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第112話:観測者、理不尽な『王冠』に蹂躙されるも、奪われた最新ログから反撃の糸口を掴む



《許サヌ!!!!!許サヌゾォォ!!皆殺シダ!!!!!》


 ケテルの凄まじい殺気が、物理的な圧力となって僕達を襲う。


(チッ……作戦もままならない中で、強化状態というわけか……。

 Archeめ、一体何故、配下を倒させた……)


 僕が思考を巡らせた、その瞬間だった。


 僕らの視界を赤く染め上げるように、システムログが強制展開された。


 ——【Root System】——


 [Defeat of Hidden Enemies detected:]

 (※隠しエネミーの討伐を検知:)


 [Muscle Beauty Rabbit Trio Reboot]

 (※オカマ兎三姉妹)


 [Snow White Carver Calcite]

 (※白亜の彫刻家)


 [Prism Collector Ice Guy]

 (※氷晶の彩光者)


 [Meteoric Mademoiselle Mole Sedula]

 (※隕星の令嬢・古細菌モグラ)


 [Transition to Kether Form-B initiated.]

 (※ケテル[形態B]への移行を開始します。)

 

 [Main Story Quest "World of Arche" content modification detected.]

 (※メインストーリークエストの内容改竄を検知しました。)


 [W#rning: V@lidating T!m#fr@m# f*r T@mp#ring...]

 (※検知不能。強引に突破中)

 

 [Main Story Quest overriding in progress...]

 (※メインストーリーを強制上書き中……)


 [Override: SUCCESS.]

 (※強制上書き:成功。)


 [Objective updated: Proceed to the Gate of the Abyss (Da'at) after subjugation.]

 (※目的更新:討伐後、深淵の門『ダアト』へ進め。)

 ————————————-


「ええええ何この赤いの!可愛くない!怖いんですけどーー!」


「マスターイオリ、これは……!!」


 流石は海外でも活躍していたパリコレモデル。


 だが、英語が読めないと、そもそもこの状況を分析することすらできないとはな……。


 僕もログの中身を読み解き、事態の全容に気が付いた。


「……なるほど。隠しエネミー4体のフラグを折り、ボスが『強化状態(パターンB)』へと形態変化するシステム処理の負荷と移行の隙間……そのわずかな時間ラグだけ、クエストの改竄が可能になるのか。だからArcheは、わざわざ僕たちを誘導してケテルを極限まで強化させたのか……!」


 ——【System】——

 原初の意思『王冠ケテル


原初(オリジンズ)の法(・エラー)】を発動します。

[発動時間:3:00]

 ——————————


 僕がログの真意をデコードしたのも束の間。


 これまでの地の番人(マルクト)鏡の魔術師(イェソド)と同様、ケテルが開幕にパッシブスキルを発動してきた。


「オリジンズ・エラー……?みんなどんなスキルかわからない!何が来ても良いように構えとけ!!!」


「イオリ!ゴーグルの最終防衛ラインはまだ取っとくぞ!」


「了解です!バフ指示ください!どんな曲でも弾いて見せます!」


「私も壁を立てるわ!」


 ドドンパ、ルナール、フゥからの頼もしい返事が即座に返ってくる。


 しかし、先陣を切って突っ込んでいったぽよん達からの反応がない。


「おい、早く動け……!!」

 僕の呼びかけに、誰も応えない。


「おい、1ミリも動いてなくないか?」


 ドドンパの言うように、前に居た5人(ぽよん、シロロ、まち子、ジィサン、ミツルマン)は、まるで石像か置き物のように完全に硬直してしまっている。


 更には……。


「イオリさん!!HPが……!」


 ルナールの緊迫した声に視線を移すと、僕達のHPゲージの横に、紫で囲われた不吉なアイコンが点灯していた。


『Life Bleed [Major](生命力流出[大])』。


 僕はすかさず、硬直しているぽよんにレティクルを合わせ、ステータスを確認する。


「前衛のHPは減っていない……だが……」


 —————————

 ▶︎[maou_poyon]


