第44話:観測者、**甘味(かんみ)**なエラーに眩暈し、呪いの旋律を招き入れる
今回は少し長めです!!!
完成されたぽよんの武器――そのスペックを視界に投影した瞬間、僕の脳内で構築されていた数式が音を立てて崩壊した。
(は……!? どうなっている! 何が『甘味なエラー』だ、システムのドアホが!!)
理論上、マカロンはただのオブジェクトだ。真核に混入したところで、精々「耐久値の低下」か「微弱な回復効果」が付与されるのが関の山のはず。
僕は一度、沸騰しそうな思考を落ち着かせるため、深く、深く深呼吸をした。
「スーーー……ハァーーー……」
肺に冷たい空気を送り込み、ようやく言葉を捻り出す。
「……ツッコミどころがありすぎて、どこから触れればいいか分からない。不正武器にも程があるだろう……」
「INT+30、STR+30ってなんだよ! 修正案件だろこれ!」
ドドンパがウィンドウを二度見、三度見して絶叫する。
初期エリアの装備としては、完全に桁が一つ違う。
「ほっほ、これはこれは……。半自動とな……? 意思があるように見えますな」
ジィサンが興味深そうに目を細め、ミツルマンも目を輝かせて王笏を覗き込む。
「僕の武器と同じだ、『k』って書いてあるよ!」
「ほんとだ! よく気がついたねミツルマン君。可愛いお顔して観察力もすごい!」
シロロがミツルマンの頭を撫でた、その時だった。
プォーン、プォーン♪
間の抜けた、しかしどこか生物的な音が室内に響く。
サクッ、ボリボリ。
サクッ、ボリボリ。
サクサクサクサク。
「「「は?」」」
全員の視線が一点に集中する。
なんと、ぽよんの持つ王笏の先端、あのマカロン部分が不定形に波打ち、机の上に置かれていたケーキやクッキーを、まるで口のように「捕食」し始めたのだ。
「ぽよ!?!? お前……生きてるのだ〜?」
ぽよんが驚いて王笏を突き出すと、マカロンは彼女の声に反応するようにプルプルと震え、一時的に形状を崩しては、満足げに元の形へと戻った。
「ぽよ〜〜!! 可愛いのだ〜!! お前は今日からロン君と呼ぶのだ〜!!」
名付けられた王笏――ロン君は、再び嬉しそうに震動して応える。
「…………。僕の予想を、遥かに超えているな。……うん、いい感じだ(白目)」
もはや僕の観測眼では捉えきれない「仕様外の挙動」。
思考回路がショートし、意識が遠のくのを感じた。
「ロン君、カッケェー!」
ミツルマンの無邪気な声にも、ロン君は律儀にプルンと反応する。
「おい、イオリ。戻ってこい……イオリー」
「……私も、私も欲しい……! カタカタ震える意思のある鉱石君が欲しいわ!!」
ドドンパが僕の肩を揺さぶり、フゥが欲望を剥き出しにして机に詰め寄る。
「ほっほっほ! イオリk君? データが全てではなかったようだね?」
ジィサンが楽しそうに僕を煽る。あの崖の上での一件を根に持っているのか。
老兵の意地の悪い微笑みが、今の僕にはチクチクと刺さる。
プォーン……サクッサクッ……サクサクサク。
やがてロン君は卓上の甘味を全て平らげると、プルンッ♪ と可愛らしく鳴いた。
まるで「ご馳走様」と舌なめずりをしているかのように。
「………………」
ようやく意識を元の場所へ繋ぎ止めた僕は、無言でウィンドウを操作し、ぽよんの目の前に叩きつけた。
「ぽよん、請求書だ。受け取れ」
【マカロンのやつ、真核代金】
依頼料:情報と加入で0G
素材代:『ミストスライムの真核』10,000,000G
迷惑料:しばらくおやつ抜き
「ぽよ〜〜〜〜〜〜????!」
ぽよんの絶叫が工房に響き渡る。
「高すぎるのだ〜〜!!! 我、真核蹴ってないのだ〜〜!!!」
「ケチ! 悪魔! 魔王! 鬼! メガネ! うんちなのだ〜〜〜!!!」
「魔王はぽよんちゃんでしょ……」
ドドンパが呆れたようにツッコミを入れるが、非難の嵐は止まらない。
「kおじさんの『k』は、ケチ! クズ! クソの『k』だったんだね!?!?」
「君はお金には困っていないだろうに……」
