第36話:観測者、スライムへの愛を叫び、乙女の質量(プライバシー)に敗北する
◇ 第2エリア ミストヴェイル
木曜日という、あと一日会社へ行かなければならない微妙な日を終え、僕は慎二と帰宅後の予定を決めてログインしていた。
「ほっほ、まさかワシまでお呼ばれするとは……ほっほっほ」
ジィサンが杖をつきながら霧の中を歩く。
今日はドドンパとの連携を高めるための強化だ。来て貰わねば困る。
武器の概念を強化する。これはぽよんを飼い慣らしている僕らの特権だ。
スライムを倒さないという縛りプレイを超えた境地にある。
「ぽよ〜〜! 早くいくぽよ〜〜! おっやつ♪ おやっつ♪」
当然、魔王もいる。
こいつがいないと恐らく行けないからな。
「なぁ、俺とジィサンだけで勝てるのか? お前ら勝てないと悟ったんじゃねーの?」
ドドンパが不安そうに聞く。
「勝っ……」
僕が答えようとすると、ぽよんが慌てて口を挟んだ。
「人間k!! だめなのだ!! 言ってしまうと入れなくなるのだ〜! 試練は自ら突破しないとなのだ……」
「……言ってしまうとだめなのか」
ぽよんはドドンパとジィサンに、自分のステータスウィンドウを見せる。
【魔王ぽよん】
・職業: 闇妖術士
・武器: プルプルハートの王笏(クラフト武器 完全強化状態)
Warning [特殊派生条件への接触を確認]
『スライムへの仲間意識』により特殊派生条件へ到達中。
• 魔王ロールプレイ(スライム属性) [106時間 / 144時間]
• 名前を呼ばれた状態でエネミーに触れる [50 / 50]
• 名前を呼ばれた状態でエネミーを倒す [50 / 50]
• スライム系エネミーの討伐 [0 / 0]
⇒ 派生先: 【スライム魔王】
「ほっほ、スライム討伐0……」
ジィサンが目を見開く。
「はぁぁ?! ぽよんちゃんスライム倒したことないの?!」
ドドンパが驚愕する。
「ないのだ〜! スライムの姫魔王が配下の、しかも同種を倒すなんてナンセンスぽよ」
(……こいつは時々、まともなことを言うな)
僕が感心していると、やがて霧の奥、あの地に辿り着いた。
かつて僕が、スライムのヌメヌメとした肌を褒め殺した場所だ。
※「……素晴らしい粘度だ。水分量も……適切だ(白目)」
我ながらいい褒めだったと自負している。何故ならスライム親和度は達成されたのだから。
「さぁ〜! ついたのだ! ぽよんの真似をするのだ〜! 人間k! お前もするぽよ〜!」
「?! またするのか? 僕はここで待っている」
「当たり前ぽよ〜! 中でkはぽよんのおやつ係なのだ〜!! わっはっはっは〜!」
ぽよんが小声で僕に耳打ちする。
「……狙い通りにしたいのなら、そばで強く願う事も大事なのだ〜」
(……なんてことだ。脅しだと? この僕に魔王が?)
「……チッ」
『ハイスライム』達の気配がする。かなりの数いるようだ。
「ものども〜! 整列するのだ〜〜‼︎」
彼女が王笏を振りかざす。
すると——。
プルプル……!
「おうぁ?! なんだなんだ、見えにくいけど集まってね?」
「ほっほっほ、なんともまぁ奇妙な光景だ、襲ってこないのだね」
ドドンパとジィサンが目を丸くする。
僕は以前も見たことあるこの光景に、胃が痛くなるのを覚えた。
(……次はどんな言葉で褒める?!)
(何を言えばいい?!)
(この揺れはスライムでないと出せない? 粘度が他とは一線を画している?! スライムになりたい?!)
「……チッ、どうにでもなれ」
ぽよんはいつもの様に『ハイスライム』達に頬擦りを開始する。
「よしよしいい子なのだ〜!! あれぇ? お前ちょっと綺麗になったぽよ〜?!」
(……綺麗とはなんだ……? 綺麗とは(哲学))
僕は覚悟を決めて、一匹のハイスライムに近づく。
眼鏡を外し、顔を寄せる。
「……素晴らしい、透過率だ。君の体内の水分循環ロジックは、どんなスパコンよりも美しい……」
すりすり。
「ぶははははは!! お前何してんだよ!!」
ドドンパが腹を抱えて爆笑し、指を差す。
「……笑うな。これは儀式だ」
僕は無表情で頬擦りを続ける。
「ほっほっほ、孫をあやす時のようじゃな。よしよし、いい子いい子」
ジィサンも参加し、スライムを撫で回す。
「へへっ、面白そうじゃねぇか! ほらよっ!」
ドドンパも参戦し、スライムに自分が被っていた『真珠色のフード(灯台)』を被せる。
「お前が一番輝いてるぜ! 最高にイカす!」
システムログ:スライム親和度 適合率120%
ピカーーーーーーーーーン!!
