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第19話:観測者、魔王城(仮)の入城とスライムへの媚び方を学ぶ

 

 仕方なくシロロたちに連行され、クランホームへと戻る。


 転送の光が収束し、目の前にはあの悪趣味な

——もとい、独創的な『宝飾猫ジュエルキャットのインク瓶』が鎮座していた。


……そろそろ僕の目も、このピンク色に慣らされてきた気がする。

 慣れとは恐ろしいものだ。


 ◇ 混沌工房カオス・アトリエ


「ぽよぽよ〜〜〜〜〜?!」


 転送された瞬間、魔王ぽよんが素っ頓狂な声を上げた。


「すごいのだ〜〜! なんなのだこれ〜〜〜〜! キラキラなのだ〜〜!」


「えへへへ、ぽよん様可愛いでしょ〜〜! 私が装飾デコったぽよ〜〜!」


 シロロが得意げに胸を張る。


 僕は興奮して飛び跳ねるチビ(魔王)と、それを煽るピンクの怪物シロロを無視して、さっさと中に入ろうとする。


「ぽよ〜〜! シロロすごいのだ〜! 可愛いのだ〜〜! 今日からここをぽよんの魔王城にするのだ〜〜!」


「え〜〜!!! いいよ〜〜〜! 囲って〜〜〜!」


 扉の向こうへ足を踏み入れる直前、背後から嫌な予感しかしない会話が聞こえてきた。


 聞かない、聞きたくない、聞いてない。


 僕はその精神で目を瞑り、メインフロアへのドアを開けた。


「ぽよ〜〜〜?!! 中もすごいのだ〜〜! おい人間! ぽよんも仲間に入れるのだ〜!」


 ぽよん様が僕を追い抜いて中へ転がり込み、ピンク色の絨毯の上で跳ねる。


「えええええぽよん様と同じクランになるの〜〜???

いやーんもう最高〜〜! やり込んじゃう〜〜!!」


 シロロが黄色い声を上げる。


 僕は背筋が凍るのを感じた。


 勘弁してくれ。

 これ以上のノイズは不要だ……。


 ただでさえカオスなこの空間に、配信者ストリーマーまで混ざれば、

平穏な観測など不可能になる。


「あら? ぽよん様?」


 そこへ、奥の部屋からフゥが出てきた。


 手には、どこで拾ってきたのかわからない奇妙な色の泥だらけの石を持っている。


「うんとね〜! あーなってこうなって、そうしたらぽよん様がクランに入るって〜〜!!」


 シロロが興奮気味にまくし立てる。


 フゥはこの自称魔王のことを知っていたのか、特に驚く様子もない。


「あら、大歓迎よ。……ねぇ? イオリ君」


 フゥが眼鏡の奥で計算高い光を宿して僕を見る。


「Vtuberがクランメンバーなんて注目されるし、視聴者から

『珍しい石』の情報も入るわね。……鉱脈のタレコミ、期待できるわ」


「……」


(入らないだろう。

 それにVtuber……真核の秘密が広まってしまう。

 そうなれば、市場独占計画の路線変更を視野に入れなければならなくなる……)


 リスクが高すぎる。


「……まずは、ぽよんとやら君の話とは? 僕にはやることがあるんだ。これ以上時間をロストしたくない」


 僕は冷たく言い放つ。


「ぽよ〜。そうなのだ! 人間イオリk!」


 ぽよん様が王笏をビシッと僕に向ける。


「ぽよんの可愛い真核を作るのだ! 勇者がいつおやつを取りにきてもいいように〜〜!」


 僕は頭を抱えた。


(勇者と魔王が揃いも揃って、真核を記録デザインしろと……。

 同時に依頼が来るとは、なぜこうも僕のチャートは崩れる?)


「断る」


 僕は即答する。


「メリットがない。それに、僕の時間は秒単位でリソース管理されている。貴女の『カワイイ』という曖昧な概念のために割くスロットは、1バイトたりとも存在しない」


「え〜〜〜!! なんでなのだ〜〜!! 作るのだ〜〜!! ぽよんも可愛い真核蹴りたい〜〜〜!!」


 ぽよん様が地団駄を踏む。


「なんでイオリ君! ぽよん様だよ?! 魔王の言うことに配下として全力で可愛くしないとーー!!」


 シロロが頬を膨らませる。


「いつ配下になった。僕は自分の効率の為、自分の思うように動く。それだけだ。メリットがない以上は受ける必要はない」


「「ケチ〜〜〜!!!!!!」」


 魔王と配下の声が重なる。


 やかましい。


「……ぽよん様、職業は?」


 不意にフゥが尋ねた。


「職業? 魔王なのだ」


「うんと、ゲーム登録時に選んだのは?」


「闇妖術士なのだ〜!」


「……闇妖術士か」


 僕は呟く。

 デバッファー(弱体化職)だな。


 基本職の中では不遇寄りのマイナー職だ。

 なぜそれを選んだ?

