第26話:観測者、勇者を作り出す設計(デザイン)を実演する
今回は真核作成回なので少し長めでございます!
◇ 現実 イオリの部屋
翌日、日曜日の朝。
僕はトーストを齧りながら、コンパニオンアプリでクランメンバーの能力を再分析していた。
画面に並ぶ数値と、昨夜確保した素材リスト、そしてエリア情報。
それらを脳内でパズルのように組み合わせる。
「……よし」
論理は整った。
あとはいつもの様に、現場で僕の『正解』を叩き出すだけだ。
僕はアプリのクランチャットへ計画を共有し、最後の一口を飲み込む。
「ログイン」
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◇ 混沌工房
「あ、おはよー! イオリ君!」
ログインするなり、シロロが駆け寄ってくる。
今日も朝から元気だ。
奥のテーブルでは、フゥがいつも通りどこで拾ってきたか分からん気味の悪い石に、うっとりと愛を囁いている。平常運転だ。
「おはようにゃー、イオリにしては遅かったにゃー」
ソファから気だるげに声をかけてきたのは、ドドンパだった。
「……。ツッコむべきか?」
「にゃああああ当たり前だろにゃああああああ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ相棒。
僕は冷静に近づき、彼の顎を猫のように撫でる。
「やああああめろおおおにゃーーーーー!」
「ふっ」
ドドンパが慌ててウィンドウを操作し、装備を外す。
「てめ!! 覚えてろ!!」
「……『猫の恩返し』は語尾に『にゃー』がつくという弱体化だったか」
「ちげーよ! いやそうだけど! 正確には『猫を集めて指定のナニカを探してくれる』スキルだ。人探しやらアイテムやらをな。だが、つけている間は強制的に語尾に『にゃ』が付くんだよ!」
「どんまい」
「は?! え? は?!」
僕は憤慨するドドンパを無視して、思考を切り替える。
(……捜索機能か。有能だが、代償が大きすぎるな)
『猫の恩返し』のデータを頭の隅に保存し、本題へ入る。
「今日は忙しいぞ。綿密な計画で成り立つ記録設計だ。ぽよんは何してる?」
「配信枠の予約入ってた!! 配信見たいけど、今日は勇者の誕生だもんね! 私、可愛く! かっこよく頑張るよ!!!」
シロロが気合を入れる。
ふっ、そうだ。今日のテーマは「かっこよく装飾」だ。
僕はジィサンにも計画の共有と、『勇者(孫)を誕生させる』とメッセージを送る。
「行くか」
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◇ 第4エリア グレアマイン
転送の光が収まると、そこは薄暗く、しかし無数の鉱石が怪しく明滅する広大な洞窟だった。
あちこちから、キィーン……という鉱石の共鳴音が聞こえてくる。
「じゃ、まずはここからね……この地層は……」
フゥが気持ち悪いくらい興奮し、道案内をするために前に出る。
そうだな、こいつは既に来ているに決まっている。
「フゥ、また今度だ。金を払うなら聞いてやる。……いや、今日は珍しい鉱石のスペクタクルを見せてやる。動け」
「はいっ!」
石の話が出た途端、素直に下がるフゥ。扱いやすい奴だ。
そこへ、奥から杖をついた老人と、小さな影がやってきた。
「ほっほ、皆さん今日は孫の為にありがとう。真核は確保しておるぞ! もちろんコイツ(ゲートボールスティック)で運んでおる」
「うおおおおおおおすげぇぇぇぇぇピカピカああああ!!」
ミツルマンが、フゥが手持ちの石英を光に反射させて作った虹を見て大はしゃぎしている。
微笑ましい光景だ。
仲間たちが挨拶をし、ミツルマンがドドンパと戯れていると――
「ぽよーーーん!! 人間ども〜〜!! 我についてくるのだ〜〜!! おやつくれなのだ〜! ぽよ〜〜!!」
騒がしいピンク色の塊が、猛スピードで前を通っていった。
なんて配信者向けのゲームか。ログインしながらリアルタイム配信なんて。
今頃、ぽよん軍の配下たちがコメント欄で大騒ぎしているだろう。
「……役者は揃ったな」
僕は断崖写本杖を構える。
「さぁ行くぞ、勇者を作る」
真核は取得直前の1時間の行動を吸い取る。
もたもたしている暇はない。迅速に『最強』を記述するぞ。
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【STEP 1】舞台装置:「英雄の凱旋」の再演
「シロロ、準備はいいか」
「任せて! 音響全開で行くよー!」
シロロが『宝石変換鞄』の口を大きく開け、洞窟の中央に向ける。
僕はインベントリから、以前保存したログデータを取り出す。
記録保持:『英雄の凱旋』展開
ドォォォォン!!
