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第40話:観測者、見据える牛の角、泥遊びで「最強の流体」を練り上げる

 

 ◇ イベントエリア:『円環の回廊』・南西チャンバー前


 敵クランが光の粒子となって消滅した荒野で、僕たちは息を整えていた。


 勝利の余韻が漂う中、ジィサンがスティックを振って感触を確かめている。


「ほっほ、すまぬなぁ敵さん方。しかし楽しいのう戦闘とは。孫と遊ぶ為だったが……若者を助け、若者を挫く。これも老兵の役目だな! ほっほっほ!」


「ジィサン……シロロちゃんより火力高くねぇか……?」


 ドドンパが引きつった笑顔で呟く。


 CAクランとしての初陣は、僕たちの圧勝で幕を閉じた。


 全員での連携、そして圧倒的な「理不尽」の押し付け。メンバーたちの心は確実に弾んでいる。


「……まだ、過程に過ぎないぞ。次は部屋を占領する」


 僕は手綱を引き締めるように声をかけた。


 目的は勝利そのものではなく、この先に待つ「最強のログ」を刻むことだ。


「ぽよ〜〜! ぽよんは何すればいいのだ〜? 寝ながらおやつ食べてもいいのだ〜?」


 魔王ぽよんが王笏を枕代わりに、地面に寝転がろうとする。


 僕は思わず頭を抱えた。


 やはりダメだ。緊張感が皆無すぎる。ポンコツ魔王め。


「……ぽよん、君はスライム種が好きだな?」


「もちろんなのだ〜! スライムは我の一番の配下なのだ〜! ぽよ〜〜!」


 即答だ。なら、操縦は容易い。


「これから向かう部屋では純粋なログを刻む。会議中も言ったが、さっきのように敵が来る可能性も考えねばならない」


「つまりあれだろ、状況に合わせて臨機応変に対応しろってことだ」


 ドドンパが頷く。


「砕くのみよ」


 フゥは掘削機の刃を愛おしそうに撫で回しながら、物騒な独り言を呟いている。


「可愛くない敵は可愛くしちゃうもんね!! イオリ君! 私可愛かったでしょ?」


 シロロが顔を覗き込んでくる。戦闘中の「宝飾熊」の活躍を褒めてほしいらしい。


「ああ、最高に最強キュートだった」


「え!! あっうん! でしょ〜!」


 シロロは一瞬顔を赤らめたが、僕には見えていない。(興味無し・褒めてモチベーション向上)


「敵が来たら必要かどうかは僕がその時に判断する。だが真核の1%という獲得時間を確実に減らすコンテンツを運営がぽよんにプレゼントしたんだ、まずは僕の計画通りに記録設計する」


