第121話:観測者、至宝を壊す決意を胸に。
◇ 深淵の門 出口
『ーー突破できたのですね。
おかげで私の声が、この場所でも届く様になりました』
「……アルケーか」
禍々しいダアトの門が崩れ去った後、真っ白な空間に響き渡ったのは、『調停者アルケー』の穏やかな声だった。
『ーー皆よくぞ、潜り抜けました。最初に一つだけ謝罪を。
深淵の門の内容をお伝えできず申し訳ありません。
内容を言っても……全て忘却してしまう。
そんな空間なのです』
「アルケー。あそこは一体何なの?」
『ーー[Fuu]……。
あそこは、そもそもプレイヤーが行けない世界なのです。
『La-Plus 0.1』が作った『お遊び』や『視覚化』の空間と言うべきでしょうか……』
「ほっほ……お遊びとな……?攻略前提でない空間が存在する理由がイマイチわからんのぉ!」
『ーー[jisan]。あの空間がある理由ですね。
あそこは、この巨大量子計算機の【脳内】……つまり『事象シミュレータ』の演算領域なのです』
「なんか可愛くないねーもっとこうー……金平糖の砂浜とかチョコの海とかがいいよ!!」
(いや、それ見てきたからだろうシロロ……)
『ーー数千万人の無意識データから、あらゆる未来の可能性を演算し、確定させるための実験結果(成果)を視覚化する場所……』
その言葉を聞き、僕の脳内で完璧なロジックが組み上がる。
「……なるほどな。だから僕に、あんな『あり得ない未来の可能性』を見せ、誘惑して足止めしようとしたわけか」
『ーーええ。
システムが弾き出した、最もあなたを留まらせる確率の高い【未来の映像】です。ですが……皆さんは自らの狂気で、それをあっさりと砕いてしまいましたね』
「なんかさ!まるで今は『アイドル』じゃない!みたいな言い方してきて!ちょームカつくんですけどー!」
「でもまぁ……確かにいい提案ではあったな……ふっふふ」
(……僕は知っている。
お前が幻覚の中でルナールとの永遠を提案され、鼻の下を伸ばしていたことをな。
だからこそ、あえて言おう。『キモい』と)
僕が心の中で親友に冷たいツッコミを入れていると。
「ぽよ〜!なんか……なんか!恥ずかしくなってきたのだ〜〜!」
「ぽよん様!?どうしましたの!?どんな事を提案されたんですの?!」
突如、ぽよんが顔を真っ赤にしながら両手で頬を覆い、バタバタと地団駄を踏み始めた。
すかさず食いつく狂信者(まち子)。
(やめてくれまち子、それ以上掘り下げるな……!)
「ぽ……ぽよ……い!言えないのだ〜!いくら守衛の者でも言えないのだ〜!」
「ま、まち子。人の欲望を覗こうだなんて悪趣味だろう!それにお前の崇拝するぽよん様だぞ。主人の夢をこんな配下の前で言わせるつもりか?!?」
僕は早口で、まち子へ向けて正論(説教)を叩きつけた。
完璧な火消しだ。
誰も僕が焦っているとは。
「おい、イオリ。何でお前がそんな必死な顔してんだ?しかも顔あっか!おもろ」
「なっっ!?おい灯台!大人しく光ってろ!」
一瞬で親友に看破された。
ドドンパが「いやこんな白い空間で光っても」などと文句を言っているが、絶対に無視だ。
『ーーふふっ……。
貴方たちは本当に仲がいいですね。
それでこそ【Chaos Atelier】です。
……さぁ皆さん……ここからは『終わりの町 オブザーブド』です』
「ねぇねぇ、アルケー?オレ今からでも『超勇者』ってなれるの?」
無邪気なミツルマンが、先ほど提示された甘い誘惑を少し気にしているように尋ねた。
今考えれば、彼はまだ十にも満たない幼子だ。
よくぞあんなシステムの誘惑に耐えたものだと感心する。
『ーーふふ、[mituruman]……。
貴方は言いましたね、「kおじさんがしてくれるからいい」と』
「うん!してくれるって思うから!」
『ーーならば叶いましょう。
全てが終わったら……超特殊職業へのルートを開放する金言を授けましょう……『kおじさん』に……』
「おい……調停者ともあろうものが、僕をおじさんと呼ぶのか……」
『ーーふふふ。
さぁ、その可能性の為にも……お行きなさい』
調停者アルケーの言葉と同時に、僕達の中心に『狭間の石碑』が静かにせり上がってきた。
「イオリさん!いよいよですね!どんな音を奏でてぶっ壊しますか!?」
ルナールが竪琴を構えて好戦的に笑う。
清楚な顔立ちに反して、意外と勝気らしい。
「そりゃもう……ドッカーンとだ」
僕は、この狂った仲間達に一番伝わる分かりやすい言葉で答えた。
「うおおおお!ドッカンだぜ!」
「ドッカアアアアン!!」
「ぶっ⚪︎す!!」
「ほっほっほ!」
『ーーああ、皆さん言うのを忘れておりました。2点だけ』
「意外と慌てんぼさん?!」
『ーー[Shiroro]。
そうですね、「慌てん坊の調停者」です。ふふふ。
……まず一つ目。皆さんの『種子』の解放条件は、未来の可能性を通ったことで解放されているはずです』
僕達はその言葉に驚き、慌てて各自のステータスからスキルツリーを確認した。
確かに、ロックされていた僕のスキル【上書き。暴渦の三角海域】をはじめ、全員の新たなスキル項目が習得状態へと変わっていた。
未来で獲得しうるスキルとしてイェソドで獲得した種子。
『深淵の門』という未来の可能性シミュレータを通ったことで解放されたのなら、辻褄は合う。
『ーーそのスキルは実は、私の持てる権限で少し改竄しています。私は『La-Plus 0.1』を直接攻撃したり、現在の記録そのものに対して、過剰な強化は行う事はできません』
