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第25話:観測者、光る相棒を夜空へ打ち上げ『特大花火』を描く



◇ エウレカ草原 断崖エリア


「イオリ!! こっちだ!」


祭りの喧騒から離れた断崖絶壁の麓。

暗闇の中で、一際目立つ光源が手を振っていた。


「……ああ、待たせた。現在の首尾は」


僕は冷静に返事をしながらも、内心で呆れていた。


(……こいつは何故、これから盗賊のアジトへ潜入だというのに光っているんだ? バカなのか?)


ドドンパは、まるで自分自身が祭りの提灯になったかのように、

全身から淡い発光エフェクトを放っていた。


以前、僕が彼を「灯台」と呼んだことへの皮肉か、

それとも単に目立ちたがり屋なだけか。


「ああ、あのスキル書を使ってSPスキルを覚えたんだ。戦闘中には使えない移動用スキルだけど、スゲーぜこれ」


「……ユニーククエストを受けたお前は、特殊NPCを通さずにアイテムを獲得できたわけか。それを盗賊が落とすとは……ふっ、つまらんな」


「んなこたいいよ、行くぞ」


エウレカ草原は現在、僕が仕掛けたクエストによってお祭り騒ぎだ。

爆発音と歓声が遠くから響いてくる。


僕にとっては仕事の一環タスクでしかないが、

プレイヤーたちは欲望に従い、見事に民衆デコイとして機能してくれている。


計画通りだ。


そんな喧騒を背に、僕たちは例の巨大な岩を見上げる。


ちょうど今、黒い装束の男達が、物理法則を無視した跳躍で岩の上へと消えていくところだった。


「へっ、なんかここ来ると胸が躍る感覚があるな」


「今度はここでカチコミだ。……行くぞ」


「よしっ、SPスキルの出番だな」


黒装束の男の姿が見えなくなると、ドドンパは岩の前に立ち、屈伸運動を始めた。


「……お前はスキル書を使って習得済みだが、僕はまだ持っていない。中に何か仕掛けがあるはずだが、ユニーククエストだ。最悪、アイテムを拾った者……一人専用のルートかもしれん」


「おう、分かった。とりあえず俺が先に行って探してくるわ」


そういうと、ドドンパは大きく息を吸い込み、夜空に向かって高らかに唱えた。


「SPスキル! 【大跳躍ハイ・ジャンプ】!!!!」


ドォォォォォン!!


地面が爆ぜたかのような轟音。

ドドンパの体が、先ほどの黒装束の男達と同様、物理法則を無視した軌道で大跳躍――じゃなかった。


「うううぇおおおいいい?!?!」


ピューーーーー……


制御不能。


岩の頂上など一瞬で通り過ぎ、彼は遥か彼方の夜空へと吸い込まれていく。


「力加減あるんかーーーーいッッ!!」


キラッ。


夜空の星が一つ増えた気がした。


「……はぁ。バカめ」


僕は額を押さえる。


パラメータ依存のスキルだ。

STR(筋力)とAGI(敏捷)の加減を知らないとああなる。


「だがまぁ良かったな。祭りの参加ではないが、お前自身が『花火』になれたじゃないか」


僕は遠ざかる光を見上げ、抑揚のない声で呟く。


「たーまやー(棒読み)」


数秒後。


ドテンッッッッッッ!!!!


