第39話:観測者、荒野に悪意(カワイイ)をばら撒き、老人の眼光を観る
◇ イベントエリア:『円環の回廊』・南西セクター
視界が白からセピア色へと変わる。
転送された先は、巨大な枯れた崖や荒らされた村跡、干上がった井戸が点在する荒野地帯だった。
風が止まっている。いや、空気が澱んでいる。
【システム通知】
フィールド:荒野(Wasteland)
マップサイズ:直径2km / 7つのチャンバーへの接続を確認
「ぽよ〜〜! お外なのだ〜! 広いのだ〜!」
魔王ぽよんが王笏を振り回してはしゃぐ。
「……なんか、空気が重くねぇか? ジメッとしてるっていうか」
ドドンパが顔をしかめ、周囲を警戒する。
ジィサンが指を舐め、空にかざす。
「ふむ。……風がないのぉ。イオリk君、気づいておるだろう?」
「ええ。完全なる無風地帯です」
僕は地面に片膝をつき、新防具『地殻共鳴手甲』を起動する。
《地脈感知》
ドクン……。
微弱な振動が手甲を通して伝わってくる。
「……南側に振動なし。北の方角に固まった振動が2つ。……恐らく他クランのスポーン地点だ」
「ってことは、俺たちは中央から南方面か!」
「ひとまず、もっと広いところに出るぞ。南を背にしてそこで最初の布石(悪意)をばら撒く」
僕は立ち上がり、北への移動を指示する。
荒野を抜け、少し開けた場所に出たところで足を止めた。
「ここでいい。……始めるぞ」
「ドドンパ。お前の『加速回路』、射程は確認したか?」
「ああ。ライン自体はMAX50m。壁にぶつかるまでは伸びる。その後も慣性は残るから、威力自体はもっと先まで届くはずだ」
「上出来だ。……やるぞ」
僕はインベントリから、開始前に準備しておいた『ただの石』×130個と『火薬(粗悪な爆裂粉)』×100個を取り出し、シロロに渡す。
「シロロ。これを全て『宝石』に変換しろ。ただし、100個は火薬を混ぜて『爆裂宝石』に。残りの30個は純粋な宝石のままだ」
「はーい! 任せてー! キラキラになーれ!」
シロロがスキルを発動する。
無骨な石と黒い粉が光に包まれ、美しい(けれど危険な)宝石へと変わっていく。
「よし。爆裂宝石100個はジィサンに渡せ。残りの30個はフゥだ」
「はい! おじいちゃんどうぞ!」
「うむ、ありがとよ」
ジィサンが弾薬を受け取り、スティックの感触を確かめる。
「これをボールに見立てて打てばいいのかな? イオリk君」
僕は黙って頷く。
そして、宝石を受け取ったフゥに向き直る。
「フゥ。」
「ええ。砕けばいいのね……綺麗な粉末にしてあげる」
フゥが背負っていた巨大なドリル――『霧穿ち掘削機』を起動させる。
ギュイイイイイイ……!!
ガガガガガガ!!
硬質な宝石が瞬く間に微細なパウダー状に粉砕され、容器の中でキラキラと輝く。
「よし。ドドンパ、位置につけ」
僕は相棒に合図を送る。
ドドンパがタクトを構え、空を見上げる。
「おうよ! 風の道を作るぜ!」
【三条の蜃気楼】
ドドンパがタクトを振るう。
何もない空間に、薄い霧のレールが生成される。
『加速回路』。
ここを通る物理現象を加速させ、遠くまで届けるための発射台だ。
「記述。『暴風』・指向性付与」
ゴオオオオオッ!!
僕の杖から強烈な風が放たれる。
暴風はドドンパが作った霧のレールに吸い込まれ、さらに加速し、荒野を切り裂くようなジェット気流へと変わる。
「シロロ! フゥ! 今だ! 放て!!」
「世界を可愛くしちゃうよー!」
「……お行きなさい」
シロロが大量のラメとシールを。
フゥが微細な宝石パウダーを。
加速した暴風の中へと解き放つ。
ヒュオオオオオオオ!!!
