第127話:時空剣士、絶望のGMの壁を前に、かつての敗北(ロジック)を反撃の刃へ
◇ 『La-Plus 0.1』真核内部
「イオリ……!?クソッ!!あそこにいる未来を……選択だ!!!!!」
シュンッッ!!!!
薄暗い空間の奥、冷たい床に踏み躙られているイオリの姿と、先ほど垢BANして消滅したはずの『俺もお前も俺』の影を遠目に捉えた瞬間。
僕は取り戻した『時空剣士』の力で、迷うことなく『そこにいる未来』を選択した。
ガキンッッッ!!
『おー、カイザーかー』
「な!?」
「Too bad. You were just an inch short.」
(※残念。あと数インチ、届かなかったな)
スーー……!
僕の[不確定な神威剣槍]は、イオリに届く直前で何者かの剣の平に弾かれていた。
足元の空間から陽炎が揺らぎ、次第にステルスが解かれた無為の姿が浮かび上がる。
「ルイ……」
僕と無為の視線が交差した、その一瞬だった。
『俺もお前も俺』が退屈そうに、スッと指を宙で『下から上に』なぞった。
「うっっっっっっ!?」
見えない『何か』の壁に激突したような凄まじい衝撃。
僕の体は為す術もなく、紙屑のように上空へと吹き飛ばされた。
「ぽよ〜〜〜!ロン君スマーーーーッシュなのだぁぁぁ!!!」
すかさず背後から飛び込んだ魔王が、質量兵器と化したロン君を振り下ろす。
だが奴は再び、ただ指を『左から右に』なぞっただけだった。
「きゃっっっ!?」
ドゴォォン!!
激しい衝突音と共に、ぽよんもまた見えない壁に強烈に弾き飛ばされ、床を無様に転がっていく。
「な、なんだ……?」
「ぽよ……カイザー……よく見たら俺もお前も俺の顔が違う気がするのだ……」
『さっきぶりだなぁー。お前にあっちの垢消されちまったからよー。別垢で来たわ』
「別垢だと……」
起き上がったぽよんの言う通り、そこに立つ男は纏うオーラも装備も、先ほどとは全くの別物だった。
光を吸い込むような漆黒の剣を携え、禍々しい復讐者のような威圧感を放っている。
『あー残念だけど、反転の王冠持っててもこれは垢BANできないぞー。これ『Game Master』垢だから。あ。無為。お前が王冠盗まれたせいでこうなったんだからな』
「I'm sorry, but...」
(※すまない、でも……)
『あ?』
「This is all on me. Forgive me.」
(※全部俺の責任だ。許してくれ)
冷徹な暗殺者だったはずの無為の声は、微かに震えていた。
(奴は無為までも恐怖で支配している……。それにGM垢だと……?そんなシステムそのもののような存在に、僕たちただのプレイヤーが勝てるのか……?)
「人間k〜!大丈夫なのだ〜!?」
ぽよんが地に伏せたままのイオリへ必死に呼びかけているが、一切の反応がない。
僕はレティクルを合わせ、イオリのステータスを観測した。
そこには、ゲージが存在しているのかすら見えないほどミリ単位のHPバーと。
『Immobilize(移動不可)』『Stunned(気絶)』の紫アイコン。
そしてもう一つ、見た事のない黒色のアイコンが点灯していた。
『Life Anchor [Fixed: 0.1](生命繋留[固定:0.1])』
(痛めつける為に……死なないギリギリの数値で、わざとHPを残しているのか……っ!)
『無為、お前BANされるぞー。ここからは俺一人でいいわー』
『俺もお前も俺』のその言葉を聞いた無為は、何も言い返さず、静かにログアウトの光に包まれて消えていった。
「……ッ!」
『さーて。能力お披露目の時間だぞー』
残された絶対的な強者が、嘲笑うように指をフリックする。
空間に半透明の壁がいくつも展開され、僕たちを取り囲むように高速でスライドし始めた。
近付くことすら許されない圧倒的な理不尽の前に、時空剣士の力も魔王も、ただ息を呑むことしかできなかった。
(『ーー[Kaiser_Lightning]、[maou_poyon]。遅れてしまい申し訳ありません……』)
突如、僕と魔王の脳内に透明な声が響き渡った。
(ぽよ!?アルケーちゃんの声がするのだ〜!ロン君に入ったのだ〜?)
(『ーーいえ、そうではありません。『La-Plus 0.1』は先程からデータ圧縮に入りました。つまり、今は監視下にはないのです。この間であれば、私が直接介入することは容易です』)
(なるほど。それでデータ圧縮とは?)
『おい、何ぼーっとしてんだー?諦めたかー?』
(『ーー簡単に言うと、ここまでのデータをメインサーバーに集めて逃げようとしているのです。この世界を放棄して……』)
『なんだよー無視かー、まぁいいやー。おらっ!!』
奴が指をフリックするように宙をなぞる。
瞬間、半透明の壁が僕めがけて押し寄せてきた。
「くそっ、避けた未来を選択だ!!」
シュンッッ!