 僕は気まぐれに、彼女を観測してみることにした。


【観測士スキル: 詳細観測ディープ・スキャン

【観測ログ: 解析開始】

【対象: 魔王ぽよん】

・職業: 闇妖術士やみようじゅつし

・武器: プルプルハートの王笏(クラフト武器 完全強化状態)

・詳細観測: Warning [特殊派生条件への接触を確認]


『スライムへの仲間意識』により特殊派生条件へ到達中。


 • 魔王ロールプレイ(スライム属性) [88時間 / 144時間]

 • 名前を呼ばれた状態でエネミーに触れる [50 / 50]

 • 名前を呼ばれた状態でエネミーを倒す [50 / 50]

 • スライム系エネミーの討伐 [0 / 0]

 ⇒ 派生先: 【スライム魔王】


「……なんだこいつ」


 僕は呆然と呟く。


『スライム魔王』……? 聞いたことのない派生職だ。


 条件が「スライム討伐0」かつ「触れる」こと?

 普通のプレイヤーならスライムなど初期に狩り尽くす。


 討伐数0を維持したままここまでプレイするなど、

意図的なロールプレイか、よほどの縛りプレイでなければ不可能だ。


(まさか、スライム系との親和性ボーナスがある唯一の職……

そこまで計算してのビルド構築か? いや、まさか……)


「あ〜〜! ぽよん隠しエリア知ってるのだ!」


 僕の視線に気づいたのか、ぽよん様が得意げに言う。


「スライム共の泉なのだ〜〜! 配信でも内緒にしてるのだ〜〜!」


「……隠しエリアだと?」


 僕の知らない情報。


 観測士としてのアンテナが反応する。


「そうなのだ〜〜!! 第2エリアに配下共に連れて行ってもらった時の事なのだ〜〜! なんか影の薄いスライムがいたので話しかけていたら仲良くなったのだ〜〜」


「……ハイスライムの事か」


 あいつらは霧に紛れて視認しづらい。

 それを「影が薄い」と表現し、「話しかけた」だと?


「そうなのだ〜〜! そしたらでっかいスライムと、でっかいスライム爺さんがいたのだ〜〜! なんか武器の強化してくれたのだ〜〜!」


「武器強化……」


 その単語に、僕の脳内で計算式が走る。


(……スライム爺さん? 隠しNPCか。

 武器強化……真核の記録という中のデータ強化とは別枠か?

 もし『素材合成』による特殊プロパティの付与、

スロットの拡張だとしたら……)


 それは、これからの攻略において劇的なアドバンテージ(優位性)になる。


 特に第4エリアは硬い敵が多い。

 貫通力や属性付与ができるなら喉から手が出るほど欲しい情報だ。


「……それは、この子が更に丁寧に石を削ってくれるようになるってことかしら?」


 フゥが目を輝かせて、泥だらけの石をドリルに押し当てている。


「私のこの子(鞄)も更に可愛くなる?!」


 シロロも食いつく。


「……」


(……情報は金だ。

 それに、この隠しエリアへのルートが確立されれば、独占的な強化手段となる)


