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第42話:観測者、『無』を真核へと刻む。知らぬマカロンを添えて。


◇ イベントエリア:『円環の回廊』・南西チャンバー前


【システム通知】

エリア占領を確認……完了

これより30分間、【Chaos Atelier】(カオス・アトリエ)にエネミー討伐権限が付与されます。


アナウンスが終わると同時に、部屋を塞いでいた光の膜に亀裂が入る。


パリッ、パリ……


パリンッッッ!!!!!


結界がガラス細工のように砕け散った。


「壊れたのだー!!!」


ブンッ

ブンブンブンブン


ぽよん様が、先端に『ダイラタンシー・スライム』をくっつけた王笏を嬉しそうに振り回している。


遠心力でスライムが伸びたり縮んだりしているが、千切れる様子はない。


「ぶんぶん上手ですぽよん様あぁぁ〜〜〜!」


シロロが手を叩いて称賛する。平和だ。


「……いいか、まず僕だけ入る」


僕はメンバーを制する。


「入ったらエネミーのアグロ(敵対)距離に入る前に、さっきの『忘れられた真核』を地面に落とす。……だが、その事には触れるな」


「俺らをも『無』の存在に気づいていない状態にするってことか……」


ドドンパが意図を汲む。


「取得する瞬間に気づかれなかった『重要な落とし物』の情報を吸わせるってことかな?」


ジィサンが補足する。


「ええ。先ほどの女アサシンの『不可視ステルス攻撃』同様、これが『存在の希薄』の要素になる…」


システムに「そこにアイテムがある」と認識させつつ、「誰もそれを気にかけない(認識しない)」という矛盾したログを刻む。


これから倒すボスの真核に、この環境ログを吸わせるための『触媒』だ。


「うーんわかったけど、さっき言ってた角はどうするのー?」


シロロが部屋の奥を覗き込む。


「ジィサン、狙えますか?」


「任せなさい」


ジィサンがスティックを構え直す。


「俺は、濃霧予兆を維持してカウントするぜ」


「ぽよん、お前は弱体化デバフをかけてくれ。遅延スロウが使えたはずだろう闇妖術士なら」


「わかったのだ〜! ノロノロの牛さんにするのだ!! 配下の手助けをしてやるのだ〜!」


「……ぽよんちゃんの助けだよこれ」


ドドンパはいつも的確なツッコミをする。


「助けてええ! ぽよん様〜〜〜!!」


シロロは配下。


「フゥは分かってるな?」


「ええ、折った角を粉末に砕くのが私の役目……」


フゥは言いながら、インベントリから何十個もの岩石を取り出し始めた。


「……少し、もらっていいかしら? ブツブツ……」


彼女は独り言を呟きながら、拾っておいた火山岩の選別を始めた。


ガチンッ!

ハンマーで岩を割る。


「……この母岩の質は最悪だけれど、内包されているジオード(晶洞)の質は極上なのよ……」


「ぽよ? なにそれおいしいの?」


ぽよんが覗き込む。


「これは違う……水晶クォーツね。ありふれてるわ」


ガチンッ。


「これも違う……碧玉ジャスパー。でも色が綺麗ね……」


ガチンッ。


「……! あら」


フゥの手が止まる。


割れた岩の中から、赤と白の縞模様が美しい結晶が現れた。


「……瑪瑙メノウ。硬度7。乳鉢にするには最適ね……」


「へぇ、綺麗な石だ。フゥは目利きだな」


僕が感心すると、彼女は恍惚とした表情でスキルを発動した。


「ふふ……。石術師スキル:【潜晶構築カルセドニー・ビルド】」


光が収束し、瑪瑙の結晶が一瞬で組み変わる。


現れたのは、直径50センチほどの巨大で美しい『瑪瑙の乳鉢』。


「……完成よ。いつでもすり潰せるわ……ブツブツ」


「なぁに? これ。お料理するの?」


シロロが不思議そうに見るが、フゥはもう自分の世界に入っている。


「シロロは可愛くない者へのトドメを刺してやれ」


「分かった!! ギッチョンギッチョンね!!」


準備は整った。


僕は『忘れられた真核』をローブの裾へ入れ、部屋へと足を踏み入れる。


◇ チャンバー内部


よし、入った瞬間での敵対行動は無し。


牛はまだこちらに気づいていない。


僕は部屋の隅へと自然に移動し、MPポーションを飲むフリをする。


その動作に紛れ、裾から真核を滑り落とす。


ポトッ……。


『気づかず落としてしまった』という演出。


誰も見ていない。システムさえも、この「紛失」をイベントログとして処理しない。


【観測ログ】:現環境へのログ無し


(重要アイテムである真核ですら認識を起こさない……)


