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第119話:観測好き、深淵の門のパラドックスへ落とされる。


◇ 神樹の塔 第1階層 『王者の間』 [水曜日・9:08]


 僕たちは予定通り、朝9時にログインして集合し、『枯れた樹の枝』を消費して第1階層の王者の間まで戻ってきていた。


 今日は未解放スキルの『種子スキルシード』の還元条件に武器の使用が含まれると推測し、僕は【星界の天球儀】からメインウェポンである【断崖写本杖クリフ・スクリプトペン】へと持ち替えていた。


「さて、王冠は……」


 昨日、『Archeアルケ』によって隔離レイヤーへと回収されたケテルの王冠。

 それが無いことには深淵の門を開けないと悩んでいると……。


 シュンっ!!


「あれ、ロン君が王冠被ってるのだ〜!似合うのだ〜〜!」


 突如、ぽよんの王笏の先端マカロンの上に、無骨なケテルの王冠がちょこんと乗っかった状態で実体化した。


(……僕達の到着に合わせて、システム内部から戻ってきたということか。


『La-Plus 0.1』のパトロールとやらはすり抜けたのだろうな)


 大役を終えたロン君は、なぜか誇らしげな反応を見せている。


 プォーン♪(マッスルポーズ!)


「ロン君、それをこちらに」


 僕が手を差し出すと、ロン君はニュルッと身体を伸ばし、僕の掌の上へ丁寧に王冠を落とした。


「よし、これを反転させればいいんだな」


「あーーなんか緊張するな。俺ら……壊さないとなんだろ?」


 ドドンパが額に微かな汗を浮かべて言う。

 彼も現実リアルで僕から聞いた話を理解しているのだろう。

 あまり直接的な言葉(ラプラスの悪魔など)をここで使うのは危険だと。


「可愛くぶっ壊そう!」


わたくしの愛の重さをお届けしますわ!」


「あの、昨日イオリさんが言っていた、その……えっとコア!どうやって壊すんですか?」


 ルナールが不安そうに尋ねてくる。


 昨日、現実のスマホ回線越しにカイザーたちと話した深海サーバー(心臓部)の物理破壊。

 だが、ゲーム内でそれがどんなオブジェクトとして存在しているのかなんて、僕にもこの目で見ないと分からない。


「そうだな……僕達のやり方で壊せばいい。それだけだ」


「イオリ君、昨日第10階層で記録してきた『神樹の地層』だけど。何か使い道は思いついたかしら?」


 フゥが不敵に微笑みながら、昨日採取した巨大な神樹の記憶地層ジオ・メモリアについて聞いてくる。


「ああ、大丈夫だ。使えるタイミングがあれば使う」


「わかったわ」


「よっしゃー行くぞー!うおおおー!」


 バチバチッッ!


「ほっほ!勇者は今日もバチバチだのぉ!」


 ミツルマンの無垢な気合いとジィサンの笑い声を聞き届け、僕は息を吐いた。


「さぁ、行こう」


 僕は手に持った王冠を『逆さ』にし、虚空へと高く掲げた。


 すると……。


 ヒュンッッッ!!!



◇ 『World of Arche』 深淵の門

 

 意識が途切れる感覚もないまま、気がつくと僕達は……いや、『僕』は。


 おおよそイメージ出来る……無数の星々が瞬く『宇宙』のような広大な空間に降り立っていた。


 だが次の瞬間。


 視界が激しく明滅し、僕は無機質な『白い空間』に一人で立っていた。


『これからあなたが、この世界で冒険する上での名前を入力してください』


[名前を入力_     ]


「……は?」


 突如虚空に現れたのは、リリース初日に見た『アカウント登録画面』だった。


 僕は一切の操作をしていない。


 だがしかし、キーボードが勝手に沈み込み、入力が自動で行われていく。


[ iori ]


「……僕は、[Iori_k]だぞ。あの日僕は、入力をミスしたはずだ」


 ◇ 始まりの町 エウレカ……?


 バツンッ!


 気がつくと、背景が『始まりの町 エウレカ』の石畳の広場へと強制的に切り替わっていた。


『おい、生きてるか?