ワァァァァァァァ!!!!
洞窟内に、1,999人のプレイヤーの歓声と爆発音が響き渡る。
だが、ただの再生では弱い。
「みんなー! ミツルマンのために元気を分けてくれなのだー!」
洞窟の隅で、魔王ぽよんが配信カメラに向かって叫ぶ。
リアルタイムで視聴している数万人のリスナーのコメントと声援が、システムを通じて具現化する。
『がんばれー!』『勇者かっこいい!』『ぽよー!』
「すごい……! 声がいっぱい聞こえる!」
ミツルマンが目を輝かせる。
過去の歓声と、現在の配信の熱狂。
二つの音が洞窟内で反響し合い、凄まじい 「応援圧」 が発生する。
(……良し。これで 【声援強化(元気玉効果)】 のログ下地が完成した)
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【STEP 2】光の迷路:「当たらない主役」の演出
「ドドンパ! 灯せ!」
「おうよ! 俺を見ろぉぉぉ!!」
ドドンパが『光るフード』を最大出力で発光させ、洞窟の中央に立つ。
強烈な光が、洞窟内の水晶や鏡のような岩肌に乱反射する。
カッッッ!!!!
光が光を呼び、ドドンパの虚像が何百体にも増殖した。
そこへ、第4エリアのギミックである「落石」や、音に引寄せられたモンスターたちが襲いかかる。
だが。
敵は「どれが本物か」分からず、光る虚像ばかりを攻撃して空振る。
「へっ! 当たらねぇよ! 俺は光だ!」
「……今だ」
僕は、この「光り輝いているのに当たらない」状況の中心へ、素材となる『真核』を放り込む。
(目立つのに被弾しない……この矛盾したログを刻むことで、
【ヘイトを集めるが攻撃が当たらない(回避タンク)】 性能を付与する!)
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【STEP 3】必殺の軌道:「ターゲットロック」と「変身バンク」
「ジィサン! 出番だ!」
「ほっほ、待っておったぞ!」
ジィサンが門球打撃棍を構える。
乱反射する光のレーザーを、彼は「コース(ゲート)」として捉えていた。
「とぉー!」
カァンッ!!
ジィサンが、特撮ヒーローのような掛け声と共に、真核を強打した。
真核は光のラインに乗り、ピンボールのように水晶に反射しながら加速する。
「やぁー!」
カァンッ! カァンッ!
「すげぇ! 爺ちゃんかっこいい!」
光の軌跡を描きながら、真核は 「最短ルート」 で目的地へと吸い込まれていく。
僕はその軌道を、杖でなぞるように記述する。
(掛け声に合わせて加速するログ……
これで 【ターゲットロック】 と 【言葉トリガーでの攻撃力UP】 を実装する!)
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【STEP 4】スキル【絶縁の心】
「シロロ、作業だ」
僕はインベントリを開き、事前に準備しておいた素材を取り出す。
透き通るような 【高純度石英】。
第4エリアの奥地でしか取れないレア素材だが、
僕のバザー監視網(と資金力)にかかれば入手は造作もない。
「素晴らしいわ……! 不純物が限りなくゼロに近い……!」
フゥが横でよだれを垂らしそうになっているが、無視してシロロに向く。
「シロロ、鞄だ。この石を『消化』させろ。……ただし、能力の吐き出しは使うな」
「えっ? 飲み込むだけ?」
「そうだ。ドロドロに溶かした状態で、口から直接引きずり出すんだ」
「ええ〜!? 汚い絵面〜! ……でも、ミミックちゃんだよ? 溶鉱炉? だっけ、熱そうーだよー!! 手が溶けちゃう!」
フゥがすかさず説明する。
「石英の融点は1700度よ?!」
「安心しろ。……これを使え」
僕は続けて、分厚い真紅の手袋をシロロに放り投げた。
「え、なにこれ? ごつい手袋?」
「『火山湖の耐熱ミトン』だ。
第3エリアのボスから落ちた『火山湖の核片』と、
大量に買い占めていた『ボロボロのフード』を掛け合わせて鍛冶屋NPCに渡して作らせた特注品だ(−1,000,000G)」
「ええっ?! あの貴重なボスの素材を手袋にしちゃったの?!」
「マグマの熱すら遮断する。それを装備すれば、宝石変換鞄の中に手を突っ込んでも熱くない」
「わぁ〜! すごーい! 贅沢〜!」
シロロは喜んでミトンを装着すると、鞄の口をガバッと開け、
「ミミックちゃん!」
と叫び石英を放り込む。
『ゲフッ……ゴボボボボ……』
内部温度数千度。ミミックの胃袋が瞬時に石英を飴のように溶かす。
「今だ、引っこ抜け! ……一定の速度で、止まるなよ!」
「エイッ!!」
シロロが恐れずに手を突っ込み、輝く粘液を掴んで、一気に空へ向かって振り上げる。
ヒュンッ!!
