第115話:観測者、自由を得た狂人たちと王冠を蹂躙し、フラグを折られたボスの自爆を嗤う
◇ 神樹の塔 第1階層 『王者の間』
ロン君は、見事に僕の狙い通りに動いた。
いや、先ほど僕の問いかけにマッスルポーズできっちりと返事をして見せた通り、作戦通りに『ハープ』と『クンツァイト』を捕食し、【技巧喰い】を完璧に発動した訳だ。
(……これから、バグ祭りだぞ……ケテル……)
『ゲェェェップ♪』
拘束が解けたぽよんの王笏の先で、二つのデータを取り込んだロン君が強烈なゲップを放つ。
その直後、マカロンの口から【終焉の祝祭・黄金律】の重厚な旋律が鳴り響き始めた。
声を奪われ、ピクリとも動けない僕の視界に、『観測士』のパッシブが自動発動し、異常な環境ハックのログを強制展開していく。
「【システム干渉観測】」
——【Log】——
【警告:環境BGM領域への強制上書きを検知】
・追加干渉:『リチア輝石(多色性バグ)』のID偽装コードを音波に重畳
・状態:空間座標(Z軸/X軸)の完全崩壊
————————-
(……見事だ。
クンツァイトの『見る角度で存在IDが変異する』という多色性バグが、ルナールの音波に乗って空間全体に塗りたくられた)
音波が波打つたび、この王者の間の座標データが万華鏡のようにデタラメに変異していく。
すると、僕たちを新たな生贄としてロックしたばかりのシステムが、空間の異常に気がついてパニックを起こした。
——【System】——
Warning:
現在のロック対象[iori_k]を含む4名は『Z軸最前線』ではありません]
Error:
発動ルールの違反を確認。現在のロックを強制解除し、やり直します]
—————————
パリンッ……!!
なんと、僕たちを縛り付けていた拘束のノイズが、呆気なく砕け散ったのだ。
(……ククク、本当に融通の利かないマヌケな設計をしたアルゴリズムだ。
奴は『ローテーション』のルールに従って、律儀に僕たちをロックした。
だが、バグ音波で空間が狂ったせいで、ロック対象を間違えたと勘違いしたんだ。
そしてご丁寧に、自ら僕らのロックを解除して、一番前にいる対象を探し直し始めたってわけだ)
完全に自由を取り戻した僕は、眼前に弾き出されるマヌケなエラーログを冷徹に見下ろした。
(ここまで綿密な設計をしたのはお前らだろうが。
ロン君なんていうバグを与えたのが、お前ら運営の運の尽きだ)
——【System】——
▶︎ 真の対象(Z軸最前線)の再計算を実行……。
[Error:Target_NULL。存在確認不能。]
▶︎ 再計算を実行。
[Error:Target_NULL]
▶︎ 再計算を実行。
…………失敗。
—————————
(空間の座標そのものが迷子になっている状態じゃ、誰が一番前にいるかなんてお前に特定できるはずがない)
Z軸の対象を完全に見失ったシステムは、「見つからない」という自己矛盾のループに陥り、ついには新規のロック処理そのものを完全にフリーズさせた。
「よし、システムの新規ロックはバグって自滅した!継続ロックのドドンパ以外は全員動けるな!一気に畳み掛けるぞ!!」
1回目のロックのままでやり直しの恩恵すら受けられなかったドドンパは、きっと心の中で『俺のロックは解除されねぇのか?!
』と激しく喚き散らしていることだろう。
(すまないな。
お前はそのまま安全圏の特等席で『王殺し(おゆうぎ)会』を楽しんでいてくれ)
「ぽよ〜!ドドンパ歩兵の分まで、ぽよん軍総攻撃なのだ〜!!」
「愛の重さ、叩きつけますわ!」
「可愛くぶっ⚪︎してやるー!」
完全に沈黙した指揮官の存在など、もはや些末なこと。
自由を取り戻した8人の狂人たちが、デバフでボロボロになった王冠へ向かって一斉に牙を剥いた。
——【System】——
原初の意思『王冠』
【王の号令】を発動します
▶︎ 裁定……対象……[error]
対象が見つかりません。
——————————
「バカなのか?それは『対象1名』に割合ダメージだろう?対象の計算を綿密にするお前のアルゴリズムでは、そんなスキル意味がない」
「ミミックちゃん!いくよ!!【宝飾武装化】[星型の弾丸]!!」
シロロが宝石変換鞄を構え、可愛くデコられた星型の黒曜石を射出した。
ドスッッッッ!
ギュルルルルル……!!!
