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第2話:観測者、嵐を綴る




始まりの町「エウレカ」。


多くのプレイヤーが初期装備のままフィールドへ飛び出していく中、僕は路地裏にある「核コンバージョン施設」の前に立っていた。


「おいイオリk、本当にいいのか? 掲示板じゃ『真核はバザーで売ればとんでもない高値がつく』って祭りになってるぞ」


ドドンパが心配そうに声をかけてくる。


「売らない。金なら後でいくらでも稼げる。今は『手段(武器)』が先だ」


僕はインベントリを確認する。


先ほどの『スモールトレント』200体討伐で手に入った大量の素材。

それをバザーに出品して相場を待つ時間すら惜しみ、全てNPCショップに叩き売った。


手元にあるのは、その売却益である20,000G。

ちょうど、真核の加工費用分だ。


「システム、コンバージョン開始。……ログの記述通りに成形しろ」


僕は迷わず、施設内の台座に『レッドスモールトレントの真核』をセットした。


ただし、単体ではない。


泥と埃にまみれ、夕日の熱を帯び、無数の「ゴミ」のデータが付着した、僕だけの真核だ。


ブゥン……!


施設内のマナ炉が低く唸り、爆発的な光が溢れ出す。


通常なら一瞬で終わる処理が、数秒、十数秒と続き――

施設全体が軋むような音を立てた。


生成完了コンプリート


光が収束し、台座の上に「それ」は鎮座していた。


「……は?」


ドドンパが目を点にして口を開ける。


「おい、イオリk。なんだそれ」


そこに在ったのは、剣でもなければ、ましてや靴でもない。


全長150センチメートル。


深紅の赤木を軸に、先端には割れたガラスのような結晶が埋め込まれた――

**巨大な『ペン』**だった。


僕は愛おしそうにその柄を握る。


「….美しい。完璧な『記述具』だ」


【観測士専用・唯一派生武装:断崖写本杖を検知】

【普告:このアイテムは通常の『製作』ではなく、環境ログの『記述』によって生成されました】


視界に流れる「唯一ユニーク」の文字。


そう、これは運営が用意したデータではなく、

僕が強引に書き込ませた「バグ」に近い一品だ。


「ペン!? お前、あれだけ蹴り飛ばしてペンかよ!?」


「不服か? これこそが『観測士』の至高だ」


僕はウィンドウを開き、ステータスをドドンパに共有する。


【名称:断崖写本杖クリフ・スクリプトペン

・種別: 長杖ペン

・攻撃力: 15

・魔力(INT): +25

・パッシブスキル: 『環境誤認エコーログ

・隠し効果: 『ログ・ドリブル』


「INT……プラス25……?」


ドドンパの声が震える。


「おい、初期装備の杖でINT+3だぞ? 桁が違うじゃねーか! バグか!?」


「バグじゃない。仕様だ。……行くぞ、ドドンパ。試筆テストの時間だ」



第1エリア最奥。


木々のトンネルを抜けた先に、巨大な石造りの門と、転送用の石碑が聳え立っていた。


エリアボス『マッスルラビリット』への入り口だ。


ドドンパが自身のステータス画面を操作し、確認する。


「レベルは……8か。200体も狩っただけはあるな」


「ボスの推奨レベルは10だ。ステータス上は少し足りないが、装備差で埋まる」


「つーか、そのペンならお釣りが来るレベルだろ」


僕が石碑に触れると、半透明のウィンドウが浮かび上がる。


『パーティ申請を確認。転送を開始します』


視界が歪み、次の瞬間、僕たちは円形の闘技場に立っていた。


ドーム状の天井、石畳の床。

周囲には観客席のような意匠があるが、無人だ。


「……ん?」


僕は足元の石畳を靴底で擦る。


「どうした?」


「……いや、床の摩擦係数が想定より0.05低い。配信で見ていた部屋とは別のインスタンス(部屋)か」


「マジかよ。……ってことは、予習データとズレがあるってことか?」


「微細な誤差だ。問題ない」


その時。


ジャァァァァァン!!


空気を震わせる銅鑼ドラの音が響き渡った。


「来るぞ! 上だ!」


ドドンパの鋭い指示。


見上げれば、遥か頭上から巨大な影が落下してくる。


ドォォォォン!!


