第110話:観測者、ラザニアバフと雷の勇者を頼りに、幻影から未来の種子を獲得する
◇ 神樹の塔 第10階層
「昨晩メッセージした通り、どうやら隠しルートがあるそうだ。デバッグ用かもしれないが、悪用するしかない」
僕は、ジョウナンから受け取った暗号の解読結果を昨晩、皆に伝えた。
今日も10:00にきっちり出勤し、これから第9階層の攻略へと足を伸ばす。
「ぽよ〜!ロン君も、お目目ばっちしなのだ〜!」
プルンっ♪
『Arche』の介入後は、ぽよんの腕の中でロン君もすっかりピンピンしている様だ。
「ほっほ!しかし……精神攻撃を45度の角度で防ぐとは……どっちを叩くんかのぉ!」
ジィサンの言葉を聞いて、僕はハッとする。
言われてみればそうだ。
ブラウン管のテレビを直すときは、映らなくなったテレビを叩く。
つまり、僕らがバグれば叩くのはボスではなく……僕ら自身ということになる。
「ジィサン、ナイスアシストです。そうですね、僕らが叩かれなければ直りませんね」
「え?誰が叩くんだ?ロン君か?!」
ドドンパの問いに答えるように、ロン君はプルンと頷く。
しかし……もう一人をニュルッと手(?)を伸ばして指した。
「え?オレ?ロン君、オレ叩くの?」
「こいつ……メンバーの特性まで理解しているのか?『Arche』の演算能力だろうか……。そうだな、ミツルマン。お前には精神攻撃が効かない」
キョトンとするミツルマンの腰に携えられている剣を見て、僕は思い出した。
【絶縁の勇気】。
祠を通る際の精神防壁を何事も無く打ち砕いたように、彼に精神攻撃をしても意味がない。
つまりツッコミ(物理)役は二人ということだ。
「ほっほ!ミツルマンや!思いっきり叩きなさい!!」
(ジィサン……あんた……孫の暴力に肯定的すぎないか)
僕は少しだけジィサンに引きながらも、皆を誘導した。
「よし、行こう」
ここ神樹の塔内で次の階層に進む際は、空白のアルカナは必要ないらしい。
各階層の1番奥には巨大な『狭間の石碑』がある。
これに触れればいいだけだ。
「ねぇねぇ、またさ、いきなり攻撃してくるんじゃない?あのね、シール帳なんだけど……24時間経たないと『カワイイ指数』が貯まらないっぽい!時間毎で上限があるみたい……可愛くない仕様だよねぇ〜」
「それはそうだろう。あんな強引なやり方でいつでも貯められるなら、お前は間違い無くこのゲームの最強プレイヤーだ」
「私もそろそろ『特殊職業【鉱石王国の姫】』とかにならないかしら?」
「ちょっっ、フゥちゃんおもろいってそれは」
「なれますわ!愛をもっと掲げてくださいまし!」
「姫はオレが守る!!!てええい!!」
バチッッ……バチバチ……
「おお!ミツルマン、今日もバチバチしていてかっこいいのぉ!」
ジィサンはいつも通りだ。
そして僕は、そんなカオスな会話を背に石碑へと手をかけた。
——【System】——
PTを認証中……[認証成功]
9名の転送を開始します
——————————
今日から、カイザーはいない。
だが、奴も現実で『第零監査室』と『2羽の双鴉』と共に戦っているのだろう。
僕らも進まなければ。
紫色の転送陣が僕らの足元へと浮かんだ。
シュー………。
ヒュン!!!!
◇ 神樹の塔 第9階層
目を開けると、そこには一面の『鏡』があった。
「え?なんですの?これ」
「ぽよ〜!鏡なのだ〜」
二人の戸惑う声に被せるように、無機質なアナウンスが空間に告げてくる。
——【System】——
第九の騎士:鏡の魔術師
【鏡面自我の幻影】を発動します
—————————
キィィィィィィィィン……ッ!!
ブォォォォォォン……ッ!!
