第30話:観測者、深夜の怪笑と現実(リアル)への強制転送
◇ 混沌工房外
時刻 2:09(月)
記録設計を終えた僕は、素材の詰まったインベントリを抱え、クランホームまで戻ってきた。
目の前には、相変わらずピンク色に発光するインク瓶(我が家)。
分かっている。数時間の不在の間に、シロロによるアップデートでまた見た目の進化が――どころではなかった。
「にゃー」
「にゃーーー」
「にゃにゃにゃ」
庭先に、大量の猫がいた。
野良猫か、それとも家具アイテムとしての配置か。
「最初は邪魔だと思ったけど、お前らいい子にゃー。これから頼むにゃー」
その猫の群れの中心で、ドドンパが腕を組んで偉そうに語りかけていた。
「お前はなんかデブだにゃー。俺を見習うにゃー。このスラッとした見た目に、頼れる腕、そして端正な顔立ちをにゃ」
「にゃー(無視)」
「ぽよ〜〜ん! ぽよにゃ〜〜!! 我の世界征服計画にお前達も加えてやるのだ〜〜! ぽよ〜〜!!」
その横で、魔王ぽよんが猫じゃらし(王笏)を振り回している。
(……ふむ。次は生態系のアップデートか。……うるさいなこれ)
僕は一瞬だけ思考し、アクセ効果による「語尾にゃ男」と、IQ3の魔王の横をスルーして中へと入った。
「おかえりにゃ〜! ……あっ、あいつスルーしやがったにゃ。お? なんだお前、にゃそんなに俺がいいかにゃー」
「ぽよ? 無視なのだ〜?」
背後で騒ぐ声をノイズとして処理し、僕は施設内へ。
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◇ 混沌工房内
「……チッ」
中に入って早々、僕は舌打ちをした。
目的の場所――クラン専用・核生成施設。
その台座が、ファンシーな猫耳と魔王の角でデコレーションされていたからだ。
「……重要な施設まで見た目を猫? 魔王? 化させやがった……」
機能に支障がないとはいえ、このふざけた台座で「最強」を作るのか。
僕はやけに派手なコンソールを操作する。
選択:防具作成 → 真核生成 → 部位:腕
「さぁ、僕の観測を高めろ」
僕はインベントリから、断崖で圧縮した『バイブロ・エンペラーの真核(複合素材塊)』を取り出し、台座にセットする。
ブゥン……。
マナ炉が稼働し、光が溢れる。
だが、その光の中にピンク色のラメが混じっている気がするのは、気のせいだろうか。
待つこと数分……。
カッッッ!!!!
光が収束し、台座の上に「それ」が現れた。
無骨な黒曜石の積層装甲。表面を走る導水根のパイプ。そして、微かに振動音を放つ甲羅。
生成完了
「【詳細観測】
——【Log】——
【対象: 装備】
【イオリk専用:地殻共鳴手甲】
・種別:[ 腕防具 / 物理探査機 ]真核防具
・ランク:ログデザイン級(環境適応型)
・製作者:イオリk
[基礎ステータス]
・DEF:+8(積層ガラス装甲)
・RES:+12(振動・音圧耐性)
・DEX:+5(精密動作補正)
・INT:+3(解析速度上昇)
・WTR(親水性):+20(導水根による水脈同調)
・属性: 地 / 水(振動波)
[ログ構成]
・振動圧着・複合装甲
・導水根の神経網(第2エリア・水脈記憶)
・沸石の属性吸着(第4エリア・濾過機能)
・環境負荷:轟音のプレス(不可侵領域ログ)
[固有パッシブ]
●《地脈感知》
地面に接触中、以下の不可視情報をUIに波形として強制表示する。
・地層硬度 / 空洞の有無(厚み深さの数値化)
・微振動(エネミーの足音など)
・水脈流動と属性偏差(熱・光)
●《光吸収外殻》
黒曜石の積層装甲により、光属性攻撃と「視界妨害」を無効化する。
鏡の迷宮や氷の反射光の中でも、常にクリアな視界情報を維持する。
●《水媒音響》
内部の「導水根」が、環境中の水分(氷・水・霧)を媒介に振動伝達率を最大化する。
氷上や水中では、探査範囲が半径30m→60mに拡大し、MP消費が半減する。
[隠し効果]
●《逆位相衝撃》
CT:60秒
直前に観測した振動ログに対し、計算された「逆位相」の衝撃波をバイブロ核から放つ。
振動系エネミーの内部破壊だけでなく、**「共鳴による氷壁の粉砕」や「音波攻撃の完全相殺」**が可能。
【フレーバーテキスト】
「大地は嘘をつかない。
その声を聞く耳を持つ者だけが、崩落の前に未来を知る。
――観測者の手は、地脈の心臓に触れている。」
———————————-
「……ふっ」
僕の口角が自然と上がる。
震える手で、完成した手甲を装備する。
黒い装甲が腕に吸い付き、神経が接続される感覚。
「想定以上にログが定着したじゃないか」
僕は空中で指を動かす。ラグはない。
地面に手をついてみる。
