキャン

風力ベクトル:ドドンパによる風向制御を確認。

大気成分:ぽよんの『闇霧』が局所的に滞留。

対象メルトアントの関節部に物理的な視界不良および拘束デバフが発生。


「すごい……! 敵の動きが本当に遅くなってる……!」


ルナールが感嘆の声を上げる。


(システム上の『スロウ』ではない。風で物理的に霧を誘導し、関節に絡みつかせているだけだ)


(だが、UIに精通したドドンパの完璧な指揮により、魔法のデバフに見誤らせる手品フェイクが成立している)


「シロロちゃん、今だ!」


「はーい! 可愛く浄化だよ!」


シロロが『宝石変換鞄』から、『ただの水』を変換したキラキラの熱水を放つ。


火力観測ダメージ・スキャン

対象:シロロ

出力:MATK 2,500%(※意図的な出力制限を確認)

攻撃属性:熱水(物理/魔法複合)


手加減したただの熱水にも関わらず、シロロの異常な魔法攻撃力バフが乗り、メルトアントたちは次々と溶けて消滅していった。


「す、すごい……皆さん強すぎます……!」


「へっ! これが俺の戦術と、ウチの火力のコンビネーションってやつよ!」


ドドンパがこれ見よがしに胸を張る。


そして、メルトアントを100体狩り終えた直後。

洞窟の奥から凄まじい熱波と地鳴りが響き、一回り以上巨大で赤熱した女王蟻、『メルトクイーン』が出現した。


「出たなユニーク! ルナールちゃん、お前のバフを頼む!」


「はいっ!! 行きます!」


ルナールが背中の『結晶竪琴・響岩k』を構える。

清楚な彼女が弦に指をかけた瞬間。


ギュイィィィィィィンッ!!!!


ハープから鳴ったのは、美しい旋律ではなく、強烈にディストーションのかかったエレキギターのような爆音だった。


【システム干渉観測ディープ・インターセプト

【警告:環境BGM領域への強制上書き(オーバーライド)を検知】

ジャンル設定:ハードロック(BPM:180)

干渉レベル:エリア・ハック(環境ルール書き換え)


『オラァァァァ!! アガってきなァ!!! 燃え尽きろォォ!!』


ルナールの口調が、柄の悪いロックバンドのボーカルのように豹変した。

彼女が弦をかき鳴らすたびに、激しいビートが洞窟を震わせる。


【味方ステータス改竄ログ受信】

対象:シロロ

・MATK(魔法攻撃力):+300%

・攻撃属性:強制的に【炎】を付与

・DEF(物理防御力):-80%


(……なるほど。曲調に合わせてバフとデバフを混在させ、対象の能力を極端に尖らせるのか)

(システム側の処理を強制的に自分の『演奏』に同期させている)


ルナールの激しい演奏バフを受けたシロロの放つ「熱湯ビーム」が、強烈な炎のレーザーとなってメルトクイーンを瞬く間に焼き尽くした。


「……お、おう。すげぇじゃんルナールちゃん。最高にロックだぜ」


「はっ!? す、すいません! 私、音楽に入り込んじゃうとつい……!」


元の姿に戻り赤面するルナールを見て、ドドンパはクールに笑ってみせた。

だが、僕は岩陰の安全地帯から冷徹にデータを貪り続けていた。


(あの音符の裏側……微かに鈍い『水銀色』のノイズが混ざっている。あれが敵陣営へ繋がるパスコード(毒)か)


「よし、次はあっちの空飛んでるやつだ!」


次の標的は、体が半透明の鉱石でできているコウモリ型のモンスター、『クリスタル・バット』の群れだ。


キィィィン……!


【音声波形観測】

周波数:15,000Hz(金属共鳴音)


奴らが鳴くたびに響く鉱石の澄んだ共鳴音。

その音を聞いた瞬間、ルナールの肩がピクリと跳ね、瞳孔がわずかに開くのを僕は見逃さなかった。


ドドンパのタクトとぽよんの霧でコウモリたちを撃ち落とし、100体目を狩り終えた時。


キィィィィィィィィンッ……!!


