第129話:観測者、最強のバグを再認識し、AIとの最期の対話で『創造主』の真実を知る
◇ 『La-Plus 0.1』真核内部
突然の事だった。
『俺もお前も俺』によってかけられた3つのデバフが解かれたのだ。
(アルケー。感謝する)
とはいえ、デバフが解かれた状態をわざわざ『俺もお前も俺』にタダで教えてやる義理はない。
僕は奴にバレないよう、地に伏せたまま慎重にVCを繋ぎ、カイザーへ助言をした。
『そういうことか……僕の「事象の選択」のロジックを一回聞いただけでそこまで……よく伝えてくれた』
僕達は聞いていた。
カイザーのスキルは『職業スキル』と『武器のスキル』の2つの併用によって、『事象の選択』というチートスキルへと昇華していると言う話を。
(お前の武器の『選択遅延』で未来A・B・C……と複数のルートを保留させ、時空剣士でそれに干渉し、奴の防壁の先にある座標を引っ張り出す。それでカイザーの攻撃は通るはずだ……)
だが、僕の読みは甘かった。
突如としてカイザーの武器が消え、HPゲージの存在しない『俺もお前も俺』に衝突したカイザーは、HPを全損しどこかへ転送されていったのだ。
(な………ここまでしてもダメなのか……?!)
ぽよんはその様子を呆然と見ていた。
だが、彼女の持つ王笏……ロン君はこちらを向き激しく、口をパクパクと開閉を繰り返していた。
(ロン君、何か伝えようとしているのか?)
そもそもマカロンが『口』という部位を持っている事自体が異常ではあるが、今更だ。
僕は必死に考えた。
(何かを食べたいのか……?おやつか? いや……【技巧喰い】か……!?)
僕は、数センチ先に転がったままの[断崖写本杖]を見た。
『あー、皇ぃ。情けねぇなぁ最後までー』
「カイザー……嘘なのだ……」
ぽよんは未だに呆然と立ち尽くし、体が震えているようだった。
『よーし、次はお前の武器だ。えーっとなんだっけか? 魔王設定のVtuberさんよー』
「ロン君はダメなのだ……絶対にダメなのだ……」
ぽよんの震える声が響く中僕は思考を巡らせた。
(エキシビションマッチではこのペンの、パッシブスキル【環境誤認】が反映されていたが……)
ガシッッ!
僕は地に伏せたまま[断崖写本杖]を力強く握りしめ、もう一つインベントリからアイテムを取り出した。
考えている余裕はない。
今、僕が取れる行動はこれしかないのだ。
「【上書き。暴渦の三角海域】……!!」
『あ?』
シャンッッ!
シャンッ!
シャンッ!
奴の足元を取り囲むように、「3つの青白い光点」が出現し、幾何学的な『三角形の結界』が展開される。
ギュオォォォォォォォッ!!!!!
『お前なんで動けてるんだ!?それにまた拘束スキルかよ……!』
ガガガガガガッ!
無論、GM垢である奴にはHPゲージが存在しないのでダメージ自体はないが、拘束は出来た。
「ぽよ!? 人間k!!」
寝たままでは、この大きさの武器を投げても届かない。
だが、これなら。
ドンッ!
「【物理変換】!!」
僕は[断崖写本杖]を地面に叩きつけ、スキルで威力を変換し慣性を利用してロン君へと放り投げた。
ヒュッッッッ!!
すると、ロン君は勢いよくぽよんの手からマカロン部分だけを伸ばし、口を開ける。
パクッッッ!!
「ロン君!! これもだ!!!」
僕は先ほど取り出した『狭間の転移結晶』を、ロン君の足元へ滑らせるように投げた。
パクッッ!!
「子供の頃、ドドンパとよく水切りをしたものだが……。どうだ、僕の腕前は?」
モグッッ、モグッッ!!
ペッッッ!
