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第118話:観測者、決戦前の最終準備を行う。


◇ 神樹の塔 第1階層 『王者の間』


『調停者アルケー』との接触を終え、反転した無骨な王冠を拾い上げた僕が、皆に向かって「行くぞ」と告げた時だった。


 突如、僕の視界が明滅し、青白いシステムメッセージが強制的に割り込んできた。


 ——【Root Message】——


[Emergency]:Elevate the Crown immediately.

(※緊急:王冠を即座に上空へかざしてください)


[Danger]: Detection probability by [La-Plus 0.1] increasing.

(※『La-Plus 0.1』に気づかれる可能性が浮上)


[Scanning]: Surveillance patrol in progress.

(※パトロールされているかもしれません。)


[Alert]: Hero's power drop imminent. Proceeding is high risk.

(※それに、今から行けば勇者の力が弱まります)


[Securing]: Temporarily storing the Crown in isolation layer.

(※一時、王冠を預かります。)


[Reconnection]: Return to this coordinate tomorrow...

(※また明日、この場所へ……)


 ————————————


「マスターイオリ?  どうしたんですの?」


「少し待て。今は……15時か。……『Archeアルケ』からだ。勇者の時間を懸念しているみたいだ。明日またこの場所へ来いと」


 僕は表示されたメッセージの中から、『La-Plus 0.1』というラプラスの悪魔の真のプロジェクト名に関する記述だけを意図的に伏せて皆に伝えた。

 ここで不要な動揺を呼ぶのは非効率だからだ。


「ほっほ!  さすが真核のログを処理していると言っていただけあって、こちらの都合をよく理解しておるようだのぉ!」


 ジィサンがわざとらしく豪快に笑いながら、僕に向かってパチリと片目でウィンクをしてきた。


 僕が言葉を濁したことで、何か裏で異常事態イレギュラーが起きていることを即座に察知したらしい。


「えー!  オレ、このままやりたいよー!」


「へっ!  ミツルマン!  勇者として活躍したいだろ?  みんな、ミツルマンの力が必要なんだ!  17時以降の能力低下の時間を気にしないでいいように、明日また万全の状態で来ようぜ!」


 ミツルマンが一瞬だけ顔を暗くして駄々をこねかけたが、ドドンパの的確なフォローに「分かった!」とすぐさま笑顔で返事をした。


(……相変わらず、こいつは子供や周りの扱いが上手いな)


 僕は内心でドドンパの裏の有能さに感心した。


「私お腹すいちゃったー!  現実リアルで一度ご飯食べてこようかな!」


「ぽよ〜!  ぽよんもお腹すいたのだ〜!」


「あ、あの……。お恥ずかしいことに。私もお腹の中に勝手な打楽器パーカッションが居座っているようでして……。今にも勝手にソロパートを始めてしまいそうですっっっ!!」


「そうだな。ゲーム内でバフスイーツを食しても、やはり現実リアルの脆弱な肉体への栄養補給は必要不可欠だ。……まだ社会人として退勤していい時間ではないだろうが、一度カイザーと連絡を取ってくるとしよう。僕から伝えておくので、今日はみんな休んでくれ。明日は朝9時集合だ」


 シロロとぽよんの無邪気な空腹アピールが普通に見えてくるくらい、ルナールの打楽器(腹の虫)の表現もカオスだなと呆れながら、僕は解散の同意を出した。


「イオリ君、私は少しやることがあるので第10階層へ行ってくるわ。新しい地層を、ね」


 フゥが不敵に笑う。

 第10階層は神樹の塔の入り口であり、一番『神樹』としての地質感が残っている場所だ。

 石の変態(彼女)なりに、今後の盤面に向けて何か記憶地層ジオ・メモリアの考えがあるのだろう。


「分かった、では解散だ」


 僕の一声で皆が「お疲れ様ー!」と賑やかに挨拶を交わし、各々冒険者端末を操作して町へと転送していった。


(さて、王冠を空へ掲げる……だったか)


 一人『王者の間』へ取り残された僕は、手にした無骨な王冠を見つめ、『Archeアルケ』の指示通りにそれを空へと高く掲げた。


 すると。


 ヒュンッッッ!!