『No Hate(ヘイト除外 / ダメージ無効)』

『Immobilize(移動不可)』

『Ability Lock(能力封印)』

『Mute(発言不可)』

┗ [法による完全固定]

 —————————


(そう言うことか……【原初の法】は、ケテルに近い5名を完全にロックし、それ以外の対象にのみ強烈なHPスリップダメージを強いる『環境の法』……。

 なんて厄介なギミックだ……)


 それは、状態異常デバフなどという生易しいものではなかった。


「お前たちは動くな」という、絶対的なルール(法)の押し付けだ。


「……チッ。HPの減る速度は毎秒『8』程度か。だが、問題はこのデバフの継続時間だ」


 僕は視界の端に表示された『Life Bleed [Major](生命力流出[大])』のアイコンと、その横で静かにカウントダウンを進めるタイマーを睨みつけた。


「表示は3分。もし3分経過でロックの『対象が変わる(ローテーションする)』仕様だとしたら、1フェーズで受けるスリップの総ダメージは最低でも『1440』に達する」


「は?! 1440……!?まち子姉さんならともかく、イオリみたいな後衛職はヤバいだろ……」


「ヤバいどころじゃない。……僕たちに残された回復ポーションは、さっきここに入る前の分を引いて各々9個だ」


「私やドドンパ君でもHPの半分近く持っていかれるわね」


 フゥの補足の通り、後衛が基本の僕やルナールは、そもそも絶対的なHPの最大値が少ない。


 僕は、ケテルの絶望的な長さのHPゲージを見上げながら、冷酷な演算結果を3人に告げる。


「奴のHPを削り切るまでに、このローテーションが何度発生するか……計算するまでもない。スリップダメージだけでポーション9個の回復量を食いつぶす。ボスの直接攻撃を加味すれば、リソースは完全にショートする。……このままなら、生存確率は0%だ」


 僕が絶望的な数値を弾き出したのと同時に、黄金の玉座に座す王がパッシブの発動を終え、攻撃態勢へと移行する。


《サァ、我ノ絶対政治ヲ見セテヤロウ》


「ジィサンがロックされたとなると、回復はポーションのみだ。お前達、極力温存しろ!ドドンパ、攻撃ラインを出せ!」


「あいよ!【濃霧予兆フォグ・オーメン】!!!

 続けていくぞ!【絶対座標(アブソリュート)の指揮者(・コンダクター)スキル:戦術的・不確定性原理】!!」


 ケテルの腕に霧が纏わりつき、数秒後の攻撃ラインが可視化される。

 さらに指揮者であるドドンパの目には、回避のための『複数のルート』が表示されるはずだった。


「は?!何だこれ……回避ルートがねぇ……!」


「どういうことだ!?」


 ドドンパが言った『ない』とは、既に確定した未来だと言う事だった。


 ——【System】——

 原初の意思『王冠ケテル


王の(アブソリュー)号令(ト・オーダー)】を発動します

 ▶︎ 裁定……対象[dodonnpa]

 ——————————


 その瞬間、目に見えない強烈な衝撃がドドンパの身体を撃ち抜いた。


「うぐあああああっっっ……!」

「ドドンパ君!!」


 ルナールが悲鳴を上げて駆け寄り、崩れ落ちる彼を抱き抱えようとする。


 だが、無機質なアナウンスが告げる結果は、凄惨なものだった。


 ——【Log】——

 対象▶︎ [dodonnpa]


【王の号令】によるHP99%の割合ダメージを適用しました。

 ———————-


「は………そんな理不尽攻撃有りか……」


 これまでに受けたスリップダメージと、回避不能の割合ダメージ99%。


 そして未だ消える事のない、『Life Bleed [Major](生命力流出[大])』のデバフが重くのしかかった。


 ——【System】——

 対象:[dodonnpa]

