第128話 時空剣士、マカロンの異常に驚愕し再び現実へ。
◇ 『La-Plus 0.1』真核内部
「【ユグドラシルナンテ!糞喰らエ!9連斬】!!!」
(※システム名称【時空剣士スキル:多重空間の九層崩壊】)
魔王の建てた巨大なお菓子の家が、内側からデタラメに切り裂かれて崩壊していく。
『ぐふっっっ……!』
『俺もお前も俺』のくぐもった呻き声が響くのと同時、家を取り囲んでいた半透明の反物質の防壁がガラスのように砕け散った。
タンッ! タンッ!
タンッ! タンッ!
僕は残る【八脚の多重存在】で宙を4回蹴り上げ、更に高く飛翔した。
「攻撃の手を緩める道理はない……「【神樹を貫く流星】!!!!」
[偽りの鞘]が解けていない今の[不確定な神威剣槍]では最大火力は出ないが、僕の持てる最高峰の技だ。
「お前に教えてもらったこの技……受けてみろ!!!!」
『おいおい、皇ぃ。かつての仲間を串刺しにするつもりかー?【対消滅の傲慢】』
ドッッッ!!
突如として、僕の周囲を禍々しくも透明な壁が囲い込み、落下する僕ごと空間を閉じ込めようと迫る。
「お前がそうすることは織り込み済みだ!!!そこに……選択だ!!」
僕は壁が立てられることを前提に、ほんの少し先の座標へ『未来の保留』を仕込んでいた。
防壁が展開されようとも、それに触れない未来の座標へと自身の存在を確定させれば、僕の攻撃軌道はそのまま維持される。
シュンッッ!
『な!?』
空気を掻き切りながら落下する中、僕は奴の焦燥に満ちた顔をはっきりと観測した。
「イオリといることで僕は学んだ、盤面の先を読む事を!そして僕の持つ『未来の選択』は別物だ。同時に2つを行うことで、僕は最も確率の高い『必中』を生み出すことが出来るのだぁぁぁー!泉ぃぃ!」
勝利を確信した一撃。
だが、僕の剣が奴の胸に突き刺さる直前。
唐突に、僕の主観時間が極限まで引き延ばされたような奇妙な感覚に陥った。
『なーんてなー。甘いんだよ』
泥のような時間の中で、焦っていたはずの『俺もお前も俺』が、不敵に口角を釣り上げる瞬間を目撃する。
「な……?」
『GMコール:武器認識。権限08発動: [WeaponID_Rebel_Lucifer_MorningStar]スキル具現【堕天権能:剥奪領域】』
奴は僕が、聞き取れないほどの速度で何かを呟いた。
その瞬間、僕の手の中にあったはずの[不確定な神威剣槍]が、音もなく完全に消滅した。
『そんなに、俺の胸に飛び込みたいのかーーー!?』
ドンッッッッ!!
『熱い抱擁だなー。また衝突死お疲れー』
——【System】——
急所判定:激突
プレイヤー:カイザー・ライトニングのHPが0になりました
死亡判定:ロストプロトコルを実行します
——————————-
視界が真っ赤なエラーに染まり、僕の身体が光の粒子となって崩れ去っていく。
薄れゆく意識の最期、僕は見た。
奴にはHPゲージそのものが存在していなかったことを。
『さようなら』
奴の冷たい声が僕の耳を劈いた。
武器を剥奪され、理不尽な絶対防壁に生身で突っ込んだ僕だけが、すべての衝撃をその身に受けて死亡したのだ。
◇ 混沌工房
光の粒子が収束し、次に目を開けた時。
僕は見慣れたクランハウスの絨毯の上に倒れ伏していた。
「そんな……僕の負けか……?イオリは……魔王は……どうなる……」
手の中には何もない。
絶対的な権限の前に敗北した事実だけが重くのしかかり、僕の心は完全に折れた。
「カイザー……!?終わったのか全部!?」
突如、背後から聞き慣れた声が響いた。
「ドドンパ……落ちたはずじゃ……」
ドドンパは僕の顔を覗き込むように見下ろした。
「居てもたっても居られなくなったんだよ!!そんなことより何してんだ!!!!」
「僕は……負けた。時間を稼ぐことに失敗した。ボロボロで移動制限のかかったイオリと魔王を置いて。俺もお前も俺に……」
「は!?あいつは垢BANしただろ!?……いや、嘘つく理由ないよな……事実なんだな。行くぞ」
「あの場所へ再び行くことはできるのか……?」
「あ!反転の王冠で転移とかできないのか!?」