 僕の掌から青白い光が溢れ出し、重厚な王冠が一瞬にして虚空へと吸い込まれて消え去った。


(『La-Plus 0.1』に気付かれる可能性……一体システムの裏側で何が起きているんだ?)


 僕が怪訝な顔をして空っぽの手を見つめていると、不意に視界の端でメッセージの着信音が鳴った。


 ——【メッセージ】——

[送信元:カイザー・ライトニング]

[件名:連絡事項だ]

 向こうで。

 ———————————-


(向こうで……現実リアルでってことか。

 ちょうどいい、僕も落ちるか)


 進捗か何かの共有だろうと思い、僕も即座にタヴの町へと転送で戻り、そのままログアウト処理を実行した。



◇ 現実 イオリの部屋 ビデオ通話


「イオリ、顔色が良くないな。大丈夫か?」


 Wi-Fi設定を切ったスマホの画面越しに、皇が鋭い視線を向けてくる。

 彼の隣には、第零監査室の室長・阿久津も控えており、相変わらずビシッとした悠然たる態度でこちらを覗いていた。


「ああ、今日は早めに上がったので睡眠を長く取る。ところでどうした」


「ああ、進捗を聞きたくてな」


「今日、無事にケテルまで討伐した」


「そうか、ご苦労だった。深淵の門……とやらは見つかったのか?」


「ああ、『Archeアルケ』が自ら用意するそうだ。それと、『ラプラスの悪魔』のワードコンテクスト調査だが……『La-Plus 0.1』と言うもう一つのシステムAIが存在するらしい。恐らくだが、それが計画名かもしれない」


「社長……」


 僕の報告を聞き、画面の向こうで阿久津が皇へ小さく耳打ちをした。


「イオリ、正解かもしれない。ウチの手の者が調査をしているんだが、『海洋温度差発電の実験施設』への投資という名目の、謎の送金ラインがあってな」


「海洋温度差……メインサーバーはやはり海底にあるのか。当然だな、数千万のプレイヤーの無意識データを一斉に同期し、演算し続ける量子スパコンだ。莫大な処理熱の冷却には、深海の極低温環境を利用するのが一番効率が良い。そしてそれは、海上に無く物理的に見つけられていないという訳だろ?」


「ああ。……君の言う通りだ。調査内容を聞いて、確信したよ。君は初めから、現実こちら側に逆探知できる人間がいることまで前提にして、中からシステムを壊す盤面を組んでいたんだな」


 皇が、呆れたような、しかし深い信頼を込めた声で笑う。


「お前なら、必ず最高の手駒を用意できると計算していたからな」


「買い被りすぎだ。……だが、君の予測通りだ。その調査で分かったことは、ゲーム内で心臓部となるメインコアを物理的に破壊する事が絶対条件であること。そしてやはり『シュタイン・テクノロジー』が関わっていることだ。強固な量子暗号を使っていて、そこで『La-Plus 0.1』と言う文字を見たと報告があった」


「量子暗号か。外からのハッキングが無理なら、僕たちが中から特大のエラーを起こしてこじ開けるしかない。そう言う事だろう?  初めからそのつもりだ」


「ああ、まさにその通りだ。それさえ整えば、あとはこちらでやれる。正確な物理座標を暴き出せる手筈は整っているからな」


「僕達は、ゲーム内で出来る仕事をしよう。そっちは任せたぞ」


「ああ、イオリ。そちらもな」


 プツッ……プープー。


 通信が途切れ、自室に静寂が戻る。


(……物理的座標、だけじゃないぞ。それを、諸悪の根源と繋げる必要がある。

 政治家、シュタイン・テクノロジー。どう繋げる……?皇)


