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第114話:観測者、実体のないログで王を陥れ、毒饅頭を放り込む


混沌工房カオスアトリエ


 僕たちは第10階層の『地の番人(マルクト)』を討伐した事により『狭間の転移結晶』を獲得。


 無事、拠点である【Chaos Atelier】クランホームへと帰還していた。


「わああああ〜!いつぶり?!なんかもう1年くらい来ていない感じするよ!!この空間可愛いほんと」


「ぽよ〜!戻って来たのだ〜!ロン君も嬉しいのだ〜?」


 シロロがピンクに染まった室内を見渡して歓声を上げ、ぽよんの腕の中で王笏(ロン君)も激しく揺れながら同意を示している。


「いや〜。イオリよー」


「なんだ?」


 ドドンパが頭の上で両腕を交差させながら、近寄ってきた。


「どうやるん?攻略。俺もう気になって夜しか眠れん」


「そうね、私も気になって石しか愛でられないわ」


「愛故に……」


(……『愛故に』と言えばすべてが務まると思っているのか?)


 僕は頭を抱えそうになるのを堪え、呆れ混じりに本題を切り出した。


「まず、開幕のロックだが。あれは戦闘開始時に『ケテルに近い5名』が対象だろう。今回は作戦も聞かずに戦闘に突っ込んでいったぽよんを筆頭に、それに続いた前衛メンバーが対象にされた訳だ」


「ぽよ〜!?でもぽよんにはロン君があるのだ〜!」


 ぽよんの能天気な反論を聞き、僕はハッとする。


 あれだ。

 作戦会議をしている間に一人で突っ込んで行き、ドラゴンの卵をひたすらに孵して綿密な作戦を台無しにしたという……後に伝説として語られ、公式がNPCまで出したMMO界の有名なミーム事件リロイる


……ダメだ、今はそんなオカルト(ネット文化)を考えている場合ではない。

 僕は思考を強引に切り替える。


「つまりだ、ロックされる対象はこちらで選べる。次は……開幕から奴をボコボコにする作戦を思いついた」


「ボコボコ〜!」

「ボコボコだのぉ!」


 無邪気に拳を突き上げるミツルマンと、それに乗っかる孫バカ(ジィサン)を完全に無視して、僕は続ける。


「攻略の要は『ルナール』の攻撃と防御を下げる特大バフと、『ジィサン』の最上位回復スキルの記録。……この二つだ」


「私の……」


「ふむ、ワシの記録とな。イオリ君の持っている、記録保持のことかの?」


「はい。そして開幕ロックされるメンバーだが……ぽよん、まち子、フゥ、ドドンパ、ミツルマン。この5名だ」


「オレいらないの?」


 自分が除外されたと思ったのか、ミツルマンが不思議そうに首を傾げる。


「違うぞ勇者。いいか……?みんなも集まれ。僕の考えた作戦はこうだ」


 僕は全員をテーブルに集め、次の戦いにおける各々の役割と、ケテルの【王の徴収】を逆手にとった悪魔的な盤面ハックの全容を、詳しく分かりやすく説明した。


 沈黙の後。


「お前、きも!やっぱエグいな。敵わんわ」


 ドドンパが、最高の称賛を込めた皮肉を口にする。


「ぽよんとロン君が2回目の攻撃の要……わかったのだ〜!」


「イオリ君、あの石の事も覚えていたのね」


 任せろと胸を張るぽよんと、妖しく微笑むフゥ。

 僕は眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、不敵に口角を歪めた。


「当たり前だ。1Gのゴミだろうが、レア鉱石だろうが、『無駄なアイテムなど存在しない』。……それがこのゲームにおける僕の矜持だ」


「とほほ……私のハープちゃん、また唾液まみれになるんですね……。高いけど[ディアーセンチネル]のドロップ品の『セーム革』買っておかないと……」


「ヒュー!かっこいーぜ、イオリ君」


 ルナールがしょげながらお手入れ用品の購入を宣言する中、ドドンパが茶化してくるが、僕は冷たく一蹴した。


「黙れ、灯台。各自、エウレカの町でポーションなどを補充しろ。……そして、『木漏れ日亭』でバフスイーツを食すぞ」


「ひどくね!?久々に言われたわ……いや、それよりもお前の口からププっ……スイーツを食すって、ぶはっっ!」


 腹を抱えて嘲笑してくる親友に、僕は盛大な舌打ちを返しておく。


「ええええ!イオリ君が!?何かでご馳走してくれた時『たかがバフ一種しか付かないアイテムに1万Gなぞ馬鹿げてる』とか言ってたのに!」


「いつの話をしている。それに、その……お前も『心の栄養』があった方が……火力が上がるだろう!!」


 過去の発言を根に持っていたシロロが指を差して笑ってくるが、僕はそれっぽい理論(STRバフの重要性)を並べて強引に誤魔化した。


(……ぽよんの受け売りだが。

 あのラザニアの件しかり、実際に『バフ』としてシステムを上書きした事実が存在したのだからな……。

 認めざるを得ない……癪だが)