 僕は瞬時に損得を天秤にかけた。


「……ぽよん。その情報と案内を条件に、事と次第によってはクラン参加と記録デザイン、やってもいいだろう」


「ぽよ〜〜〜〜〜!! 本当だろうな?! 人間!!」


 ぽよん様が飛び上がる。


「いいぞ〜〜! 教えてやるのだ〜〜!!」


「ぽよん様とおっでかけ♪ おっでかけ♪」


「私も行くわ。このドリルが強化されれば、地下岩盤の未踏領域まで……ブツブツ」


「決まりだ。行くぞ」


 ◇ 第2エリア ミストヴェイル

 転送された森は、相変わらず深い霧に包まれていた。


「む〜〜! ぽよん様がいるのに装飾メイク崩れちゃうよー! 霧が濃くて水気があー!」


 シロロが湿気で髪がへたるのを気にしている。


「……湿度が80%を超えている……。この地層、元々ぬかるんでいるけれどここは特に粘土質が高いわね……」


 フゥは早速しゃがみ込み、地面の泥を指で捏ね回している。


「おい、行くぞ。ぽよん、案内してくれ。」


 僕は彼女たちを促す。


「ぽよ! こっちなのだ〜!」


 ぽよん様が王笏を掲げて先頭を歩く。


 霧の奥、通常の狩りルートからは外れた獣道へ。


「……ここら辺なのだ!」


 ぽよん様が立ち止まる。


 そこには、霧に同化してぼんやりとしか見えない『ハイスライム』の群れがいた。


 通常なら、ここで戦闘態勢に入るところだ。


 だが、魔王は違った。


「ものども、整列なのだ〜〜!!」


 彼女が王笏を振り下ろす。


 すると——。


 プルプル……!

 ハイスライムたちが敵対行動(アクティブ化)を取るどころか、ぽよん様の前にずらりと整列したのだ。


(……なんだこれは。

 テイムスキル? いや、彼女の『スライムへの仲間意識』

フラグが作用しているのか?)


「よしよし、いい子なのだ〜〜!」


 ぽよん様はスライムに近づくと、そのヌルヌルした表面に自分の頬を押し付けた。


「すりすり〜〜! 今日もぷるぷるで可愛いのだ〜〜!」


(……正気か? 粘液まみれになるぞ)


 僕は顔をしかめる。

 装備の耐久値が下がる行為だ。


……いや、待てよ。


 僕の脳裏に、かつてこのエリア(ミストヴェイル)を訪れた際の記憶がフラッシュバックする。


 遠くの霧の奥で、アクティブ状態のハイスライムの群れに囲まれながら、狂ったように頬擦りをしている小さなシルエット。


 あの時、僕が『ただの描画バグ(ノイズ)』として切り捨てた意味不明な現象。


(……あの時のシステムのバグは……お前だったのか!?)


 全ての辻褄が合い、僕は頭痛を通り越して眩暈すら覚えた。


 システムのエラーではない。

 ただ単に、この魔王の頭がエラーを起こしていただけだったのだ。


「きゃあああ! 可愛い〜〜! 私もやる〜!」


 シロロが真似をして、別のスライムに抱きつく。


「ん〜っ! ひんやりしてて気持ちいい〜! 可愛くな〜れ!」


「……貴方にはこれをあげるわ」


 フゥはスライムの前に、さっきの泥だらけの石を差し出した。


「お食べ……。そして体内で研磨して、もっと硬くなるのよ……」


 スライムがズブズブと石を取り込んでいく。

 餌付けか。


 カオスだ。


 僕だけが棒立ちでこの異様な光景を見ている。


 すると、ぽよん様がこちらを振り返り、ビシッと指を差した。


「おい人間! 何をしてるのだ! お前もやるのだ!」


「……は?」


 僕は耳を疑う。


「なぜだ。意味がわからない」


「ここから先の『隠しエリア』に入るには、スライム共と仲良くなって『スライム親和度』を上げないとダメなのだ!!」


 ぽよん様が力説する。


「お前はトゲトゲしてて怖そうなのだ! そんなんじゃスライム爺さんは会ってくれないのだ! さぁ、すりすりするのだ!!」


「……」


(……親和度判定、か)


 MMOにはよくある仕様だ。


 特定の種族と敵対せず、友好アクションを行うことで開くゲートやクエスト。


 理屈はわかる。


 わかるが……。


 目の前には、半透明で粘液質の不定形生物。


 これを?

 この僕が?


「早くするのだ! 時間のロストなのだ〜!」


 僕のセリフを返された。


「……くっ」


 背に腹は代えられない。


 武器強化。

 そのリターンは、この一時の屈辱コストを支払うに値する……はずだ。


 僕は覚悟を決め、恐る恐るハイスライムの前にしゃがみ込んだ。


「……い、いい子……だ(棒読み)」


 引きつった顔で、スライムの表面に手を触れる。


 ヌルッとした感触。


 僕は死んだ魚のような目で、スライムの体を撫で回した。


「……素晴らしい粘度だ。水分量も……適切だ(白目)」


「もっと愛を込めるのだー!」


「イオリ君顔怖いよー! 可愛くー!」


 外野のノイズを遮断し、僕はただ「効率」の二文字だけを脳内で唱え続けた。



第19話 いかがだったでしょうか?


第4話の最後に見た小さい影の正体は初日からスライムに頬擦りするぽよんの影でした。

思い出せますでしょうか?


このぽよんは今後、とんでもない世界征服おやつ?を始めます。始めてます?……。


次話、最強のスライムが登場、イオリピンチ?!


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!



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