『親友』さんよ』


 背後から声がかかる。


 振り返るとそこには、少しキザな軽装鎧を纏った男――ドドンパがニヤニヤと笑いながら立っていた。


(……違う。

 何かが違う)


 リリース初日、あいつは僕の入力ミスを見て『kさんよ』と呆れたように声をかけてきたはずだ。


 そしてすぐに、再び背景のテクスチャがノイズと共に崩れ落ちる。

 


◇ 第1エリア エウレカ草原 断崖

 

 夕暮れに染まる第1エリアの断崖絶壁。


 僕は何故だか、あの日のようにスキルを発動する為、システムへ向かって名前を呟いていた。


「【詳細観測ディープスキャン】」


 ——【Log】——

 実行:[iori]が詳細観測を発動。


 警告:エリア環境ログに異常なノイズを検知……

 失敗:真核の構成コードがドロップ時の物に再定義されます。

 ———————-


「……何を……言って……」


 あの日、僕はこの場所で[レッドスモールトレント]の真核に、『壊れた双眼鏡』や『石ころ』で環境を誤認させ、今手に持っている最強の武器【断崖写本杖】を作った……はずだった。


「は?なんだこの()は……」


 さっき王者の間で持ち替えたはずの僕の武器。


 だが、今僕の右手に握られていたのは、ただ柄が赤いだけの、少しだけINT補正が乗った『平凡な真核武器』にすり替わっていたのだ。


 ——【ステータス】——

 対象:イオリ

 Lv:8

 職業:()()()()


 冒険者ランク[F]

 所持ゴールド:18,440G

 ———————————-


「違う……なぜだ?」


 僕は眼前に表示された狂ったステータス画面を睨みつける。


 サービス開始と同時に買ったアイテムは『壊れた双眼鏡(30G)』×50個、『ただの石ころ(1G)』×30個、『ボロボロのフード(3G)』×10着。初期金は2万G。


……18,440G。

 計算はあっている。


「何故、職業が……『観測好き』になっている?」


 そんな初期職業は、このゲームには存在しない。


 システムが、僕のこれまでの軌跡ログを根底から書き換え、嘲笑っているかのような気味の悪いパラドックス空間だった。



◇ 第2エリア ミストヴェイル……?


 気がつくと僕は、全体に霧がかかった、少し幻想的なあの第2エリアの地に立っていた。


 隣に立つのは『dodonnpa』と表示されている、親友。


「シロロと……フゥと会った時間か……?」


 僕は霧がかる道を、ごく普通に歩いていた。


 すると後ろから、ドドンパの文句が聞こえてくる。


「うわーーー、呼吸阻害?とかでAGI低下したぽい。イオリ、足はえぇて。待ってくれ」


 僕の体は『普通』だった。


……そうだ、ここ第2エリアでは『RES(抵抗力)』が一定以上ないと『AGI(素早さ)』が低下する仕様だった。


 ドドンパの職業は初期RESが高く、影響を受けないはずだ。


 僕の足が遅くなり、ドドンパは影響を受けない。

……それが正しい『あの日』なはずだ。


 そしてこの後、透明化する生態を持つ蛇 (フォグスネーク)に襲われているシロロとフゥと初めてゲーム内で会話を交わし、あの『真珠色のフード』を作った。


 ドドンパが『灯台』と呼ばれる所以になったアイテムだ。


 ヒュン……。


 瞬きと同時に、また視界が一気に変わる。



◇ フォグスネーク討伐後……?


「はぁ〜……死ぬかと思ったぁ……。ありがとーお兄さんたち!この蛇、ぬるぬるしてて全然カッコよくないし!もう最悪!」


 青色の髪の女性が、泥のついたスカートを払いながらぷんぷんと怒っている。


 顔の作りはシロロのアバターそっくりだ。

 だが、明らかに様子が違う。


 服装は『トゲトゲしていてやたら主張の激しい、男子が好きそうな鎧』だった。


「いやぁ、無事でよかったっす!俺はドドンパ。こっちの無愛想なのは俺の相棒のイオリ。二人とも、職業は?」


 ドドンパの問いに、青髪の彼女が胸を張った。


「私は『クロロ』!職業は『修飾士しゅうしょくし』!世界をカッコよく整えるためにきたの!」


「……誰だ……お前は……」


 僕の問いかけなど無視されたまま、話は続く。


「私は『ゴォ』。職業は『華術士かじゅつし』。貴方は何?」


「僕は……『観測士』だ……」


「え?そんな職業あったっけ?あ!記録派生ってやつ??」


(僕は何故答えているんだ……全てがおかしい。

 まるで真逆、あべこべじゃないか……)


 ヒュンッッ……。


 

◇ 第3エリア ラーヴァシャロー……?