ドクン……ドクン……。
クランホームの床下の構造、外を歩く猫の足音、全てが波形となって脳内に流れ込んでくる。
「これでいい。これが僕の『正解』だ」
思考が加速する。
この装備があれば、クランの戦術は劇的に進化する。
(フゥに的確に『ここ掘れワンワン』ができる。僕が地形を理解すれば、フゥの強化は必然だ)
(ドドンパに攻撃予測をさせ、安全かつ速度バフをかけ、僕が敵の死角を観測。そこにフゥの知識と狂気が混ざり地形を破壊する)
(崩れたところに、シロロで回避不能の範囲超火力だ)
(PvPには興味がないが、クラン戦はいずれ来る。)
(今後も地形の理解が鍵を握る場面が来るだろう。)
(先を観測し、答えを作っておくのが僕の役目だ。
ヤツらはバカだからな。僕が導いてやらなければ。)
「……フッ、ハハハハ……」
静まり返ったロビーで、僕の笑い声が漏れる。
「……クックック。完璧だ……」
僕は一人で思考の海に没入し、ニヤけながら笑っていた。
背後の扉が開き、ドドンパとぽよんが入ってきていた事に、気づかずに。
「……こいつ、頭大丈夫にゃー?」
「魔王みたいなのね〜〜……。あの人間も世界征服計画始めたのか〜〜?!!」
「真似するぽよ〜〜!!」
「にゃっにゃっにゃっにゃっや!」
「ぽよっぽよっぽよ〜っ!!!」
二人が爆笑したことで、僕は我に返った。
「……ッッ!! チッ!!」
思考停止。
言い訳無用。
僕は無言で冒険者端末を起動し、ログアウトボタンを高速で連打した。
「あ!! 逃げたにゃー!!」
「次なるお菓子を目指してるのだ〜〜〜!! ぽよ〜〜!! ぽよんのおやつは?」
視界が暗転する直前、二人のニヤけた顔が焼き付いた。
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◇ 現実 イオリの部屋
「はぁはぁ……」
ヘッドギアを外した僕の顔は赤く、心臓の鼓動が耳の奥で鳴り響いていた。
「……チッ。油断した」
見られていた、という事実ログが脳裏に焼き付いて離れない。
深夜のテンションとはいえ、あんな無防備な姿を晒すとは。一生の不覚だ。
僕はヘッドギアを放り出し、風呂場へと向かう。
時刻は 2:30。
明日は有給明け、月曜日だ。
早く寝よう。記憶をデリートして。
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◇ 翌朝 都内某企業・ロビー
「……おはようございます。株式会社アーキテクト・ソリューションの矢田島です」
僕は深々と頭を下げる。
身につけているのは、黒曜石のような光沢を持つスーツではなく、量販店の安価な紺色のスーツ。
手には断崖写本杖ではなく、革の鞄。
「矢田島さん、お待ちしておりました。こちらの会議室へどうぞ」
受付の女性が微笑み、入館証を手渡してくる。
「ありがとうございます」
僕は入館証を受け取り、ゲートにかざす。
ピッ。
ゲートが開く音。
(……セキュリティレベル1。認証速度0.5秒。ゲート通過ログ、正常記録)
無意識に、そんな思考が走る。
ロビーを行き交う人々。
忙しなく歩く営業マン、スマホを見ながら待つ来客、掃除をするスタッフ。
(……対象A、移動速度B。ルート固定。NPC……いや、清掃員か)
(……対象B、視線が挙動不審。商談前の緊張状態を確認)
視界に入る全ての情報が、まるでゲーム内のパラメーターのように変換されて脳内に表示される。
昨夜の「地殻共鳴手甲」の感覚が、まだ神経に残っているようだ。
「……矢田島さん?」
「あ、失礼しました」
案内人に促され、僕は歩き出す。
大理石の床を踏む感触。
コツ、コツ。
(……床材硬度、高。空洞なし。……フゥならこの下を通気ダクトごとくり抜くだろうな)
……ダメだ。
完全に「あっち側」に侵食されている。
「本日は、御社の基幹システムの最適化について、ご提案させていただきます」
会議室に入り、僕は名刺を取り出す。
目の前のクライアントは、強面の部長と、頼りなさげな担当者。
まるでボスモンスターと、その取り巻き。
(……攻略法は決まっている。ボスのヘイトを管理しつつ、取り巻きの不安要素を潰す)
「では、こちらの資料をご覧ください」
僕はプロジェクターを起動する。
現実もまた、退屈なクエストの一つに過ぎない。
僕は眼鏡の位置を直し、淡々と「正解」を叩き出し始めた。
ついに大台30話!一作目の合間に描き始めたのに楽しくなって書き進めてしまった……笑
リアルにゲームの影響が出てしまうのあるあるですよね…
僕もここ射線通りすぎだなとか考えてたことあります。
〜次回予告〜
ストック無しのため未定ですが2/10中にもう1話あげます!




