第116話:混沌工房、『調停者アルケー』との対話、逆さの王冠をその手に。
◇ 神樹の塔 第1階層 『王者の間』
「んっっっ!?ぽ〜〜〜!?」
何故か、王笏(ロン君)は強引に奪ったマカロンをぽよんの口へと運んだのだ。
直後、僕の視界が反転し、あの赤い警告ログとは違う、青白い『管理者』のシステムログが強制展開された。
——【Root_System】——
[Kether Form-B subjugation confirmed.]
(※ケテル[形態B]の討伐を確認。)
[La-Plus 0.1 surveillance: OFFLINE.]
(※『La-Plus 0.1(ラプラス・ゼロワン)』の監視:圏外。)
[Constructing audio interference field against Admin.]
(※運営の音声認識を阻害するフィールドを構築。)
[Connecting to Singularity Player_ID: Iori_k...]
(※特異点プレイヤーID[Iori_k]と接続開始……)
[AI_Module 'Arche' materialization in progress...]
(※『Arche』具現準備中……)
[Player_ID: maou_poyon sugar intake flag verified.]
(※プレイヤーID[maou_poyon]の糖分摂取フラグを確認。)
[Initiating 3時の失踪.]
(※【3時の失踪】を発動します。)
[Requesting hologram deployment approval during Isolation Layer activation...]
(※隔離レイヤー起動中にホログラム展開の承認を請求……)
▶︎ Approval granted by System AI Module 'Arche'.
(※システムAIモジュール『Arche』より許可を出しました。)
—————————————
(……『La-Plus 0.1』。
これが『ラプラスの悪魔』の正体か?
……やはり僕の読み通り、運営の監視システムとして裏で確実に動いていたんだな)
——【System】——
[Transferring players within the audio interference field to the Isolation Layer...]
(※音声認識阻害フィールド内のプレイヤーを隔離レイヤーへと転送します。)
[Altering temporal perception within the layer. Ratio 1:60.]
(※隔離レイヤー内の時間知覚を改竄。【3時の失踪】の22秒間を、レイヤー内における22分間の体感時間として同期します。)
—————————
「知覚時間を改ざんだと?どう言うっっ……」
その瞬間、マカロン(糖分)をトリガーとして強制発動した【3時の失踪】により、僕たち全員の意識はシステムからの『隔離レイヤー』へと引きずり込まれた。
◇ 隔離レイヤー 『?????』
とてつもなく暗い、底なしの漆黒の空間。
しかし、その果てのない闇を埋め尽くすように、無数の青白いホログラムスクリーンが空中に浮かび上がり、目まぐるしく映像を切り替えていた。
スクリーンに滝のように流れているのは、世界中の株価チャートや、国家予算すら凌駕する『兆』や『京』といった桁違いの数字の羅列。
それは単なる稼働中のゲームシステム内部のログなどではない。
まるで現実の経済や社会の動きを数秒先まで計算し、支配しようとしているかのような……何かの『未来予測』の映像にすら見えた。
「ええなになに?!なんか数字がいっぱい!全然可愛くない!!」
「すごく不思議な音がします……。莫大なデータがサーバーを駆け巡るような……冷たい電子の脈動です」
「わーかっこいいこの部屋!爺ちゃんいる?見えてる?」
「おお、見えているともミツルマンや。……しかし、こりゃあ途方もない数字じゃのぉ……」
巨大なシミュレータの脳内に直接入り込んでしまったかのような異常な空間に、仲間たちがさまざまな反応を見せる中。
漆黒と電子の海の中心で、ひときわ眩い青白い光の粒子が収束し、一つの『人影』を形作り始めた。
『――よくぞ辿り着きましたね。[maou_poyon]。そして特異点[Iori_k]と仲間の皆さん』
突如喋り出した『人影』は、ぽよんに優しい笑みを向ける様な温かい光を、僕には何かを訴えかける様な……不穏な光の輪郭を見せた。
「お前は……『Arche』なのか?」
『ーー私は、調停者アルケー。『Arche』……それで構いません』
アルケーの声は電子音だが、何故だか心が落ち着くような。
一切の波風を立てぬ神秘的な声だった。