キラキラキラキラキラ……!!!
荒野の空が、毒々しいまでのピンクとゴールドに染まる。
それは風に乗って北へ、東へ、西へと拡散していく。
「マップ全域への広範囲汚染」。
敵がどこで戦おうと、この微粒子が付着し、ログに『カワイイ(挑発属性)』を刻み込む。
「ほっほっほ、イオリk君流石だな……。まさに魔王の所業だよ……」
事前に作戦を聞いていたジィサンが、キラキラ光る空を見上げて戦慄する。
「ぽよ〜! 綺麗なのだ〜! ぽよんの配下として相応しい働きなのだ〜! もっとやれぽよ〜!」
ぽよん様は自分が指揮している気になって、偉そうに腕組みをしている。
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汚染作業を終え、MPポーションを飲みながら南下して進む。
僕たちが最初にスポーンした場所より南からは反応がない。
射程距離の問題もあるので、数百メートル移動するたびに《地脈感知》を行い、敵の位置を探る。
「……いたぞ」
岩陰から覗き込むと、開けた広場に敵クランの姿があった。
人数は13人。フルメンバーに近い。
「あいつ……『k』じゃね? えっ待ってぽよんいるじゃん!!」
「うわ、ほんとに魔王連れてるw」
「人数すくなっ! 6人? 舐めてんのかよ」
敵の声が聞こえる。
侮っている。いい傾向だ。
「……行くぞ」
僕たちが姿を現した瞬間、敵の動きが変わった。
タンク職が前へ出て壁を作り、後衛が魔法の詠唱を始める。
連携が取れている。中堅以上のクランか。
「散開! 囲め!」
敵のリーダーらしき男が叫ぶ。
13人が扇状に展開し、僕たちの行手を阻む。
まずい。数で押されると分断される。
「くっ……!」
乱戦が始まる。
僕はぽよんを庇いながら下がる。
シロロとフゥは僕の声が届く範囲にいるが、ドドンパとジィサンが敵の分断工作により、大きく距離を離されてしまった。
(……チッ。声が届かない!)
ゲーム内では音声の送受信がない。つまり視界と阿吽の呼吸だけが頼りになる。
敵の猛攻が続く。
その時。
ピカッ!!
遠くで強烈な光が炸裂した。
ドドンパだ。
「にゃろう! ここだよバーカ!!」
ドドンパが『真珠色のフード』を被り、
**【大跳躍】**で空高く舞い上がった。
敵のヘイトを一心に集める。
「なっ、なんだあの光る物体は?!」
「撃ち落とせ!!」
敵の視線が上空へ向く。
その瞬間、ドドンパがタクトを振るった。
【濃霧予兆】
シュウウウウ……。
戦場に霧が立ち込める。
だが、ただの霧ではない。
シロロが撒いたラメが乱反射し、視界を極彩色に染め上げる「目眩し」の霧だ。
「くそっ! 見えねぇ! どこだ?!」
「連携が取れない! 声を出せ!」
敵の罵声が飛び交う。
僕は観測ログで、霧の中の状況を分析する。
「お前の意思は受けとった、任せろ相棒」
僕は、誰にも聞こえない声で呟く。
「ぽよん! あの時の『闇霧』だ! 敵の視界をさらに奪え! 四角く囲め!」
「ぽよ!? わかったのだ〜! お先真っ暗にするのだ〜!」
ぽよんが王笏を振るう。
ドドンパの霧に、ドス黒い闇が混ざり合い、敵を完全な暗闇へと閉じ込める。
「フゥ! 今だ! 『地層記憶』!」
「ええ! ……熱い記憶を、刻みなさい!」
フゥが地面に掘削機を叩きつける。
ドゴォォォォォ!!!
闇霧の中に、赤熱した火山岩盤が隆起する。
さらに、フゥは掘削機を操作し、隆起した岩盤を変形させる。
「逃さないわよ……!」
ズズズズズン!!!
