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第113話:次期総帥、父と深海サーバーの闇に迫り、極秘のブラックハッカー(情報屋)を雇い入れる

今回は、カイザーこと現実の皇視点になります!

◇ 現実

 

[月曜日 17:31]


 第10階層のボスを討伐……してもらった僕は、己の不甲斐なさを痛感していた。


 僕の力がなくなった理由は単純だ。


『ラプラスの悪魔』を破壊するという僕たちの真の目的は、運営側にまだ知られていない。


 つまり、僕がサクラ時代に与えられた遺産(特殊ヘッドギア)を物理的に回収できないから、遠隔で無理やり干渉権限を停止させたということだ。


 これ以上、ゲーム内ではイオリ達の助け(戦力)になることが出来ない。


 僕の戦場はあの瞬間より、『すめらぎ 雷牙らいが』として現実リアルで戦う事になったのだ。


 ログアウトした僕は、昨日イオリから告げられた『4つの指示』の、初日の経過報告を聞いていた。



◇ 現実世界 皇 雷牙 邸宅


「阿久津。これは?」


「はい。ご指示いただいておりました『送金ライン』の報告書になります」


 僕は重厚なデスク越しに差し出された黒い封筒を開け、中身を一瞥して思わずため息を吐き出した。


 並んでいるのは、いくつもの会社名。

 しかもこれらがすべてダミー会社であることは、聞かずとも容易に理解できた。


 そして最後の1枚には、極めて絶望的な一文が記されていた。


『解明進捗0.4%(関連した空想のダミー会社のみ) 現状ではこれ以上の追跡不能』


 たった1行。


 これに費やした莫大な金とリソース。

 そして、この紙切れ1枚に書かれた内容の価値が『0円』に等しいということ。


 それだけが分かった。


「これだけか?」


「申し訳ありません。第零監査室の総力を挙げて解析にあたっていますが……完全に手詰まり状態にあります」


 側近の阿久津は、一切の言い訳を挟まず、冷徹な現状だけを述べた。


「責めているのではない。まだ1日だ。気を落とさずに続けてくれ」


「は。会長は……ダミー会社や暗号資産を何千と経由しており、今の我々の力では、全体のほんの表層すら解明出来ませんでした」


 現実社会の経済を支配するほどの、巨大な量子計算機シミュレータを作ろうとしているのだ。


 すぐ分かるとは思っていない。

 思っていなかったが……初日でここまで壁が厚いとは。


「それと、こちらを」


 次に阿久津から渡されたのは、『非公式な接触相手の特定』に対する報告書だった。


「親父……会長の接触ですが、結論から言うと、こちらも外部での接触は一切確認できませんでした」


「こちらもか」


 先ほどと同様、皇グループのロゴが入った黒い封筒。

 その重厚な見かけに対し、中に入っている書類はたった『1枚』の紙切れだった。


「会長はここ数日、最上階の執務室から一歩も外へ出ておらず、来客が立ち入った記録もありません。完全に密室状態です」


「……続けろ」


「現在、『双鴉カラス』と監査室の部隊を動員し、VIPフロアおよび会長室内部の監視カメラ回線への直接介入ハッキングを進めています」


 僕は眉間を指で揉み解しながら、低く唸った。


「……一歩も外に出ていない?数兆円を動かし、国家レベルの計画を進めている人間が、ただ部屋に引きこもっているだと?」


「………これは異常です。会長は常にお忙しいお方です。ここ数日……会合の1つも入っておりません」


「あの用心深い親父が、理由もなくそんな不自然な真似をするはずがない。物理的な接触がないなら、完全な裏回線でやり取りしているか……あるいは、あの部屋の『中』に何か仕掛けがあるかだ……」


