第120話:混沌工房、反転の王冠を嘲笑いし狂気。
シュンッッ……。
僕はおかしな幻覚のような、あべこべのような世界に囚われていた。
しかし、気づけば……。
◇ 第8エリア 『魔王領』幽玄の海賊船エリア
「クロロ!今だ!」
「いっけー!【私のカッコイイシール帳】!!」
クロロのバインダーから飛び出したのは、黒くて巨大な恐竜だった。
恐竜は黒い炎を吐き、目の前に群がるスライムたちを容赦なく焼き倒していく。
「いいのである〜!スライムなんて焼き⚪︎せ〜!」
「フッ……それでこそカッコイイの狂気!クロロだ!」
僕達は、『第7エリア』のゴーストスライム達を、ただひたすらに効率も考えず無惨に狩り続けていた。
「あー、BGMクソここ。まじで要らない。音が邪魔すぎてゲームやめたい」
「ソール、うるさいよお前が。女の癖に。その『耳栓』の真核武器あるんだから、一人だけしてればいいじゃねぇか。聞きたくないなら」
新しい仲間、『ソール』は静寂が好きで横暴。
そして『音楽』が嫌い、そんな人柄である。
少し喋るだけで「イオリ、うるせぇ」と怒鳴ってくるので、なぜ仲間に入れたか僕自身も不思議ではある。
ちなみに、僕の相棒のドドンパとはクラン随一に仲が悪い。
「あー、愛が欲しいわ。俺の愛を受け入れてくれそうなのいない?ねぇお前。……あれ?これアイテムか」
ゴーストスライムの亡骸……人魂のようなそのドロップアイテムを無造作に掴む男性は、『アタックボーイ・ドス郎』。
このクランの火力枠だが、敵陣へ突っ込むことしか頭になく、仲間との連携を知らない。
口癖は『愛が欲しい』だ。
僕はなぜこんな変な、仲間達を引き連れているのか。
凄く効率が悪い気がする。
「まぁいいか。効率なんて考えないで気ままにやれば」
僕の口癖だ。
適当な仲間と適当にこのゲームをすればいい。
(……あれ?なんでこんな事を考えているんだ?)
時々、僕は自分の考えている思考に対して『何故だ?』と自問自答をすることがある。
まるで、おかしいと僕の中のナニカが訴えているような。
そんな感じだ。
おかしいことなんて何もない。
ここはファンタジー世界。
思考が変わることなんて良く……『ーーある事だ。お前はおかしくない』
僕の思考は突如、気味の悪い声とすり替わった。
この声は、僕ではない。
………。
◇ 『World of Arche』 深淵の門
『ーーイオリよ……』
「ここは、どこだ?」
『ーーここは深淵の門:ダアトである』
「ダ……アト?」
僕がその言葉を聞いて、何か閃くなんてことはない。
だが、不自然に引っかかる。
『ーーお前が今から向かおうとしているのは……お前がお前でなくなる未来だ……』
気味の悪い声が、僕の頭の中で反響する。
『思考』が直接撫でられる、という表現が正しいのだろうか。
とにかく、そんな悍ましい感覚なんだ。
「僕が僕でなくなる……?どういう意味だ?」
僕は、僕自身の思考へと問いかけた。
『ーー今お前が見てきた、冒険してきた、感じてきた。それら全ては、この先に行くと必ずそうなる未来だ』
「何を言っている?何を……お前は誰だ」
『ーー選ばせてやろう。この先へと進む事を辞めるか?
イオリ『k』よ』
その瞬間。
僕の脳内を覆い尽くしていた濁った思考が、一気に晴れ渡った。
「……っっ!?はぁっ……はぁっ……」
僕の呼吸は激しく上がっていた。
『ーーお前が辞めるなら、こんな未来を約束しよう』
「は?なんだ、どういっっっ……」
僕が全てを言い終わる前に、意識は強制的にどこかへと飛ばされる。
シュンッッ!!
◇ 第?エリア 『無限の夢』
僕は、宙に浮いた状態で眼下の光景を見下ろしていた。
そこにいるのは、僕とぽよんの姿。
「ぽよん、いいか?今から『24時間』、真核へと刻む内容を決める。まだ取るなよ??」
「ぽよ〜!24時間もあったら、なんでも刻めるのだ〜!」
見下ろす視界の中で、僕とぽよんは心底楽しそうに笑っていた。
そして、二人の傍には淡く輝く『2つの真核』が転がっている。
「ははは、ぽよんはどんな能力が欲しいんだ?僕の超特殊職業『永遠の観測士』ならなんでも刻んでやれるぞ」
「ぽよ〜!うーんと〜……ぽよんね〜、人間kと仲良くできるような能力が欲しいのだ〜!」
(……は?ぽよん、お前は何を言っている……?僕と仲良くできる能力……?)
