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第41話:観測者、猫の目で不可視を暴き、忘れられた真核に賭ける

 

 ◇ イベントエリア:『円環の回廊』・南西チャンバー前


 スライム作りを終えた直後、僕の手甲が振動を捉えた。


「……来るぞ」


 《地脈感知ジオライン・スキャン

 ドクン……。


 微弱な振動がUIで波形となって表示される。


 数は9つ。中規模だ。


「敵は……9人中規模ギルドだ。接敵まで40秒……35……30……」


「ぽよん! そのままムチとして構えろ! 合図したら敵に向かって叩きつけてやれ!」


「ぽ、ぽよ〜?! 相手は大丈夫なのだ?!」


 ぽよん様が作ったばかりの『ダイラタンシー・スライム』を不安そうに見つめる。


「よく聞け、おやつを取りに来ている。僕が用意しておいた『高級カヌレ』の匂いを嗅ぎつけてきたんだろう」


「ぽ! ぽよ〜〜〜!! 人間いつでも合図するのだ!!!!!!!」


 一瞬で目の色が変わった。食い意地こそ最強のバフだ。


「お前すごいな……猛獣使いの才能あんじゃねぇの……?」


 ドドンパが感心したように僕に聞く。


「ドドンパ…エウレカにカヌレは売ってるか?」


「……えっ」


 ドドンパは聞いた瞬間に顔から血の気(VRなので気がするだけ)が引いているようだった。


「詐欺師k………」


「魔王と灯台の使い用ってな」


「……………………」


「ほっほっほ、若いっていいのう」


 両クランが視認距離に入る。


 荒野の向こうから、土煙を上げて9人のプレイヤーが迫ってくる。


「イオリ君! 私の方でも感知した、ここからカウント引き継ぐ。敵のスキルを視認したら城壁を発動するわ」


 フゥが掘削機を地面に突き立てている。


「25……20……」


(……いいぞ、フゥわかってるじゃないか)


 敵が陣形を整え、一斉に突っ込んでくるのがわかる。


 全員に緊張が走る。


「作戦通りの配置だ! シロロとフゥは占領エリア外のラインを維持!」


「シロロ! フゥが壁を張ったらリーンして少しだけ体を壁から出せ!」


「そのまま『ただの石(デコ用)』を適切な形に整え射出!!」


「はーい! 可愛くしちゃうよー!」


「2人とも僕の合図があるまでは占領エリアのラインより内側に入れるな!!」


 フゥが壁を生成しドドンパへと繋ぐ。


「城壁!!!」


「残りカウント5! ドドンパ君! 濃霧予兆!」


「もうやってるぜぇ〜〜!」


 ドドンパがタクトを振るう。


 キラキラ光る霧が敵の攻撃部位に纏わりつき、攻撃軌道ラインを赤く浮かび上がらせる。


 続いて、【三条の蜃気楼ミスト・ロード・ミラージュ】を濃霧予兆のラインに合わせて敷く。


「ジィサン!! 敵の攻撃ラインに合わせてさっきと同じ要領でお願いします!」


「任せなさい!」


 ジィサンはイオリの言葉が言い終わる前に構えを取り、連続してスティックを振るう。


 カァン! カァン! カァン!


 先頭を走るタンク職に、3つの宝石爆弾が狙いをつけ、霧のレーンに乗って高速で飛んでいく。


「はっ! こんなのでどうにかなると思うなよ!!」


 敵タンクが大盾を構える。


 ズッドーーーン!


「ぐあぁぁぁ!?」


 タンクが押し返され、後続の味方を巻き込んで吹き飛ばされる。


 そこからさらに、無慈悲なジィサンの高速宝石爆弾ボールの弾幕が襲いかかる。


 ドッカーンッッッ!


 ドガガガガ!!


「きゃあああ!?」


「なんだこの威力!?」


 悲鳴が上がる。


 僕は《詳細観測ディープ・スキャン》を発動し、倒れている数を確認する。


【観測ログ】

 ・敵対プレイヤーA(Tank):Down

 ・敵対プレイヤーB(Healer):Down

 ・敵対プレイヤーC(Attacker):Down


 ……合計7名 ダウン確認。


「……残存2名!」


(……7……7だと?! 突っ込んでくる敵を入れて8……1人足りない?!)