「kおじさんひどい!!! 魔王をいじめないでよ!!」
「適切なタイミングで売り叩くって言ってたけど、身内に売り叩くのはちょっと……」
シロロ、ジィサン、ミツルマン、果てはフゥまでが僕を「冷酷な守銭奴」を見る目で睨んでくる。
「……真核は貴重なリソースだ。僕の設計ソースをタダで出すわけがないだろう」
「ぽよん、今42Gしかないのだ〜〜!!」
「「「「…………」」」」
あまりの貧困ぶりに、大人たちが一斉に沈黙した。
そこに、勇者がトドメを刺す。
「魔王、オレのお小遣いやろうか? 18万Gあるよ」
その無垢な言葉に、ジィサンの涙腺が決壊した。
「おおおおおお……! ミツルマン……! お前はなんて優しい子なんじゃあああ……! 爺ちゃんは、爺ちゃんは涙が止まらんぞおお……!!」
「わっ、爺ちゃん泣かないで!」
「ぐすっ……ミツルマンは優しいのおおおお。だが、それは取っておきなさい」
目元をハンカチで拭いながら、ジィサンがゲロ甘な態度でおぼつかない手つきで冒険者端末を操作した。
直後、ぽよんの前に黄金色の通知が踊る。
【『ジィサン』より送金:10,180,000G】
【受け取りますか? [YES / NO]】
「ぽよ!?!? いいのか!? ジィサン!!!」
「ほっほ、お嬢ちゃんはよくやってくれとるからな」
ぽよんは震える手をウィンドウへ伸ばした。
だが――その指が、NOの直前で止まる。
「ぐぬぬぬぬ……配下から取るなんて、魔王として情けないのだァ……!」
「ジィサン! 申し訳ないのだが受け取れないのだ〜〜〜〜!」
彼女は歯を食いしばり、そのまま[NO]をタップした。
(……フッ。魔王にも、プライドはあるらしいな)
僕は僅かに口角を上げ、条件を緩和する。
「ミツルマンの優しさは受け取れ。18万Gは減らしてやる」
「お前に金がないのは百も承知だ。その分働け。少しずつ減らしてやる」
「ぽよ〜〜! 人間k、優しいのだ〜〜! メガネって言ってごめんなのだ〜〜!」
「……ぽよんちゃんの中では、メガネが一番の悪口なのね」
フゥの的確な指摘に、僕は内心で「同感だ」と頷いた。
ミツルマンの優しさで場は和んだが、僕へのヘイト(敵対心)は当分消えそうにない。
「勇者! ぽよんとロン君と遊ぶのだ〜!」
「うん! いいよ、遊んであげる魔王!」
ミツルマンが顔をジィサンへと向ける。
「ほっほっほ、勇者と魔王がのう。お嬢ちゃん、ミツルマンをお願いしてもいいかな?」
「ぽよ〜〜! もちろんなのだ〜〜! 行くのだ〜♪ 勇者!」
「おー!」
賑やかに駆け出していく二人を見送っていると、クランホームの扉が再び開いた。
そこに立っていたのは、見覚えのある軽装の女性――ドドンパの『粗悪な真核』を全装備、全財産を売り払ってまで購入したプレイヤー、ルナールだった。
その背には、無骨ながらも美しい、小ぶりな竪琴が担がれている。
「ルナールちゃん!!!」
ドドンパが顔を輝かせ、だらしなく鼻の下を伸ばして声を上げる。
「ドドンパさん! その節はありがとうございましたっ!!」
僕は反射的に【詳細観測】を起動した。
【詳細観測】
【対象:ルナール】
・職業:吟遊詩人 記録派生 特殊職業【独奏者】
名称:結晶竪琴・響岩k(クリスタル・ライアー・レゾナンスk)
種別: 竪琴 / 打撃武器(鈍器)
レアリティ:デザイン級
[固有パッシブ]
・『無限残響』
効果: バフ・デバフ効果時間の累積延長
・『打撃音階』
効果: 音波の実体化(物理ダメージ化)
[隠し効果]
名称:『BGMジャック(ゾーン・マエストロ)』
効果: フィールドBGMの強制書き換え & 環境支配
説明:演奏を始めると、システム上の「エリアBGM」が強制的に彼女の演奏に切り替わる。
BGMが変わっている間、そのエリアの「環境ルール(雰囲気)」を支配できる。
【フレーバーテキスト】
彼女にとって音楽とは、一瞬の芸術ではない。 耳に残って離れない「呪い」である。
(『粗悪な真核』…思っていたより強いな……独奏者…? これの影響でも受けているのか?)