「しかし……今から行っても間に合わないかもしれない。残り5分だと言っていた……」
「今何分経ったんだ!?」
「正確にはわからない。だが、『La-Plus 0.1』はデータの圧縮に入ったと言っていた。つまり反転の王冠を持って権限が発動できる場合、『La-Plus 0.1』の圧縮作業が終了している……つまり僕達の負けだ……」
僕は天井を見上げながら、事実を突きつけた。
この上なく、情けない姿だろう。
「そんな事はいい!!イオリ達を置いて来てるんだろ!?戦いに負けても……ダチを見捨てる理由にはならないだろ!!」
「……っ!そうだな……すまない」
ドドンパの言葉にハッとさせられ、僕はインベントリを操作し『反転の王冠』を取り出した。
「どうだ!?」
手に持つと分かる。システムコールの一覧が。
そしてその一覧は全て、白く光っていた。
「コールは全て発動できる……」
つまり……僕の言った通り。
『La-Plus 0.1』はデータの圧縮を終えたということだ。
「それでも、行くぞ。イオリは動けないんだろ!?ログアウトも出来ないんじゃないか?放っとけるかよ!」
「ドドンパ、僕に捕まれ」
ガシッッ!
ドドンパの手は微かに震えながらも、僕の肩を力強く掴んだ。
「システムコール『La-Plus 0.1』:アカウント認識。権限05発動:空間跳躍。接続先[Iori_k]直近座標」
——【System】——
座標の特定……[error]
要因:真核の暗黒域(Dark Web)の為、座標データへのアクセスが拒否されました。
——————————
「暗黒域……?イオリに飛べない……!?」
「なんだよそれ、だったら魔王だ!ぽよんちゃんをターゲットにしろ!」
「……ッ!接続先変更!対象[maou_poyon]直近座標!」
スッ。
◇ 『La-Plus 0.1』真核内部
一瞬の浮遊感の後、僕たちは再び絶望の底へと舞い戻った。
だが、そこで目にしたのは、予想だにしない異常な光景だった。
バクッッッ!
バクッッッ!
『な……何故だ!?武器じゃねぇのか!?何故消えない!!!!!!』
「ぽよ〜〜!ロン君いいのだ〜!もっと食べるのだ〜〜!GM食べたらどうなるのだ〜?」
ロン君は、『俺もお前も俺』の下半身を捕食していた。
『GMコール:08。[WeaponID_Rebel_Lucifer_MorningStar]スキル具現。【堕天権能:剥奪領域】!!!GMコール!08!!!!くそォォォ!なんで発動しねぇ!?』
僕の武器[不確定な神威剣槍]は、先ほどそのGMコールで消えた。
だがロン君も、分類上は歴とした『武器』のはずだが……。
「何故消えないんだ……?」
「何この状況?てかイオリは?」
ドドンパもこの状況を飲み込めないようで、両腕を垂らしながら愕然としていた。
そして、彼の言う通り。
イオリの姿が見えなかった。
「カイザー!ドドンパもいるのだ〜!?あ!えっとね〜人間kなら時間制限?が終わる前にアルケーが状態を解除したのだ〜!その後、なんか『ヴォーーー!』ってスキルを発動してロン君が食べたらこうなったのだ〜!」
そこで僕達の姿に気がついた魔王は、手の出ていない袖をかざし説明をしてくれる。
説明の仕方はどうにかならないものか。
と僕は内心でツッコミを入れた。
「ぽよんちゃん相変わらずだな〜、でも、あれだ……!種子!!新しいスキルの事だな!」
『種子』、この意味は僕にはわからないが、闇霧で入れ替わる直前、身を潜めて戦況を覗き見ていた僕には思い当たる節があった。
「あの、シロロの大熊みたいなものか……?」
「ん?あー…お前いなかったもんな。そそ!詳細は知らないけどかなり強力な拘束スキルつってたぞ」
「そうか……それをロン君が食べた……ますます意味がわからないが……」
『クソ!!!俺を止めてもなぁー!もうデータの圧縮は終わってる!あとは親父達がこのサーバーをダウンさせれば終わりだ!!』
「ところで、データの圧縮ってなんだ?」
「推測の域を出ないが、言葉の意味を考えるに……バックアップということではないか?」
もしそうだとするのなら、この量子計算機の世界は既にバックアップされた状態ということだ。