突如、鼓膜ではなく脳髄を直接引っ掻くような、極めて不快な高周波ノイズが響き渡った。
直後、不可視の『重い圧(波動)』が空間を走る。
それは突風のような物理的な衝撃ではなく、視界の空間座標そのものがグニャリと波打つような、強烈な同期ズレの感覚だった。
「っ……なんだ……!?」
その波動がアバターの肉体をすり抜けた瞬間、後頭部の視神経を繋ぐプラグから、冷たい泥水のような『強烈な悪意』が直接脳へと流し込まれていくのを感じた。
全身の産毛が逆立ち、思考のキャッシュが強制的に上書きされていくような、悍ましい感覚に襲われた。
『プツッ……』
『ザーー……』
僕の鼓膜に、何かが途切れる音が響く。
『VC』そのものが強制遮断されたのだ。
「ドドンパ!シロロ! ……チッ……」
叫んでも、仲間の返事はない。
そして、僕の視界では。
神樹の塔の広大な背景データがボロボロと剥がれ落ち、足元の『鏡』だけを残して、完全な無音の虚空へと隔離された様な感覚に陥っていた。
更には。
目の前の鏡から、自分自身のアバターがヌルりと出現したのだ。
「……チッ。 なんだこいつは……」
思考が、不自然に引っかかる。
僕の脳内で、『幻』や『偽物』という単語へのアクセスが、見えない壁阻まれて引き出せない。
代わりに僕の脳が弾き出したのは、極めてシンプルで暴力的な『事実』だった。
「……質量がある。速度がある。僕の命を刈り取ろうとする、明確な物理的脅威だ」
それがどこから来たのか、本物かどうかなんて関係ない。
今ここで目の前の『僕』を殺さなければ、僕が死ぬ。
奴がペンを構える。
「は?なんだその構えは……」
サラサラ……。
『それ(敵)』は、僕とは全く違う洗練された所作で【断崖写本杖】を虚空に走らせ……無機質な声で『上書き。』を実行した。
『【三角暴渦の風災】』
ピシィィィンッ!!
ギュオォォォォォォォンッ!!!
突如、僕の足元を取り囲むように「3つの青白い光点」が出現し、幾何学的な『三角形の結界』が強制展開される。
次の瞬間、その三角地帯の内部から、空間のテクスチャごと削り取るような暴力的な竜巻が吹き荒れた。
「っ……!?なんだと!?」
ガガガガガガッ!!!
僕は咄嗟に身を庇うが、凄まじい風圧と全方位からの斬撃判定にゴリゴリとHPが削り取られていく。
(くっっ……あり得ない。
僕の知らないスキルだ。それになんてダメージだ……)
僕と同じ姿をした目の前の『敵』は、ただ僕のスキルを模倣しているだけではない。
(僕がまだアンロックしていない、その武器の隠しスペックまで完全に引き出しているというのか……!)
——【System】——
バトル開始:制限時間[9分]
VS
【第九の騎士:鏡の魔術師】
——————————
「チッ……」
この瞬間より、僕の脳内には『仲間』という語彙すらも消失していた。
この隔離空間では、論理も、記憶も、削り取られていく。
しかし、僕の奥底にあったある一点。
『暖かい』、理解不能な『ナニカ』。
昨日摂取した、無駄に芳醇なトマトとチーズの匂い。
僕の感情に残った記憶だけが、この『精神・基礎 (イェソド)』という世界で強烈なノイズとして残っていた。
「甘利……ぽよん……。ロン君……。不確定要素だが、ナニカあればこれだな」
僕は天球儀を構え、『何かあればこれを使う』という思考の残滓だけを頼りに、ソレを発動した。
「……【高濃度糖分域の偽装】!!!」
僕が視界に捉えていた敵との間。
ある空間の一点に、極端な『糖分』のデータパッチが付与されたのだ。
その瞬間だった。
プォーン♪
ッドッゴーーーン!!
間の抜けた効果音と凄まじい破壊音。
僕を閉じ込めていた無音の空間が、文字通り物理的に『割れた』。
砕け散るテクスチャの向こうから、見慣れた小さな魔王と勇者が飛び出してくる。
「ぽよ〜〜!ロン君ナイスなのだあああ!人間k!生きてるのだ〜?」
「よくやった。チッ……一人一人隔離されていたのか……。ぽよん、お前は……ロン君が即打ち砕いたのか?」
「ぽよ〜!そうなのだ!ロン君に急にペチって叩かれて、気がついたらみんながいなくなっていたのだ……」
「スキルが発動した瞬間に、『ツッコミ』で自我を取り戻したのか……」
ロジックが通る。
ジョウナンが解読した「昭和のテレビ(精神攻撃)は物理で叩けば直る」というカンペが、ロン君の理不尽な打撃によって完璧に実証されたのだ。
(フッ……ここが『精神・基礎』そのものを模したギミックだからこそ、ぽよんの言う『心の栄養』だけは、消されずに残っていたというわけか)
僕は砕け散った空間と、目の前で騒ぐぽよんを見据え、口角を少しだけ緩めた。
そして、何の影響も受けずにいたであろう小さな勇者へと視線を移す。
「ミツルマン、この空間をビリビリにしてやれ」
「え?どうすればいいの?」
僕は口角を上げたまま、『雷の剣』を持つミツルマンに告げた。
「その剣で空間に『雷よ集まれ!』って念じて、この部屋全体に全力で放電するんだ」
精神バフをふんだんに受けるこの勇者(少年)なら……出来るはずだ。
「わかった!えーっと……雷よ集まれえええええ!!スーパー・ビリビリ・ドッカン!!」
バチバチバチバチッッッ!!
ミツルマンが剣を天に掲げた瞬間、この無機質な空間全体に強烈な紫電が迸った。
ジジッ……バチィッ!!
