第24話:観測者、一億九千万の祭りと『英雄の凱旋(ヒーロー・パレード)』を刻む
◇ 現実 イオリの部屋
18:00
ピピッ。
スマートフォンの通知音が、静寂な部屋に響いた。
【公式通知:緊急メンテナンス終了のお知らせ】
「……ふん」
画面を一瞥し、僕は鼻を鳴らす。
結局、予定より1時間の延長か。
原因の一端が僕にあることは否定しない。
だが、そもそも9桁でカンストするような底の浅い所持金上限を設定していた運営にも落ち度はある。
つまり、僕は実質悪くない。
「ログイン」
---
◇ 混沌工房 外
視界が晴れると、そこはクランホームの前だった。
「………」
僕は真正面を見ないように視線を少し下げる。
観測スキルなど、ここではリソースの無駄だ。
ログインした瞬間に、目の前の『宝飾猫』のインク瓶が、
メンテナンス前よりさらにアップデート(デコレーション)され、
物理演算を無視した装飾が増えていることなど……見ていない。
見たくない。
見るとはなんだ。(哲学)
僕は思考を放棄し、ピンク色のドアノブに手をかけた。
パーーン!!
パッッーン!!
「……ッ?!」
入った瞬間、けたたましい破裂音と、視界を埋め尽くす紙吹雪の洗礼を浴びた。
舞い散るピンク色の紙吹雪。……これもシロロの仕業か。
「あ、この度運営から『対イオリ用メンテ』をされたCAクランリーダーじゃないっすかぁ」
ソファでくつろいでいたドドンパが、ニヤニヤしながら手を挙げる。
「人間やるのだ〜〜! 運営から補填きたぽよ〜〜?!」
「ぽよ〜!!」
ピンク色の塊が二つ、転がってきた。
魔王ぽよんと、その配下シロロだ。
シロロに至っては、ぽよん様が来てからというもの、
ただでさえ低いリアルINT(知力)がさらに下方修正されたように見える。
語彙が「ぽよ」しかないのか。
「お祝いに沸石あげるわ」
フゥがずいっと目の前に何かを差し出した。
40cmはある、多孔質の巨大な岩石だ。
「第2エリアの地質を持っていって、第3エリアの熱変成岩と掛け合わせることで、
数千年の時をスキップさせて生成したの。……美しいでしょう?」
「……あぁ、聞いていないぞフゥ」
僕がスルーしようとすると、横からピンクの影が飛びついた。
「それおやつか〜〜〜!!!」
「チッ落ち着かない奴だな」
「食べるぽよ〜〜!! ……ぺろっ。……塩みたいなのだ〜〜」
ぽよん様が沸石を舐めている。
(……答える必要性がないし、実際無味無臭の鉱石だ。
だが、舐めたら多孔質構造が舌の水分を吸着して……。
いや待て。これを何か記録として構築……いや、真核は味覚情報まで記録しないか……。
いや、僕の『記録保持』なら、味覚ログもあるいは……)
……なにを考えてるんだ僕は。
【観測ログ:ピンク色の狂気侵略を確認】
「……チッ」
システムが勝手に起動しやがった。
思考するだけで勝手にログを取るな。
「そんなことよりだ。20時の特大ログの為の作戦会議をするぞ」
僕はパンと手を叩き、カオスな空気を切り裂く。
「乗り気なんだな、意外と」
ドドンパが苦笑する。
「私の地層が火を吹くわ……」
フゥがドリルを愛おしそうに撫でる。
「「ぽよ〜〜」」
残りの二人は……まあ、やる気はあるんだろう。
僕たちの祭りは近い。
---
◇
作戦会議を終え、いよいよ本番だ。
「イオリ。配置につくぞ」
「ああ。ドドンパは町で『黒豹団』の動きのチェックだ」
僕の指示に、ドドンパが目を丸くした。
「はっぁ?! 俺、祭り参加できないの?!」
「そのための祭りだ。なにを驚く」
「いや、俺も花火見たいんだけど!? 光りたいんだけど!?」
「お前は『灯台』だろ。影で支えろ」
僕が淡々と告げると、ドドンパは「くぅ〜〜」と唸った後、仕方なさそうに笑った。
「わーったよ。……そういや、ジィサンもぽよんのおかげで副商材が売れすぎてカンスト間近だそうだ」
「……ミツルマンの記録は報酬として出しすぎたか。
いや、あのジィサンならそこまで読んで孫の強化を……?」
「まぁいいじゃねーか! 子供が喜ぶ姿ってのは尊いぞ。魔王にはわからねぇか。ぷぷっ」
ドドンパが茶化す。
「……。チッ」
僕は舌打ちを一つ。
「僕もやることを済ませたら合流する」
「? わかった。んじゃまた後でな」
ドドンパが街の方へ駆けていく。
頼もしい背中だ。
あいつなら、確実に黒豹団の尻尾を掴むだろう。
「……僕も行くか」
---
◇ 第1エリア エウレカ草原
時刻は19:50。
普段は初期プレイヤーしかいないはずの草原エリアが、今は異様な熱気に包まれていた。
視界を埋め尽くすのは、人、人、人。
「すげぇ人数だ……」
「マジで10万もらえるのか?!」
「イオリkのクレイジーイベント、参加しなきゃ損だろ!」
僕のクエストを受けるために、大量のプレイヤーがひしめき合っている。
観測士スキル:観測眼
対象数計測:1,999人(エリア許容限界)
その瞬間、システムログが流れた。
クエスト『黒豹団を炙り出せ』の受注人数が上限に達しました。
特殊ユニーククエストを掲示板から消去いたします。
報酬獲得条件達成:受注プレイヤー全員に 100,000 G が支払われます。
「うおおおおお!! マジで入金された!!」
「10万ゲットォォ!!」
「祭りだああああ!!」
冒険者たちの歓声が、地鳴りのように響く。
僕の視界には、凄まじい勢いで所持金が減っていくログが表示されていた。
支払いログ:-199,900,000 G
「……ふん」
所持金を確認する。
まだ2億G近くある。
これだけ派手にばら撒いても、まだ財布が重い。
これでも足りんか。
---
時刻は、20:00。
「……時間だ。始めろ」
僕の呟きが合図だったかのように。
一斉に、プレイヤーたちがスキルを発動した。
ドォォォォォン!!!