 僕は机の上で両手を組み、鋭い視線を阿久津に向けた。


「カメラへの介入を急がせろ。映像の偽装やループの可能性も疑え。今、あの部屋の中で『何が起きているか』を直接僕のモニターに繋ぐんだ」


「は。しかし社長。あまり第零監査室を動かすと、親会社側に気付かれる恐れがあります」


 阿久津の冷静な進言に、僕は奥歯を強く噛み締めた。


「ならどうする?僕には……秘密裏に作ったお前達と双鴉カラスしか手駒がないんだ……。名ばかりの次期総帥。僕には実権などほぼないのだから……」


 静かな執務室に、僕の焦りを孕んだ声だけが虚しく響く。


 沈黙が落ちた後、阿久津が一歩踏み出し、静かに口を開いた。


「……申し訳ありません。一つだけ……案があります……」

「なんだ?」


 僕は顔を上げ、彼の次の言葉を待った。


「情報屋……ハッカーを使います」


「は?情報屋だと?……阿久津。お前のことは信用している。だがこれを外部の人間に頼むなど……」


「社長……私の……弟はご存知ですよね」


「阿久津の弟……『阿久津あくつ じょう』の事か?」


「はい。彼は今……」

 僕は阿久津の言葉を遮り、真っ直ぐに彼の目を見て告げた。


「阿久津。君は僕を育ててくれた恩人だ。そして家族の話をするのだろう?立場を気にして取り繕う必要はない。普通に砕けて話して構わない」


 阿久津は少し考えた後、覚悟を決めたように小さく息を吐き、そして、弟を憂う『兄の顔つき』へと変わった。


「……はい。立場上完全に砕ける訳には参りませんが……。少しだけ失礼いたします」


「ああ」


「私の弟は今やゲーム漬けで、こちらから連絡しても中々連絡が取れません」


「それは以前聞いたが……それがなんの関係がある?」


「はい。私の弟はその……社長のやっていらっしゃるゲーム内でも『情報屋』として動いている様です」


 僕はそれを聞いた瞬間、完全に思考が固まった。


「そ、そうか……あいつがお前の弟だとはな……。それで?」


 平静を装う僕を見て、阿久津は少し驚いた顔をしながら続けた。


「ご存知でしたか……あいつは『ホワイトハッカー』です」


「それなら第零監査室にもたくさんいるだろう……」


「ただのホワイトハッカーではありません。以前、皇グループの一部セキュリティの脆弱性を調べる為、第零監査室から依頼をしたことがあります」


「ああ、それは業務内容なのだから理解できるが……突破できなかったと聞いたが?」


「申し訳ありません。あれには一部記載しなかった情報があります。『城』は……突破しました」


「どういうことだ………?」


 僕が眉をひそめると、阿久津は静かに、だが確かな畏怖を込めて語り始めた。


「……当時、彼はわずか19歳でした。ですが、第零監査室が総力を挙げて構築した皇グループの強固なセキュリティ網を、あいつはまるでゲームでも攻略するかのように、たった数十分で完全に掌握してみせたのです」


「……なんだと?ならばなぜ、報告書には『突破不能』と記載した」


「嘘の報告を上げたこと、深くお詫び申し上げます。……『城』は、セキュリティを突破したどころか、我々が仕掛けた全てのトラップを逆手にとり、監査室のメインサーバーに『クリア記念のふざけたメッセージ画像』まで残していきました。……私の一存で、事実を握り潰しました」


「……そこまで圧倒的だったということか」


「はい。あいつの才覚は、表のセキュリティチェックの枠に収まるものではありませんでした。名前は出せませんが、過去には海外の国家級サーバーすらも単独でハッキングし、手玉に取った経歴があります。……少しでもその牙が世間に知れ渡れば、最悪の場合、国家や裏の組織に目をつけられ、一生飼い殺しにされる危険がありました」


「……だからお前は、弟を守るために握り潰したのか」


「……はい。現在は21歳になり、さらに腕を上げていますが、本人は至っておちゃらけた性格でして。今はただ、純粋にゲームを謳歌している、ただの若者です。ハックもせずに『()()()()()』で。ですが……」