岩の上から、鈍く重い着地音が響いてきた。


「いってえええ……! このスキル難しいなオイ! イオリ待ってろ、とりあえずこの階段降りるわ!」


上空から大声が降ってくる。元気そうで何よりだ。


「……さっさと行け、『花火男』」


---


待つ事数分。


巨大な岩の前に、揺らめく光の魔法陣が浮かび上がった。

転送ポートだ。内部からの開通操作が必要だったらしい。


僕は魔法陣へと進む。


光の収束が終わると、そこには薄暗い洞窟の入り口があり、

ドドンパもとい『灯台』もとい『花火男』が、何事もなかったかのようにドヤ顔で待っていた。


「へっ! 潜入成功だ!」


「……行くぞ。相手はNPCだが、初の対人戦(PvN)の可能性がある。エネミーとは挙動アルゴリズムが違うぞ。頼むぞ、花火戦術士」


「花火? ……ああ、分かったよ」


---


◇ 黒豹団アジト


僕たちは薄暗い、いかにも盗賊のアジトといった雰囲気の通路を進んだ。


カビた臭い、湿った空気、粗雑な木箱、そして微かに聞こえる話し声。


「?! 何者だ、テメェら!!!」


「おおおおい! 出てこい敵襲だぞ!!」


見張りの男が声を上げると、奥から黒豹団の団員たちがゾロゾロと出てくる。


剣を持った者、投げナイフを構える者。

モンスターのような単調な威嚇音はない。

明確な殺意を持った「人間」の動きだ。


「やるぞ」


「おう!」


ドドンパが前に出る。


団員の一人がショートソードを突き出してくるが、

ドドンパはタクトを一振りして軌道を逸らす。


「甘いぜ! エネミーみたいに予備動作が大きくないが、視線が雄弁なんだよ!」


さすが戦術士。対人戦における「フェイント」を見切っている。


僕は後方から『断崖写本杖』を振るう。


「記述。――『突風』」


狭い通路に風を巻き起こし、連携しようとした団員たちの足並みを乱す。


モンスターならスーパーアーマーで突っ込んでくるところだが、

人間型NPCは「怯む」。


このリアクションの差こそが、対人戦の攻略鍵キーだ。


「数は多いが、個々のステータスは低い。各個撃破だ」


団員10数人を倒し、僕たちはアジトの最奥かと思われる豪奢な扉の前にやってきた。


すると、中から奇妙な声が聞こえてくる。


『にゃー!』『シャー!』『ミャア……』


「……他の希少猫も囚われてるって言ってたもんな。しかし何匹いるんだ、鳴き声がすごいぞ」


「乱獲すれば『希少猫の核』に困らんな」


「お前……すごいな。ブレない思考回路でもはや安心するわ」


呆れながら呟くドドンパを無視して、僕は扉を蹴り開ける。


バンッ!


---


中は広々とした空間になっていた。


壁際には巨大な檻があり、20数匹はいると思われる希少猫が詰め込まれている。


その中に、一匹だけ毛色が違い、首輪の鈴が淡く発光している個体がいた。


観測士スキル:詳細観測ディープ・スキャン

対象:アンジュ(希少猫・ユニーク個体)

状態:拘束 / 敵対心(大)

解析:首輪に『所有者:エウレカの婆さん』の記述あり。飼い猫と断定。


「……間違いない。町で僕が倒そうとして……いや、探していたアンジュだ」


「誰だァ? 俺のシマに土足で入り込む礼儀知らずは」


檻の横、主張の激しい金ピカの装飾で彩られた椅子に、一人の男が偉そうに座っていた。


赤いスキンヘッド、上半身裸に革のベスト。


以前、僕がアジトを探しに来た際、ここへ入っていくのを見かけた男だ。


黒豹団 団長 モヒート


「あぁ? お前らまさか…外の騒ぎの発端か……。こそこそかぎ回りやがって。ネズミ共が」


モヒートがゆっくりと立ち上がる。

その手には、不釣り合いなほど巨大なチャクラム(投擲刃)が握られていた。


「取引の邪魔をしやがって……! この猫どもは金になるんだよ! 宴会の代金になぁ!!」


激昂と共に、モヒートが腕を振るった。


ヒュンッ!!


「危ねえ!」


ドドンパがタクトでチャクラムを弾く。

重い金属音が響く。


「イオリ! こいつパワータイプに見えて器用だぞ! 投擲の軌道が曲がる!」


「予測しろ、灯台! お前の『濃霧予兆』なら見えるはずだ!」


ドドンパがタクトを振るい、風の流れを読む。


「来るぞ! 右から回り込んでくる! 3秒後、首元!」


「了解」


僕は予測地点に『風壁』を置く。


ガキンッ!