 爆煙の中から、リーダーらしき重戦士の男が飛び出してくる。


 怒りの形相で突っ込んでくる。


「よくも!!」


 反応するようにシロロが鞄を構える。


「シロロ! 待て! エリアに1人だけ侵入させたい」


「えっ、あそっか! ぽよん様が倒す用!!」


「フゥ! 体勢を整え突っ込んでくる重戦士の男を除いて霧石壁で分断しろ!」


「ええ……!」


 フゥが即座に反応し、地面から岩壁を隆起させる。


 重戦士の後ろに壁ができ、後続を遮断する。


「ジィサン! シロロ! 壁をさっきと同じ要領で破壊! 後続を狙え!」


「了解じゃ!」


「可愛くなっちゃえー!」


 二人は突っ込んでくる重戦士をわざとスルーし、霧の壁に向かって攻撃を放つ。


 ドガァァァン!!


 壁の向こうで悲鳴が上がる。


 僕は重戦士を見据える。


 だが、違和感があった。


「気をつけろよ、魔王『k』」


 重戦士が笑った。


(チッ、厄介なのが1名いるみたいだ)


「僕の振動でもキャッチ出来ない……AGI系スキル『空歩エア・ステップ』で足音を消しているかもしれない!」


 おかしい。もう1人はどこに消えた……?!


「……任せるにゃ、『猫の恩返し』発動!! 【猫探知キャット・サーチ】!!」


 いつの間にかアクセ:『猫の恩返し』を装備したドドンパが叫ぶ。


(戦闘中にも使えるのか……! いいスキルだ)


 ドドンパの足元に複数の光が集まり、猫の形へと変わる。


 5匹の光る猫たち。


 次の瞬間、猫たちが散り散りになり、やがて全猫が同じ場所へ集まる。


 占領エリア内、シロロとフゥの背後。


「……!!」


 不可視の攻撃が降り注ぐ間際、猫たちが光に戻り、眩い光と共に消えていく。


 その光が、空間を照らし出す。


「……見つけたにゃ!!」


 残った何もない空間に、敵の輪郭が浮かび上がり、やがて完全に目視が可能となる。


 短剣を振り上げた女アサシンの声が震えた。


「なっ……!?」


 僕は即座に反応して声を荒げ叫ぶ。


「ジィサン! 宝石爆弾を! 僕に【敵指定強化】で選択してください!!!」


「ぬっ?!」


 ジィサンが一瞬だけ困惑するが、即座に切り替え、鋭い眼光を光らせて僕に向かってショットする。


「受けてみよ! イオリk君!」


 カァン!!


 宝石爆弾が僕に向かって飛来する。


「ちょ! え!? なんで? 私の透過進撃は成功してたのに!!」


 女アサシンが驚愕に目を見開く。


「……貰うぞそれ」


 僕はペンを構え、スキルを発動する。


「【パッシブ発動:環境誤認エコーログ】!」


「【追加記述:暴風ストーム】!」


 ゴオオオオオッ!!


 夕暮れの断崖で起こった激しい突風が、ここ荒野に再現される。


 吹き荒れる風に、女アサシンが立っていられずその場でうずくまる。


「きゃあっ!?」



 ジィサンの放つ宝石爆弾を捉える。


(……さすがだ、ジィサン。正確に僕の足元へ打ってくれた)


 衝突まで1.4秒。


 その間に僕はスキルを続けて発動する。


 観測士スキル:【座標指定ロックオン


 視界の中心に、うずくまるアサシンを捉える。


「…3…2……」


「【物理変換キネティック・コンバート】!」


 僕は飛来する宝石爆弾に対し、正確な角度でペン振るい、物理的な蹴りを叩き込む。


断崖写本杖クリフ・スクリプトペン

 隠し効果:【蹴球ログドリブル


 杖の先端がボール(宝石)を捉える。


 本来は魔法弾を弾くための防御スキルだが、物理オブジェクトに対して使用することで、その運動エネルギーを保存したままベクトルを変換し、さらに威力を増幅させて射出するカウンター技だ。


 ガギィィィン!!


 システムログ:『Hidden Effect: Magic Amp +15%』


 加速した宝石が、暴風に乗ってアサシンへ直撃する。


 ドゴォォォォン!!


「がはっ……!?」


 女アサシンが宙に吹っ飛び、HPゲージが一気に赤になるのを確認した。


「ぽよん!! 待たせたな! さっき作ったスライムで女アサシンをぶっ叩け!!」


「カヌレパワー見せてみろ!!」


「ぽよ〜〜〜!!! いくのだ〜〜!! おやつは渡さないぽよ〜〜!!」


 ぽよんが勢いよく飛び出す。


 王笏の先にくっついた、ドロドロのスライム。


 彼女はそれを、落下してくるアサシン目掛けて全力で振り下ろした。


 プォーン♪


 見た目より遥かに情けない効果音が鳴り、女アサシンが呆気に取られる。


「え……?」


 しかし………。


 ドゴーーーン!!!