 対象のHPが0になりました。


 死亡判定ロストプロトコルを実行します。

 ——————————-


「ドドンパ君!?!?嘘……こんな一瞬で……」


 ルナールの腕の中で、戦場支配の指揮者が光の粒子となって消えていく。


「くっっ……ルナール!立ち上がれ!すぐにバフをかけろ!!」


 彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちるのを、僕は観測した。


 どんな状況であれ、感情認識モジュールは等しくプレイヤーの表情に適応される。


 たとえその涙がどれほど痛ましく、僕の心を揺さぶったとしても。


 思考を止めることだけは絶対に許されない。


「イオリ君!こいつ、スキルを発動しきってもパッシブと同じでしばらく動きがない!この間にダメージを入れるしかないわ!」


「ああ……だが攻撃に転じるリソースがない……。初見殺しもいいところだな全く。『Arche』め、攻略法も送ってくれればいいものを」


 フゥの冷静な指摘に答えつつ、僕は現状の打開策を高速で演算する。


「もう少しで【原初の法】が切れる。まずは耐える事だ。

 ……ロジックを見極めながらクリアするなんて、甘っちょろい考えは通用しないらしい。ここは『VRMMO』だ。ゾンビアタックでもいい、アルゴリズム(糸口)を掴む方向へ切り替える」


 つまり、今回は勝とうとするのではなく、負けてでも敵の動きをデコードし、次へ繋ぐ道筋とすると言う事だ。


 ——【System】——

 原初の意思『王冠ケテル


原初(オリジンズ)の法(・エラー)】を再発動します。

 ——————————


「……やはりか。時間が短いと思ったが……フェーズ2だな」


 僕は静かに最悪の事態を受け入れた。


 直後、最前線で凍結されていたジィサン、ミツルマン、シロロ、ぽよんを縛っていた拘束のエフェクトがパリンッと砕け散る。


「ぽよ〜!!動けるようになったのだ〜!でもドドンパ歩兵がやられたのだ……」


「あれ?!まち子姉さんは!?」


 シロロが叫ぶ通り、前衛の中で一人だけ動けない者がいた。


 ——【System】——

 ▶︎ 対象:[Guard_Girl_Machiko] に【継続ロック(解除不可)】が付与されました。

 ——————————


 一番前に出て壁となっていたまち子だけが、そのままロックされると言う非情なアナウンス。


 そして。


 今度は僕とフゥ、ルナールの視界に、強烈な警告音と共に毒々しいアイコンが強制的に割り込んできた。


 ——【ステータス】——

『No Hate(ヘイト除外 / ダメージ無効)』

『Immobilize(移動不可)』

『Ability Lock(能力封印)』

『Mute(発言不可)』

┗ [法による完全固定]

 ————————————


(くそっ……!)


 声すらも奪われ、僕たちの体はピクリとも動かなくなる。


 ターゲットのロックは、先頭のまち子と、今まで動けていた僕たち『後衛』へと完全に移り変わったのだ。


 そして当然の如く、僕の視界では、拘束を解除された前衛メンバーたちのHPゲージがスリップダメージによって削られていく様を観測する。


「あれ??どうしよう!爺ちゃん、どうすればいいのオレ!」


「ぐぅ……まずは回復するぞい!すりっぷダメージがこれほど厄介だとのぉ」


 混乱するミツルマンの横で、ジィサンが錫杖を構え、力強く地に叩きつけながらスキルを発動する。


「【護法僧スキル:迂回の余韻(うかいのよいん)】!!」


 動けない僕の視界にも、戦闘ログが流れ続ける。


 ——【戦闘Log】——

 [T-minus 38s]:……を対象に【原初(オリジンズ)の法(・エラー)】が発動。

 …………

 …………

 [T-minus 6 s]:[jisan]がアクティブスキル【迂回の余韻】を発動。

 —————————-


 すると、動ける前衛メンバーに対してだけ、スリップダメージを上回る『Regeneration(継続回復)』がかけられた。


(護法僧……一人でPT全体に強力な継続回復をばら撒く事もできるのか……とんでもない職業だな……)


 僕は体が動かせない中、ジィサンの初めて見るスキルを冷静に分析していた。


 だが……王冠ケテルの理不尽はまだこれからだった。


 ——【System】——

 原初の意思『王冠ケテル


王の徴収(タックス・クラウン)】を発動します。

 —————————


(は?)