見えない壁にチャクラムが弾かれる。


「チッ、小賢しいマネを!」


モヒートが舌打ちし、再び投擲の構えを取る。


ドドンパが集中する。


「次は……正面! いや、フェイントだ! 足元に来るぞ!」


「記述。『突風ガスト』!」


僕は杖を振るい、モヒートの足元へ局所的な強風を叩きつける。


モヒートの軸足がブレ、投擲の威力が死ぬ。


「いける! パターンは読めた!」


ドドンパが確信したように叫ぶ。


だが。


「……ハッ。調子に乗るなよ、冒険者風情が」


モヒートがニヤリと笑った瞬間、その姿がブレた。


「え?」


ドドンパの予測ログが強制的に書き換わる。


目の前にいたはずの敵が、消失した。


「後ろだッ!!」


僕が叫ぶよりも早く、モヒートはドドンパの背後に出現していた。


スキル【影移動シャドウ・ステップ】。


「遅ぇよ!!」


ドカッ!!


蹴り飛ばされ、ドドンパが壁に叩きつけられる。


「ぐはっ……! うそだろ、予測にノイズが……!」


「光があるから影ができる。影があれば、俺はどこへでも行けるんだよォ!」


モヒートが笑いながら、再び影へと沈む。


神出鬼没。

ターゲット予測を無効化する、対人戦特化のスキル構成。


だが。


「……光があるから影ができる、か」


僕は冷静にログを遡る。


奴の移動には法則がある。


「影」の濃度が一定以上の座標への転移。


つまり、アジト内の薄暗い照明が奴のフィールド(聖域)になっている。


「……ならば、影を消せばいい」


単純な論理ロジックだ。


影を消すにはどうする?

照明を壊す?


いいや、違う。


「影ができないほどの強烈な光」で塗りつぶせばいい。


「ドドンパ! 立てるか!」


「いってぇ……! 当たり前だ! まだ終わってねぇ!」


「そうだ。……お前のその『輝き』、有効活用させてもらうぞ」


僕はインベントリから、あるアイテムを取り出した。


先日、シロロから「イオリ君、可愛くないからあげる!」と無理やり押し付けられた

発光鉱粉ライトダスト』の袋。


そして、同じくシロロからもらった(巻き上げた)

『キャンディ爆弾(火薬)』。


「受け取れ! これを使って飛べ!」


僕は二つのアイテムをドドンパに投げ渡す。


「はぁ?! 火薬と光る粉?! 何すんだよこれ!」


「さっきのアレだ。お前のSPスキル【大跳躍】……あれは『予備動作なしの超高速移動』だ。それを垂直ではなく、水平(敵)に向ければどうなる?」


「……人間ミサイルかよ!」


「そこに『火薬』の推進力と、『発光粉』の目眩しを乗せる。……今の怯んでいる隙に、奴の視界ごと全てを焼き尽くせ!」


ドドンパがニヤリと笑う。


「へっ……無茶苦茶言いやがる! だが、嫌いじゃねぇ!」


ドドンパがタクトを構え、腰を落とす。


モヒートが影から現れ、止めを刺そうと迫る。


「終わりだァ!」


「いいや、始まりだぜ……!!」


ドドンパがスキルを発動する。


同時に、手の中の火薬と粉塵を撒き散らした。


「今度は……今の俺は……特大花火だァァァァァァ!!!」


ドォォォォォォンッ!!!!!


狭いアジト内で、太陽が爆発したような閃光が走る。


【大跳躍】のベクトル制御を無理やりねじ曲げたドドンパが、

光と爆風を纏った一粒の弾丸となってモヒートに突っ込む。


「な、なんだこの光はぁぁぁぁ!?」


影が消滅し、逃げ場を失ったモヒートが絶叫する。


「た〜〜〜〜ま〜〜〜〜や〜〜〜〜!!!!」


ズドォォォォン!!!