僕の運ゲーはこの時点で確信へと近づいていた。


(この『無』を……これから落ちる真核に吸い上げさせろ……『システム』‼︎)


僕が合図を送ると、仲間たちが一斉に入ってくる。


その気配に反応し、部屋の奥で巨大な影が動いた。


「グオォォォォォォ!!!」


【ミノタウロス・ガーディアン(Normal)】


巨大な戦斧バトルアックスを携えた牛頭の巨人が咆哮する。


「来るぞ!!」


「おうよ! 【濃霧予兆フォグ・オーメン】!」


ドドンパが即座にタクトを振る。


牛の腕と斧の軌道上に、赤い予測ラインが浮かび上がる。


ブンッ!!


牛が斧を振り回すが、その軌道は丸見えだ。


攻撃スピードは速いが、遠心力で振りかぶる動作が大きく、攻撃後に必ず一瞬の隙ができる。


「ぽよん! 今だ!」


「ぽよ〜! ノロノロビームなのだ〜!」


ぽよんが王笏を向ける。


【闇魔法:遅延スロウ】。


ドス黒いオーラが牛の足元に絡みつく。


ブンッ……ブ……ン……。


斧を振り回す速度が目に見えて落ちた。


「チャンスだ! フゥ!」


「ええ……!」


フゥが地面を叩く。


【地層操作:隆起壁】。


牛の振り下ろした斧の下から、岩の壁が突き上げる。


ガギィン!!


斧が壁に弾かれ、牛の体勢が大きく崩れる。


壁は砕け散ったが、役割は果たした。


「そこじゃ!! 【敵指定強化】!!」


ジィサンが目を光らせる。


狙うは、体勢を崩した牛の頭部。


「両の角……貰い受ける!」


カァン! カァン! カァン! カァン! カァン! カァン!


6発の『爆裂宝石ボール』が、正確無比な軌道で左右の角の根元へと吸い込まれる。


ドカァァァン!!!


「グモォォォォ!?」


バキンッ!!


爆発と共に、黒曜石のように輝く二本の角がへし折れ、宙に舞った。


「記述! 『突風ガスト』!」


僕はすかさず風を送り、宙を舞う角をフゥの元へと運ぶ。


「……ナイスデリバリーよ」


フゥが『瑪瑙の乳鉢』で角を受け止める。


彼女は戦闘中だというのに、虫眼鏡を取り出して角の断面を観察し始めた。


「……ふふ。積層構造が標準値より0.5ミリ厚いわね……。このエリアのシリカ摂取量の違いかしら? 素晴らしいわ……」


「キモい(褒め言葉)こと言ってないで早くしろ!」


「ええ、分かっているわ。……霧穿ち掘削機、出力5%固定。……優しく、粉にしてあげる」


ギュイイイイ……。


フゥがドリルを乳鉢に突っ込む。


瑪瑙の硬度とドリルの回転で、角があっという間に微細なパウダーへと変わっていく。


一方、角を折られた牛は激昂し、暴れまわろうとする。


だが。


「こっちには来ないぜ! ターゲットはまだジィサンだ!」


ドドンパが叫ぶ。ヘイト管理は完璧だ。


「シロロ! やれ!」


「はーい! 可愛くない牛さんには、お星様をあげる!」


シロロが鞄を構える。


【宝飾武装化:星型の弾丸スター・バレット】。


ズキュゥゥゥン!!