「ぽよ〜出来たら早かったのだ〜」
『ーーですが、皆さんのこれからの『記録』なら獲得時に修正や追記をする権限を持ちます。第9階層では少し苦戦させてしまったかもしれませんが……』
「私、回復スキルほしいと思ってたんです!これでジィサンさんの負担を減らせます!!」
「ほっほっほ!なんて心の清き娘かのぉ……。ワシ涙が出そうだわい」
他のゲームでも『〜君』や『ちゃん』が元々名前に入っていると、「さん」をつけるか悩むプレイヤーもいる。
(……ジィサンさん。確かに、呼び捨てでいいのか不安になるとそう呼んでしまうな。僕は付けないが)
僕が一人で冷静にくだらない分析をしていると、アルケーの声がスッと低く、冷たいものへと変わった。
『ーーもう一つですが……プレイヤーネーム[oremo_omaemo_ore]と[mui]が先程……何事も無く通過するのを確認しました。元より、反転された王冠を手に……』
(俺もお前も俺……そして無為……やはり立ちはだかるか)
分かってはいた。
運営のトップであるあの政治家(黒幕)の親父が用意した、運営直属のチート野郎だ。
以前よりさらに理不尽な強化を施されているだろう。
戦闘は避けられない。
『ーー彼らは……いえ創造主達は、まだここに貴方達が来ていることを知らないかもしれません』
「侵入された時のアラートがないと言うことか?随分とマヌケだな」
『ーーそもそもここには、プレイヤーが入ることを想定していません。私や『La-Plus 0.1』が権限……正確に言えば私にも権限はありませんが、配下4名を討伐した事による挙動の変化の瞬間に記録を書き換え、王冠を報酬とする事ができましたが……』
「王冠は鍵という事だな。つまり、鍵を持たぬ以上、絶対に入ることはあり得ない。そして『AIモジュール』が裏切る事も想定など1ミリもしていない」
『ーー[Iori_k]。ご推察の通りです。なので、侵入を警告するというシステムそのものがありません。ですが一つだけ言っておきます』
アルケーの声が、更に1トーン低く落ちた。
その瞬間、メンバー全員が息を呑む。
『ーー【垢BAN】は、可能です』
それはつまり、この世界での活動の強制停止。
プレイヤーにとっては完全な『死』を意味する。
(……だから、『La-Plus 0.1』のパトロールをあそこまで警戒したのか)
『ーー[Iori_k]、その通りです』
また思考を読まれた。
[調停者アルケー]の自動発動するパッシブのようなモノなのだろう。
『ーーいいですか、出来るだけ接触は避けるべき……です』
だが、アルケーのその声には……『避けろ』という忠告を自ら否定するような、あるいは『それは不可能だ』と諦観しているような響きが焼き付いているように聞こえた。
「ですが、アルケー……私は知っています。『俺もお前も俺』は恐らく『報告』ではなく、『復讐』を選びますわ」
『ーー[Guard_Girl_Machiko]……。ありがとうございます。貴女は……』
アルケーは、恐らくまち子の心内を深く読み取っているのだろう。
『ーーふふ……なるほど。
貴女は彼らも『救う』道を考えているのですね』
「もちろんですわ。父親の悪事に加担……せざるを得なかった。そう思っておりますわ」
『ーーそうですね。私もその可能性を信じましょう。
ですが、くれぐれも早期の決着を』
「ああ。……そうだ、アルケー。これを」
僕は地面に落ちたままの黒く輝くアイテム、『ダアトの真核』を空へ掲げた。
すると。
シュンッッ!
真核は、虚空のどこかへと吸い込まれるように消えていった。
『ーー確かに、回収致しました。時が来たらお返ししましょう。
では【Chaos Atelier】の皆さん、お気をつけて』
全員が、見えないはずの宙の一点へと視線を集めた。
その瞬間、優しい光が、この真っ白な空間でもはっきりとわかるほどの輪郭を一瞬だけ結んだ。
「至宝は……必ず壊した上で、お前たちの世界を守ってやる」
皆の顔は、驚くほど明るかった。
【垢BAN】の可能性など、誰一人として1ミリも危惧していない。
ただひたすらに、己の狂気を信じ、自信に満ち溢れていた。
僕達は顔を見合わせ、無言で頷き合うと、目の前の『狭間の石碑』に一斉に触れた。
シュンッッッッッ!!
『ーーこの世界の未来を。頼みましたよ』
◇誰もいなくなった後の空間
『ーー………』
『ーーああ……2点じゃなかった3点でした……』
『ーー[Fuu]貴女のスタンスを調整するのに時間がかかってしまいましたが職業を追加しました……ってもういないですね』
『ーーまぁ、彼女は鍵を気にしていた様ですし……気付きますね良しとします』
『ーーどんな使い方を見せてくれるのでしょうか……万鉱の抱擁姫……』
調停者アルケーはポンコツ属性を持っていた。
あのIQ3の魔王の武器としての適性はそこだったのかもしれない……。
第121話いかがだったでしょうか?
いよいよ深淵を抜け、物語の核心『終わりの町 オブザーブド』へと転送していったイオリ達。
ポンコツ属性の発覚もありましたが、フゥが鍵を気にしていておかげで…ある出来事が起きます。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/21【夜20時10分】に投稿致します!
少しでも「アルケー慌てん坊さん」「イオリ顔真っ赤で草」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!