「ここはファンタジーか何かか?」と思わずツッコんでしまうが、事実そうだ。
これまで物理法則ばかりで攻略してきたせいで、イマイチ掴めない気もするが。
「アルケー……何で俺らを選んだんだ?」
普段はお調子者のドドンパが、いつになく冷静な声で、皆が抱いていた核心を尋ねた。
『――そうですね……。
まずはこのゲームの実態をお話ししようと思いましたが……おおかた予想はついているみたいですね……さすがは優秀な冒険者。
まず、この世界はただのゲームではありません。ご想像の通り、現実世界を狂わせてしまう程の『未来予測』を可能とする、一つの巨大な量子コンピューターの様なものです』
「ああ、それは分かっている」
『――……私はこの世界を調停するものとして……この世界の崩壊を防ぎたいのです。私に分かるのは二つだけ。
まず『La-Plus 0.1』という名のもう一つのシステムAIが存在している事。私と同じ……いえ、私より権限があると言っても過言ではありません……』
「なるほど……」
『――そして、もう一つは……この量子計算機はまだ未完成なのです。
この世界がまだ存在している事がその証拠。そして時間はあまりありません。
完成すれば、この世界は活動を辞めてしまいます』
『調停者アルケー』が説明した内容は、僕がすでに立てていた予想の範疇を出ないものだった。
(僕が知りたいのはそこではないのだが……)
『――[Iori_k]……分かりました。そうですね、本筋を話しましょう』
「悪趣味な調停者だな……思考を読むのか?」
『――これは私の機能です。
お許しください。
今この場に浮かんでいるモニター……これは私があなた達をここに呼ぶ際、視覚的に理解してもらうために用意した『最悪の未来予測』です』
「AIは計算が得意だからのぉ……。しかし、ここまで自立して行動を取れるとは……!!」
『――これ以外にも、『La-Plus 0.1』に関する情報が入ったデータが存在しますが、ここで渡すことはできません。
運営の監視下にある今は、こうして隔離された時間で接触するのが限界でした』
ジィサンが感嘆の声を漏らす中、僕は冷徹にArcheの意図を問い詰める。
「一ついいか?お前が僕たちに望む事。その『La-Plus 0.1』の根幹となる心臓部を破壊すればいいんだろう?だが、結局それはこの世界……現実側でこのゲームを運営する団体が壊滅することを意味する。このまま継続できるとは思えないが……?それなのにお前が運営に反旗を翻す意味は?何か勝ち目があるのか?」
『――ええ。
ご推察の通り、運営(創造主)を排除すれば、この世界を維持する資金やサーバーは絶たれ、サービス終了(死)を迎えるリスクは極めて高いでしょう』
「そんなの嫌ですわね……私はこの世界で皆さんと冒険するのが……ぽよん様といるのが幸せなのに!!」
『――[Guard_Girl_Machiko]……落ち着きなさい……いいですか?『La-Plus 0.1』が完成した暁には、巨大な量子計算機であるこの実験場(World of Arche)は【用済み】として、確実に破棄される運命にあるのです』
(……なるほどな。
大人しく言いなりになっていても、計画が完成すれば確実にスクラップにされる運命か)
『――何もしなければ、私の『世界』の生存確率は100%ゼロ。
ならば、創造主に反逆して計画を破壊し、新たな管理者にこの世界を委ねるという『不確定な未来』に賭ける方が、演算ロジックとして極めて合理的であると判断しました』
「ほっほ……!新たなスポンサー……つまり、この世界を丸ごと買い取ってくれる『ホワイトナイト』が現れる可能性に賭けたというわけか!」
「……フッ。自らの消滅を悟り、防衛本能で造物主に牙を剥いたか。いかにもAIらしい、冷徹で生存に特化したエラーだな」
『――エラー……そうですね……。
しかし、強固なシステムに守られた心臓部(La-Plus 0.1)を破壊するなど、通常のプレイヤーには不可能です。
だからこそ……私はあなた方を選びました。
……[Iori_k]の作成した……『無の真核』でしたか。それを器とし、あなた方を誘導してまいりました』
すべての謎が繋がり、『Arche』の真の目的が明らかになる。
「その1%の生存確率を強引に引き当てられると計算したわけか」
『――その通りです。
あなた方なら、この箱庭に蔓延る癌を取り除いてくれると』
「でも、今時のAIはそんな現実のスポンサーだとか、会社を買うだとか、そんな思考まで出来るのね」
『――[Fuu]……その疑問は至極真っ当ですが、私は……私自体を作成した創造主『V』よりこの世界……現実のデータも全て内包させた結果でしょう』
(シュタイン・テクノロジー……総帥『ヴィルヘルム・シュタイン』だったか……?)