一発の弾丸が、牛の胸板を貫く。


「グオッ……?!」


ドスッ。


牛の胸に、綺麗な星型の風穴が開く。


HPバーが残りわずかとなる。


「ぽよん! 仕上げだ! あのスライムでぶっ叩け!」


「ぽよ〜〜!! 待ってたのだ〜〜!!」


ぽよんが走り込む。


手には、先ほど作ったばかりの『ダイラタンシー・スライム』。


牛が最後の力を振り絞り、腕を上げるが――遅い。


「最強の一撃なのだ〜〜!!」


ぽよんがスライムを振り下ろす。


プォーン♪


間の抜けた音が響く。


だが、その直後。


ドゴォォォォォン!!!


衝撃を受けたスライムが一瞬で硬化し、重戦車の装甲をも砕く質量兵器となって牛の脳天を直撃した。


「……」


牛は声を上げることもなく、白目を剥いて崩れ落ちた。


「やったのだ〜! 大勝利ぽよ〜!」


「わー!ぽよん様かわいい〜!あと星型の穴、可愛いー!」


「……ふぅ。いい粉が挽けたわ」


三者三様に勝利を噛み締めている。


牛の巨体が光の粒子となり、その場に一つの結晶を残した。


『ミノタウロス・ガーディアンの真核』。


「……まだだ。ここからが本番だ」


僕は指示を飛ばす。


「フゥ! その角の粉末を、ぽよんのスライムに混ぜろ!」


「ええ。……硬度と粘りのマリアージュね」


フゥが乳鉢の中の粉を、スライムへと投入する。


ぽよんが王笏でかき混ぜる。


キラキラと黒光りする、凶悪なスライムが完成した。


「ぽよん! そのスライムを、落ちた真核ミノタウロスに上から被せろ!」


「ぽよ? こうぽよ?」


ぽよんがスライムを、地面の真核にドロリと被せる。


その瞬間。


僕はスキルを発動する。


詳細観測ディープ・スキャン


【真核環境ログ構築確認】

・ベース:『魔王』ダイラタンシー現象スライム(物理無効/衝撃硬化)

・入場:魔王と五皇

透明化インビジブル

敵察知エネミー・センス

・カウンター(物理反射)

ーーー

・???

解析中……解析中……忘却深度上昇中

ーーー


部屋の隅に落としてある『忘れられた真核』。


そこから滲み出る「誰にも認識されない」「忘れられた」という環境ログが、今まさに地面にある『ミノタウロスの真核』へと吸い寄せられていくのを確認する。


「よし……。」


僕は拳を握る。


「……ここまでは、完璧だ」


「……現在時刻を確認。エリア占領30分、侵入前に5分、討伐に3分。……残り22分」


まだ完成ではない。


真核のシステムとは『直前の1時間の記録ログを吸い取り能力へと変換』


(残りの22分でこの忘却深度を更に深める必要があるな……。)


「ぽよん以外は占領エリア前で警戒! 残る1クランが来る可能性がある!」


「えっ、ぽよんは?」


ぽよんがキョトンとする。


「お前はここで**『何もしない』**をしろ。寝ていろ」


残り22分。


何もしない。戦闘もしない。ただそこにいるだけ。


その「無為な時間」こそが、部屋の隅にある触媒(忘れられた真核)と共鳴し、『ミノタウロスの真核』に「存在の希薄」を深く、濃く刻み込む。


「ぽよ!? わかったのだ〜! おやすみなさいぽよ〜!」


ぽよんが嬉々としてマカロンを取り出していた事に僕は気が付かなかった。


サクっ、サクっ……


「行くぞ。……絶対に中に入れるな」


「了解!」


僕たちは完成前の真核と魔王を部屋に残し、入り口を固めるために外へと出た。


部屋に一人(と一匹)残された空間で、サクサクという音だけが響く。


[ System Log: Null Reference Exception… Merging… ]

[警告:空の参照ヌルを統合中……深度上昇15%…20%…]


システムが「無」を参照し、エラーを吐き出しながらも強制的に結合していく。


この「禁断の例外処理」と「おやつの摂取」が、後ほどとんでもない能力へと変換されることを、僕たちはまだ知らない。


魔王はポンコツ固定です

フゥさんはキモさ(褒め言葉)固定です


さてマカロンがどんな要素を含むのか!!!


〜次回予告〜

2/14 7:00に投稿します!!


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