僕は迫り来る壁を透過するように、『避けた未来』へと強引に自身の存在を上書きして躱す。
『やっぱだるいなーその能力。魔王Vtuberからやるかー』
(『ーー話を続けますが、先に……[maou_poyon]。
[Weapon_ID_Demon_Scepter: Void_Macaron_k]には固有パッシブである【五皇の食卓】があります。それを使ってください』)
「ぽよ!使ったことなかったのだ……!
ロン君、【五皇の食卓】なのだ〜!!」
魔王が叫ぶと、腕に抱えられたロン君の輪郭に青いラインが浮き上がった。
——【Ron Kun System】——
『五皇の食卓』をセッティングしました。
・自動迎撃モード:明確な攻撃対象を選定中……[成功]
・標的:対象の赤色ハイライト……[完了]
『これより「おやつ」の時間です。
ご馳走を前に、逃げることは許されません。』
ーーーーーーーーーーーーー
「これ、なんなのだ……?」
魔王は空中の一点を見つめている。
僕には見えないが、彼女の視界にだけ何か(UI)が展開されているのだろう。
「どうした魔王!!」
(『ーー対応しながら、聞いてください。データの圧縮が完了し、一度逃げられてしまえばこの世界が放棄され、もう為す術はありません。もう既に大部分は出来上がっているのです。
プレイヤーがおらず、邪魔者がいない……手出しの出来ない新たな仮想世界で完成を待つ他なくなります』)
『おらっおらおらおら!!!』
ヒュンッッッ!!
ヒュンッッッ!!
奴の指先から不可視の壁が乱舞する。
だが、魔王はその場で立ったままにもかかわらず、彼女の腕に抱えられた王笏の先端からスライム状のロン君がニュルリと長く伸び、襲い来る壁を見事に弾き飛ばして自動迎撃を行っていた。
(そんな能力があったのか……いやそれより、アルケー!どうしたらいいんだ?)
(『ーー二人ともよく聞いてください。私の目的は、この世界の存続。現実のアレやコレを心配することはできません。ですが、それを守らんとする者の意思と私の目的は合致します。この部屋に隠された『La-Plus 0.1』の心臓部を私が解析します』)
『あー、やっぱあっちの垢じゃないと能力がいまいちわかんねーなー。お前らさー、これもう時間の無駄だしやめねー』
奴の攻撃が止んだ、その瞬間。
ガシっ!
「なら全部諦めるのだ〜〜!!!ロン君スマーッシュ!」
魔王が目の前で一人でに立つ王笏を力強く掴み、自ら奴へと殴りかかった。
プォーン♪
『マジかー。めっちゃやる気満々かよ』
ガンッッ!!
渾身の打撃も、奴は遊んでいるかのように指一本で展開した壁で防いでしまう。
「また跳ね返しなのだっっ……!?」
強烈な反発力が魔王を襲うが、ロン君は自ら自動で衝撃を殺し、何事もなかったかのようにピタリと静止してみせた。
「ぽよ〜!ロン君すごいのだ〜!!」
『うおー卑怯だなー。後どれくらいだー?………6分か……いいよ、遊んでやるよ……。もう損害出して、俺は親父に半殺しに遭うだろうしな。八つ当たりさせろよ』
奴はニヤつきながら虚空を眺めると、わざわざ時間制限を僕らへ聞こえるように呟いた。
(『ーーイオリのデバフもなんとか解除してみせましょう……残り時間までに破壊できなければ終わりです……』)
(つまり……アルケーが心臓部を露出させたとしても、破壊する為には『俺もお前も俺』の妨害を防ぐ必要があるのだな……!)
(『ーーはい。目の前でただ壊すのを見守ってくれる道理はあちらにはありませんからね。では、私はしばらく、解析に集中します。ご武運を』)
「カイザー!この壁、どうにかしないとなのだ〜!
何かいい案ないのだ〜!?」
「まだこの能力が何かもわからない!イオリが起きてくれれば……何かわかるかもしれないが……!」
『あー、もう少しシステム権限ある垢用意しろよなー……。でー?どうする訳?やんのー?後5分だぞー?』
奴は未だに余裕の表情を崩さず、僕たちを見下して嗤っている。
「魔王!一先ず……行くぞ!」
僕はアルケーの思惑を伏せながら、魔王へと声をかけた。
彼女も聞いているのだ、今の僕たちに必要なのは先程と同様、ただひたすらな『時間稼ぎ』であることを。
(イオリは先に戦闘をしていたはずだ……ただやられていた訳じゃあるまい。早くデバフを解除してくれ、アルケー……!!)
