表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/125

第33話:観測者、残酷な未来予測(シミュレーション)を口上に「英雄の劇団」を売り込む



◇ 第1エリア エウレカ草原 入り口


ビューーーゥゥ。

ヒュウウウ……。


夜の草原を吹き抜ける風が、今日はやけにチクチクと肌を刺す気がする。


これから待ち受けるのは、モンスターではない。

あの老獪なプレイヤー、『ジィサン』だ。


「……ふっ。『筆頭株主』なんて誘い文句は、フェイクにも程があるか……」


僕の求める「正解(暗号資産化)」を隠す存在。


彼をこちらの陣営に引き込むには、並大抵の説得では届かない。


「酷いロジックだが仕方ない。事実を淡々と話すプレゼンだ」


「だが、やろうとしている事は運ゲーに近い」



僕が運ゲーなんてするとはな。


あの人は僕にとって、システム外の変数――想定外のラスボスだ。


「……運ゲーを否定するのが僕だ。言い負かす。運ゲーではなくする。……僕の利益の為に」


僕は眼鏡の位置を直し、決戦の地へ向かった。


◇ 第1エリア エウレカ草原 断崖エリア


かつて僕が真核を蹴り落とした場所。


月明かりの下、杖をついた老人が一人、静かに夜空を見上げていた。


「……お待たせしました」


「ほっほ、構わんよ。……懐かしい場所じゃな」


ジィサンが振り返る。


その瞳には、いつもの温和な光はない。


鋭い刃物のような、歴戦の投資家のオーラが漂っている。


言葉の刃で斬り合う、静かなゴングが鳴った。


「ジィサン。このゲームの難易度曲線を見ていますか?」


僕は前置きなしに切り出す。


「第1エリアはソロでも行けた。第4エリアはどうでした? あいつら(ドドンパとシロロ)がいてもギリギリだったでしょう? ……じゃあ、第5、第6、そして発売前のプロモーションは見ましたか?『魔王城』ですよ?」


ジィサンが眉をひそめる。


「MMOのエンドコンテンツは、基本的に『多人数連携レイド』が前提です。物理的にスイッチが離れていたり、タンクとヒーラーが分断されたりする。孫君とあなたの2人では、システム的に『門前払い』される日が必ず来る」


「……その時は、野良を募集するわい」


ジィサンが短く答える。


想定通りの返しだ。


「野良? ……正気ですか?」


僕は冷たく言い放つ。


ここが最大の攻撃ポイント(急所)だ。


「ミツルマン君のあの剣を見て、知らない大人が何と言うと思います?」


僕は空中にウィンドウを展開し、シミュレートされた音声を再生する。


『は? なにその攻撃力。チート乙』


『おじいちゃんにRMTリアルマネートレードで買ってもらったの?』


『運営に通報しとこw』


『バランスブレイカーじゃん、つまんねー』


無機質なテキスト読み上げ音声が、夜風に乗って響く。


「……ネットの人間は残酷だ。純粋な子供相手でも容赦なく『不正』を疑い、言葉のナイフを投げる。……孫君に、『自分が英雄だと思っていたのは勘違いで、周りからはズルい奴だと思われている』と気づかせるつもりですか?」


「……ッ」


ジィサンの表情が曇る。


痛いところを突かれた顔だ。


「子供の心は脆い。たった一度の『ズルい』という言葉で、彼の英雄ごっこは終わる。『自分は選ばれた勇者じゃなくて、ただのシステムのバグだったんだ』と気づいてしまう」


「……脅しか? 若造」


ジィサンの声が低くなる。


だが、僕は引かない。


「リスク管理ヘッジの提案です」


僕は一歩踏み出す。


「不特定多数を孫君に近づけるな。必要なのは、事情を知り、彼を肯定し続ける『共犯者』だ」


僕は両手を広げる。


「僕たち『Chaos Atelier』は、あの剣を作った。つまり、あの異常さを『技術ロジック』として理解している唯一の他人だ。僕らは決して彼を『チート』とは呼ばない。『すごい魔法だ』と言い続けられる」