洞窟の上部から舞い降りたのは、全身がステンドグラスのように輝く巨大なコウモリのユニーク個体。

『クリスタル・ディーヴァ』だ。


ピカァァァッ!! ジュゥゥゥ……!


その美しい鳴き声(共鳴音)と共に、ディーヴァの翼から強烈な【集束光レーザー】と、鉱石をもドロドロに溶かす【酸液】が同時にばら撒かれた。


「うおっ!? 溶ける液とレーザーの同時攻撃かよ! 俺の後ろに回れルナールちゃん! 酸は風で弾く!」


ドドンパがリーダーとして前に立ち、タクトの風で酸液の軌道を逸らす。


その惨状の中で、ルナールだけが恍惚とした表情で天を仰いでいた。


「ああ……なんて美しいHigh C……。でも、和音が足りない……! 私が、私が調律チューニングしてあげる……!!」


ポロロロン……♪


【システム干渉観測ディープ・インターセプト

【警告:環境BGM領域への強制上書き(オーバーライド)を検知】

ジャンル設定:クラシック(オーケストラ)

干渉レベル:エリア・ハック(環境ルール書き換え)


突如として、洞窟内に荘厳なオーケストラが流れ始めた。


『オーホッホッホッホ!! エレガントに! もっとエレガントに踊りなさいな!』


ルナールが今度は、厳格で高飛車な貴族の指揮者マエストロへと豹変した。


『そこの野蛮な前衛ドドンパ! 息継ぎ(ブレス)のテンポがズレていましてよ! この神聖な舞台に、物理的な暴力など不要ですわ!!』


【味方ステータス改竄ログ受信】

対象:ドドンパ、ぽよん

・STR(物理攻撃力):-99%

・AGI(回避率):+200%

・MDEF(魔法防御力):+200%


(……味方の物理攻撃力を強制的にシステムから消去しただと? 完全に彼女の『演奏エゴ』に合わせた環境ルールの押し付けだ)


「はぁっ!?」


ドドンパが放った牽制のタクト打撃が、コウモリに当たった途端「ぽふっ」と情けない音を立てて弾かれた。


『さあ、魔法の三重奏トリオを響かせなさいな!!』


「ル、ルナールちゃん!? 俺の攻撃が全然通らねぇんだけど!?」


「へっへーん! じゃあ私の出番だね! エレガントなキラキラ熱湯ビーム!!」


ルナールの極端な魔法バフを受けたシロロの攻撃が突き刺さる中。


「ぽよ〜! ぽよんもやるのだ! あっ!」


ズシャッ!


ぽよんが瓦礫につまずき、盛大に転んだ。

手からすっぽ抜けたロン君が、ビローンと空に向かって伸びる。


向かってくるのは、ディーヴァが放った『集束光レーザー』と、ドドンパが逸らし損ねた『酸液』の飛沫。


ロン君はマカロンの口を限界まで大きく開け、強烈な光のレーザーだけを空中で「バクンッ!」と丸呑みにした。

一方で、酸の飛沫が近づくと「ペッ」と嫌そうにそっぽを向き、器用に避けてみせた。


【異常データ観測バグ・スキャン

対象:ロン君

行動:光属性レーザーの【捕食デリート


『ゲプッ♪(ピカァァァ)』


光を食べて発光するロン君が、そのままディーヴァの頭上に落下する。


ドゴォォォォン!!!


