第130話: 次期総帥、仮想の勝利を現実に繋ぎ、父親からの不吉な着信に覚悟を決める
カイザー視点になります!!
◇ 現実世界 皇 雷牙 邸宅 地下 [13:57]
僕は、自宅の地下に設置されたチェア型ヘッドギアからゆっくりと身を起こした。
つい数秒前、仮想世界(ゲーム内)でイオリが心臓部を破壊し、凄まじい地響きと共にシステムが崩壊していくのを確かに感じた。
(イオリ……見事にやり遂げたな)
この地下室には僕しか入れない。
網膜スキャンを済ませ、エレベーターを起動する。
向かうは、城 (ジョウナン)と阿久津が待つ3階の自室だ。
上昇するわずかな時間が、ひどくもどかしく感じられた。
チーン、と静かな音が鳴り、扉が開く。
僕ははやる気持ちを抑え、城のせいでひどくタバコ臭くなった自室の扉を開けた。
◇
「そのまま逆流しろォ!! 逃がすかよクソシステムが……ッ!!」
部屋に入った瞬間、鼓膜を打ったのは城の怒号と凄まじい打鍵音だった。
城はこちらに一瞥もくれず、咥えタバコのまま血走った目で複数のハイエンドモニターを睨みつけている。
ハッカーではない僕には詳しい状況は分からない。
だが、画面の中央で激しく明滅している一本の極太の『真紅の波形』が、イオリが引き起こした熱暴走の悲鳴であることだけは理解できた。
(頼むぞ……城……)
「喰いつけ!! 離すなァ!!」
目にも留まらぬ速度で城の指が踊り狂う。
パルスを送信するために、強固な量子暗号の接続ポートがコンマ数秒だけ開かれた。
ターンッ!!
アラート音が鳴り響き、画面上に流れる無数の暗号コードが次々と解読されて弾け飛んでいく。
数秒後。
モニターの画面が切り替わり、世界地図のUI上に、正確な『物理座標』を示す赤いピンが深海の底へと深く突き刺さった。
「……抜いたぜ。これがテメェらの隠れ処か」
そこでようやく、城は疲労と興奮の入り混じった荒い息を吐き、椅子に深く背中を預けてこちらへ振り返った。
「城……どうだ?」
「やったッスよ、社長さん」
「見つけたか……!?」
フゥー……。
城は肺に留めた大量の煙を吐き出した。
「ああ、一仕事終えた後のタバコはうめぇ……。見てくださいっス」
僕は充満する紫煙を軽く手で払いながら、その赤いピンを静かに見据える。
「ここなのか……親父達が数兆円かけて海底に沈めたメインサーバーがある座標は……」
「うっス」
城の言葉に短く頷き、僕は背後に控えていた阿久津へと振り返った。
「阿久津。親父の所在はまだ掴めないのか?」
「申し訳ありません。現在も総動員で捜索をしていますが……未だ掴めておりません」
阿久津が悔しげに頭を下げる。
「引き続き追え。心臓部の座標が割れた以上、必ずどこかで動きがあるはずだ」
「はっ」
そこで、僕はイオリへと電話をかけた。
プルルルル……。
プルルルル……。
『もしもし、皇。どうなった?』
「僕の部下が無事に信号をキャッチした」
『そうか』
「ああ。礼を言う」
『まだ終わりではないぞ。泉の父親との接触。莫大な資金の行方を示す物的証拠。この『偽ラプラスの悪魔』が使用された場合のシミュレート資料。弾劾を実行するにしても警察組織へ提出しなければならない証拠は、まだ山ほどある』
イオリは冷徹な声で事実を告げる。
「ああ、そうだな。まだまだやることが山積みだ。だが今日、ゲーム内で心臓部を破壊されたことは泉を通して報告がいってるはずだ。そしてデータの圧縮を終えたといっていた。つまりは……」
『バックアップだろうな。だが、現実の位置を割り出した以上は現実で動きがあるはずだ』
「一先ず、第零監査室と双鴉をフルで動かし行方を追わせている」
『それでいい。僕は……シミュレート資料を作るとしよう』
「いいのか?」
『ここまで関わったんだ。ここまでお前が作成した証拠資料として警察に提出してくれればいい』
「ああ。助かる」
『そうだ……僕からも一つ報告がある』
「なんだ?」
『エキシビションマッチの際、GMと話したか?』
「GM……? いや……僕達は泉から言われただけだ……サクラとしての仕事。『聖刻の円卓』外で一番有名な『【Chaos Atelier】』を完膚なきまでに叩き潰せ、とな……」
あの時のことを思い出し、僕は少しだけ声を潜めた。
『そうだったか……。お前は、[ヴィルヘルム・シュタイン]と直接、連絡を取れるのか?』
「無為の父親とか……? 取ろうと思えば取れるはずだが……何のためにだ? 挑発でもするつもりか?」
『いや、彼は純粋な敵ではないかもしれない』
「どういうことだ!?」
『僕はな、一番恐ろしい人物は彼だと考えていた。技術を持つ者は金さえあれば作れてしまうからな』
「確かに……」
『だがな、アルケーから聞いたんだ。彼はあのゲーム『World of Arche』を作るのを愉しんでいたと。そして先ほど言っていた、GMはヴィルヘルム・シュタイン本人だった様だ……自らGMとして世界を近くで見ていた様だ』