シロロの放った凶悪な弾丸が、ケテルの肩に星型の風穴を空ける。
「DEF−200%のデバフがかかった上で、シロロのそれを喰らったら……しょうがないか……」
僕は少しだけケテルを労った。
しかし。
《グヌッッッ!!コレ位デ、笑ワセルナァァァ!》
——【System】——
原初の意思『王冠』
【王の威光】を発動します。
——————————-
「これだ!さっきの物理攻撃透過だ!!魔法系統に絞ってできるだけ削れ!!!」
「てええええいやあああ!【勇者(少年)スキル:勇者光輝】!!」
「は?なんだそのスキルは……」
ミツルマンが叫んだ瞬間、僕達の『武器』のメイン属性が『魔法』へと強制的に切り替わった。
そして僕の視界には、気掛かりだった[深淵の観測者]のパッシブと共に、見慣れないシステムログが流れ込んでくる。
「【深淵干渉観測】」
(なぜ今発動した?何がトリガーだ?!)
——【HERO System】——
『少年勇者よ!良くぞやった!
勇者の光は『魔法』そのものである。』
—————————————-
「……そんなファンタジーな……システムがロール通りに文字を出力しているのか……?ミツルマン……やはりお前は、主人公なのか……」
「短時間モードチェンジ……【破壊の女神】……!!」
——【Sekhmet System】——
『代行者よ……破壊せよ』
——————————————-
「おい……まち子……」
僕が呆然とする中、まち子の大楯から赤黒いオーラがドバドバと溢れ出し……やがてソレは、禍々しいエネルギーソードへと変貌を遂げた。
「行きますワアアアア!【MIN】!!」
シュンッッッ!
質量をゼロにしたまち子が、この『王者の間』の天井スレスレまで恐ろしい速度で跳躍する。
「【MAX】!!」
極限まで軽くした直後、今度は極限の質量(重さ)へと反転。
大楯が変形した剣を構え、ケテルの頭上へと隕石のように落下していく。
「さっきはよくも!私をずっと美の彫像にしてくれましたわねェェェ!【殺戮の赤騎士】!!ですわぁ!愛故にィィィ!!」
ッッッドン!!!!!!
神殿が崩壊するようなとてつもない衝突音が響く。
その後は。
ザシュ!ザシュ!
ザシュザシュザシュザシュ!!!
「ほっほっほ!『ちーたー』 ってやつだのぉ!」
ジィサンは、蹂躙される王冠を見つめながら愉快そうに笑い声を上げていた。
みるみる減っていくケテルのHPゲージ。
だが、それでもまだ倒しきれない程に奴のHPは膨大だった。
「いくわよ!ドリルちゃん!【羅生・地層断罪門】!!」
フゥが霧穿ち掘削機を地面に突き刺すと、ケテルを取り囲むように禍々しい岩の門が隆起し、王冠を幽閉した。
《グガアアア!!!動ケヌダト……》
ケテルの苦しそうな雄叫びの後……奴のHPゲージの横に、見覚えのある紫色のデバフアイコンが点灯した。
『Life Bleed [Major](生命力流出[大])』
「おい、それは……」
「ああ……今朝のイェソド戦の時に幻影と戦ったでしょう?私は仲良くなったのよ、その幻影と。素晴らしい鉱石友となってくれたわ」
意味がわからない。
こいつは幻影が使ってきた技を受けるのではなく、談笑して解説でもして貰ったのか?
シンパシーで仲良くなったのか?
スキルシードの概念はどこへ行った。
分からないことだらけだが、まぁいい。
自分が僕たちに押し付けていたはずの強烈なHPスリップを、そっくりそのまま受けて苦しむ王様を見るのは気持ちがいいな。
「ぽよん!畳みかけろ!奴の拘束が効いているうちに削りきれ!」
「マスターイオリ。申し訳ありません。私、さっきのスキルの影響で『一定期間MP回復不可』と『スキル使用不可』ですの」
いつの間にかオーラが消えた大楯を構えたまち子が、僕の隣で申し訳なさそうに謝罪をしてきた。
「あ……。ああ。あれだろ?エキシビションマッチの時に『クランシンボル』を壊した技……」
「あら、ご存知でしたの……そうですわ。ただし使用時間は20秒ですの。強烈なデバフも付きますし、1日1回の大技なのですが……あまりの恨みに使ってしまいましたわ!愛故に」
彼女が『愛故に』と言うのなら仕方がない。
僕は1秒で割り切った。
次からは指示をするまで使わないで欲しいものだが。
そしてそんな僕たちの会話の裏で、指示を聞いたメンバーたちは、己の持てる最大の攻撃スキルを王冠へ目掛けて容赦なく放っていた。
「うおおおお!バチバチ斬りぃぃ!」
バチバチッッッ!
「【地鳴りログ】!!」
「クマさんいっけー!【宝飾武装化】![宝飾熊・ヘビーインパクト]!!」
バチバチィ!!
ドドドドドン!!
キラーン⭐︎……ドッスン!!
雷光、地鳴り、そしてカワイイ物理鈍器による無慈悲な蹂躙。
そして、トドメは。
「ぽよ〜〜〜!!ロン君行っくのだ〜〜!ロン君アタックなのだ〜〜!」
「援護するわ!乗って!」
フゥがぽよんの目の前に、緩やかな坂道付きの土台を瞬時に隆起させた。
その上を、「トコトコトコっ」と魔王が短い足で軽いステップを踏みながら登っていき、やがて頂上へと着く。
そのまま限界までジャンプし、巨大なケテルの被る王冠へと、スライムの質量兵器を思い切り振り下ろした。
ロン君の原点(ダイラタンシー現象の打撃)。
プォォン……♪
ドッッッゴーーーン!!!