 阿久津は深く頭を下げ、重々しい声で進言した。


「相手が会長の築いた盤面である以上、正規のルート(白)では辿り着けません。毒をもって毒を制す……あの常識外れの天才(黒)の頭脳が必要です」


「フッ……。謝る必要はない、阿久津。お前が弟を守りたかった気持ちは痛いほど分かる。それに……」


 僕は、あの第11スフィアで飄々と現れ、僕たちの情報を巧みに引き出そうとした情報屋の顔を思い浮かべた。


 あの飄々とした態度で掲示板を操り、人の思考すらも読み取るデタラメな情報収集能力。

 

 そして何より、僕ですら畏怖する『イオリk』が認めたくらいの男は……現実リアルでも、天才ハッカーだったというわけだ。


阿久津(ジョウ) (ナン)。……いいだろう。その極秘のハッカー、僕が直々に依頼クエストを出して雇い入れよう」


「は。直ぐに弟に連絡いたします」


「ああ、頼んだ。なんだったら僕がゲームにログインして聞くが?」


「いえ、社長のお手を煩わせる訳には。……それに、双鴉カラスが来た様です」


 コンコン、と静かなノック音が執務室に響いた。


「入れ」


 僕の掛け声と同時に、一人の人物が音もなく入室してくる。


府義ふぎだけか。それで、何かわかったか?」


「ダミー会社を辿る中で、一つ不自然な資金の流れを見つけましたよ。表向きは『海洋温度差発電の実験施設』への投資になっていましたが、そこに流れている電力(送電網)の量が異常です。だけど、施設自体は海上のどこにも存在しませんわ」


「……なるほど。数千万人のデータを処理する量子スパコンの熱量は凄まじい。それを冷却するために、冷たい深海の底にサーバーごと沈めているのか……!」


 莫大な冷却コストを深海という大自然で補い、同時に物理的な隠蔽をも完璧に果たす。


 名ばかりのダミー施設と異常な送電量。

 世界的企業である皇グループの資本力だからこそ成し得るスケールの偽装工作だ。


 親父が本気で、この世界(現実)の裏側で『悪魔』を育てているという事実が、重くのしかかってくる。


「阿久津、聞いたな。直ぐに城へ連絡しろ。『カイザー』の名前を使え。ヤツなら飛びつくだろう。なんとしてでも動かすんだ」


「は。直ちに」


 阿久津は短く一礼すると、足早に部屋を出ていった。


「社長、六二むにのやつがカメラの侵入は明日中にはやってみせると、息巻いていたよ」


「そうか。頼むぞ」


 府義は振り返り、ひらひらと手をかざしたまま影のように部屋を出ていった。


 再び一人になった執務室で、僕は静かに目を閉じる。


(親父……いや、『すめらぎ 征一郎せいいちろう』。

 あなたが莫大な利益を得ようとしてやっている事は、世界への反逆に等しい。

 完全に道を外す前に、必ず……僕が引導を渡しますよ)


 ゲーム内で能力を失い、ただの一プレイヤーとなった僕だが。


 僕の戦いは、これからだ。


 僕は窓の外に広がるネオンの海を見下ろし、今はただの『観測士』として過酷な魔境を歩む、冷徹で頼もしい悪友の顔を思い浮かべた。


「イオリ……頼むぞ」

第113話いかがだったでしょうか?


ゲーム内で能力を失ったカイザーこと次期総帥・皇 雷牙による、血の繋がった父親との企業情報戦!


数兆円規模の圧倒的な偽装工作の壁が立ちはだかります。

しかし、そこで白羽の矢が立ったのは……まさかの情報屋『ジョウナン』!


ゲーム内では、『正規プレイ』をする彼ですが、真核システムを独自で発見して世界にばら撒いたり

ゲーム内でも有能でしたが……今後どうなるのでしょうか。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


〜次回予告〜

3/17【夜20時10分】に投稿ハック致します!


少しでも「カイザーかっこいい!」「ジョウナンの経歴ヤバすぎ(笑)」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります!


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