「イオリが心臓部を破壊して特大のエラーを起こせば、システムは現実の管理者に向けて一瞬だけ『エラーの悲鳴』を送信する。それを、現実世界で待機している僕の部下が逆探知する手筈になっている。つまり、それが出来なければ僕達の負けは確定する」
「よくわかんねぇけど…その優秀な部下さんは現実世界で何を探すんだ?」
ドドンパの疑問は尤もだ。
ハッキングの専門的な中身は、イオリと城 (ジョウナン)くらいしか正確には把握していないだろうしまだ他のメンバーには話していないはずだ。
僕は彼に合わせ、極力簡単に説明することにした。
「この世界を動かしている、メインサーバーの事だ。その物理的な座標を割り出すことが出来れば……親父たちを弾劾する物的証拠として挙げられる」
「なるほど」
「他にも必要な証拠は複数あるが……そもそもメインサーバーを見つけられなければ、奴らはまた莫大な金をかけて、バックアップから世界を再構築してしまうと言うわけだ」
座標を割り出さなければ、僕らの必死の抵抗はすべて無に帰す事となる。
「その新しい仮想世界の心臓部は、もう壊しにいけない訳か……」
「そういうことだ。次に作成されるのなら、もう『VRMMO』の形などないかもしれない」
「そうだよな……。その『選択データ』?『シミュレート』?の土台があるなら、細かい肉付けをしたら終わりなんだもんな」
僕はドドンパの顔を思わず二度見した。意外と、事態の深刻さへの理解が早いみたいだ。
「そ、そう言うことだ……」
僕とドドンパがひとしきり会話を終えた頃には、『俺もお前も俺』の体は既に肩より下をロン君に食われていた。
『親父、何してんだよ……』
「ぽよ〜! もう少しなのだ〜! ロン君、大丈夫なのだ〜? まずい〜?」
その瞬間、僕達の居た空間全体が激しく震え輪郭をなぞる様に稲光が走った。
ビッッッッッッッッッッ!!!!
「なんだ!?」
「うおっっ!?」
「ぽよ〜! ビリビリなのだ〜!」
『まさか……嘘だろ……親父は何をし……』
スゥー……。
奴の身体が突如、光の粒子に飲まれて消えていった。
「ぽよ〜〜!? 急に消えたのだ〜〜!」
「おい、今のログアウトの光じゃないか?」
「間違いない。現実でログアウトさせられた……?」
ドドドドドドドド……!!
「カイザー! イオリがやったんだ!! この揺れ、心臓部を壊したんじゃないか!?」
「そうかもしれないな!!」
ゲェェプ♪
「ぽよ〜! ロン君お腹いっぱいなのだ〜?」
「イオリは? まだ、飛べないのか?」
僕は反転の王冠を再度握りしめ、視界の端を確認する。
「コールの一覧が消えた。『La-Plus 0.1』が機能を停止した……のだと思う」
「へっっ! 流石だぜイオリの野郎! でも、肝心のあいつは何してんだよ」
「人間k、大丈夫なのだ〜?」
ザザッッ……。
噂をすればなんとやらだ。
「イオリ!!」
ドドンパの掛け声と同時に、僕も視界の端に映る[クランVC:Iori_k]の文字を確認した。
その瞬間、安心から来るものだろうか。
一気に気が抜け、体がドンッと重くなるのを感じた。
『すまない、手こずった。心臓部は壊した……!! カイザー、現実で早く確認しろ』
イオリの切羽詰まった声を聞いて、僕はハッとする。
そうだ。
現実で城 (ジョウナン)が無事にパルスを掴めたのか、確認しなければならない。
「お前達。向こうで会おう。先に行くぞ」
「おう!!!!!」
「ぽよ〜〜!」
『ああ。すぐに連絡する』
三人の頼もしい返事を聞き届け、僕は仮想世界を後にした。
後は……証拠を揃える……!!
第128話いかがだったでしょうか?
敗北してしまったたカイザー。
しかし、再び戦場へ舞い戻った先で待っていたのは、俺もお前も俺を捕食するロン君の姿でした!
次回はイオリ視点へと戻ります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/26【夜20時10分】に投稿致します!
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