 その瞬間、ケテルの巨大なHPゲージの横に、先ほどジィサンが展開したはずの継続回復リジェネバフが点灯した。


 何と、ケテルはジィサンのかけたバフを『徴収』し、己への回復効果へと丸ごと変換してしまったのだ。


(悪政にも程がある……)


 だが、僕は一つ決定的な違和感に気がついた。


 先ほどまで流れていた戦闘ログから、ジィサンが発動した【迂回の余韻】のログそのものが綺麗に『消失』している事に。


(【王の徴収】は、ただバフの効果を奪うのではなく、発動の瞬間の『最新ログ』そのものをシステムから切り取って徴収する仕様と言うことか?

……くく……なるほど。


記録保持レコード・リザーブ』……ならどうにでも出来るな)


「な……何だと?ほっほ……イオリk君……分析しているのだろう?糧にしてくれたまえ……」


 ジィサンはこの状況がいかに理不尽で逆転不可能かを即座に理解し、僕が先ほど言った『糸口』の素材へとしてくれと、肩を落としながら力なく告げた。


(ジィサン、ちゃんと糧になりましたよ。

 次は……必ず……勝って見せます)


 そこからは、ただの一方的な蹂躙だった。


 僕達のロックが解除されるまでには、ジィサン、ミツルマン、ぽよん、シロロと、圧倒的な力の前に順番に倒されていくのだった。


 ——【System】——

 原初の意思『王冠ケテル


【王の威光】を発動します。

 ………

王の(マーシレス・)救済(サルヴェイション)】を発動します。

 ——————————-


 強制固定、割合ダメージ、スリップダメージ、特大ダメージ、更には物理攻撃の透過。


 最後に残ったまち子も為す術なくやられたらしい。


 圧倒的な敗北(全滅)を受け、僕達は『タヴの町』へと強制転送された。



◇ タヴの町


「おー、帰ってきちまったか!ハッハーだぜ全く。無理ゲーじゃね?イオリ、なんか掴めたか?」


 最初に落とされ、町の広場に戻ってきていたドドンパが駆け寄ってきた。


 カイザーの口癖を真似ておどけて見せるあたり、どうやらそこまで落胆はしていないらしい。


「ああ、次は負けない。作戦会議をするぞ。僕達のホームでな」

「そうだー!帰れるじゃん!周りも可愛くないと、そんな難しい会議無理!」

「ぽよ〜!帰れるのだ〜?!」


 シロロとぽよんもこの通り、全滅したからといってへこたれるようなヤワな奴らじゃない。

 僕は口角を上げながら、インベントリから『狭間の転移結晶』を取り出した。


「転送。【Chaos(カオス) Atelier(・アトリエ)】クランホームへ」


 今回は負けたが、ケテル。


 次は必ず、その『王冠』を貰い受ける。

第112話いかがだったでしょうか?

ついに始まった裏ボス『王冠ケテル』戦!


完膚なきまでの全滅。

しかし、タダでやられるはずがありません。


普通のMMOなら何度もやられながら攻略法を見つけるのが普通ですしね……笑


次回はカイザー視点ですが、114話で再戦します。


〜次回予告〜


3/17【朝8時10分】に投稿ハック致します!


少しでも「ケテル強すぎ!」「イオリの分析かっこいい!」「次は絶対勝てる!」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります!


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