フゥの拘束スキルが、ぽよんの極大の打撃と同時に砕け散っていく。
そして、途方もない長さを誇っていた奴のHPゲージの表記が、ついに最後の1本を意味する『1×』へと変わった。
《グヌアアアア……!オノレ……愚民共ガァァァ!!!》
ケテルは、空間そのものが震えるほどの怒声を上げながら、最後のスキルを発動した。
——【System】——
原初の意思『王冠』
【王の絶対圧政】を発動します。
——————————-
「残りHPで発動する確定技か!?初見だ……!みんなできるだけ防御体制を取れ!失敗しないということは、攻撃に対象が割り振られているスキルじゃない!」
僕の叫びも虚しく、ソレは突如として戦場を襲った。
だが……僕達を、ではない。
奴自身を、だ。
ズッッドンン!!!
ズッッドンン!!!
ズッッドンン!!!
ズッッドンン!!!
何かが、見えない重圧となって4回、ケテル自身の巨体を容赦なく打ち据えた。
(本来は、配下4名を出すスキルだっただろうか)
その理不尽な自傷ダメージにより、ケテルの最後のHPゲージがみるみるうちに削られていき、やがて完全に底を尽きる。
「なっっ……自爆だと?」
「え?え?どういうこと?!」
僕が驚愕し、シロロが目を白黒させる中、崩れゆく王冠が低く、呪詛のような電子音を吐き出した。
《グギギゴゴゴ……貴様ラ……貴様ラ…ハ……自ラ… 開ケテ、シマッタ ノダ……》
「ムゥ?!」
ジィサンが眉をひそめる。
《パンドラノ箱ヲ……》
システム(運営)の絶対的な代行者であったケテルは、僕たちに向かってそれだけを言い残すと、赤と青の演算コードが混じったような……不吉な黒い粒子へと分解され、完全に消え去っていった。
だが、まるでビデオの巻き戻しでもかかったかのように、ケテルが霧散した不吉な黒い粒子は、ぽよんの持つ『王笏(ロン君)』へと渦を巻いて注ぎ込まれていく。
シュュューーー…………。
「え?ロン君!?大丈夫……なの?!?」
あまりにも異様な光景に、ぽよんは完全に『素』の口調へと戻っていた。
だが、こんな不気味な状況だと言うのに、システムは間抜けなファンファーレと共に勝利を告げた。
《 VICTORY 》
「あ、ドドンパ君……戻れたんだ、よかった……」
「おいおい、それより……何だよこれ……」
戦闘終了に伴い、継続ロックが解除されたドドンパが合流するが、虚空から黒い粒子を吸い込み続けるバグマカロンの異常さに、誰も勝利を喜べない。
「爺ちゃん、怖いよオレ」
「ん!大丈夫だとも……後ろにいなさい……」
ジィサンもミツルマンを励まそうとするが、その声は微かに震えていた。
(……何だ?何が起きてる?)
僕が天球儀を構え直した、数秒後……。
やがて全てを吸収したのか、パタリと黒い粒子が消えた直後だった。
ヒュルルル!!!
ドッガーン!!
ドーーン!
「ロ、ロン君!?待って、どこいくの!!!!」
突如として、ロン君が激しく暴れ狂い始めた。
王笏を握るぽよんを半ば引き摺りながら、王者の間の床や壁に手当たり次第にぶつかっていく。
「ロン君、お腹空いてるの?!待ってね!マカロンあげるから!!」
ぽよんはインベントリから大好物のマカロンを取り出すと、暴れるロン君を必死に宥め、食べさせようと差し出した。
するとロン君はソレに気付き、ニュルっと手(?)を伸ばしてマカロンを強引に奪い去る。
ソレを食べるのかと思いきや……。
スーーーーーッ!!
ガポッッ!!
「んっっっ!?ぽ〜〜〜!?」
ロン君はなぜか、奪ったマカロンをぽよんの口の中へと強引に突っ込んだのだ。
(……は?)
ただひたすらに現象を喰らい続けてきた暴食の化身が、初めて『自らの所有者』に食べ物を強要した。
この謎の行動は一体何を意味するのか。
僕たちは息を呑みながら、ただその場で、カオスすぎる光景を見つめていることしかできなかった。
第115話いかがだったでしょうか?
ついにボス『ケテル』を撃破!!
しかし勝利も束の間、ケテルの残した「黒い粒子」を全て飲み込んだロン君が暴走!
いつもなら自分で食べそうである食事を、あろうことか所有者であるぽよんの口に強引に突っ込むという謎の行動……! これはいったい何を意味するのでしょうか!?
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/18【夜20時10分】に投稿致します!
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