『来いよ……皇ィィィ!!お前はこっち側の人間だろぉー!?親父を売るのか!?お前はあああ』
僕は[不確定な神威剣槍]を力強く握り直し、切っ先を奴へと向けた。
「お前を抑え、僕は親父を弾劾する。泉。目を覚ませ!!」
『Vtuberもお前も、そこに転がってる観測士と同じ様にしてやるよぉぉ!!』
「【どこでも空中ジャンプ!僕様の華麗なるジャンピン!】」
(※システム名称【八脚の多重存在】)
スキルを発動すると、僕の足元に光の魔法陣が浮かぶ。
タンッ!!
タンッッ!!!
タンッッッ!!!
(この空を駆ける感覚、久しいな……)
力を失って以来。
この空を駆ける事など忘れていた。
僕は高揚を抑えながら必死に駆け上がった。
「ロン君!攻撃なのだ〜!連打なのだ〜〜!!」
プォーン♪
ドンッッ!!
『チッ…鬱陶しいなああ』
タンッ!
僕はそのまま宙で待機し続け、必死に思考を巡らせた。
(これで4回飛んだ……後4回……出来るだけ時間を……)
『壁を忘れたかー?バカ神ぃー!』
ザザッッ……。
突如、僕の視界の端に表示されたのは『個人VC』の文字。
「イオリ……!大丈夫なのか?!」
「ぽよ!?人間kぇぇぇんんん!!」
「思い出せ……僕がお前を倒した時の状況を……」
酷く掠れた、だが確かな意思を持つイオリの声がVCを通して脳内に響く。
「お前のスキルは職業と……剣槍の力だろう……発動タイミングを考えろ……壁が見えているのなら……」
僕がイオリに倒された時の状況。
エキシビションマッチで、僕はイオリに負けた。
激突による無様な『衝突死』で。
「そういうことか……僕の『事象の選択』のロジックを一回聞いただけでそこまで……よく伝えてくれた」
「ぽよん……おやつを食べろ……そのあと近づきあの時の家を建てろ……」
あの日の光景を思い出す。
かつてイオリが武器を変える為の30秒間で魔王が何をしたかを。
「あの家の事か……そうか……。魔王。僕が剣を振るう。防壁の内側から抑えた上で視界を防いでくれ、頼んだぞ」
「分かったのだ〜〜!!やるのだ〜〜!!マカロン食べるのだ〜〜!」
サクっ……!
甘い咀嚼音と共に、僕の眼下で魔王が瞬時に姿を消した。
『また消えるやつかー、まぁいい、俺に攻撃は通らねぇぞー』
僕は宙で腰を深く落とし、両手の人差し指を頭に当てる構えを取る。
「僕様に言ってゴラン!……」
『チッ…その構え……スキル中断技か……残念だがこれはパッシブだ。中断できる要素……』
僕のスキルは奴には全て知られている。
だが、一瞬の隙だけで十分だ。
僕は構えを解いてフェイントにし、
[不確定な神威剣槍]の『武器の能力』だけを発動した。魔王の動きに合わせて。
『は?なんだよやめるのか』
「グングニルよ……【遅延選択する因果】……不確定な未来を保留ダ!」
「【甘姫粘魔王スキル:魔卡龍のお家】!!!」
ポフンッ!
ドデーン!
透明化から復帰した魔王が、俺もお前も俺を巨大なお菓子の家で包み込む。
『なんだ?お前ら視界悪くするスキル好きだなー。俺を閉じろ[反逆の明けの明星]……【堕天の遊戯盤】!』
ズンッ!
ズンズンズンズン!!
奴がマカロンハウスの外側を囲むように、五面の半透明な反物質の壁を具現化させる。
「六面にするべきだったな……!地面から選択し放題だぞ。
【ドレにしよウカナ…コレか。僕様のハッピーエンド。】」
(※システム名称【時空剣士スキル:確率の確定】)
「ど、どうするのだ?!」
魔王は何が起こるか分かっていないようだが、イオリの言葉で僕は完全に理解していた。
僕の『事象の選択』は、武器の『選択遅延』で複数の未来を保留させ、時空剣士の力で都合がいい未来だけを引っ張って『確定させる』。
それが必中の仕掛けだ。
「防壁の内側に到達する瞬間だけを確定させればいい。
【ユグドラシルナンテ!糞喰らエ!9連斬】!!!」
(※システム名称【時空剣士スキル:多重空間の九層崩壊】)
ザシュン……
ザシュ!
ザシュ!
僕は『9回』、デタラメに虚空を切り裂いた。
「ふっ……通ったぞ。そこを……選択だ!!!!!!」
第127話いかがだったでしょうか?
ミリ残しで倒れるイオリからの決死のVC!
かつて己を倒したイオリの「激突死」のロジックを応用し、カイザーが防壁の内側へ『事象の確定』を叩き込みます! データ圧縮のタイムリミットまであとわずか、この反撃は届くのか!?
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/25【夜20時10分】に投稿致します!
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