(……いや、それよりこの隠し効果。『環境支配』。ただのバフじゃない、戦場の前提条件そのものを塗り替える凶悪なスキルだ)
「どうかされましたか」
「何これ! 可愛いハープだね! すごい可愛い!!」
「あら、このクリスタル・タイラントの真核がここまで綺麗な色で……素敵ね」
シロロとフゥが、それぞれの視点で絶賛する。
「kブランドさんの真核、凄すぎてびっくりしました!! 全部売り払った甲斐がありました……」
ルナールは深々と頭を下げた。「あっ、要件ですよねすいません! えっと、お礼もあるのですがさっきのクランイベント見てました!!」
「ルナールちゃん見てくれてたの!? 俺どうだった!?!? かっこよかった!?」
デレデレと顔を赤らめ、身を乗り出すドドンパを、僕は冷めた目で見る。
「すっごくお強いんですね!! かっこよかったですっ!! もちろん皆さんも全員!!」
「……放送されていたのか」
(そりゃそうだ、ぽよんが生配信しながらログインできるんだからな)
「ええええー! もっとお洋服可愛くしておけばよかった……」
「シロロさん今着ているのもすっごく可愛いですよ!!」
「えぇ? えへへありがとーー!!」
「掲示板も皆さんの話題が多かったです! 『聖刻の円卓』と『【Chaos Atelier】(カオス・アトリエ)』は個別スレッドが立っていて大盛り上がりですっっ」
「俺も有名人になっちゃったかもおおお! いや〜照れるな〜!」
浮かれまくるドドンパを無視し、僕は眼鏡を押し上げた。
「聖刻の円卓もか……後で確認してみるか。それで、ルナールだったか。目的はそれだけか?」
「あっ、えっと……その、私クランに既に2回入ってるんですけど、追い出されちゃいまして……」
「!? なんでだ!? こんなに可愛いのに……」
ルナールの告白に、ドドンパが素っ頓狂な声を上げた。
(顔の良さとクランの適性は全く関係ないだろう、この発情期は)
僕は内心で呆れ果て、静かにツッコミを入れる。
「私、音楽が大好きで……!! ただ、一度弾くと自分の世界に入ってしまいまして……あははは……」
「すごくわかるわ。私もそういう時があるもの」
「フゥちゃんはいつもだよ?」
僕もシロロに同感だ。フゥは9割自分の世界だろう。
「それで……加入制限が終わったらその……私も雇ってください!!!!」
ルナールは頭が膝につくほど、深く頭を下げた。
「え! ルナールちゃん入ってくれるの!!! マジか!! やったーー!!」
両手を上げて大喜びするドドンパ。
「ほっほ、ワシは大歓迎だがリーダーはどうかな?」
「吟遊詩人、バファーか」
僕は脳内の戦力図を更新する。
「僕たちは支援、火力、妨害、弱体化には長けているが純粋な支援はいないしな。……だが、まずは君の能力を見てからだ。次第では考えよう」
「ありがとうございますっ! 精一杯頑張ります!」
ルナールから全員にフレンド申請が送られ、クランの加入制限が解ける来週の水曜日に再び集まることが決まった。
「私は水曜日、仕事終わりに用事があるから不参加よ……」
「ワシも行きたいが、最近ゲームのしすぎで娘と嫁に怒られておってな……来週は自重して土日のみのログインになりそうじゃ。ほっほっほ」
フゥとジィサンはそれぞれ現実の都合で不参加のようだ。
「イベント時はPT数の制限がなくなるが、通常仕様でのパーティ上限は4人までだ。来週の水曜日は、ドドンパ、シロロ、ルナール……そして」
僕は視線を、外でミツルマンと鬼ごっこをしているチビに向けた。
「あの借金魔王の4人で組ませる」
「えっ、イオリ君は入らないの?」とシロロが首を傾げる。
「僕は遠くから観測に徹する。ルナールのバフが既存の編成にどう作用するか、そして……ぽよんの新武器の挙動もこの目で見極めたいからな」
(それに、僕に1000万Gの借金を作ったんだ。その分は労働でキッチリ返させないとな)
「ちょっとイオリ君、外からコッソリだなんて……変な目で見ないでよね?」
シロロがジト目を向けてくる。
「データに性別は関係ない。効率を測るだけだ」
「ぐぬぬ……! ルナールちゃん、俺もいるからな! イオリなんかにいい思いはさせねぇ! 俺の完璧なタクト捌きを見せてやる!」
ドドンパがだらしなく鼻の下を伸ばしながら、謎の対抗心を燃やしている。
僕は発情期の相棒を無視し、クランホームの扉を開けて外へ向かって叫んだ。
「おいぽよん! 来週、気張れよ!借金返済の労働と、新武器のお披露目だ。」
「ぽよ〜〜!? 強制労働なのだ〜!このブラック企業! 鬼! メガネなのだ〜〜!」
外から抗議の声が響くが、知ったことではない。
僕はドドンパに視線を戻し、冷酷に告げる。
「そういうわけだ、ドドンパ。僕は一切指示を出さん。リーダーとして頑張れ」
「……へっ。言ってくれるじゃねぇか。見てろよルナールちゃん! 俺の最高のタクト捌きをな!」
カオス・アトリエに、また一つ新たな「狂気」の旋律が加わろうとしていた。
カオスアトリエを創設した時からいる、4人はもちろんのこと後から加入したぽよんもジィサンもそれぞれ何かに対する狂気を持っています……。
ルナールは何の狂気でしょう?笑
〜次回予告〜
ストックなしなので未定です!