 次に居たのは第3エリアの火山……ではない。

 水の都市と言えるような……。


 その場にいるだけで、水の涼しさを感じる。

 全くもって別世界だった。


「あのでかい滝……あんなに離れているのに、ここまで瀑霧ばくむが飛んでくるわね」


 ゴォと名乗る、見た目はフゥである女性が、滝霧を受けるように手を広げている。


「わー、水だらけだね。なんかこうさ……火が『ドッカーン!』ってしてて、みたいなカッコイイエリアを期待してたのに!」


 クロロは『カッコイイ』という狂気と成り代わっている。

 本来のシロロなら間違いなく興奮するようなエリアのはずなのに。


 僕はこの異様な光景に、酷い居心地の悪さを感じ始めていた。


 いつもなら……「カワイイ」とうるさく、鬱陶しくも感じていたあの光景。


 今ではそれがないとダメだと思ってしまう。


「気持ちが悪い」。

 その一言に尽きる異様な光景だった。


 シュンッッ……。



◇ 第4エリア グレアマイン……?


 次に僕がいたのは、あの鉱石地帯。

 鉱山。

 その筈だった。


 だが目の前に広がるのは、空にいくつもの島が浮かび、僕達が立っている一際デカい浮島のフィールドだった。


「勇者ぽよん・ララ=ミカエリス!天空の城へいざ向かわん!である〜!おやつを食べる暇があるなら世界を救うのである〜!」


 ここでは、ぽよんは勇者になっていた。


 Vtuberの設定は変わっていない。

 だが……見た目はミツルマンみたいだった。


 赤いマント、眩い光を放つ黄金の甲冑、頭にはサークレット。

 王笏……ではなく手に持つのは【輝石の勇者剣・凱旋k】……。


 そして隣には……。


「カッカッカ!魔王ミツルマン!勇者がそこにおるぞ?ゴミは焼き払うしかないのぉ?」


「爺ちゃん!ウルセェよ!勇者は弱い!可愛がってやるんだ!」


 ジィサンもミツルマンもあべこべだ。


 エリアが進むごとに、僕の仲間達の変化が著しい。


 僕だけがおかしい、そんな空間。

 僕だけが覚えている、そんな空間。


 仲間はいつだって、この通り。


(……違う、何を考えている?僕の思考を誰が考えている?決めるな……僕を変えるな……)


 いつの間にか僕の思考は「これが普通だ」という考えしか出てこなくなっている。


 シュンッッ……。

 


◇ 第5エリア グラキエス・ロタ・チェンバー……?


 第5エリアであろう場所は、氷の世界だったはずだ。


 だが目の前に広がるのは、空いっぱいの様々な色をした雲、空飛ぶ象、地面は金平糖の砂浜、そして溶けたチョコの大海原。


「シロロだったら喜ぶな……ぽよんは飛びついて食べ始めるだろう……。いや、クロロはこんなメルヘンな場所好きじゃない、ぽよんはおやつなんか食べない……。いや、何を言っているんだ僕は……」


 僕の思考は、通常の記憶とこのあべこべの世界がごちゃごちゃに混ざり合っていった。


 ラプラスの悪魔。


 そんな思考(目的)は、もうどこにもなかった。

第119話いかがだったでしょうか?


書いてて気持ち悪くなる感じでした。笑


イオリはこの異常なパラドックス空間から、己のアイデンティティ(観測者)を取り戻すことができるのでしょうか!?

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


〜次回予告〜

3/20【夜20時10分】に投稿ハック致します!

少しでも「あべこべ怖い!」「システムの精神ハックエグい!」「イオリ思い出して!」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります!


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