直撃。


光の奔流がモヒートを吹き飛ばし、アジトの壁ごと粉砕した。


---



「……ぐ、ぐオオ……! 覚えてやがれ……!」


煙の中から、ボロボロになったモヒートが這い出てくる。


HPは残りわずかだが、生きていたか。


モヒートは懐から煙玉を取り出し、地面に叩きつけた。


ボンッ!


濃い煙幕が視界を奪う。


「チッ、逃げたか」


「まあいいさ。目的はこっちだろ?」


黒焦げになりながらも満足げなドドンパが、檻の前で親指を立てる。


戦闘終了。


僕たちは檻の鍵を破壊し、扉を開けた。


「さぁ、解放だ。感謝しろよ」


僕がアンジュに手を伸ばそうとした、その時。


「シャーッ!!」


アンジュが全身の毛を逆立て、鋭い爪で猫パンチを繰り出してきた。


「ッ?!」


「危ねぇイオリ! 攻撃来るぞ!」


ドドンパが割り込むと『濃霧予兆』が消え、アンジュの動きが止まる。


本来、希少猫はレアエネミー。当然、攻撃スキルを持っている。

しかも僕は、以前町でこの猫を「倒そうとした(敵対行動)」前科がある。

NPCのヘイト管理は優秀だ。


「……チッ。可愛くない猫だ」


「お前が言うなよ……。ほら、おいで〜。怖くないぞ〜」


ドドンパがしゃがみ込み、手招きをする。


すると、アンジュは警戒を解き、他の猫たちと共に一斉に檻から飛び出していった。


だが、アンジュだけが振り返り、ドドンパの足元に擦り寄ってくる。


ポンッ。


アンジュの体から小さい光の玉が出てきて、ドドンパの手の上に落ちた。


獲得:真核アクセサリー『猫の恩返し』


「おおっ! マジでもらえた! サンキューな!」


「ミャオ♪」


アンジュは満足げに鳴くと、どこかへ走り去っていった。


「へっ! 見ろよイオリ! 日頃の行いってやつだな!」


ドヤ顔でアクセサリーを見せびらかすドドンパ。


「……チッ」


僕は盛大に舌打ちをする。


「さっさと戻るぞ。ジィサンへの報告もある」


---


◇ 始まりの街 エウレカ


街へ戻ると、噴水広場でジィサンが待っていた。


「おお、戻ったか! ほっほっほ、あの婆さん、泣いて喜んでおったぞ。

『アンジュちゃんが帰ってきた!』とな」


ジィサンが杖をつきながら、嬉しそうに報告してくる。


どうやら、クエストは無事に完了したようだ。


僕はドドンパを見る。


その手には、世界に一つしかない真核アクセ。

そして、新たなSPスキル。


こいつの「花火」のような爆発力は、計算外の変数だが……悪くない。


「……それとジィサン。例の『勇者ソード』の件も、準備ログは完了だ」


僕はインベントリを操作し、先ほど保存した

『英雄の凱旋ヒーロー・パレード』 のログデータを提示する。


「1,999人の歓声と、爆発的な光の演出。

……これだけの『舞台装置』があれば、どんな鉄屑でも『勇者の剣』として成立するだろう」


「ほっほ! さっきのあの派手な花火か!

あれなら孫も『特撮みたいだ!』と納得するじゃろうて」


ジィサンが目を細め、満足げに頷く。


これで、僕のタスクは全て完了だ。


「……さて。これで祭りは終わりだ」


僕は雑踏を見上げ、次なる「答え合わせ」へと意識を切り替えた。

20時全然間に合わなかった…


ドドンパ→灯台→ミラーボール→花火

彼の進化(?)は止まることを知りません。


〜次回予告〜

2/9 10;00に投稿します!

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