すると何もない虚空のあちこちで、雷が不自然に弾かれ、透明な『箱』のような輪郭がバグのノイズと共に浮かび上がった。
(……やはりな。
精神攻撃などというオカルトはない。
あれは脳波のノイズ、つまり『電気信号』だ。
ミツルマンの物理的な過剰放電(雷)と衝突させれば、隔離空間が干渉を起こして可視化される)
僕の推測通り、暗闇に6つのノイズの塊(仲間たちの隔離部屋)が浮かび上がった。
「見えたぞ。ぽよん、あの宙に浮かんでいるノイズの箱だ。……叩き割れ。角度は『上から斜め45度』だ」
「ぽよ!?ナナメ45度!?よくわかんないけど……ええええいっ!なのだ〜!!」
ぽよんは角度など一切計算せず、ただめちゃくちゃにロン君を大上段から振り下ろした。
本来なら、ただの力任せの縦割りになるはずの軌道。
しかし、次の瞬間だった。
ギュンッ!!
スライム状のロン君が、空中でまるで稲妻のように『直角』に折れ曲がったのだ。
主人のアバウトなスイングの遠心力を殺すことなく、自らの質量と形状を瞬時に再計算し、ノイズの箱の右斜め上、正確無比な『45度』の座標へと自らを叩きつけた。
プォーン♪
ドッゴォォォォォン!!!
間の抜けた音と、強烈な打撃音。
空間がガラスのように砕け散り、中から自分自身(幻影)と必死に戦っていたドドンパが転がり出てきた。
「うおぉぉお!?くそっ、偽物め……俺攻撃ないし!
どうするんだよ! ……って、あれ?ココドコ?」
「正気に戻ったか。……ふっ」
僕は驚くドドンパを一瞥し、元の王笏に戻った最大のバグを見据えた。
(そうだな……ぽよんに角度の計算などできるはずもない。
だが、フルオートノマスのロン君ならば、主人の無軌道なスイングすらも空中で補正し、完璧な『45度』を叩き出したか)
「よし、ぽよん。残りも全部頼む」
「任せるのだ〜!ぽよんの必殺ナナメ斬りなのだ〜!」
ギュンッ!
プォーン♪ ドゴォン!
ギュギュンッ!
プォーン♪ ドシャァァン!
ぽよんが適当に振り回すたびに、ロン君が空中でテトリスのブロックのようにカクカクとあり得ない軌道で折れ曲がり、すべての隔離空間を『斜め45度』から正確にぶっ叩き割っていく。
運営がかつて施したアップデートにより、他のメンバーも、次々と空間ごとぶっ叩かれては精神の外へと吐き出されていった。
その瞬間、無機質なアナウンスが僕らの勝利を告げた。
——【System】——
第九の騎士:鏡の魔術師の攻略を確認
報酬:『種子(Skill_Seed)』
—————————
「む?何かのぉこれは……」
ジィサンの疑問はすぐに解決される事となる。
——【information】——
未解放スキルの『種子(Skill_Seed)』を獲得しました。
特定の解放条件を満たすことで、シードが還元され、正規スキルとして完全解放されます。
———————————
——【Log】——
▶︎ 対象[Iori_k]:【上書き。三角暴渦の風災】
▶︎ 状態:未還元(ロック中)
———————
「え?なんだこれ……『霧影の投槍』……?さっきの幻が使ってきた『攻撃スキル』じゃねぇか……」
「私にも……『無情なる癒祭典』と出ています……』
ドドンパとルナールも、それぞれ別のスキル名が表示された画面を見つめ、首を傾げている。
(……なるほどな。
このふざけた『鏡』のギミック。
僕らはそれぞれ、自分自身のステータスをコピーした幻影と戦わされていた。そしてシステムが幻影を動かす際、『未来のデータ(未解放スキル)』として出した……)
まだロックされてはいるが、『ストーリーテラー(作家)』が用意した強化イベントだったか。
そんな中、ぽよんとミツルマンは『己』と戦っていない為、得られなかったようだが。
「ぽよ〜〜!?報酬ってなんのことなのだ〜?!」
「てーい!雷バチぃ!」
バチバチバチッッッ
騒がしい小さき魔王と、雷を散らして遊ぶ勇者の無邪気な声を背に聞きながら。
僕は一人、この『精神・基礎 (イェソド)』の空間の、遥か上空システム防壁の『天井(Z軸)』を静かに見据えていた。
そして、ゆっくりと口角を歪め、暗黒の微笑を深める。
(……さて、どうショートカットしてくれるんだ?『Arche』よ……)
第110話いかがだったでしょうか?
結局強いのは愛のバフでした笑
思考を刈り取られても、ぽよんを思い出す記憶は抜き取れなかったのがイェソドの敗因ですね笑
そしてスキルの種……これがいつ開花して活躍するのでしょうか……?
ドドンパに攻撃スキル……ルナールに回復の歌?!
他のメンバーはどんなスキルなんでしょうかね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/16【朝8時10分】に投稿致します!
少しでも「ラザニアエモい」「イェソドスキルありがとう」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!