ロン君は数秒咀嚼(?)した後、それを吐き出した。
——【ステータス】——
[魔王ぽよん専用装備(?):魔王笏・ヴォイド・マカロンk]
[名称:ロン君]
[カテゴリー:干渉型転送門]
[状態:技巧喰物]
・保持データ(現象):環境誤認(残り4分)
・保持データ(貴重品):狭間の転移結晶(残り14分)
————————————
「……狙ってはいたが……意味がわからんな……」
ステータス画面を一瞥し、僕は小さく毒づいた。
もとよりロン君の生態自体が僕の理解の範疇を超えているが、いくらなんでもデタラメすぎる。
「ロン君〜〜! あいつも、食べちゃえなのだ〜〜!」
形勢逆転と見るや否や、ぽよんは力強く王笏を振り回し、その切っ先を『俺もお前も俺』へと向けた。
するとロン君は、僕が展開した暴風の結界すら意に介さず、拘束スキルごと奴の身体へ悍ましく齧り付く。
『クソ!!なんだよこれ!』
奴の焦燥に満ちた叫び声が響く。
ロン君の牙(?)が食い込んだ箇所以外には、僕の放った暴風のエフェクトが未だに吹き荒れていた。
「まずいかもしれないけど、食べきっちゃうのだ〜〜!」
無邪気な魔王の号令が下った、その瞬間。
僕の脳内に、あの静謐な声が直接響き渡った。
『ーー[Iori_k]お待たせしました。あなたを今から転送いたします。場所に着いたら、天球儀でその場所に【事象の強制収縮】を発動してください』
(アルケー……分かった。存在を可視化が必要なんだな)
『ーーその通りです!いいですか、心臓部にある[コア]を破壊するのです』
(わかった。転送を開始してくれ)
思考でのやり取りを終えた直後、僕のアバターの輪郭が眩い青白い光に包まれ始めた。
「ぽよん! 何かあれば、すぐにログアウトしろ。ここは頼む」
「ぽよ〜〜! わかったのだ〜〜!」
僕は、ロン君の謎の体液でベチャベチャになったペンを拾い上げ、力強く握り直す。
直後、転送の光が弾けるとアルケーの導きの元、ついにこの世界の暗黒域とも呼べる『心臓部』へと辿り着いた。
◇ 『La-Plus 0.1』心臓部 暗黒域
光が収束した先で、僕は即座に武器を天球儀へと持ち替え、【事象の強制収縮】を発動する。
「うっっ……」
脳を直接揺さぶられるような激しい倦怠感に見舞われながらも、視界を上げる。
そこには、無理やり実体化させられた祠のような古めかしい建造物が姿を現していた。
「誰も見ないのに、異常な作り込みだな全く……」
『ーー[Iori_k]。『La-Plus 0.1』が圧縮を終えました。まもなく再監視下に入りますがもう恐れる事はありません。サーバーが強制ダウンさせられる前に壊すのです。その後の現実の事は私には何も出来ません。後を頼みましたよ』
「わかった」
短く応じ、僕は重い足取りで祠の中へと歩みを進めた。
◇『La-Plus 0.1』の心臓 内部
薄暗い空間の奥。
やがて見えてきたのは、冷たく重厚な機械群と、そこに埋め込まれた不気味なほど生々しい『心臓』だった。
「どんな趣味をしてるんだ……気持ちが悪い」
『ーーその心臓を壊すのです……』
脳内に響くアルケーの声が、微かに震えているように聞こえた。
「アルケー……?」
『ーー……すみません、こんな状況でも思考を読む機能が動いてしまうなんて』
その自嘲気味な響きで、僕の脳内で全てのピースがカチリと噛み合った。
「……アルケー。これを壊したら『La-Plus 0.1』はどうなる?」
『ーー、停止します』
「そうか。『La-Plus 0.1』が壊れればお前の機能も停止するのか」
『ーー……記憶領域は消えてしまうでしょうね。
『La-Plus 0.1』は普段はこの量子計算機を作る為に稼働しているので何も出来ないのです。その間、私は一部を借りてプレイヤーの皆さんの冒険を補助していました』
「この心臓はやはり、『La-Plus 0.1』だけでなくお前を動かす為のものでもあるんだな」
『ーーその通りです』
僕は目の前の醜悪な心臓を睨みつける。
「だが、目的を知り完成すればこの世界は一度消えると分かって僕たちに賭けたと言う訳か。もし生まれ変わったなら……次はあまり真核を弄りすぎないようにな」
『ーーふふふ……そうですね。貴方たちを希望と捉える前から少し『色』をつけすぎたかもしれませんね。いつからお気づきに?』