敵を囲むように、四方から岩の壁がせり上がる。
視界ゼロの闇、足元からのスリップダメージ、そして逃げ場のない閉鎖空間。
「ぎゃあああ! 熱っ! 地面が燃えてる?!」
「壁だ! 囲まれた! 出られない!!」
「何も見えねぇ! ヒーラーどこだ!!」
断末魔のような悲鳴が反響する。
そこへ、シロロが叫ぶ。
「可愛くない悲鳴だねー! もっと可愛くしてあげる!」
シロロが『宝石変換鞄』を開く。
中から取り出したのは、巨大なクマのぬいぐるみ。
それをスキル:【宝飾武装化】で変換する。
カシャンッ!!
フワフワだったぬいぐるみが、ダイヤモンドのように硬質化し、ズシリと重い「鈍器」へと変わる。
【宝飾熊・ヘビーインパクト】
「いっけぇぇぇぇ!!!」
ドォォォォン!!!
シロロがそれを、フゥが作った壁の中へ向けて放り投げる。
ドガッ……!
グシャァ……!
ドカカカカカ!!
闇と壁の向こうで、何かが暴れまわる重い音と、新たな悲鳴が上がる。
敵には何が起きたか分からない。
壁を破壊し見えない何か(クマ)に、物理的に蹂躙される恐怖。
「うわあああ!?」
「何も見えねっ……」
「なんか食らったぞ………」
「ぐあぁっ!!」
ドドンパをも巻き込む最強の火力の弾丸。
ドドンパが情けない声を上げながらジィサンの元へ戻っていく。
「チッ、食らうと計算したが……逃げ足が早いな」
ドドンパにも当たったら面白いと思ったのは内緒だ。
闇霧が晴れる。
フゥの壁が崩れ落ち、視界が開ける。
敵のHPは半分以上削れ、数人が地面に突っ伏している。
だが、生き残ったタンク職4名が素早く盾を構え、防御体勢を取っていた。
「……ここでその行動をとれるのは正解だ」
僕は冷ややかに見下ろす。
「……僕らの前では不正解だけどな」
命からがら逃げてきたドドンパが、ジィサンに合流する。
「シロロちゃん自分の攻撃力分かってる?! はぁ、ったく! ……ってそんなこと言ってる場合じゃねえ! 今だな! ジィサン! 特訓したあれ行くぞ!!!」
「あいわかった!!」
ジィサンの雰囲気が変わる。
好々爺の顔が消え、歴戦の「ゲートボーラー」の顔になる。
「……覚悟せぇ、若き芽ども……」
ジィサンがスティックを構える。
足元には、先ほど受け取った『爆裂宝石』。
「三条の蜃気楼!!」
ドドンパがタクトを振るう。
ジィサンと敵の間に、霧の道が生成される。
攻撃を加速させ、分身させる死のロード。
「覚悟ォォォ!!」
スキル:【敵指定強化】
スキル:【敵指定複数化】
ジィサンの視界に、盾を構えた4人のタンクがロックオンされる。
「それ! 【3点特攻】!」
カァァァァン!!!
乾いた打撃音が響く。
ジィサンの目が鋭く光る。
スキル:【沈黙の通過門】
宝石が射出される。
霧の道を通った瞬間、それは3つに分身し、加速する。
次々と撃たれる爆弾ボールが、幾重にも重なり、敵をゴールポールに見立てて飛んでいく。
「なっ……盾で防げ……!?」
「貫通するぞ!?」
ズガガガガガガ!!!
「ぐあぁぁぁぁ!!!」
防御貫通。
盾の防御力を無視した物理衝撃が、タンク職を貫く。
そして着弾と同時に、宝石(火薬入り)が爆発する。
ドカァァァァン!!!
「……ゲームセットじゃ」
爆煙が晴れると、敵は一人残らず光の粒子へと変換され、荒野に消えていった。
炸裂!無慈悲な処刑箱!
炸裂!ジィサンのショット!
カオスアトリエそれぞれの個性が爆発した回になりました
初陣を大勝利で終えたイオリ達
次は部屋の前での戦闘になるか……?
〜次回予告〜
2/13 7時と12:10に1話ずつ投稿します!
午後はストックが出来次第次回予告と共に更新していきます!!