「ぽよ……それ……ふふっ。可愛いね」

 ぽよんが僕の顔を見てニヤニヤと笑いかけてくる。


 こうなるから、嫌だったんだ。


「え?なんだよぽよんちゃん。今、可愛いって?」

「えええええええ待ってえええ、そういう感じぃぃぃ?」

「愛故にぃぃぃ!?」


「早くポーションを補充しに行けお前ら!!それが終わったら『木漏れ日亭』へ集合だ!散!!散だ!」


 完全に冷やかしモードに入ったドドンパ、シロロ、まち子を、僕は声を荒げて追い立てた。


「ハッハー!了解だぜ、相棒。『心の栄養』補充しちゃいまーーーす!」


 ドドンパの笑い声に続き、メンバーたちも「はーい」と面白がりながら、ゾロゾロとカオス・アトリエの扉を開き、町へと向かっていく。


 最後尾にいたジィサンが、すれ違いざまに足を止め、僕に声をかけた。


「『情とは時に人を動かす。情報データが全てではない』だぞい♪ イオリ君や。ほっほっほっほ!!」


 ジィサンはそう言うと、若者のようなウィンクをかまし、ミツルマンの手を引いて後を追って出ていった。


「……チッ」


 僕は再び舌打ちをかましながら、町へと向かった。


 ちなみに、木漏れ日亭では『スイートポテト』を食べた。

 2100Gだ。くそ高い。


 そして、ジィサンの回復スキル【死生観・円寂】の『スキル発動ログ』を記録保持レコード・リザーブしておいた。


『特大回復』に『Last Stand (ラストスタンド)』まで付く、特大の餌だ。


 その作業ストックを終えた時、僕の中には一つだけ気になっていることがあった。

 ジィサンのスキルを記録保持した際、自身のスキル一覧に未知の項目が追加されていることに気づいたのだ。

 

 (イェソド戦前にはなかった筈だ。と言うことはレベルアップで覚えた……か)

 

 超特殊職業[深淵の観測者]のパッシブスキル【深淵干渉観測アビス・インターセプト】。 

 添えられた説明文は、ただ一文のみ。


[独自のシステムの深淵を覗くことができる ※第6エリアのみ適用]


 僕の職業[観測士]のパッシブスキルである【干渉観測ディープ・インターセプト】に似たようなものなのだろうか。  

 

 現状では明確な使いトリガーは分からない。だが、パッシブスキルである以上、条件を満たせばいずれ勝手に自動発動するのだろう。


(……その時を待つしかないか)


 僕は得体の知れない新スキルへの思考を一旦打ち切り、あの王者の元に向かうのだった。



◇ 神樹の塔 第1階層 『王者の間』前


「よっしゃー!先に拘束され組、準備はいいかああああ!」


「「「「おー!」」」」


 ドドンパの号令に、前衛に出る5名(ドドンパ、ぽよん、まち子、フゥ、ミツルマン)が元気よく応える。


「ぽよん、これを」


 僕がぽよんに差し出したのは『クンツァイト(リチア輝石)』。


『聖刻の円卓戦』後に慰めの意味でフゥから貰ったものだが、これは見る角度によって、つまりZ軸(縦)とX軸(横)からの観測によって、システムに返す『存在のIDデータ』がデタラメに変異する多色性の特性を持った石だ。


「ケテルの【原初の法(オリジンズ・エラー)】を抜ける事ができるはずだ。恐らくだがな」


「ぽよ?キラキラの石なのだ〜。美味しいのだ?」


「おやつだ。ロックが解除されたら、これとルナールのハープを一緒にロン君に食べさせろ。【技巧喰い(スキルイーター)】だ。ロン君もできるな?」


 プルンッ♪(マッスル・ポーズ!)