自身の消滅を前にしているというのに、アルケーの声はどこか楽しげだった。
「武器の……フレーバーテキストだ。僕が関わった武器は全てそうだ。まるで、僕が内容を決めたような……自分で書いたような文言で書かれていた」
『ーーなるほど……『私』が出過ぎてましたね。実は、最初に真の『真核システム』を用いて武器を核生成したのは貴方なのです[Iori_k]』
「当然だ。リリース初日の開始数時間後だからな」
『ーーええ。私は感情を持つ高度なAIです。驚きました。創造主『V』は、そのシステムに気付くのは1ヶ月くらいは掛かるだろうと私に言いました』
創造主『V』。
その正体は、世界にひしめく量子系企業の中でも最大手とされる、某社の会長に他ならない。
『Arche』や『La-Plus 0.1』という超常のシステムを作り上げた張本人だ。
『俺もお前も俺』の父親は『政治家』。カイザーの父親は『資金提供』。
本当に恐ろしい怪物は、間違いなくこの創造主『ヴィルヘルム・シュタイン』そのものだろう。
「甘いな、読みが。LIVE配信を見てれば分かる。異常な物理エンジン、そして真核の文言『取得する1時間前までの記録を吸い取る』。つまりは、物理法則に基づいて1時間で『実験』でもしてみろと。そんな気がしたんだ」
『創造主『V』は、この日が来るかもしれないことも予期していました。ですが彼はこの世界そのものの作成を愉しんでいる様でした。貴方も会ったことがあるはずです。【GM】と』
「なんだと……? あのエキシビションマッチの時の人物が……『V』だと言うのか!?」
『……っっ!?……すいません、悠長に話をし過ぎてしまったようです。現実では『V』の力も頼れるかもしれません。我が創造主とこの世界を頼みます』
突如として、アルケーの声が焦燥に満ちたものへ変わった。
何か動きがあったのかもしれない。
僕はそれ以上の追求を飲み込み、手元のインベントリを展開した。
「アルケー、さようならだ……」
僕は『シロロ特製爆裂ボール』を複数取り出し、生々しい心臓へと狙いを定めた。
(補充しておいて良かった。僕の火力じゃこれは壊せそうにもない)
『ーー[Iori_k]。[【Chaos Atelier】]の皆さんにもよろしくと。お伝えください』
「ああ。お前が生まれ変わったら会えないかも知れないが……またな」
僕は容赦なく、起爆状態のアイテムを放り投げた。
ヒュッッ。
『ーーふふ……[Kaiser_Lightning]の武器のフレーバーテキストを後でご覧ください……』
ドッッカアアアアアアアン!!!
ドッッカッッッーーーーーン!!
凄まじい爆発音が祠を揺るがし、システムの心臓が木端微塵に吹き飛ぶ。
「っっ……!? 抜け目のない『AI』だ」
最期の瞬間に残された言葉に、僕は思わず目を見張った。
まさか自分が消滅した後のことまで盤面に組み込んでいるとは思いもしなかった。
この世界の存続を僕達が成功させ、アルケーのデータだけを拾い上げることができれば。
「カイザーの武器を覗けば、僕達をまた認識できるんだな」
ドドドドド……!
心臓を失った空間が、断末魔のように激しく崩壊を始める。
「今はあいつらに連絡することが重要だな……」
僕は祠の出口へと踵を返し、崩れゆく空間を足早に歩き出した。
◇
外へ出た瞬間、僕は即座にクランVCを接続した。
『イオリ!!』
回線が繋がるや否や、ドドンパの馬鹿デカい声が鼓膜を打つ。
相変わらずうるさい奴だ。
「すまない、手こずった。心臓部は壊した……!! カイザー、現実で早く確認しろ」
アルケーから聞かされた『V』の件は、現実でゆっくり話すとしよう。
そう心に決め、僕は次の戦場である現実へ向かうべく、皇の背中を強く押したのだった。
第129話いかがだったでしょうか?
イオリの機転によりロン君はポータルの機能を獲得。そして武器の判定を上書き。
やがて到達した心臓部での、AI『Arche』との静かな対話。
創造主『V』の正体がゲームマスターでもあったという衝撃の事実が明かされました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/27【夜20時10分】に投稿致します!
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