宙に浮いた状態で眼下の光景を見下ろしていた僕は、幻影たちの会話に思考を乱された。
「なんだよそれ……。うーん、僕と仲良くできる能力か……。そうだ、『結婚システム』を使ってみるか?」
「ぽよ〜〜?!結婚システムなのだ?!
ぽよんと人間……イオリ君が結婚するの……?」
「なんだ、嫌なのか?」
「嫌じゃないよ、イオリ君と仲良くできる能力だもん。そこでどうするの?」
ぽよんと思われる少女は、僕の膝の上にちょこんと座りながら、無邪気に問いかけていた。
(なんだこれは……。
システムが、ぽよんへの好意を見透かしているというのか?いや、僕がぽよんにそんな感情を持ったことなど……)
『ーーイオリ『k』。その通りだ。全てはお前が持つ感情である。お前の奥深く。深淵にある感情だ』
僕の頭は、どうかしそうだった。
システムが勝手に僕の記憶や、自覚すらない深層の感情を抜き取り、盤面に並べている。
「……僕すら知覚していないんだぞ?何故そんなことが……」
『ーーお前がこの先に行かぬと言うのなら、お前が出せない感情を我が出してやろう。この『魔王ぽよん』とやらにな。それと、真核を『24時間』刻むことの出来る職業にもしてやろう。どうだ?行かぬな?』
甘い、甘すぎる誘惑。
僕は眼下に広がる光景へ、再び視線を落とした。
「何が出来るって……僕の意思を全て理解できるような……かつ、僕がぽよんの夢を叶えてあげられるような……『結婚システム』を通すことでいける『天空の式場』で真核を24時間置いたまま……ずっと一緒にいよう」
「ええ〜!なんか照れるね!恥ずかしくなってきたよ、ぽよん」
「ほら、行こう。出来上がったら指輪の真核アクセになるだろう」
「素敵!うん、行こう!」
眼下の僕とぽよんは、手を繋いで楽しそうにどこかへ走って行った。
『ーーどうだ?微笑ましい光景だろう?
お前が望む本当の『正解』だ。
……《サァ!!我ノ手ヲ、取レ!!!》』
優しい囁きから一転、空間を震わせるような暴力的なノイズ混じりの大音声。
その歪な電子音の響きに、僕の脳内で一つの解が弾き出された。
「……その声……ケテルか!?お前はケテルなんだな?裏返った王冠が、第23のセフィラ『深淵』なんだな?!」
《愚民ヨ……我ハ滅バヌ。貴様ハ『調停者アルケー』二騙サレテイルノダ!!!!》
倒したはずの王冠。
その裏側に潜んでいた原初の意思が、高らかに嘲笑う。
「調停者アルケーが裏切った?なら何故、僕らをわざわざここまで連れてくる必要がある」
《ククク…………》
「何がおかしい……。僕は、このまま先へ行くぞ」
僕は眼下の甘い幻想を完全に切り捨て、真っ直ぐに虚空を睨みつけた。
だが、ケテルは余裕の態度を崩さない。
《イイダロウ、ダガ…。オマエ一人デ実験場へ行クノカ??》
「……何を言っている?」
シュンッッ!
僕が疑問を口にした、その瞬間。
再び僕の意識は、有無を言わさぬシステムの強制力によって、底知れぬどこかへと飛ばされていった。
◇ 『World of Arche』 それぞれの空間
僕の体は、いつの間にか微かに透明になっていた。
そして目の前に広がる光景は……。
◇ ドドンパ vs ダアト(ケテル)
『ーードドンパよ。
お前が行かぬと言うのなら、『ルナール』との永遠を約束してやろう』
「ルナールちゃんとの永遠……」
シュンッッ……
◇ ルナール vs ダアト
『ーールナールよ。
お前が行かぬと言うのなら、『ドドンパ』との永遠を約束してやろう』
シュンッッ……
◇ フゥ vs ダアト
『ーーフゥよ。
お前が行かぬと言うのなら、この世界に存在する『ありとあらゆる鉱石が手にはいる国』をやろう』
シュンッッ……
◇ ジィサン vs ダアト
『ーージィサンよ。
お前が行かぬと言うのなら、『ミツルマン』をこのゲーム公認の勇者としてやろう』
シュンッッ……
◇ ミツルマン vs ダアト
『ーーミツルマンよ。
お前が行かぬと言うのなら、超特殊職業『超勇者』にしてやろう』
シュンッッ……
◇ まち子 vs ダアト
『ーーガードガールまち子よ。
お前が行かぬと言うのなら、『カイザー・ライトニング』の力を戻してやろう』
シュンッッ……
◇ シロロ vs ダアト
『ーーシロロよ。
お前が行かぬと言うのなら、世界一可愛い『World of Arche』公認のアイドルにしてやろう』
シュンッッ……
◇ ぽよん vs ダアト
『ーー魔王ぽよんよ。
お前が行かぬと言うのなら、『イオリ』との永遠を約束し、その上で第8エリア『魔王城』をやろう』