 僕の言葉に、ロン君は張り切って王笏の先でボディビルのポーズを決めた。


 だから、お前はなぜそのポーズなんだ。


「ルナールのハープの音波(環境ルール)に、この石の座標偽装バグを乗せる。……ケテルの【原初の法】のZ軸判定(生贄ロック)を、完全に迷子にさせてやる」


 僕は静かに眼鏡を押し上げ、巨大な扉へ視線を向けた。


「ぽよ〜!!魔王ぽよん・ルル=ルシふっっ……ファリウス!軍突撃〜〜!」


「はぁ……お前は。MMOミーム知ってるだろ。絶対」


 相変わらず自分の名前を噛む魔王に呆れるが、まぁ今回はいい。

 最初からロックされる事を前提とした布陣デコイなのだから。


 ケテル。

 せいぜい紙切れ(プログラム)のままやられてくれよ。


 シュ……!!


 ギィィィィィ!!



◇神樹の塔 第1階層 『王者の間』


《………》


 ——【Root_System】——

 [Transition to Kether Form-B initiated.]

 (※パターンBへ移行)

 —————————————


「フッ……希少猫アンジュみたいだなお前。しっかりヘイトは残っているようだ。さぁ来いクソ暴君」


 ——【System】——

 バトル開始:制限時間[∞]

     VS

【原初の意思:王冠ケテル

 ———————————-


 ——【System】——

 原初の意思『王冠ケテル


原初の法(オリジンズ・エラー)】を発動します。

[発動時間:3:00]

 ——————————


 案の定、予定していた前衛メンバー達の身体に拘束のロックが掛かる。


「ルナール!作戦通りだ!弾け!」


「はい!聴いてください!!BGMジャック:【終焉の祝祭(ゴールデン)黄金律(・レコード)】!」


 いつものように、僕の天球儀のパッシブスキルが環境の変化を捉える。


「【干渉観測ディープ・インターセプト】」


 ——【Log】——

【警告:環境BGM領域への強制上書き(オーバーライド)を検知】

・ジャンル設定:ハイパー・デジタル・オーケストラ(BPM: 200 / 4/4拍子)

・干渉レベル:システム・ハック(環境ルール書き換え)


 対象:Iori_k、jisan、shiroro、renard

 DEF(物理防御力)−200%

 STR(物理攻撃力)−200%

 EXP(獲得経験値)+300%

 ————————-


 彼女が弦を弾くや否や。


 戦場の色彩が反転し、まるでデジタル・ノイズが走るような視界の中で、独奏者ルナールは空中に浮かぶ無数の「音の断片」を手に取り、ハープをなぞった。


 恍惚とした顔で……光の弦を弾きながら、彼女は口調を変えて言い放つ。


「……戦うための肉体なんて、もう必要ないでしょう?積み上げてきた力も、守るための盾も、すべてこの旋律リズムに溶かしてあげる。さあ、純粋な『経験』だけを食べて、美しく壊れなさい……!!」


「全く、ハープ一つで何故こんなオーケストラのフル演奏のような音が出るのかは不思議だが……」


 僕は口角を上げながら、狙い通りに構築された状況を見て嗤う。


 ケテルはまだ【王の徴収】を発動してこない。

 思った通りだ。

 あいつのシステムは『マイナス効果のつくバフ』は強奪の対象にしない。


「次は僕の番だな」


 僕たち後衛のHPは前回同様、毎秒8ずつ削られ続けている。

 だがすぐ死ぬ訳ではない。


「【記録保持レコード・リザーブ】!!!」


 その瞬間、ルナールが弾いたBGMジャックの発動ログの『すぐ下』に、ジィサンが過去に発動・・・・・していた実体のない『ただの記録ログ』を割り込ませて流し込んだ。


 ——【戦闘Log】——

 [T-minus 11s]:[renard]がアクティブスキル【BGMジャック】を発動。

 対象:[Iori_k].[jisan].[shiroro].[renard]

 …………

 [T-minus 5s]:[Iori_k]がアクティブスキル【記録保持】を発動。保持対象のログを表示。

 [T-minus 4s]:[jisan]がアクティブスキル【死生観・円寂】を発動。

 —————————-

 

 ——【System】——

 原初の意思『王冠ケテル


【王の徴収】を発動します。

 —————————


 僕は思わず声を出して笑った。


「ククク……バカな王だな」


 ——【System】——

 ▶︎ 徴収対象:【護法僧スキル:死生観・円寂】

[Error:空間上に実体データが存在しません(Null)。徴収に失敗しました]