「ぽよ〜! よくわかんないけど運営からのプレゼントなのだ〜! うれしいぽよ〜」


「スライム……ふむ。つまり魔王のお嬢ちゃんにぴったりな何かでログを作るんだね?」


 ジィサンが察しよく頷く。


「はい。一先ずエネミーポップ前の占領エリアに移動しましょう」


 ---


 ◇ 占領エリア


 荒野を抜けた先に、石造りの四角い広場が現れた。


 正面には揺らめく光の結界が張られ、その奥に部屋チャンバーの主となるエネミーが鎮座しているのが見える。


「何あれー……可愛くないー……」


 シロロの声がワントーン下がった。


 結界の奥にいたのは、二足歩行の巨大な牛頭のエネミー。


【ミノタウロス・ガーディアン(Normal)】


「うわぁ……臭そう! 筋肉ダルマじゃん! 全然可愛くないー!! 却下ー!!」


 シロロは露骨に顔をしかめると、取り出しかけたキラキラシールの袋を、これ以上ないほど雑にインベントリへと放り込んだ。


 肩を落とし、デコる気力すら失せている。彼女の「可愛くしてあげる基準」すら外れた敵には、興味すら湧かないらしい。


 一方、フゥの反応は違った。


 彼女は敵の筋肉質な体ではなく、頭に生えた「巨大な角」に一点集中している。


「……あら。あの角……素晴らしい光沢ね。生物素材じゃない……まるで黒曜石のような密度を感じるわ」


「え? フゥちゃん、あれ石じゃないよ? 牛だよ?」


 シロロのツッコミなど聞こえていない様子だ。


 僕の中で閃きが走る。


 フゥの観察眼は確かだ。あの角は、ただの骨ではない。


「……なるほど。石に近い硬度のケラチン質か」


 僕はニヤリと笑う。


(ぽよんの『スライム兵器』には、維持力(粘り)が足りなかった。

 ……ちょうどいい補強材が向こうから来てくれたな)


 そんな会話をしていると、ドドンパが広場の中央、魔法陣が描かれたエリアに足を踏み入れた。


「あらよっと」


【システム通知:【Chaos Atelier】(カオス・アトリエ)のエリア進行を確認……エリア占領まで30分】


「ふむ、30分間ここに我々が残っていれば占有したことになるのだな…ほっほ」


「ええ、恐らくエリアに誰か1人でもいないと時間のリセットがかかる仕組みでしょう…」


「ぽよ〜! 作戦通りにぽよんが後ろでぽよ〜んと構えていればいいのだ? 魔王になった気分ぽよ! かっこいいぽよ〜!」


「ぽよんちゃんの設定魔王だろ………」


 ドドンパが冷静なツッコミを入れる。


 彼女ぽよんの前には配下(僕たち)を5人配置する構図。


 本人はご満悦のようだが、ぽよんの為の配置だぞ。


「フゥ、現在の壁の維持は何秒間だ?」


「レベルが下がっているから……30秒ってとこかしら…」


「そうか、では敵が来たらまず最初に相手の行動を地面で感じろ、初めて会った時の様にな」


(……たかだか1ヶ月前の事なのに、懐かしいと感じるほど僕はこいつらといるんだな)

(正確には現実でこいつらが入社した時からだから、もっとだがな)


「配置につく前にだ。」


「占領30分、エネミー討伐数分、残りを調整時間として真核に刻む。」


 僕はインベントリから、あるアイテムを取り出す。


 ジィサンに需要出品の転売で負け、『バイブロ・エンペラー』の呼び水として使用した余りの『ただの水』を数本。


 そして、『淡い黄色がかった白い結晶粉末』が入った袋。


「……おいイオリ。水はいいとして、その怪しい粉はなんだ? あっ……お前……やばい粉か?」


「そんなわけないだろう。……フゥ、説明してやれ」


「はい……。最高品質の『熱泉の結晶ホット・ボラックス』よ」


 フゥがうっとりとした表情で、イオリの持つ粉の入った袋を撫でる。


「熱泉……? いつの間にそんなもん拾ってたんだよ」


「思い出せ、第4エリアのボス『クリスタル・タイラント』戦の後だ。あの時、予定外にドロップしたボスの真核……フゥが『私のコレクションにする』と言って抱え込んだせいで、販売用の在庫が一つ減っただろう?」


「あー!! そうだったね!! フゥちゃんドロップするなり頬擦りしてたもんね!」


「そうだ、だが僕は3人に依頼をしたんだ。ジィサンとのクラン参加交渉前に、僕では出来ない依頼があると」


「確かに、『粗悪な真核』を作って販売員になれって依頼だろ?」


「でもフゥちゃんも20万G貰ってたもんな。不思議だったんだよなぁ」


 ドドンパが少し不満を漏らし、シロロも続けて口を開く


「達成してないのに払うなんてkおじさんっぽくないもんね!」


「ああ、真核を懐に入れたせいで依頼が破棄された訳だ。なので別のタスクを頼んだんだ」


(……おじさんは余計だ、kもだが)


 ---


 ◇ 回想:ジィサン勧誘前


 ジィサンとの約束の場所へ向かう道中、僕はメッセージを送った。


【送信先:フゥ】⭐︎添付メモ一件

 件名:真核販売員依頼の代わり

『フゥ、君への依頼は破棄されたな。

 だが報酬は欲しいだろう?