先ほどの物理低下デバフなど関係ない。

ロン君はシステム上「武器」ではなく「意思を持ったバグ」だ。

クリスタル・ディーヴァは鈍器のような一撃で砕け散った。


「ふっ、俺の完璧な采配……計算通りだぜ、子猫ちゃんたち」


ドドンパが冷や汗をかきながらも、前髪をかき上げてリーダーらしくクールにキメる。


僕は少し離れた岩陰で、背負っていた巨大なペン――『断崖写本杖』を静かに構えた。


空間に展開された無数のシステムウィンドウ。

そこに流れるルナールの「バフ」という名の改竄ログに向け、ペンを走らせる。


「――記述。『経路偽装フェイク・ルーティング』。並びに『不良債権の蓄積スタック』」


サラサラサラ……。


激しい戦闘の余韻が残る洞窟の隅で、密かに響く乾いた筆記音。


(……通常、一度生成され固定された真核アイテムのデータを、外部から後書きで改竄することなど不可能だ。システムがそんなものを許すはずがない)


(だが、彼女の『BGMジャック』は別だ。あれは戦場全体の環境ルールを一時的に上書きする強烈なシステム干渉。つまり、彼女の竪琴は今、システムと太い通信パイプを繋いでいる状態にある)


(だからこそ、僕は今日のテスト運用にこの第4エリア『グレアマイン』を指定した)


(閉鎖された洞窟と、音を反響させる無数の鉱石群。この環境の『共鳴』が、彼女の音楽を無限に増幅させ、システム側に処理不能なほどの音響ノイズ(エラー)を叩きつけている)


(システムは今、ルナールの爆音の処理に追われ、セキュリティ(耳)が完全に麻痺している状態だ。しかも、あの竪琴のベースは僕が作った『kの真核』。製作者としてのアクセス権限と、このノイズだらけの通信経路を悪用すれば――)


(……開いた金庫の扉から堂々と侵入し、彼女がシステムへ流すバフデータの中に、僕の『不良債権バックドア』をこっそりと混入スタックさせることができる)


【バックドア構築進捗:21%……33%……45%……】


僕の振るうペン先が、彼女がシステムに流し込むバフのすべてに便乗し、密かに僕の仕掛けたコードを紛れ込ませていく。


「さあ、もっと奏でろ。お前たちの狂気(ル-ル)を、僕の帳簿にすべて書き込ませてやる」


彼女が味方に与えているつもりの強化データが、やがて最悪の『不良債権』となって彼女たちを縛り首にすることなど露知らず。


洞窟に響くオーケストラの残響の中で、僕は静かに、そして冷酷にシステムの底へ向けて笑った。


【バックドア構築進捗:57%…..69%…78%…(緊急停止:緊急停止:緊急停止…】


その瞬間、世界が「停止」した。


ガガッ……ギギギィィィィィィッ!!


ルナールの奏でていた荘厳なオーケストラの爆音が、耳障りな電子の不協和音へと文字通りバグる。


宙を舞っていた光の粒子も、ドドンパの纏う風も、ぽよんの叫び声も、すべてが静止画像のように固まった。


『World of Arche』のサーバーは、天文学的な予算をかけて構築された極めて堅牢な代物だ。


かつて僕がエウレカ草原で引き起こした暴動――1,999人ものプレイヤーが同時にド派手な魔法やスキルを乱れ撃ったあの「特大花火」の時でさえ、緊急メンテナンスこそ入ったものの、サーバー自体が処理落ち(ダウン)することはなかった。


さらに運営は、あの騒動の後にサーバーの処理能力を大幅に強化するメンテナンスまで行っていたはずだ。


にもかかわらず。


たった一人の少女が引き起こした『狂信的な音響ノイズ』と、僕がそこにねじ込んだ『不良債権バックドア』の無限増殖ループは、その強靭なサーバーのキャパシティをいとも容易く食い破ったのだ。


ブツッ。


視界が唐突にブラックアウトし、血のような赤い警告ウィンドウが虚空に浮かび上がる。


【SYSTEM FATAL ERROR】

【サーバーの致命的な処理限界オーバーフローを検知。全プレイヤーを強制ログアウト(シャットダウン)します】


「……ふっ、ははは……っ!」


強制的に意識が現実リアルへと引き剥がされる浮遊感の中、僕は会心の笑みをこぼし次に目が覚めたときには自分の部屋へと戻ってしまった。


僕の計画には不完全な要素が残ってしまった。


天文学的な予算とはいくらでしょうね……笑


そこの伏線回収はありません!!笑


〜次回予告〜

2/16 朝7時に投稿いたします。

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