「クランに入り、僕らを飼ってください。これからのエリア、僕たちがギミックを解き、舞台を整え、孫君の行く道を舗装する。……悪意ある野良を排除して、綺麗な『英雄譚』だけを見せ続けるために」


「そのための口止め料、そして安全地帯セーフティーエリアとして、僕らのクランを使ってください」


「……孫君の笑顔の防衛費としては、安くないですか?」


沈黙が落ちる。


風の音だけが響く。


ジィサンは目を閉じ、深く息を吐いた。


「……痛いところを突きおる」


老人は杖を握り直す。


「確かに、前回ドドンパ君とシロロちゃんと第4エリアに行った時、難易度上昇には不安があった。……剣を作ってからというものの、あの子を傷つける言葉を吐く輩も、増えてきたしの……」


ジィサンが自嘲気味に笑う。


「ワシとしたことが、MMOをプレイする上での現代社会モラルを甘く見ておったな。軽率な依頼だったのかもしれん。……あんなトンデモ勇者武器作るとは思ってなかったしの? ほっほっほ」


ジィサンはいつもの笑顔に戻り、僕を見据えた。


「……よかろう。『孫の夢』を守るための私兵として、お前さんのクランに入ろうじゃないか」


「……感謝します」


僕は深く頭を下げる。


僕としたことが、汚い手を……だが、ミツルマンのこれからを守りたい気持ちはある。


あの子の未来の為に設定された隠し効果『勇者の休息_五時鐘_』。


アレは偶然の産物だったが、ジィサンを口説くいいヒントだった。


思わず笑みが溢れる。


「ほっほっほ、筆頭株主と聞いたから気合を入れたが。完全にいっぱい食わされたのお」


「ええ、文字通りに……申し訳ない……」


僕は眼鏡を押し上げる。


「ジィサンはクラン戦(PvP)などには興味ないでしょうが……今後くるそれのためにも、あなたの持つ『暗号資産化』が欲しい。完全な私欲でした」


「ほっほ、良い良い。孫は君たちを気に入っている。それに……さっきも言ったが事実は見えている。ワシも少しばかり青春しようじゃないか。孫を守ることにもつながるかもしれん」