大人しかったハイスライム達が、急に激しく発光し始めた。
「……来たか」
僕は眼鏡をかけ直す。
「ジィサン、ドドンパ。あとは頼む。ここから転送されて試練が始まるが、僕とぽよんは戦闘に参加できない。情報を読み取れ。ジィサン、中に入ったら説明をしてあげてください」
「あいわかった!」
彼らは光に包まれ、消えていった。
僕とぽよんだけが、試練の外――かつて武器を強化してもらったあの場所へと飛ばされた。
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◇ 隠しエリア 霧隠泉
【ユニークNPC:スライム長老】
『ん? 来たかスライムの姫と、偏屈者イオリkよ』
(……何故僕は偏屈者印象なんだ)
「スライム爺さん! 来たぽよ〜! 別のお友っ…じゃなくて配下を連れてきたぽよ〜!」
「試練には打ち勝てると思うのだ〜!」
『ん、左様か。姫よ、皆会いたがっておった。話をしてやってくれるか?』
「わかったのだ〜! お前達集まるのだ〜〜!!」
プルプルプル………
プルプル……
スライム達がぽよんの足元へ集まる。
何匹いるんだ……。よくできるなそんなことが……。
僕は改めて、彼女の「スライムへの愛」を認めた。
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◇ 3分後
光と共に、ボロボロになったドドンパとジィサンが戻ってきた。
「ぜぇ……はぁ……! マジかよ、あのスライム……強すぎだろ……!」
「ほっほ……久しぶりに、骨が折れるかと思ったわい……」
二人は疲労困憊だが、その顔には達成感がある。
『……見事じゃ。姫の朋友よ』
スライム長老が触手を振るう。
泉の中から、巨大な『ミストスライム』が現れ、二人の武器を飲み込んだ。
ゴクリ。
数秒の沈黙の後、武器が吐き出される。
それぞれが、霧のようなオーラを纏って強化されていた。
【システム:武器強化完了】
【名称付与:『真核武器 完全強化状態』】
「……おおっ!?」
ドドンパがタクトを確認する。
【追加スキル:三条の蜃気楼】
・加速回路:環境干渉スキル
霧の道に乗った攻撃(魔法弾や矢、突進など)の速度を1.5倍に加速し、威力を増幅する。
・光の屈折
霧の道に乗った攻撃を光学的に分光させ、**「左右に2つの偽物」**を出現させる。
「すげぇ……! 攻撃が分裂して加速するのかよ! これでジィサンの攻撃をサポートしろってことか!」
(……単なる分身じゃない。霧の粒子による『レンズ効果』だ。
敵は3つの攻撃全てを回避しようとして、結果的に本命に当たりに行く。
まさに『戦術士』の指揮強化のための誘導路だ)
続いて、ジィサンがスティックを確認する。
【追加スキル:沈黙の通過門】
・防御貫通:打撃・概念付与スキル
スティックの先端に全運動エネルギーを一点集中させ、敵のDEF数値を無視してダメージを通す。
強制ノックバック物理法則を無視したベクトル操作で、巨体であっても少しだけ弾き飛ばす。
・スキル凍結
打撃部位の魔力回路を一時的に断絶し、**「2秒間のスキル使用不可」**を付与する。
「ほっほっほ! これは良い! ゲートを通すように、敵の防御をこじ開けるわけじゃな!」
(……ゲートボールは『ゲートを通す』競技だ。
この一撃は、敵の防御という『門』を無理やりこじ開け、さらに口まで塞ぐ(沈黙させる)。
『子供は静かにしなさい』……まさにジィサンらしい、説教じみたスキルだ)
『……礼を言うぞ、人間たちよ』
スライム長老が語りかける。
『老兵よ、その経験。若き芽(孫)を守る盾とせよ』
「ほっほ、承知した」
『光を操る者よ。その被り物……大切にせよ。光は時に迷い子を導く』
「おう! 任せとけ!」
ドドンパは被せ直されたフードを誇らしげに撫でる。
『偏屈者よ。……仲間を大切にせよ。知識だけでは届かぬ場所もある』
「……肝に銘じます」
『そして姫よ……』
長老の声が優しくなる。
『……達者でな。いつでも帰ってくるが良い』
「うん! また来るぽよ〜! おじいちゃん!」
ぽよんが無邪気に手を振る。
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◇ 始まりの町 エウレカ
強化を終え、街に戻った僕たちの前に、一人のプレイヤーが現れた。
赤色の重鎧に、丸くて分厚い大楯。
顔はとんでもなく美女アバターだが、体型はおデブ。
しかし、その歩きの所作は驚くほど素早い。
「あああああぽよん様!!!! かわいいいい! あのあの私!! ぽよん軍守衛してます!!」
「おお〜〜!! ぽよ〜〜! わかるぽよ〜〜!!」
「わたくし、アバター名を『ガードガールまち子』と申します!!」
ぽよんとそのプレイヤーが盛り上がっている。
僕は習慣的に観測眼を発動する。
【観測ログ:解析開始……重量Over】
【対象:ガードガールまち子】
・職業: 重戦士 記録派生 特殊職業『グランド・シールド』
・武器:戦場大楯剣
・防具:大敵防御鎧
・詳細観測:Over 乙女の秘密により体重秘密♡
・ステータス:• WEIGHT: 【GUARD】
「……チッ。解析不能だと?」
『質量』を計算しようとした瞬間に、システムログが『乙女の秘密です♡』と返してきやがった……!
最強の暗号化技術じゃないか……!
「……うわぁ、すげぇキャラだな」
ドドンパがドン引きしている。
「ほっほっほ。あの子が『ガードガールちゃん』じゃよ」
どうやら、彼女もまた「ぽよん軍」の一員らしい。
カオスな予感が加速する中、僕は頭痛を堪えてログアウトボタンに手をかけた。
イオリは女性に体重をきいてはダメと習わなかったのかな……笑
ついに登場カップのフチ子じゃなかったガードガールまち子!
彼女もまたぽよん軍配下の守衛でした。
土曜まであと二日、販売会
日曜のクランイベントはどうなるのか!!
〜次回予告〜
今日の午後には一本以上あげます!!