ニチャァァァ……キラキラキラ……ッ!
溶けた石英が空中で極細の糸へと引き伸ばされ、
外気に触れた瞬間、急速冷却されて美しい光の繊維――光ファイバーへと変わった。
「わぁ〜! チーズみたい! ……でもキラキラしてて綺麗!」
「……見事だ。ボスの素材も使いようだな」
シロロが作り出した極細の繊維束を、ジィサンが剣の『持ち手』に巻き付ける。
記述:外部干渉、検知されず。
入力された『意思』は、100%の純度で出力(打撃)された
(これで精神系状態異常を完全無効化する
【絶縁の勇気】 が完成する!)
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【STEP 5】クライマックス:「孫を守る」絶対防御
仕上げだ。
僕は天井の岩盤の『脆い一点』を見定め、魔法を放つ。
「記述。『崩落』」
ズゴゴゴゴゴ……ッ!!
巨大な岩塊が、真核(=孫の見立て)めがけて落下する。
「危ない!」
「ミツルマン(真核)が潰される!」
その瞬間。
「させんわぁっ!!」
ジィサンが飛び出し、職業スキル 【護法僧】 を発動。
身を挺して真核を庇う。
同時に、フゥがドリルを地面に突き刺した。
「……記憶よ、蘇んなさい! 【地層記憶】!」
ズドォォォン!!
地面から出現したのは、ただの岩ではない。
以前保存した「第3エリア火山の最強硬度の岩盤」と「霧のバリア」だ。
ガキンッ!!
落石は最強の盾に弾き返され、真核は傷一つなく守られた。
(「死にかけのピンチ」に「最強の守り」が発動した事実……
これで 【バリア発動】 の条件付けは完了だ!)
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カァァァァァァッ……!!
全ての工程を終え、真核が爆発的な輝きを放ち始める。
1時間のログが凝縮され、一つの形へと収束していく。
「……完成だ」
光が収まると、そこには子供の夢を具現化したような、
光り輝く剣の紋章が浮かぶ真核が突き刺さっていた。
「うおおおおおお!! 剣はー?」
ミツルマンが目を輝かせて真核に駆け寄る。
「……ふっ。勇者の……いや、英雄の凱旋だ。
勇者よ、真核をインベントリに入れろ。
それで記録は固定される」
僕は汗を拭い、満足げな仲間たちを見る。
完璧な仕事だった。
「町へ戻るぞ」
僕たちは、新たな「勇者」誕生の期待を胸に光の洞窟を後にした。
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その直後。
配信のコメント欄が、不穏な流れになっていることにぽよん様が気づく。
『え、魔王様が勇者に協力していいの?』
『敵に塩送ってるww』
『勇者(子供)育てちゃったねぇ……』
『おやつなくなるやん』
「……ぽよ?」
ぽよん様が凍りつく。
「ぽよおおおおおおおおお〜〜! やってしまったのだ〜〜! おやつ係(勇者)を育ててどうするのだ〜〜!!」
洞窟に、魔王の悲痛な叫びがこだました。
どうだったでしょうか?
メタ的な話ですが……ロジックを組むのに4時間くらい格闘しました。
目が痛い……。
〜次回予告〜
27話は 2/9 11:00に投稿予定です!!