「PvPの報酬次第ですが、悪くない投資になるでしょう」


「ほっほ、ワシはあまり戦闘を知らぬから、教えてもらおう。頼むよリーダー、k君」


「……。イオリのみで結構です」


「ほっほっほ」


二人の笑い声が、夜の草原に溶けていった。


混沌工房カオス・アトリエ


「ただいま」


「おう、おかえり……って、にゃ?!」


「うわっ、ジィサンだ!!!」


僕がジィサンを連れて戻ると、ドドンパとシロロが驚愕の声を上げた。


直後、端末に通知が届く。


【クラン加入申請:ジィサン】


僕は迷わず承認ボタンを押した。


ミツルマンは12歳未満で設定している為クラン加入は出来ないが大した問題ではない。


ホームに来ればいいだけだ。


「ほっほ、今日からお世話になるよ。……孫はもう寝ておるがな」


「やったー! おじいちゃんよろしくー!」


シロロが駆け寄る。


「……ぽよ?」


奥のソファから、魔王ぽよんが顔を出す。


ジィサンを見て、ビクッと身を震わせた。


「……勇者の、祖父……? こ、こわくないのだ……? 我は魔王なのだぞ……?」


「ほっほ、可愛らしい魔王様じゃな。これをお近づきの印に」


ジィサンがインベントリから取り出したのは、『高級どら焼き(HP回復アイテム)』。


「! おやつー!!」


「ほっほ、甘いものは脳に良いからの」


ぽよん様が一瞬で陥落した。


孫の扱いに慣れている老人には、IQ3の魔王など赤子同然か。


「さて、クランチャット?これじゃこの『コンパニオンアプリ』とかいうのはどう使うんじゃ?」


「あ、私が教えるよー! ここをこうして……」


シロロがジィサンにアプリの使い方をレクチャーし始める。


微笑ましい光景だ。


「さて……もう23:30じゃな。孫が起きる前にワシも休むとするか。失礼するよ」


「お疲れ様です」


「おやすみー!」


ジィサンは満足げにログアウトしていった。



「……へぇ。まさか本当にジィサンを入れるとはにゃ」


ドドンパがニヤニヤしながらにゃーにゃー近づいてくる。


「必要な戦力だ。……それより、用があると言っていたな?」


「おう! さっき『猫の恩返し』を使ってSPスキルの通常獲得場所を特定しておいたにゃ」


ドドンパがウィンドウを開く。


そこに示された座標は、街の外れ。


「……! ここは……」


僕たちは深夜の街を抜け、指定された場所へ向かった。


◇ 始まりの町 エウレカのとある一軒家


到着した場所を見て、僕は思わず足を止めた。


「……まさか、ここか」


そこは、以前僕が『猫探しの婆さん』に接触しようとして失敗した、あの一軒家だった。


「にゃ〜お」


家の前には、あの時僕を追い回した猫『アンジュ』がいる。


そして、玄関先には箒を持った婆さんが仁王立ちしていた。


「あ! あんた! また来たのかい!」


「シャーッ!!」


僕が近づこうとした瞬間、婆さんが箒を振り上げ、アンジュが毛を逆立てて威嚇してくる。


「……チッ」


僕は反射的に下がる。


「まだヘイトが消えていないのか……。運営め、NPCの記憶保持期間をどれだけ長く設定しているんだ。無駄に優秀なAIだ」


僕が舌打ちをしていると、ドドンパが平然と前に出た。


『猫の恩返し』は外したのか語尾が消えている。


僕は個人的にドドンパのアレはキモくて好きなんだがな。


「こんばんは〜! ほらアンジュ、おいで〜」


「ミャオ♪」


アンジュがドドンパの足元に擦り寄る。


婆さんも笑顔だ。


「おや、アンジュちゃんを助けてくれたお兄ちゃんじゃないか。いらっしゃい」


この差だ。


僕が憮然としていると、家の中から一人の老人が出てきた。


「おや、お客さんかな? ……婆さんや、箒を下ろしなさい」


優しそうな好々爺。婆さんの旦那さんだろうか。


彼は僕の手元を見て、目を丸くした。


「おや……それは『曇り羽根⭐︎』じゃないか? 珍しいものを持っておるのぉ」


僕は無言でインベントリを開き、素材を提示する。


『曇り羽根⭐︎』×50

『そよ風のアイリット』×15


市場操作のために大量に買い込み、アイテム鑑定屋の実装で真価が判明した素材たち。


鑑定をする事でフレーバーテキストが変わり「⭐︎」が付いた。


このNPCへの「鍵」だったのだ。


「ほう! これだけの量を……! これなら、儂が若い頃に研究しておった『空歩きの術』を再現できるかもしれん」


旦那さんが興奮気味に素材を受け取る。


「少し待っておれ。すぐに調合してやろう」


老人は家の中へ戻り、数分後、一枚の羊皮紙を持って戻ってきた。


「できたぞ。……ほれ、持っていくがいい」


婆さんの鋭い視線と、アンジュの威嚇を浴びながら、僕はドドンパ越しにそれを受け取る。


獲得:スキル書【大跳躍ハイ・ジャンプ


・分類:SPサポートスキル

・効果:脚力に風属性を纏わせ、通常の跳躍力の5倍の高さへ跳ぶ

・制限:クールタイム30秒


「おおっ! これだこれ! 俺が使ったやつ!」


ドドンパが興奮して叫ぶ。


「……SPスキルか。探索範囲が劇的に広がる、そして攻略のギミックにもなるはずだ…」


これで「黒豹団のアジト」のような高所へも、僕一人で到達できる。


地形の理解ハックが進む。


「……チッ。婆さんには嫌われたが、旦那には気に入られたか」


僕は婆さんの箒を避けながら、苦々しく笑う。


運営の用意した「人間関係」という見えない壁。


だが、それすらも超えて「正解」を手に入れた。


「……よし。これで第5エリアの準備は整った」


僕はスキル書を握りしめ、次なる氷の世界を見据えた。

初めてのシリアス回になりました、、!


ですがジィサン正式加入!!


ジィサンの新しい青春は効率中の指揮下で、、、




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