 ▶︎ エラーを検知。対象の再計算リトライを実行します。

 ▶︎ 直近の環境ログより、代替対象を再設定……完了。

 ▶︎ 徴収対象:【BGMジャック】を抽出……成功。

 ▶︎ 反映確認。原初の意思『王冠ケテル』に適用します。

 —————————

 

 僕が流し込んだ実体のない『ただのログ』を、回復・有用バフだと誤認したケテルは、見事にそれを徴収しようと強奪スキルを発動したのだ。


「あれ?!このログどういうこと?ねぇ、イオリ君!真核を作る時は【記録保持】のログでもちゃんと適応されるのに、なんで今回はエラーになったの!?」


「シロロ、お前は『料理の設計図データ』をそのまま食べられるか?」


「えっ?食べられないよ!美味しくないし!」


「そういうことだ。真核は直前1時間のログ(設計図)を吸い込み、後からコンバージョンという工程を経て実体化(料理)させる。だから適応される。だが……」


「ほっほ!ケテルの【王の徴収】は、今そこにある『完成した料理(実体のあるバフ)』を直接食い漁るスキル。……幻の設計図を無理やり食おうとして、システムがエラーを吐いたということだのぉ!?」


「その通りです。実体のない不良債権ダミーを掴まされて、システムが焦って再計算リトライに走ったという訳ですね。つまり……今の王様は……」


「ふぉー!!!!かっこいいイオリ君!!」


 シロロが歓声を上げる。


「攻撃力、防御力どちらもゴミ。更にはエネミーであるケテルに付いた経験値バフは、己の効果になっている……。ただでさえ経験値の塊が、特大の大塊になった訳だ」


「ほっほ!ではこの間に回復をかけておくぞい!!【護法僧スキル:迂回の余韻(うかいのよいん)】!!」


【王の徴収】を発動したばかりの奴は、連続使用などできない。


 つまり、僕達のHPゲージの横についた『Regeneration(継続回復)』はそのまま効果を適用し続け、ケテルのパッシブによる『Life Bleed [Major](生命力流出[大])』は完全に意味を成さなくなった。


 残る問題はクンツァイトだが。

 上手くやってくれよ『ぽよん、ロン君』。


「ルナール、武器は地面に置いておけ。もうすぐ対象の切り替えだ」

「うう……ごめんね私のハープちゃん!あとで拭くからね!!」


 コトッ……。


 ルナールは慎重に竪琴を地面に置いた。


 そして。


 すまないドドンパ、2連続でロックかかっててくれ。

 お前の力はダアトで存分に……な。


 ——【System】——

 原初の意思『王冠ケテル


原初の法(オリジンズ・エラー)】を再発動します。

 ——————————

 

 視界が明滅し、僕、ルナール、シロロ、ジィサンの身体がピタリと硬直する。

 ケテルのロック対象が切り替わり、見事に動きや発言を封じられた。


 ドドンパのロックは継続だ。


「ぽよ〜〜!すごいのだ〜〜!よ〜し、ロン君行くのだ〜〜!!」


 拘束が解除されたぽよんがインベントリからバグ素材『クンツァイト』を取り出し、地面に置かれたルナールのハープの横に投げ入れる。


 すると。


 ヒュルルルルルル……!!


 パクっっっ!!


 王笏から伸びたロン君は、見事に鉱石とハープへ喰らい付いた。


 数秒後。


『ペッ』


 ロン君はルナールの武器だけを綺麗に吐いた。


 ——【ステータス】——

【魔王ぽよん専用装備:魔王笏・ヴォイド・マカロンk】

[名称:ロン君]

[状態:技巧喰物スキルイーター

・保持データ(鉱石):リチア輝石(残り14分)

・保持データ(現象):BGMジャック(残り4分)

 ーーーーーーーーーーー


 硬直した視界の中で、ロン君のステータスログを読み取った僕は、完全な勝利を確信した。


 これで、『9人』でヤツの王冠を剥がせる、と。


(ドドンパは継続対象だから、もしかしたら『8人』かもな。フッ。)

第114話いかがだったでしょうか?

裏ボス『ケテル』に対する反撃の狼煙!

イオリが編み出した作戦は、ケテルの「バフ強奪(王の徴収)」を逆手に取った悪魔のシステムハックでした!!

さらに、フゥから貰っていた鉱石『クンツァイト』覚えていましたでしょうか(73話)


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


〜次回予告〜

3/18【朝8時10分】に投稿ハック致します!

少しでも「ドドンパ不憫(笑)」「イオリいじられてる(笑)」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります!


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