 第3エリアにてぽよんの真核作成時に使う素材を

 取ってきてくれ。

 君の好きな結晶化した泥だ。掘ってこい。』


【送信元:フゥ】

 件名:メモ見たわ

『結晶……すぐに行くわ』


 ---


 ◇


「イオリ君準備良すぎて可愛くないね」


「同意、激しく同意。だけど、そーゆーことか。納得」


「火山の噴気孔の周りを3時間、這いずり回ってこの結晶を選別していたのよ」


 フゥが誇らしげに言う。


「そういうことだ。あの時の余剰人員フゥの労働力が、今ここで活きる。……全て計算通りだ」


 僕はボウルを掲げる。


「さて、材料は揃った。ぽよん、出番だ」


 ぽよんは「?」と首をかしげながら、渡されたボウルを覗き込む。


「お前のための真核を作る。この『ホウ砂成分ホット・ボラックス』と、洗濯糊代わりのスライム素材『透明な樹液』、そして『ただの水』を混ぜ合わせる」


「……理科の実験だ、好きに混ぜろ」


「……! 知ってるのだ! ねるねるね〜るねなのだー!!」


 ぽよんが目を輝かせ、王笏セプターでボウルの中身を力任せにかき混ぜ始める。


「おいおい、そんな泥遊びみたいなので作って何ができんだ?」


「ぽよ〜! 混ぜ混ぜ〜」


 両手でボウルの中身をかき混ぜる魔王ぽよんの姿にシロロが発作を起こした。


「はぁ可愛いよおおおお〜」


「スライムだ。だがただ混ぜるだけじゃない。分子レベルでの結合が必要だ。僕の《地殻共鳴》でも振動は与えられるが、あれは大雑把すぎる」


「……この繊細な粒子の声を聞けるのは、こいつだけだ」


 僕は顎でしゃくる。


 フゥは既に、愛用の『霧穿ち掘削器ミスト・エクスカベイター』を取り出していた。


「ええ……聞こえるわ。粒子の隙間が、埋めてほしがっている……」


 キュイイイイイ……。


 フゥがドリルの先端をボウルの側面に当てる。


 高速回転ではなく、超微細な振動モード。


 ドリルの微かな唸りが、ボウルの中の液体に波紋を作り出し、ぽよんのかき混ぜる動きに合わせて奇妙な粘りを生んでいく。


「いいぞフゥ。その周波数だ。僕にはできない芸当だな」


「ふふ……混ざりなさい、架橋しなさい……硬く、そして柔らかく……」


(……完全に自分の世界に入っている)


「ドドンパ、仕上げはお前だ。こいつが形を変えた瞬間、風を当てて表面を一瞬だけ乾燥させろ」


「へいへい。変人たちの工作教室かよ。……で、結局何ができるんだ?」


「『ダイラタンシー流体』だ」


 僕は不敵に笑う。


「普段はドロドロのスライムだが、衝撃が加わった瞬間だけ、その反発力で鋼鉄以上の硬度を持つ。……力のない子供ぽよんでも、これを振り回してぶつければ、重戦車の装甲すらへし折る鈍器になる」


 ドロドロだった液体が、次第に弾力のあるスライム状へと変化していく。


「……来るぞ、実験台(敵)が」


 地脈感知が反応した。


 北から、複数の振動がこちらへ向かってきている。


フゥだけが真核を懐に入れ、販売は2人のみだった……。


イオリが考えてない訳ありません。

ダイラタンシー僕もよくやってました、懐かしい。


〜次回予告〜

次話は2/13 12:10です!!

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