「何だと? いや……そうか……納得は出来る。あの方は常に何かを作ることを生き甲斐としていた。そして完成したものが人にどう使われているかを観測しながら楽しむような人だった」
『そうだったか。アルケーから聞いた話はもう一つある。彼は、心臓を壊されるような……そんな日が来ることを予見していたと』
「は……?」
イオリの言葉に、僕は絶句した。
『アルケーには強い感情があるとも言っていた。その答えは、仮想世界への強い防衛本能だ』
「ああ……運営へ反旗を翻すという事象自体が異常だな」
『その通り。通常なら有り得ない。ここからは僕の推測だが……』
「なんだ?」
『彼は……この状況を望んでいたんじゃないか?世界のバランスを崩すものだと知りながら世界を作ることへの好奇心や意欲を抑える事はできなかった。だが、 わざとアルケーに現実世界で起こる事や、生き残る為の本能を強く仕込み、教え込んだんじゃないかと思ってな』
点と点が繋がっていく。
「なるほど……資金は全て僕の父から出る。その金で彼は世界を作るのを愉しみ、そして我が子とも言えるアルケーと、仮想世界を作り出した」
『そうだ。できる事ならサービス停止せずにあの世界を残したかったと。だからこそ予見していたのではないかとな』
「それが本当なら……協力してくれる可能性はあるな……」
『やってみる価値はある。だが慎重に動け。判断はお前に任せるが、もしかすると筒抜けになるかもしれんからな』
「分かった。状況を見て判断しよう」
『ああ、シミュレートの資料は出来たら直接手渡しするか、郵送しよう』
「頼んだ。では、またな。ご苦労だった」
プツッ……。
通話が切れ、僕は静かにスマホを下ろした。
ヴィルヘルム・シュタインの情報を確かめるには、一つしかない。
「城。ルイ・シュタインと秘密裏に連絡を取れないだろうか?」
「連絡先は持ってるんスよね。簡単ッス。でも、そいつは『俺もお前も俺』側なんスよね? 大丈夫なんスか?」
城が訝しげに尋ねてくる。
「さぁな……だがルイは泉に恐怖支配されているようだった。何か弱みを握られているのかもしれない。聞き出せるか?」
「なるほど。やるだけやってみましょう」
「頼む。これが連絡先だ」
「うッス!!」
◇
数時間後、時刻は夜の20時を過ぎた頃だった。
僕は自室のデスクで、ただひたすらに『その瞬間』が来るのを待っていた。
ドンッ!
勢いよく扉が開かれ、阿久津が足早に入室してくる。
「社長……。会長の所在が判明しました」
その短くも緊迫した報告が、張り詰めていた自室の空気を一気に動かした。
「どこだ」
「皇グループの施設ではありません。都内の、厳重なセキュリティに守られた高級ホテルの一室です」
「そんなところに隠れていたか……何か動きがあったのか?」
「は。『内閣府特命担当大臣』天海 創を追っていたのですが……1時間前、突如動きを見せました」
「……焦って動き出した先で、親父も見つけたか」
表向きは国の要人でありながら、『World of Arche』の運営トップとして暗躍する男。
そして裏では、この世界の均衡を崩す巨大な量子計算機を作り上げた僕の父親と、非公式に接触しているのだ。
(イオリに連絡しておくか)
僕は上着を掴み、阿久津と共にすぐさまその場所へと向かった。
◇ 車内
わざわざ影武者まで用意して居場所を隠した親父が、政治家と密会。
そんな現場が怪しくない訳がない。
初めから分かってはいたが、僕は自らの父親を弾劾すべく、仲間に助けられながら今日ここまでやってきた。
これからどうなるかなんてまだ分からない。
逃げられる可能性だってある。
「慎重に動かねば」
僕が後部座席で小さく呟いた、その瞬間だった。
ヴッ!ヴッ!ヴッ!
僕の懐でスマートフォンが小さく唸り始めた。
裏地を震わせるその微かな音が、まるで警告音のように耳に障る。
直感的に肌を撫でた、酷く嫌な予感。
画面に表示された名前を見た時、僕の体は震えた。
——【着信】——
『皇 征一郎』
————————
「……っっっ!!?」
あまりにもタイミングが良すぎる、父親からの電話。
僕達の動きが筒抜けなのか?
それとも。
手や体が震える中、僕は覚悟を決め、通話ボタンを押した。
「はい……
ーー
第130話いかがだったでしょうか?
ついに暴かれた深海サーバーの座標。
イオリとの通話で「創造主V」の真意に触れつつ、物語は皇グループ会長との直接対決へと急加速します。
息を呑むような緊迫のラスト、黒幕からの着信の意図とは!?
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/28はお休み致します。
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