 そして、現実だけじゃない。


 ゲーム内で深淵の門(ダアト)を突破するだけで終わるはずがない。


 表の顔は政治家、裏の顔では巨大量子計算機を作る計画を立てたかもしれない諸悪の根源。

 そして、その息子の『俺もお前も俺(泉)』。

 あいつの顔が脳裏にチラつく。


 奴は必ず、ゲーム内でも僕らの目の前に立ちはだかるだろう。


(だが、一度勝った相手に負けるなど、準備を怠った者の責任だ)


「……明日に向けて、一度メンバー全員分の最新のステータス状況を把握しておくべきだな」


 僕は、コンパニオンアプリを通じてメンバー全員に連絡を取り、ステータスの開示を要求した。

 普通ならプライバシーに関わるため嫌がるのだろうが……皆、二つ返事で僕にスクリーンショットを送ってきた。


 全員分が揃う頃には、16時を回っていた。


「さて、全部のデータを覚えて盤面に落とし込むのには……3時間と言ったところか」


 僕はここから、誰と誰のスキルが上手く連動するか、イェソド戦で獲得した『種子スキルシード』の還元による可能性や、メンバーの特性を全て加味して状況を整理した。


「ルナールは全体回復とバフ、ドドンパは強力な攻撃スキル……ジィサンは全体無敵技で、まち子のスキルもとんでもない代物だな……」


 僕が幻影から貰った【上書き(ウワガキ)暴渦の(バミューダ・)三角海域(ヴォルテックス)】も、CTこそ長いが『拘束+ダメージ+デバフ』を兼ね備えたかなり強力なスキルだ。


 今だフゥ以外はスキルを還元できてはいないのが懸念点ではある。


 だが、中でもシロロのスキルは、群を抜いて様子がおかしい。


 スキルの名称は【絶凶の(ジェム・ラ)輝晶大熊(イオット・ベア)】。


 シロロがイェソドで幻影から喰らった時の説明を添えて、わざわざ効果内容を解説してくれていたのだが、その文面が酷かった。


『なんかね!ユメカワイイ!って感じのキラキラのデカい熊さんが出てきて!私を乗せて暴れてた!「ぶっ⚪︎す!」って感じで可愛かったよ!』


 僕はシロロからのSNSメッセージを読み返し、深く頭を抱えた。


「強力なスキルではあるんだろうが……はぁ……」


 調停者アルケーが考え、設定したのだろうが。


 あいつ(シロロ)に、これ以上変な凶器(狂気)を与える神経がわからない。


「……AIに神経などないか」


 僕は一人で冷たいツッコミを入れながら、晩飯の用意をするために台所へ向かった。



 ◇ キッチン

 僕は冷蔵庫を開け、いつものように完全栄養食である『鶏胸肉』と『ブロッコリー』を取り出した。

 だが、ふと、奥にあった大根おろしのパウチが目に入る。


(大根おろしか……。

 鶏肉に片栗粉をまぶして焼き、だし汁、醤油、みりんと共にたっぷりの大根おろしを煮れば……『鶏むね肉×大根のみぞれ煮』……美味そうだな)


 甘利ぽよんの影響では、断じてない。


 だが、僕は今日に限って、珍しく少し手間をかけて調理することにした。


 結果として、それは酷く美味かった。


 和の味は、日本人に生まれたのなら、疲れている時にはこう……芯から染み渡るような『心の栄養』になる。


 重ねて言うが、甘利の言葉に影響されたわけではない。

 決して。


 夕飯を食べ終えた僕は風呂に入り、そのまま布団へ入った。


 明日は最終決戦になるかもしれない。


(……必ず、『La-Plus 0.1』の心臓を壊してやる)


 僕は冷徹な決意を固め、静かに目を閉じた。

第118話いかがだったでしょうか?


イェソド戦で手に入れた未解放スキルの確認。シロロの「ユメカワイイ熊が『ぶっ⚪︎す』って暴れるスキル」

どんな感じなんでしょうね……笑


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


〜次回予告〜

3/20【朝8時10分】に投稿ハック致します!

少しでも「シロロの熊ヤバい(笑)」「ぽよんの影響草」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります!

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