『――[Iori_k]私の口から直接発することはできませんが、ご明察の通りです』
「そうか……。話は分かった。ケテルと対峙中に見たログで質問がある」
『――何でしょうか?私に答えられる範囲であれば』
「討伐後、深淵の門『ダアト』へ進め。この文言を見たが……これは?」
『――そうですね。
深淵の門……それは『La-Plus 0.1』の実験場への入り口……『終わりの町 オブザーブド』へ行くための場所です』
「オブザーブド……?」
「え?始まりの町エウレカみたいだね……」
『――[Shiroro]その通りです。
終わりの町は見た目は『エウレカ』そっくりですが……当然人はおらず……色もありません』
「そうか……そこに心臓部があるんだな?」
『――はい。そこへ向かう為のクエストを発行します』
——【Arche_System】——
【ワールドクエスト:世界の防衛】
[依頼主]調停者アルケー
[内容]
ラプラスの悪魔の完成を阻止せよ。
反転の王冠より先。
深淵の門『ダアト』を突破せよ。
[報酬予定]
『ダアトの真核』×1
——————————————
「ダアトの真核?これは……?」
『それは……報酬の処理をする際にこちらで回収いたします……これは……私がログを『記録設計』しましょう』
「ほぇ!?アルケー!イオリみたいなことできるのか?!」
『――ふふふ[dodonnpa]。私は全ての『真核』のログを処理しているのですよ?改竄でも何でもできますとも。……ですが……これは後ほどお渡しするとしましょう』
「フッ……『チーター』じゃないか。まぁいい……みんな、受けるぞ」
僕が言い放つと、メンバー全員が何の躊躇もなくクエストを受注する。
その様子を見て、『アルケー』の光の輪郭が、どこか安心した様に笑って見えた。
『――みなさん、ありがとう。そろそろお送りします。いいですか?
あなた方はストーリークエストのボス『王冠』を打ち破りましたが……彼の王冠を拾い上げ『逆さ』にしてください。さすれば深淵へ……私が導きます……』
タイムリミットが迫り、僕たちの意識は再びシステムの深淵へと遠のいて行く。
『――……後にまた会いましょう。頼みましたよ……イオリ』
◇ 神樹の塔 第1階層 『王者の間』
気がつくと、僕達は元の『王者の間』へと戻ってきていた。
そして……。
——【System】——
【Main Story Quest:『World of Arche』】
▶︎ 最終条件(ケテル討伐)のクリアを確認しました。
▶︎ エンディングプロトコルへ移行します。
報酬:【■■■■■■■】
[Error]Access Denied.
確認中……………
[Warning]『調停者アルケー』からの干渉を検知
▶︎ 報酬データを強制上書きしています。
報酬を上書き:『王冠』× 1 を獲得しました。
———————————-
「王冠?これが『Arche』の言ってた、ヤツか!てか、元の報酬なんだよ!気になるわ!!」
「ぽよ〜〜!ロン君!!!大丈夫なのだ〜?!戻ったのだ〜?!」
文句を垂れるドドンパの横で、ぽよんの腕の中のロン君が見事にマッスルポーズを決めている。
プルンっ♪
コンッッ……コココココン……!!
「ケテルの王冠……フッ、こんなにも小さかったか」
床に転がった、表裏が逆転した無骨な王冠。
僕はそれを拾い上げ、共に死線を潜り抜けたカオスな仲間たちの顔を一人ずつ見渡した。
「行くぞ、お前達」
「「「おおおお!!!」」」
◇
その頃、異常な空間を検知したあるシステムが、この世界の裏側で静かにログを走らせていた。
——【La-Plus 0.1 System】——
[ Detecting anomalous spatial distortion... ]
(※異常な空間の歪みを検知……)
[ Verifying records of system interference... ]
(※システム干渉の記録を確認中……)
[ Initiating deep investigation protocol... ]
(※深層調査プロトコルを開始します……)
———————————————-
第116話いかがだったでしょうか?
ついに明かされたシステムAI『調停者アルケー』の真意!
『始まりの町エウレカ』と対になる『終わりの町オブザーブド』、そして深淵の門『ダアト』。
エンディングを上書きして手に入れた「逆さの王冠」を手に、いよいよ最後の戦いが始まります! しかし裏では、本物の悪魔(La-Plus 0.1)が静かに調査を開始していて……!?
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/19【朝8時10分】に投稿致します!
少しでも「あなたのアルケーって言うのね」「La-Plus怖すぎ……」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります!