強烈な着地音と共に砂煙が舞う。


現れたのは、身長3メートルを超える筋肉の塊のようなウサギ。


エリアボス『マッスルラビリット』。


「シャァァッ!」


咆哮と共に、ウサギがいきなり地面を蹴った。


速い。


あの巨体で、トップスピードに乗るまでが異常に短い。


「右フックだ! 予備動作なし!」


ドドンパが叫ぶ。


僕はその指示に従い、即座に左へステップを踏む。


だが。


「ッ……!」


回避したはずの拳が、僕の鼻先を掠めた。


「イオリk! 床だ! 滑るぞ!」


「……把握した!」


やはり、この部屋は「滑りやすい」。


定点カメラの映像にはなかったノイズ。

普通のプレイヤーなら「なんか動きにくい」で済ます違和感だが、

1フレーム単位で回避を計算する僕にとっては致命的なズレになり得る。


「ドドンパ、指揮を頼む。僕は『記述カキコミ』に集中する」


「おうよ! 任せろ、お前の死角は俺が埋める!」


ドドンパが前に出る。

彼は盾職ではないが、その位置取りは絶妙に敵のヘイト(敵対心)を分散させていた。


「次、左足溜めた! 大技来るぞ、6秒後にインパクト!」


「6秒……十分だ」


僕は巨大なペンを両手で構え、何もない空間に向かって振るった。


サラサラサラ……


戦場に似つかわしくない、乾いた筆記音が響く。


ペンの先端が空気を裂くたび、

赤い光の軌跡が「文字」となって空間に刻まれていく。


「――記述。『強風』、および『断崖の幻影』」


【パッシブ発動:環境誤認エコーログ


瞬間。


閉ざされた闘技場に、ありえないはずの「轟音」が鳴り響いた。


ゴオオオオオオ!


夕暮れの断崖で録音された突風の記憶が、

システムを騙し、この場に暴風を再現する。


「なっ……マジで嵐になりやがった!?」


突如吹き荒れた向かい風に、

突進しようとしていたマッスルラビリットがたたらを踏む。


「今だ! バランス崩した!」


ドドンパの号令。


僕はペンを地面に突き刺し、それを軸にして体ごと回転する。


狙うは、ウサギの腹部。


「『ログ・ドリブル』……!」


【隠し効果発動:ドリブルログの物理変換キネティック・コンバート


ドガッ!


真核を蹴り続けた1時間の「衝撃のログ」が、

ペンを通じて僕の脚に乗り、魔力と共に爆発した。


魔法職とは思えない重い蹴りが、無防備な腹に突き刺さる。


『Hidden Effect: Magic Amp +15%』


システムログが流れると同時に、

僕はペンを引き抜き、切っ先をウサギの鼻先に突きつけた。


「終わりだ。消えろ、不確定要素ノイズ


『筆記術・風断ち』


至近距離から放たれたのは、魔法というより「暴風の刃」。


風属性の魔力に加え、断崖の環境補正、

そして蹴りによる威力上昇が乗った一撃は、

物理演算の許容を超えてウサギの巨体を吹き飛ばした。


ズザザザザ……!


反対側の壁まで叩きつけられたボスは、

そのまま光の粒子となって霧散した。


『Victory』


ファンファーレが鳴り響く。


後に残されたのは、静まり返った闘技場と、

ドロップアイテムの輝きだけ。


「……ははっ」


ドドンパが乾いた笑いを漏らしながら近づいてくる。


「呆れた。戦闘中に環境ごと書き換えるとか……お前、本当に『観測士』かよ」


「観測した結果を反映させただけだ。……それに、お前の指示がなければ最初のラッシュで被弾していた」


僕は地面に落ちたドロップ品を拾い上げる。


真核は落ちなかったが、

レア素材の『剛兎の毛皮』と、5万Gの大金。


そして――


『称号【剛兎を狩る者】を獲得しました』

『STR+3が付与されます』

『第2エリアへの通行権限が解放されました』


「よし、鍵は手に入れた」


僕は巨大ペンを背中に背負い直す。


「行くぞドドンパ。軍資金もできた。次は『市場バザー』だ」


「へいへい。次は経済操作かよ。……まあ、お前の描く『正解』ってやつ、もう少し付き合ってやるよ」


ニヤリと笑う相棒と共に、僕は転送ゲートへ向かう。


最初の「答え合わせ」は完了した。


だが、この世界にはまだ、

僕が修正すべき「ノイズ」が山ほど溢れている。


2話いかがだったでしょうか?


魔法職寄りなのに蹴るってのがいいんです。あれそうですよね?


僕、「ゑルマ」は同時に「『Legacy online 』君が愛したのは、死んだ僕だった」と言う作品も書いております。 よろしければそちらも読んでいただけると喜びます ブクマもしてやってもいいと思っていただけるだけでもありがたいです。

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