 スライムが接触した瞬間、ダイラタンシー現象により鋼鉄の硬度へと変化する。


 とてつもなく鈍い音が響き渡る。


「あ……べ……?」


 女アサシンが光になって消えていく。


「ぽよ〜〜?! たっ倒せたのだ?! ぽよ〜〜〜!!」


 ぽよんが空にピースサインを掲げる。


 が、袖に隠れて見えないので僕のイマジネーションが発動しただけだが。


 その背後で、重戦士と戦っていたジィサンとシロロの方でも、激しい爆発音が響いた。


 ドカァァァァン!!!


「ぐあぁぁぁ! くそっ、なんだこの爺さんとガキは……!」


「ほっほ、口が悪い若者じゃのう」


「可愛くない言葉にはお仕置きだぞー!」


 光の粒子が舞う。


 僕の目論見通りに運んだことで口元が緩んだ。


 ---


 ◇


「ふぅ……。なんとかなったか」


 僕たちはその場に座り込む。


「イオリ君、あのカウンター……凄かったわね」


 フゥが感心したように言う。


「ほっほ、ワシの球をあんな風に使うとは。肝が冷えたわい」


 ジィサンも笑う。


「やるにゃん、詐欺師k」


 ドドンパがニヤリとする。


 だが、僕はこれを「過程」としてしか見ていない。


「……不可視攻撃のスキル保持者に感謝しないとな」


 僕は眼鏡を直す。


「ドドンパ、お前の『猫の恩返し』がなかったら、誰か落ちていたかもしれない」


「……さすがだ」


「へ、へへっ……まあにゃ! 俺にかかればこんなもんにゃ!」


 ドドンパが照れくさそうに鼻の下を擦るが、語尾が「にゃ」なので締まらない。


 早くアクセを外せ。


「さて……」


 戦友(エリア占領)完了まで、残り9分。


 僕はインベントリを開く。


 取り出したのは、薄暗く濁った結晶体。


『ミストスライムの真核(忘却属性)』


「お、おい……お前それ……俺らが武器を作った時のだよにゃ……?」


 ドドンパが目を見開く。


「私とドドンパ君の武器の元よね………」


 フゥも息を呑む。


「………できるかはやってみないとわからないが。…すまんが運ゲーだ……ふっ」


「ほっほっほ、歴史なのだな君たちの」


 ジィサンが興味深そうに見つめる。


「お前が運ゲー……? はっはは……否定してきたお前がするのか…にゃん」


 ドドンパが乾いた笑いを漏らす。


「2人がログを刻んでる間、僕はこいつを放置した」


 僕は真核を見つめる。


「風も当たらない、僕のローブの下で…何もせずにな」


「後でログを観測したら、こいつの中身は『忘れられた存在』になっていた」


「通常、他の真核をくっつけることはできないだろう、1時間で色々なログが入ってしまっているからな」


「容量の限界みたいなことなのにゃ?」


 ドドンパが聞く。


「おそらくな…と言うかアクセ外せよ」


 ドドンパがハッとした顔になり顔を赤くしてウィンドウを開いた。


「だがこいつ無以外のログがない。忘却だけだ…元になったミストスライムの効果は『ログの器』になっただけ。直前1時間の概念からは外れたからな。」


 僕はニヤリと笑う。


「つまり、僕の狙いが正しければ……新たにログを刻む牛の真核にはこの『忘れられた存在』が…【無】を刻めるってことだ。」


 僕は補足するように説明をする。


「さっきも言ったが、賭けだ。運ゲーだ」


 だがこれが成功すれば、可能性が広がる。


 名付けるなら、【真核融合(ヌル・インジェクション)】って所か。


 占領が終われば結界が解ける。


「さぁ、答え合わせ(コンパイル)の時間だ」

補足

『ミストスライムの真核』はイオリが何もしないの記録を真核に刻み取得しました。

今イオリがやろうとしていることは、ミストスライムの無や忘却と言った環境ログの誤認を狙っています。


イベント戦も中盤に差し掛かり新たな武器が生まれようとしています!!

ジィサンはあの武器のままでいいかな……笑


〜次回予告〜

今日2/13中にもう一本あげます!


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