カッッッ!!!!
爆発属性、火炎属性、光属性。
無数のスキルエフェクトが、エウレカ草原の夜空へ浮かび上がる。
それはまるで、地上の星が逆流したような光景。
「ぽよん様! 今だよ! 可愛くしちゃえー!」
「ぽよ〜〜!! 闇に染まるのだ〜〜!!」
ぽよん様が王笏を振るい、『闇霧』を展開する。
本来なら視界を奪うだけの邪魔なスキル。
だが、シロロがそれを『宝石変換鞄』で吸い込み、増幅拡散させた。
シュババババッ!!
「キラキラにな〜れっ! 『スターダスト・ミスト』!!」
空の闇が一層濃くなり、そこにシロロの放ったピンク色のラメが煌めく。
人工的な「夜空」と「星空」が形成され、
プレイヤーたちの放つ花火スキルを、より鮮烈に際立たせる。
「……私の地層も、唸りなさい」
ズズズズズズ……ッ!!!
フゥがドリルを大地に突き刺す。
『地鳴り(クエイク)フルバースト』。
ドデカイ地響きが、花火の炸裂音に合わせて重低音の演出を加える。
光、闇、音、そして熱気。
すべてが混ざり合い、混沌という名の芸術を描き出していた。
---
僕は、喧騒から少し離れた岩の上で、その空を眺めていた。
「……ふん。悪くない画だ」
子供騙しの花火に、安っぽい紙吹雪。
だが、そこに1,999人の「熱狂」と「歓声」が乗れば、
それは物語になる。
これだけ派手なら、あの 「特撮好きのガキ」 も納得するだろう。
感傷に浸っている暇はない。
これは「作業(納品)」だ。
観測士スキル:【記録保持】
僕は、目の前の光景を「数値」としてロックする。
・対象:1,999人同時スキル発動
・音響:群衆の歓声(英雄的熱量)
・光量:限界突破
・特殊効果:爆発・閃光・紙吹雪による「特撮的演出」
これらを統合し、一つのログとして保存する。
名付けるならそう――
『英雄の凱旋』。
この「主役が登場するためだけの舞台装置」があれば、
どんな鉄屑でも 『勇者の剣』 に化ける。
【記録保持:完了】
「……これでいい。ジィサンへの納期も間に合ったな」
---
直後、端末が震えた。
ドドンパからだ。
『ビンゴ。黒豹団が動いた。
連中、花火のどさくさに紛れて移動しようとしたが、俺の眼からは逃げられねぇよ。
ドロップアイテム回収済み。
・スキル書:【大跳躍】
・素材:曇り羽根×50、そよ風のアイリット×15
……完璧だろ?』
「こちらの推測もビンゴか」
僕はメッセージを確認すると、ウィンドウを開き、クエスト完了確認のボタンを押す。
『クエスト完了』の文字。
そして、眼下には祭りの余韻に浸り、笑顔で騒ぐプレイヤーたち。
「ぽよぽよ」言いながら跳ね回る二人と、
自分の起こした地割れにうっとりする一人。
僕は、そんなカオスな光景を見下ろしながら、口角を上げた。
「……いい記録だな。」
僕らしくない言葉を、夜風に乗せて呟いた。
見るとはなんだ(哲学) by観測士
最後のイオリの呟き
初めてちゃんと人間ぽい?事をいった瞬間ではないでしょうか。
〜次回予告〜
ストックがない為、未定ですが20時ごろ目指します!!