………。
◇ イオリ vs ケテル
僕は、全メンバーが甘い誘惑を受けている場面を、ただシステムから強制的に観測させられていた。
そして今も尚、僕の周りの無数の空間では、それぞれが王冠から問いかけられている。
再び僕の目の前には、僕達が倒したケテルと『色が全て反転した』ダアトの真の姿があった。
《ーー見タカ?愚民ヨ。
オマエノ仲間達モ、ソレゾレニ臨ム権限ヲ与エル》
「………」
《ーーイオリ『k』ヨ。
オマエガ行カヌト言ウノナラ、先程ノオマエノ望ミモ叶エタ上デ、仲間全員ノ『上位権限』ヲ約束シテヤロウ》
得意げに語る王冠に対し、僕は静かに答えた。
「おい、クソ暴君。何がしたいんだ?これを僕が……僕たちが望んでいると?浅はかな王だな。そんな王だから……運営の作った国は破壊されるんだ。僕達に」
《愚民ヨ……何ヲ言ッテイル?仲間達ハ選ブゾ?オマエト違ッテ、弱イ意思シカ持タヌノダカラナァァァァァ!!!!》
「フッ……」
◇ ドドンパ
「はぁ?いや、ここゲームっしょ?バカなの?お前っっぶはっっおもろ!!お前と違って俺は現実で生きてるの!ここは全部空想だろうが!断る!!」
バリンッッ!!
ドドンパの空間が、あっさりと割れていく。
◇ ルナール
「あの、すっごく気持ち悪い音のする人とは関わっちゃいけないって!聞きました!さようなら!」
バリンッッ!!
◇ フゥ
「自分で掘り起こすと言う楽しみを私から奪う訳?ハゲなさい」
バリンッッ!
◇ ジィサン
「ほっほっほ!もうワシの孫は勇者だわい!抜かせ!『くそ喰らえ』ってやつだのっ!」
バリンッッ!
◇ ミツルマン
「バイバイおじさん!kおじさんなら『超勇者』にしてくれるからいい!」
バリンッッ!
◇ まち子
「何を言っているんですの?カイザーは別にいくらでも自分の力で復活しますわ!愛があるんですの!」
バリンッッ!
◇ シロロ
「え?私もう可愛いもん。既にアイドルみたいなもんだし、いらなーい!バイバイ可愛くない人!人なのかな?まぁいっか♪」
バリンッッ!
◇ ぽよん
「ぽよ〜!魔王城はもうあるのだ〜!混沌工房があるのだ〜!
それに……イオリ君の事は……自分でなんとかするのだぁぁぁ!!」
バリンッッッッ!!
◇ イオリ
《ッッッ!?何故……人間ハ欲望二勝テヌト……創造主ガ……創造主ガ、ソウデアル様ニィィ!!》
自らが提示した『絶対的な欲望』が、たった数秒で全員にへし折られた事実に、ケテルのバグめいた声が激しく狼狽する。
「茶番は終わったか?それに創造主をバカにしている発言だな?いいのか?AIがそんなことして」
《…………》
「僕の仲間が望むものなんて、既にもう持っている。僕はそれぞれに『正解』と成る物を一緒に作ったんだ。一つしかない答えを広げるな、クソ暴君が」
バリバリッッッッ……!!
僕が言い放つと同時、このパッチワークのような精神空間のテクスチャが、けたたましい音を立てて崩壊を始めていく。
こんなのボスでもなんでもないな。
ただのお遊戯会エリアか。
くだらん。
「さようならだ、ケテル」
《何故ダアアアアア!!!!!》
シュンッッ!!!
◇深淵の門 出口
断末魔のノイズと共に、僕達は気がつくと『真っ白い空間』へ立っていた。
誰一人欠けることなく、『9人』で。
ガラ……ガラッッッガラッガラ……。
僕達の後ろで、禍々しい『ダアトの門』が崩れ落ちる。
そしてその瞬間、全員の目の前に青白いポップアップが表示された。
——【Arche_System】——
【ワールドクエスト:世界の防衛】をクリアしました。
『ダアトの真核』×1を獲得。
——————————————
コロンっっ……。
虚空から、黒く輝く奇妙な真核が転がり落ちる。
それと同時に、どこからともなく『声』が聞こえてきた。
『ーー突破できたのですね。おかげで私の声が、この場所でも届く様になりました』
僕達は、ついにダアトの門を潜り抜けたようだ。
第120話いかがだったでしょうか?
この深層が正しいのならイオリはぽよんを……!?
それにメンバーたちのブレない欲望!!
ダアトの門を潜り抜けた9人の次に向かう場所は……!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/21【朝8時10分】に投稿致します!
少しでも「ケテル禿げろ!」「ケテルの出オチ感ww」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります!




